僕は、ふらふらとその森に入っていった。
今がいつか、ここがどこかも分からない。
ただ、その香りに誘われるままに――
……とても甘く芳しい匂い。
……そして、どこかいやらしい匂い。
頭がぼんやりする。
物事がはっきり考えられない。
そして気がついた時には、森のかなり奥深くまで来てしまったようだ。
「どこだ、ここ……」
僕は夢うつつのように呟いた。
匂いは、森のさらに奥の方からだ。
「こんな広い森、危ないよな。早く戻らないと……」
森の奥へ、さらに奥へ……
「さあ、こんなとこウロついてないでさっさと帰ろう……」
そう言いながらも、僕はこの匂いの元を探してふらふらと進んでいった。
「ふふ……いらっしゃい、ボウヤ」
いつの間にか、目の前にはハダカの美しい女性がいた。
森の中に立つ、綺麗な女性――その髪は緑色で、下半身は毒々しいピンク色の花びらに覆われている。
一目見て、人間ではないと分かる女性――それを前にしても、なぜだか僕は心が乱れなかった。
それどころか、彼女のものになってしまいたいとしか思えないのだ――
「私はアルラウネ。人の精を糧にする花の淫魔よ……」
彼女は、さらりと美しい髪をかき上げる。
ふわっ……と、甘い匂いがさらに濃くなった。
まるで、周囲がピンク色に見えるほどに。
「あ、あう……」
「ボウヤの精も吸い尽くしてあげる。気持ちい~い、お花のベッドの中でね……」
アルラウネが、足元に軽く息を吐き掛ける。
すると魔法のように、彼女の足元へとみるみる花畑が広がっていた。
うち一房の花がむくむくと膨らみ、人間サイズの大きさとなり――巨大なバラの花が現われる。
そのピンク色の花びらはつぼみのようにすぼまり、まるで寝袋のようになっているみたいだ。
人間の身体全体を、すっぽりと包んでしまえるような大きさである。
「そのお花の中に入りなさい、ボウヤ。とっても素敵な気持ちになれるわよ……」
「は、はい……」
僕はアルラウネに促されるまま、花のベッドへと歩み寄った。
花びらはまるで、幾重にも重なった肉厚の布団のよう。その中には、ヌルヌルの蜜が満ちているらしい。
「あ、あぅぅ……」
服を脱いで全裸になり、その花の中に足を入れ、ゆっくりと中に身体をねじ込み……
僕は夢うつつの気分のまま、言われるがままに花びらのベッドに身を委ねてしまった。
……じゅるじゅるじゅる。
「あぅ……」
僕は首まで花に埋まってしまい、柔らかく温かい花びらが全身を包み込んでくる。
やはり中はヌルヌルで、驚くほど気持ちがいい。
その中は温もりと安らぎに満ち、蜜でねっとりとネバついた甘い空間。
女性の子宮内は、こんな心地なのだろうか――思わず、そんな事を考えてしまった。
こうして恍惚に浸る僕に投げ掛けられたのは、アルラウネの酷薄な言葉だったのである。
「あははっ……なんてお馬鹿なボウヤ。自分からその中に入ってしまうなんて」
アルラウネの顔は、いつしか淫靡で嗜虐的なものに変っていた。
獲物を捕えた捕食者そのものの、優越感と征服感に満ちた冷笑。
「その妖花は、包んでしまった男の精気を搾り取るためのもの。
ボウヤも、命尽きるまで精を吸い尽くされてしまうのよ……うふふ」
「え……? あ、あぁぁぁぁぁ……!」
くにゅくにゅくにゅ……!
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅ……!
ぬちゅ、ぬちゅぬちゅ……ぬちゅり……
まるで巨大な口に咀嚼されるように、僕の身体を包み込んでいる花びらが蠢き始めた。
花という大きな器官に全身を咥え込まれ、舐めしゃぶられているかのようだ――
「ふぁぁ……気持ちいい……」
全身に与えられる粘着質の快感に、股間がみるみる熱くなっていく。
すると大きくなったペニスにも、ぬめった花びらがまとわりついてきた。
ぬちゅぬちゅと音を立て、とろけそうな快感が股間を責め嫐ってきたのだ。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「気持ちいいでしょう? そのまま情けな~くおもらしして、精液を吸ってもらいなさい……」
「あ、あぅぅぅ……こんな……す、すごい……」
ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅる……
ぬちゅぬちゅぬちゅ……ぬちゃぁ……
「あうっ……!」
まるで溶かされているかのような、ねっとりと粘り着く肉の感触。
膣肉のような花びらにペニスを包み込まれ、うねるような刺激にさらされ――僕はひとたまりもなく精を放ってしまった。
全くこらえる余裕もなく、簡単に射精させられてしまったのである。
「あはははは! もう出しちゃった! そんなに気持ちよかったのぉ?」
「あぅ……きもちいいぃぃ……」
ドクドクと溢れ出した精液が、花びらの表面に吸い取られていくのが分かる。
そればかりではなく――僕の全身をずっぽりと包み込んでいる花びらまでが、ちゅうちゅうと何かを吸い取り始めたようだ。
まるで巨大なヒルに全身を包み込まれ、じわりじわりと体液を吸い取られているような――そんな感覚。
その生理的嫌悪感とは裏腹に、驚くほどの快感と安らぎを伴っていた。
「ふぁぁ……き、きもちいいよぉ……」
しかし全身からじわじわと吸い取られているのは、体液などではない。
もっと大切な何か。まるで、生命そのもののような――
それがじっくりと妖花に啜り出されているというのに、とろけそうなほど心地よい。
ちゅぅっ……ちゅるるるるるる……
ぐちゅっ、じゅるり……。じゅるるるるるる……ぬちゅ。
「はぅ……これ、なに……? なにされてるの……?」
「ふふ……精気が吸い出されているのが分かるでしょう。
それは、ボウヤの命の素。それを吸い出されているのに気持ちよくなっちゃうなんて……いけないボウヤね」
アルラウネは目を細め、くすくすと笑う。
「あ、あうぅぅぅぅ……」
本来なら、怖がらなければいけないはずなのに。
逃げ出さなければいけないはずなのに――僕は陶酔に浸り、この花に身を委ねきっていた。
そんな僕にご褒美をくれるかのように、妖花は身体の隅々までぬるぬるの花びらで愛撫してくれるのだ――
じわりじわりと、「精気」という生命エネルギーを搾り取りながら。
それが尽きてしまった時、僕という存在は――
「あ、あぅぅぅぅぅ……」
それでも、抗う気持ちが全く起きない――それどころか、身体から力がどんどん抜けていく。
ペニスには花びらが幾重にも絡み付き、じゅるじゅると咀嚼されているかのようだ。
揉みたてられるような、舐め回されるような刺激は、人智を超えた人外の快楽。
それに抗うこともできず、僕は連続で射精させられる。
「ふふっ……私、かわいらしいオチンチンが大好きなの。
ボウヤのオチンチンもたっぷりいたぶってあげるから、精液を漏らし尽くしなさい」
「ふぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」
執拗に股間へと与えられるじゅるじゅるの刺激に、どくっ、どくっと精液は漏れ続ける。
男性器に浴びせられる強制快楽で、精液を吸い出されていくかのようだ。
「あぅぅぅ……」
そして全身をくるんでいる花びらもじゅるじゅると蠕動し、僕の身体から精気を吸い出していく。
どんどん力が抜け、意識が薄れていくのに――それなのに、とっても幸せな気分だ。
逃げ出さないといけないのに、このままだと死んでしまうのに――
ぬちゅり、ぬちゅぬちゅぬちゅ……
じゅるり、ぐちゅ……じゅるるるるるるり………
「ああぁぁ、きもちいいよぉ……」
「ふふ……最高の快感の中で果ててしまいなさい。そのままボウヤは逝ってしまうの」
アルラウネの嗜虐的な視線にさらされながら、花のベッドで精を搾られ続ける――
にゅるにゅると蠢く花びらに覆い包まれ、その快感に僕は溺れるのみだった。
とろけそうな刺激に精液が漏れ続け、甘い陶酔が脳内を支配していく――
もう、何も考えられなくなってしまう――
じゅるじゅるじゅる……ぬちゅっ……
ぐにゅぐにゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ………
「みじめねぇ、ボウヤ。肉欲に溺れ、淫魔の餌食にされるなんて……」
くすくすと笑うアルラウネの言葉も、天使の甘い囁きに聞こえる。
精液は絶えずドクドクと漏れ続け、じっくりと生命力が吸い出されているかのようだ。
意識には甘いモヤが広がり、身体には完全に力が入らなくなってしまった。
もはや、自分の意志では指一本も動かせないほどに――
ぐっちゅ、ぐっちゅ……ぐちゅぐちゅ……
ねちゅねちゅ、にゅるる……
「ボウヤの精気を啜り尽くした後……残った肉体も、溶かして食べてあげるわ。
嬉しいでしょう……ボウヤの精も肉も、全て私のエサにしてもらえるのよ」
「あぁぁ……」
この快感の中で、生命エネルギーを吸い尽くされる――それは、とても幸せなことのように思える。
全身を花びらでしゃぶられ、じっくりと精気を吸われ、味わってもらい……そして、果ててしまうのだ。
美しいアルラウネの糧にしてもらえる……これ以上の喜びがこの世にあるのだろうか。
じゅるり、じゅるじゅる……じゅるるるっ。
ぐちゅぐちゅ、ぐちゅ……ぐちゅっ、にゅるるるるっ。
「そのまま……あま~い、あま~い夢の中で果てなさい。
ボウヤの精気は、この私が最後の一滴まで味わってあげるから……」
全身を包む卑猥な音と、溶かされるように薄甘い快感。
甘いモヤの中に、僕の意識が段々と消えていく。
びゅるびゅると精液が漏れ、じっくりと吸い出される。
生命の素が身体の外に流れ出し、じわじわ啜り尽くされていく――
じゅくっ……ぐちゅぐちゅっ。
にゅるるるるり……じゅるっ……じゅるるるるっ……
にゅぐにゅぐ、じゅるるるるり……
ぐちゅっ……じゅるるるるっ……ぬちゅぬちゅ……ぐちゅっ……
ぬちゅっ、じゅるじゅるじゅる……ぬちゅっ……
じゅるり、じゅるるる……ぐちゅっ、ぐちゅぐちゅ……
ぐちゅ、じゅるるっ……
そして僕は――精を啜る花びらのベッドの中で身体を弛緩させ、精気を搾り尽くされてしまった。
幸せな陶酔感に浸りながら、アルラウネの糧となって果ててしまったのである。
安らぎに満ちた、妖花のベッドに横たわりながら――
「ふふ……美味しかったわ、ボウヤ」