(日文原版转载)大学院生女王様と大学生奴隷
マツダカコ的最新长篇 仍在连更中 全篇翻译是个大工程 怕是不可能实现了 期待以后会有大佬翻译吧
作者网址:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11659337
カリカリカリ………
静かな空間の中でシャープペンシルや鉛筆の音だけが響いている。
部屋の中には51人の人間がいて、そのうちの50人が机に向かい必死にペンを走らせている。
そして1人はその様子を見る試験監督。
テストを受ける50人はこの大学の化学科の学生。彼らが今受けているのは、化学科の必修科目の前期期末試験だった。
化学科の学生は一学年30人。テストを受けている50人のうち30人は一年生。20人はこの授業の単位をまだ習得できていない上級生で、15人が二年生、3人が三年生、2人が四年生だ。
この授業は難解な分野を扱っており、かつ単位認定の基準が厳しいことで有名であって、一度で合格できる学生は半分ほど。だからこそ全員が目を血走らせて答案を睨みつけている。
「ふぁ………」
50人の緊張感とはかけ離れたような小さなあくびを漏らしたのは、試験監督をやっている……正確には担当教授に押し付けられた、大学院生だった。
(なんで私がこんなことを……)
試験が始まる10分前、教授が学生研究室にノックもせずに入ってきた。
太った体で白い髭を口周りにたくわえたその男は、たまたま午前中から登校して一人でデータの整理に励んでいた女学生を見つけた。
「おお松田ちゃん! いてくれて良かった。私は今から用事があるのだが、今日が私の授業のテストだということを忘れていたんだ!」
「はぁ……」
慌てた様子で捲し立てる教授を見て、松田と呼ばれた女学生は両耳に付けていたイヤホンを外した。お気に入りの音楽にかき消されて教授の前半の言葉はよく聞こえなかった。
「そこで悪いが、試験監督を頼む。教室は807でテストはこれだ。それじゃあ!」
「………」
女学生が何か答える間もなくバサリと松田のデスクに紙束の入った封筒が置かれ、研究室には教授が乱暴にドアを閉めた音が残った。
(いつも、急なんだから……)
この女学生の名前は松田カコ。今しがた勝手な依頼をしていった教授の受け持ちの学生で、マスターコースの2年生だ。
カコは研究者としては教授のことを尊敬している。彼が発見し論文にして化学会に残した功績は偉大だからだ。
また、教育者としても尊敬している。彼が行う授業は基礎知識から発展的な内容までを効率的かつ高密度に学べるカリキュラムとなっており、履修した学生にとって大きな糧となるからだ。そのためテスト範囲が広くなり単位を落とす学生も少なくないが、それは本人達の努力不足だとカコは考えていた。
しかし、人間としては尊敬していない。
何故なら教授には無責任かつ無計画なところが多く、こうしてしょっちゅう雑用を押し付けられているからだ。
(早く終わらないかな……研究室でコーヒーが飲みたい……)
テスト開始からまだ15分。カコは後輩達の集中を削がないように気をつけながら小さく伸びをした。
(………ん?)
体を伸ばし、視線を上げたカコの視界には妙な物が映った。
(あらあら……)
カコは小さくため息をつく。彼女が目にしたもの、それは手元の小さなメモを見てそれをテストの答案に書き写す一人の男子学生の姿だったからだ。
カコが眠そうな顔をして座っていたためやりやすいとでも思ったのか、その男子はひたすらカンニングペーパーを見てその内容をテスト用紙に書き写す作業を続けていた。
(あら……)
カコはその男子を見て少し気分が高揚した。何故ならその男子は体がとても小さく、幼い顔立ちをしている。身長は160少々と推定され、165センチ以上あるカコからすれば見下ろせるような低身長。
つまり、カコの好みのタイプだった。
(……最近ご無沙汰なのよね。ちょうど良いわ。新しい玩具にしてあげようかしら)
カコが不穏な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がり歩き始めると、その男子は一度テスト用紙の下にカンニングペーパーを隠した。しかし試験監督であるカコは自分が座っている窓際の列でなく廊下側の方に歩いて行ったため、ひと安心して再びカンニングペーパーを取り出した。
「あっ!」
その男子は思わず声を上げてしまった。何故なら自分が見ていたカンニングペーパーを突如、現れた白く細長い2本の指が摘んで持って行ってしまったのだから。
カコに後ろから回られてカンニングペーパーを取り上げられたのだ。
幸い声に反応して振り向く他の学生はいなかった。
「後で来なさい」
そしてカンニングペーパーを攫っていった指の持ち主……カコは男子学生の耳元にそう囁いたあとは振り向く事もなく歩いていき、先程まで座っていた椅子に再び座った。
(終わっ………た……)
男子学生は絶望した。ペーパーを取られたということは完全にカンニングがバレてしまったということ。どういう処分になるのか、自分はどうなってしまうのか。実家に連絡は行くのか、とその男子は嫌な汗をかきながら、自力では全く解くことの出来ない答案を眺めているしかなかった。
(あの先輩は…たしか、松田さん……?)
男子は、同級生の何人かが『マスターコースにスタイルがいいのにめちゃくちゃ巨乳で、美人な先輩がいる』と噂しているのを聞いたことがあり、テストが始まる前にその連中が『ラッキー、松田さんだ!』と小声で騒いでいたのを覚えている。
確かに噂に違わぬ綺麗な顔と、服の上から見てもわかる巨乳。
普通の状況ならば目の保養として眺めていたいような女性だが、今の彼にとっては自分の命運を握る死刑執行人のように見えていた。
(馬鹿な子……)
カコは怯えた目でこちらをチラチラ見ている男子を横目で一瞥したあと、取り上げたカンニングペーパーを見てみると、そこには手書きで小さなメモがビッシリと書かれていた。しかし少し内容がズレており、仮にこの解答を全てテスト用紙に書き込めたとしても不合格になるだろう。
何故そんなことが分かるかといえば、未採点の答案を持った教授が学生研究室の扉を乱暴に開け
「君たち!採点を手伝ってくれ!」
と叫ぶイベントが半年に一度、教授が学生に成績をつける時期が訪れる度にあり、カコも研究室に配属された四年時からずっと手伝わされているからだ。
だから教授が作るテストの採点基準や正確な解答を知っている。
尤も、この科目を全て首位で単位認定されてきたカコにとっては何も見ずに採点することも可能であるが。
チャイムが鳴り、答案を提出し終えた他の学生達が出ていくと、教室にはカコとその男子だけが残された。
「……あなた、名前は?」
「森本……サクヤです……」
「そう。サクヤ君。私はこのカンニングペーパーとあなたが書いた答案を先生の所に持って行って、あなたがした行為を報告しなきゃならないんだけど。いいかしら?」
「あ、あの……! 松田さん、その、僕は、どういう処分に……」
「とりあえず、化学科の先生達の査問会にかけられるわ。確定しているのはこの前期の全科目の単位没収と半年間の謹慎だから……まあ、一年生をもう一度最初からやる事になるのかしらね?」
「そ、そんな!」
「明らかな不正行為、学問への冒涜。これくらいは当然でしょ? 今のうちに御両親に電話しておいたら?」
「う、ううう………」
サクヤは膝を折り、椅子に座るカコの前に跪いて泣き始めた。
童顔で背が低いサクヤが泣いている姿を見て、カコはゾクリと背中を震わせた。
(決めた。この子を私の……)
カコはフフッ、と小さく笑ったあと口を開いた。
「でも、あなたがちゃんと反省したと私に示せるのであれば私の所で報告を止めてあげてもいいわ。その気があるのなら今夜7時に私の部屋に来なさい。来なかったらその時点で教授にメールを入れるから」
カコは手帳に自分が下宿しているアパートの住所を書きつけ、ページを切り取ってサクヤに渡した。
その瞬間サクヤの顔はパアアと明るくなり、カコに頭を下げた。
「ありがとうございます! ま、松田さん! あなたは俺の、女神です!」
「ふふ、女神……ね。あなたが私のことをずっとそう思えると良いんだけど」
「…………?」
サクヤはその言葉の意味はよくわからなかったが、とりあえず首の皮一枚で繋がったのは確かであり、カコへの感謝の気持ちは変わらなかった。
ピンポーン
………ガチャ、ガチャリ
「あら、来たのね」
サクヤがメモに書かれたアパートの部屋の呼び鈴を鳴らすと、部屋着に着替えたカコがサクヤを出迎えた。
部屋着のカコはハーフパンツにTシャツというラフな格好だった。外で着ている服とは違い、胸の大きさがハッキリと分かる。カコの胸はサクヤが想像していたよりも二回りも三回りも大きかった。
「入りなさい」
「……はい」
カコは胸元を凝視するサクヤを特に気にせず玄関に上げると、ドアに鍵をかけた。カコがチェーンロックまでかけているのをサクヤは少し不穏に感じたが、用心深い人なのか?と思うだけでそれ以上は特に考えなかった。
部屋に入ると中はフローリング張りとなっており、カコは机の前にあるキャスター付きの椅子を掴んで部屋の中央に転がしてから座ると、脚を組んだ。
「そこに座りなさい」
カコが指さしたのはカコが座る椅子の前にあるただの床。
「………?」
サクヤはよく分からなかったが、とりあえず言われた通りの場所に座った。
あぐらをかいて座ろうとしたが、自分を見るカコの妙な迫力に気圧されて自然と正座で座ってしまった。
「あなたにある選択肢は二つ。『私に規定通り報告されて正式な処罰を受ける』か『この書類にサインをする』かのどちらかよ」
カコはそう言って、持っていた一枚の紙をサクヤの前にヒラリと舞わせた。
「読んでごらん」と言われたサクヤは、その紙を手に取り読み始めた。
『奴隷懇願書』
私は自身の性癖であるマゾヒズムを満たすため、松田カコ様に私の支配者として振舞って頂き尽くさせて頂くことを心より願います。
松田カコ様の命令には絶対に従い、かつ常に松田カコ様に御奉仕させて頂く精神を持ち続けます。
もしも私が至らぬ場合には松田カコ様に折檻して頂き、傷や障害を負い万が一死亡する事があっても、松田カコ様は私のマゾヒズムを満たすために深い慈愛によりプレイに付き合って下さっている御方であり、松田カコ様には一切の責任は御座いません。
またこの関係は松田カコ様が大学院を卒業なさるまで継続させて頂きます。
文章の下には、日付と自分のサインを書く場所が設けられている。
「ま、松田、さん……僕は、あなたの奴隷になるということですか……?」
「質問は許可しないわ。さっきも言った通りあなたはどちらか選ぶだけよ。カンニングを報告されるか、ここにサインするかをね」
「……………」
サクヤは再びもう一度紙を読み直したり、目の前で脚を組んで座るカコを見上げたりした。
(どうすれば……?)
諦めて一年留年するのか、ここでこの不気味な紙にサインをするのか。
必死で大学に合格し、田舎から出てきた。地元の高校のレベルを考えると奇跡だと言われようなレベルの大学に受かったおかげで、両親も友人もみんなが祝福してくれた。
しかし講義のレベルは自分の想像以上で、少し浮かれていた自分はあっという間に置いていかれて訳が分からなくなった。
なんとか他の科目は猛勉強の末に単位を取れるくらいにまでは到達できたと思うが、今日のテストだけは範囲も広く高密度で全く太刀打ちできなかった。
そして仕方なくカンニングペーパーを用意して挑んだ結果がこれだった。
留年を知ったら両親や友人は失望するだろう。何としてもその事実を実家には隠したい。
「……します。サインを……」
「そう。じゃあこれを使いなさい」
カコはサクヤにボールペンと朱肉を渡した。意味がわからないという表情をするサクヤにカコは「拇印よ。あなたの親指にインクをつけてサインの隣に押しなさい」と説明した。
「…………ッ!」
改めてその紙を前にしてペンを持つと、そこから発せられる不気味な雰囲気が再びサクヤを襲った。
しかし、ここで手を止めて逃げたとしてもカンニングを報告されてしまうだけ。サクヤに選択肢はない。
唯一の救いは期限付きであることだった。カコが大学院のマスターコース二年生であることを考えると、どれほど酷い状況にされたとしても卒業するまであと半年だけ耐えれば良い。
その事実が少しサクヤの心を助け、ペンを掴む手を軽くした。
「………出来ました」
「ん♡」
サインと捺印が終わってカコに紙を渡すと、カコはそれまでの冷静な雰囲気とはかけ離れたような明るい笑顔を見せた。
そして鼻歌を歌いながらその紙を部屋に置いてあるプリンターでスキャンした後、パソコンを少し操作した。
そしてその後スマートフォンを操作し「よし♡」と言うと、画面をサクヤに見せた。
「奴隷懇願書、データ化して私のクラウドにアップロードしたから。もうこの紙を捨てても無駄よ」
サクヤはカコのスマートフォンの画面に表示されている先程の用紙を見せられた。
「ぼ、僕はこれから……何を、させられるのですか……?」
「ふふ、まずは着替えましょうか。奴隷用の服を出してあげるから服を脱いで待っていなさい」
「……?」
サクヤが意味がわからないという顔で立っていると、「早くしなさい」とカコに凄まれてサクヤは仕方なくパンツ一枚となった。
カコは部屋の中から色々な物を持ってきてサクヤの前に置いた。サクヤはそれらが何なのかはほとんど分からなかったが、その中に服らしきものはひとつもなかった。
「私は『服を脱ぎなさい』といったよね。あなたのそれは何?」
「ぱ、パンツです……だって……」
「脱ぎなさい。私はあなたのマゾヒズムを満たすために仕方なくあなたを調教してあげるのよ? 反抗は許さないわ」
「いや、それは松田さんがサインしろって言うから……」
パァンッ!!
「うぶうっ!」
突然、サクヤの頬に平手打ちが入った。
カコが右手でサクヤの左頬を思い切り打ち抜いたのだ。
「あなたの罪は二つ」
打たれた頬を抑えカコを見上げるサクヤを見下ろしながら、カコは言った。
「一つは命令に従わなかったこと。もう一つは私の呼び方を間違えたこと。私の事は『カコ様』と呼びなさい。貴方のことは『サク』とでも呼ぶわ。呼ばれたら1秒以内に返事をしなさい」
サクヤは突然の平手打ちによる痛みに震えながら、小さく頷いた。
サクヤは家では可愛がられながら育てられた末っ子で、叩かれたことなどほとんどなく、怒られたことすらも少なかった為、こういった行為への耐性はまるでなかった。
「脱ぎなさい」
「はい………」
サクヤは抵抗せず、パンツを脱いで床に置いた。
「じゃあ、まずはこれね」
カコは二つの250mlのペットボトルがぶら下げられた犬用の首輪を手に持ち、サクヤの首に付けた。
二つのペットボトルにはそれぞれ、透明な液体と薄く青みがかった液体が入っているのが見えた。
「……?」
サクヤはその液体の正体を知りたいと思ったが、カコが怖くて話しかけられなかった。
「あとは、これね」
カコがそう言って手に取ったものは、サクヤは全く何なのか知らないものだった。
「これは貞操帯っていうの」
ポカンとした表情のサクヤを見てカコはふふ、と笑い、貞操帯を手に取りサクヤの男性器を掴むとカチャ、カチャと装着を始めた。
「よし、OK。これであなたはこの鍵なしではオナニーが出来ない」
カコは最後に南京錠で貞操帯をサクヤの男性器に完全に固定した。
「えっ?」
オナニーが出来ない、という言葉にサクヤは困ってしまった。何故ならまだ18歳で性欲旺盛なサクヤは、ほぼ毎日自慰をしていたからだ。
「今後、オナニーしたい時は私に許可を取ってからね。まあ私がこれを奴隷に付けるのは男の汚い射精なんか想像もしたくないからだから、許可なんてしないけどね」
「そ、そんな……じゃあ、僕はもう奴隷の間は……」
「射精禁止ということ。諦めなさい」
強制射精管理。カコはサクヤの前に何人かの男を調教した過去があり、いずれの奴隷達もカコから射精が許可されたことはなかった。
これはカコの「奴隷に快楽は不要」という徹底したサディズムから来る考え方で、奴隷達は何度土下座して泣きながら貞操帯を外させてくれと懇願してもカコは許可しなかった。
カコがこれまでにやってきた女王様としての活動、調教がサクヤに語られる事は無いが、カコは大学生になってから表の顔は普通の大学生・大学院生を演じながら裏ではインターネット等で募集した奴隷をこの部屋で何人も調教した。
しかし半分が貞操帯を付けたまま逃走、半分がカコのみを絶対的な女神として崇拝するだけの廃人となり日常生活を送れず使い物にならなくなったので捨てた。
カコの調教が苛烈過ぎるのがその原因であるということは明らかであるが、カコは自身のサディズムを満たすために奴隷に手加減などはしない。
奴隷がそれを受け止められようが受け止められなかろうが、カコは自身の性癖とプレイを相手に押し付けていくだけだ。
過去に調教してきた奴隷はマゾを名乗り自分から志願してきた者が大半であり、カコが弱みを握り強制的に奴隷にした者は少数。
サクヤはもちろん後者に当たるが、弱みを握り強制奉仕を強いた奴隷達はその弱みのせいで逃走することが出来ないため、今まで全員を廃人にしてしまった。
(今回は久しぶりの脅迫パターン。プラス可愛い! だからたっぷり可愛がってあげないとね♡)
「貞操帯は私の許可なく外すことは許さない。でも首輪と液体は外に出る時は外しても良いわ」
「は、はい……」
「今から『洗礼』をするわ。さっき付けたばかりだけど、首輪は外してなさい」
カコはそう言うとサクヤに首輪を外させ、部屋の収納を開けてその中に入れてある箱から何かを取り出した。
カコが取り出したのは、50センチから60センチ程の乗馬鞭。
「ふふっ」と笑いながらその場で軽く素振りをすると、それはビュオン、ビュオンと鋭く空を切る音を立てて、サクヤを震え上がらせた。
「あの、か、カコ様……?」
サクヤは呼び慣れない『様』付けでカコに話しかけた。
「なあに?」
「そ、その、今からそれで僕を……」
「ええ、叩くわ。でも安心なさい。別に縛り付けて一方的に叩くというわけじゃないの。あなたにも勝つチャンスはあるのよ」
「……?」
サクヤにはカコの言葉がわからない。何かの勝負をするのか? と思いながら次の言葉を待つ。
「私はこれを使うけど、あなたも私に攻撃していいわ。あなたが私を押さえつけて私に『降参』って言わせたらさっきの奴隷懇願書も完全に破棄してあげる」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。私に何をしてもいいわよ。降参って言った方が負けね」
サクヤは心の中で小さくガッツポーズをした。女であるカコをただ押さえつければ良いのであれば、そこまで難しくもないはず。
カコは「鞭があなたに当たった時、あまり大きな声を出されるといけないから」と言ってタオルを猿轡としてサクヤの口に噛ませた。
「じゃあ、始めましょうか」
カコが少し離れてそう言うと、サクヤは真っ直ぐカコに腕を伸ばした。
パァン!
「ングウッ!?」
一瞬。カコは伸ばされてきたサクヤの右手首に乗馬鞭を素早く打ち込んだ。サクヤは突然の激痛に、思わず打たれた手首を左手で掴み強く握った。
「フフッ!」
サクヤがしまった、という表情をした時にはもう遅い。
カコは大きく鞭を振り上げてサクヤの頭に真上から打ち込むように鞭を振り下ろした。
「……ッ!」
サクヤは慌てて両手を固く握って拳をつくり、頭を守った。固くした拳で受け止めれば鞭に耐えられると思ったからだ。
しかし、上から振り下ろす途中でカコは手首にスナップを使って鞭の軌道を変えた。鞭は蛇のようにうねりながら、サクヤが両拳で守った頭などには興味が無いと言わんばかりに避け、両腕を上げたサクヤの無防備な脇腹に食らいついた。
スパアアアアアアアアアアアン!!!!
「んぐううううううううううう!!!!????」
サクヤは生まれて初めて味わう異次元の痛みに耐えきれず、打たれた脇腹を抑えて蹲ってしまった。
「あら、もう終わり?」
スパアアアアアアン!!!
カコはサクヤの無防備な背中に鞭を振り下ろした。
「んぎいいいいいいいいいい!!!!」
サクヤはもう右手首と脇腹と背中の痛みで何も考えられない。ただ蹲って涙を流しながら痛みに悶えることしかできない。
「クスクス……そうやって固まっちゃったら、こうなるわよ?」
ヒュオンッ!
鞭を持った女性を前に無抵抗で蹲る。その危険性にサクヤが気づき動こうとする前に、サクヤの背中に向けて再び鞭が振り下ろされた。
スパァン!!
「うぎいいいいいいい!!!」
(だ、だめだ! 動かないと! 俺も相手に何かしないと!)
サクヤは再び与えられた痛みにさらに悶えつつも、固まっていれば一方的に打ち込まれることを理解し、なんとか脚に力を入れて立ち上がるとカコに両手を伸ばした。
「胴(どう)っ!」
スパアアアアアン!!
しかしサクヤが両手を伸ばして前に進むと同時に、カコは美しい足さばきでサクヤの体の左側に進みながら、その途中で手首を返してサクヤの右の腹に強烈な鞭を打ち込んでいった。
「んむ、むあああああああああ!!!!」
サクヤは再び崩れ落ちた。右腹に走った鞭の衝撃は皮膚を貫通して内臓にまで打ち込まれたかのような痛みで、まともに呼吸が出来なくなるほどだった。
「うふふ。実は私、小学校から大学まで剣道してたの。けっこう強かったのよ? 院生になってからはやめちゃったけど。鞭は片手だけど、手首の返しや打ち込む時のスナップは似てるからね」
先程の動きを見ればカコの言葉が嘘でないことはわかる。打ち込みの鋭さ、フェイントや駆け引きの上手さ、足さばきの滑らかさといった全てが、明らかに熟練した者の動きであった。
「どうする? まだ勝負する?」
「………!!」
サクヤは慌てて左右に首を振った。勝てるわけがない。ものの一分の『勝負』でサクヤは鞭を持ったカコに絶対に勝てないことを理解した。
(ふふふっ………)
カコは心の中で笑った。しっかりと躾の第一歩が出来たからだ。
動物の躾でも共通する事だが、まずは相手に「戦っても勝てない」ということを理解させるのはとても大事なプロセスである。
仮に相手がドMで、自ら調教を志願してきたとしても、いざと言う時に暴れられてしまえば興冷めであるし、何よりカコ自身が危険に晒される事になる。
だから、特に男相手には「本気で飛びかかってもこの人には勝てない」ということをしっかりと体に理解させる必要がある。
ほんの数発の鞭であるが、カコが子供の頃から大学まで続けた剣道と大学から女王様として鍛えた鞭さばきはサクヤに到底自分が太刀打ちできる技術ではないと理解させた。
つまり、どちらが『上』なのかをハッキリさせたのだ。
「ん? まだ勝負するの?」
カコは再び同じ質問をした。
「んー!! ん、んー!!」
サクヤは激しく首を振る。もう二度と鞭を味わいたくないからだ。
「んー? あなたが負けを認めないなら、私はまだ打ち込むしかないんだけど……」
「んんー! ん、んんーー!!」
サクヤは必死に首を振る。負けを認めたい。もう逆らわない。何故その意思がカコに伝わらないのかと苛立ちさえも覚えながら必死に首を左右に振る。
「だって、決めたでしょう?『降参』って言った方が負けだって♡」
「!!」
サクヤはこの勝負のルールを思い出した。このままでは発音できない。慌てて両手を頭の後ろに回して猿轡を外そうとした。
スパアアアアアアアアアン!!!
「ンムギイイイイイイイイ!!!!!」
サクヤが両手を上げて猿轡を外そうとした瞬間、カコの鞭は無防備になった脇腹を捉えた。
「そう。そんなに私との勝負を続けたいのね? それなら私も遠慮はしない。ちゃんと勝敗をつけましょうか♡」
カコはニッコリと笑い、ペシッ! と右手に持った鞭で自分の左の掌を軽く叩いた。
先程までは相手に『どちらが上か』を教える時間。しかしここからは『カコ様の恐怖』を教える時間なのだ。
(ふふふ、体の芯まで私への恐怖で染め上げてあげる…)
カコはニヤリと笑い、鞭を振りかぶった。
「ッ!!」
サクヤはとっさに脇腹を庇い、体を丸くした。脇腹は神経が集中しているため打たれると段違いで痛い。そのことをサクヤは先程の鞭で理解したのだ。
しかし体を丸くするということは背中をがら空きにしてしまうということ。
ビシイイイイイイン!!!
「んぎいいいいいい!!!!」
カコが振り下ろした鞭はサクヤの背中を捉え、赤黒い線状の傷をまた一つ増やした。
(な、なんとか先輩を抑え込まないと! このままじゃ打たれ続けるだけだ!)
サクヤは床に蹲ったまま目線だけを正面に向け、カコの足首を見た。
(足を掴んで倒してしまえば……)
取っ組み合いになればもう鞭は使えない。そうすれば男である自分が有利だ。
サクヤはそう思い蹲った状態から手を伸ばし、右手でカコの左足首を掴もうとした。
ダンッ!
しかし、甘かった。カコは読んでいたとばかりに左足に迫るサクヤの右手首を左足を上げてかわし、真下に来たその右手を踏み潰した。
(くっ!)
ならば反対側、と思いサクヤは左手を伸ばした。しかしカコは同じ要領でサクヤの左手を自分の右足で踏み潰して止めた。
カコは完全にサクヤの動きを掌握していた。しかし仮に突然来たとしても、反応して同じ動きで止めることは出来た。
サクヤはこのルールの勝負の中では読み合いも反応も、カコに何一つ及ばない。
結局、サクヤは両手をカコの両足で踏まれた状態となってしまった。
「あらあら、両手を抑えられちゃったわよ? これ、とってもピンチなんじゃないかしら?」
「!」
サクヤはようやく気づいた。打ち込まれると悶絶するほど痛いと先程身をもって教えられた脇腹を、晒しているということに。
(やめっ………!)
サクヤがそう考える頃には、カコの体重の乗った鞭は脇腹をしっかりと捉えていた。
ビシャアアアアアアアアアン!!!!
「ふぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
さらに増幅した痛みがサクヤの体の中を暴れ回った。痛みが増したのは、先程までと違いカコが「当てる」ことではなく「鋭く痛く打ち込む」ことに集中しているから。
両手を取って押さえつけたことにより、カコは当てるために割いていた思考をサクヤに痛みを与えることだけに100%使えているのだ。
(痛い! 痛いいいいいいいいいいいい!!!!!)
サクヤはドタバタと暴れ周り、痛みをなんとか紛らわせようとした。
しかし、これで終わりではない。先程までと違いまだ自分の両手はカコの足の裏の下にある。打ち込まれた脇腹を抑えて防御する事は出来ない。
つまり、
ズパアアアアアアアアアアン!!!!!
何度でも、脇腹への鞭が来るのだ。
「んむああああああああああああ!!!!」
「あはっ♡」
カコがそう可愛く笑ってからは、『地獄』の二文字。
サクヤが腕を引こうが押そうがカコの足の裏から逃れられない。つまりバンザイの状態で完全に固定されて、鞭を持ったカコの前に無防備な脇腹を晒し続けることになったのだ。
左右の脇腹に鞭を交互に打ち込まれ続けた。
「あははっ!」
ヒュオン、ビシイイイイイイイイイイイイン!!!!
「んむおおおおおおおおおおおお!!!!」
「もう一発!」
ヒュオッ、スパアアアアアアアアアン!!!
「んぎいいいいいいいいいい!!!!」
「まだまだ!」
ビシイイイイイイイイイイン!!!!
「んぐううううううううううう!!!!」
「んふふ、楽しい~♡」
バシイイイイイイイイイイイン!!!
「むぎいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
サクヤは『逃げる』『守る』『降参』『戦う』、全ての選択肢を奪われたままカコと『勝負』させられ続けた。
「ほらほら、泣き叫んでるだけじゃ私に勝てないよ? なにかしないと!」
もう、サクヤに出来る『なにか』は無い。全ての選択肢を奪われたサクヤは、ひたすらカコの吐き出すサディズムを体に受け入れ続けるしかなかった。
猿轡をはめられ、さらに手を押さえられた今の体勢ではサクヤは許しを乞うことすら出来ない。ただ脇腹に激痛の鞭を打ち込まれ続け、まともに発声できない絶叫をあげながら首だけを上に向けてカコを見る事しか出来ない。
真下から見ても、カコの顔はその大きな胸に遮られてほとんど見えなかった。その巨乳が一度右に揺れ、軌道を変えて左に揺れ始めるとそれに合わせて右から脇腹に鞭が来る。カコが上半身を捻りながら全体重を乗せて鞭を振るっているからだ。
サクヤはただただ揺れる巨乳と共に打ち込まれる鞭に泣き叫ぶことしか出来なかった。
地獄の時間はサクヤには永遠にも感じられ、カコが鞭を休めたのはサクヤの擦り切られた脇腹から滲み出た血でカコの鞭が染まったときだった。
「ふう……休憩しよっ」
カコはそう言うとサクヤが気が狂うほど暴れても退かしてもらえなかった足をヒョイと軽く上げ、キッチンの方へと歩いていった。
サクヤの顔は涙と鼻水、さらに猿轡の隙間から漏れた唾液でぐちゃぐちゃになっており、その表情はどれほど恐ろしい目に合ったかをよく表していた。
またサクヤの脇腹は大量に鞭を打ち込まれ、滲み出た血がフローリングの床に小さな水溜まりを作っていた。
最後の方はサクヤの脇腹の皮は剥けて、露出した肉や神経を鞭で直接打ち込まれた。その無惨すぎる鞭傷はカコがどれほど残酷なサディストかを表現していた。
(逃げ……ない、と……)
サクヤの胸中にはもうそれしか無かった。カコから逃げたい。家に帰りたい。否、同じ町にいれば見つかってしまうかもしれない。この町から遠くにある実家に帰りたい。
ずり、ずり……
サクヤはフローリングに薄く血の跡を残しながら、玄関を目指した。
(なんとか、立ち上がって……)
サクヤは四つん這いまで起き上がり、脚に力を入れた。しかし
スパアアアアアアアアアン!!!!
「!?、んぎいいいいいいいいいい!!!!」
背後にはキッチンで水を飲み終えたカコがいて、背中に鞭を打ち込まれた。
その激痛に意識を失いそうになるが、サクヤは最後の我慢だと思い、必死に立ち上がり玄関に向かって走った。
「あら」
カコは仕留めたと思った獲物が動いたことに驚き、その後を歩いて追いかけた。
(鍵がかかってる! 早く、早く!)
サクヤはドアの鍵を回し、ドアノブを掴みドアに体当たりするようにドアを開けようとした。この姿のまま飛び出せば、怪我の様子を見た誰かが通報してくれるかもしれない。
バンッ!
それは、ドアが勢いよく開いた音ではない。チェーンロックに阻まれて開かなかったドアにサクヤが衝突した音。
(しまった………)
忘れていた。カコはドアにチェーンロックをかけていた。何故そのことを思い出さなかったのか。何故気づかなかったのか。
「あらあら。向こうで大人しくしていれば、降参させてあげようと思ったのに…」
カコはゆっくりとサクヤに近づき、扉を閉めて再び鍵をかけた。
「まだ私と『勝負』したいみたいね。いいわ、徹底的にしてあげる♡」
カコはピシン、ピシン、と鞭で左手の掌を叩いてリズムを刻む。
「んーー! んむーーー!!」
サクヤは首を何度も何度も左右に振り、あまつさえカコに向かって土下座した。
まともに向かっていっても勝てるわけがないのは最初の一分の打ち込みで理解した。カコの動きはサクヤでは捕まえることはまず不可能な上に、自分が打ち込まれる鞭も避けられないし防げない。
カコがこの時間を終わりにする以外にサクヤが助かる方法はない。
(許してください! 許してください!)
そう心の中で必死に念じて平伏し、縋るようにカコを見上げる。
その様子からカコがサクヤの意図を察せない訳はないのだが、サクヤにとっては残念な事にその態度はサディストの背中をゾクゾクと擽るだけ。
土下座をして許しを乞う奴隷の背中に、容赦なく鞭を振り下ろす。サディストにとってこれほど楽しい一撃も無い。
ビシイイイイイイイイイン!!!!
「んむうううううううううううううう!!!!」
泣き叫ぶサクヤの顔の近くにカコは顔を近づけ、言った。
「サク。それほどにまであなたが私との勝負に拘るとは思わなかったわ。いいわ、いつまでも付き合ってあげる♡」
ベロ……
そう言うとカコはサクヤの目尻に舌を伸ばし、溢れている涙を舐め取った。
そこからは『狩り』となった。部屋の中で逃げる獲物と追う猟師。どちらがどの役割かは言うまでもない。
部屋の中で走らせると面倒なので、立ち上がろうとすれば強めの鞭を打ち込んで四つん這いにさせる。
サクヤが猿轡を外そうと腕を上げれば素早く脇腹を打ち込んで動けなくして動作を中止させる。
床を這って泣き叫びながらカコから逃げるサクヤの背中に鞭を打ち込む。サクヤが身を守りながらうずくまれば、空いているところに鞭を打ち込み続ける。特に脇腹は少しでも隙があれば確実に打ち込まれた。そしてまた逃げ出せば追いかけて無防備な背中に鞭を打ち込む。
たまにカコが戯れにサクヤの背中を踏み潰してやると、両手両足にろくに力が入らないサクヤはカエルのように潰れてしまい腹を床に打ち付けられた。
そして鞭で皮が擦り切れるまで打ち込んでやった背中にカコが足の裏を乗せ、グリグリと傷口を踏み躙ってやると、それだけでサクヤはとてつもない激痛に襲われて泣き叫んだ。
そして踏みつけられて動けないサクヤに上から鞭の雨が降り注ぐ。
逃げようと必死に体をよじらせてもカコは太っている訳では無いが女性にしては上背があり、かつ胸と尻は大きく膨らんでいるため体重もある。そのためサクヤの華奢な体ではカコに上から踏みつけられたら逃げることは出来ない。
全身に鞭の激痛をたっぷりと浴びせられ、ある程度……と言ってもサクヤが何度か気絶するほど鞭を打ち込まれた後に、カコはわざと足をどけてサクヤを解放する。
解放されたサクヤはまたフラフラと起き上がり、四つん這いのままカコから必死に逃げる。
それをゆっくりと歩いて追いかけ、何度か鞭を打ち込んで痛みで動きを止めてからまた踏みつけて押さえ込み、上から鞭を何度も打ち込む。
サクヤが鞭の雨に耐えきれず、背中をカコの右足で踏みつけられて床に這いつくばったまま逃げようと両手を前に伸ばせば、それは地獄の始まりの合図だった。
前に伸ばした右手をカコに左足で素早く踏みつけられ、気づいて戻そうとした左手も右足で踏まれて押さえつけられた。
サクヤの右手にカコの左足。サクヤの左手にカコの右足。
つまり、脇腹を擦り切れるまで打ち込まれた体勢の再現だ。
カコは「あははっ! お馬鹿さん♡」と笑い、思い切り鞭を脇腹に打ち込んだ。
そこからは先程の地獄をもうワンセット。サクヤが泣き叫んで暴れ回ろうが、気絶しようが関係ない。カコは狂気の高笑いを上げながら、既に皮が無くなりつつあるサクヤの脇腹に鞭を打ち込み続けた。
先ほどと同じ回数を左右の脇腹に打ち込んで先程の激痛地獄をもう一度味わわせたカコは、ようやく両足をどけてやった。
サクヤは何秒か経過してからようやく自分が解放された事に気づいた。目の前にはカコの足。視線を上げると、カコはサクヤの目の前にしゃがんでこちらをじっと見ている。
(なん、だ……? 何かあるのか……?)
カコは何も言わずに、ただ口元にだけ笑みを浮かべてこちらを見つめている。
カコがしゃがんでいるため、シャツの隙間からは大きな胸の谷間が見える。同級生が騒いでいたカコの巨乳はシャツ一枚の今は普段よりもさらに巨大に見えた。
さらに、ブラジャーをしていないのか乳首がハッキリと浮いて見えている。
カコは普段乳首が陥没しているため、サクヤが家に入ってきた段階では浮いた乳首は見えなかった。
しかし激しく興奮したせいでピンと立った乳首が、シャツの生地を押してその存在を主張している。
カコの大きな谷間とハッキリと浮いた乳首、さらに口元に笑みを浮かべた妖艶な顔でサクヤを見下ろすその姿は非常に官能的であった。
しかし今のサクヤはそれを見て興奮をするどころか、恐怖を感じた。
何故ならハッキリと相手が自分をいたぶって興奮しているということを理解したからだ。性知識は浅いサクヤだが、カコの様子を見れば性的に興奮しているということは理解出来る。
(ダメだ、ここにいたら、また……鞭が、来る……!)
「ぐ、うぐ、うううううー…………」
サクヤは既に枯れるほど出した涙をさらに流しながらなんとか全身に力を込め、四つん這いになりカコと反対を向いて逃げ始めた。
「あはっ♡」
カコの笑い声が背後から聞こえた。
(ああ、くそ、そうだったのか……)
カコの先程の目は、自分がまだ動くかどうかを見ていたのだ。ネコが死んだネズミで遊ばないのと同じ。獲物は動くから楽しいのだ。
先程のカコの期待するような目は『まだ遊べるか』を考え、待っていたのだ。
そして、自分は動いてしまった。つまり……
「ほぉら、まだまだ痛いのが来るよ~?」
ビシイイイイイイイイイイイン!!!!!
「んむぎいいいいいいいいいいいい!!!」
カコは今からまた、自分をいたぶって遊び始める。
その後もサクヤは散々鞭を打ち込まれ、完全に気絶して動かなくなったところでこの『勝負』は終わることになった。
「ふう、どうだったかしら? 私との『勝負』は」
カコはサクヤの全身を余すところなく鞭で舐め回した。
勝負など名ばかりで、その実態は一方的な蹂躙。サクヤは猿轡により降伏する権利すら奪われたまま、カコの鞭で一方的に嫐り尽くされた。
「あ、う、ごほっ! あ、ああああ……」
完全に気絶していたサクヤは、猿轡として口から後頭部に固く結ばれたタオルを意識の戻らない間にカコの手で解いてもらっていた。
カコはサクヤが目覚めるのを椅子に座り読書をして待っていたらしく、起きたと同時に声をかけた。
サクヤは意識を失う前のことを思い出し、全身を震わせ恐怖に引き攣った表情でカコを見上げた。
カコが恐ろしい。
サクヤが恐れた理由は二つ。
まずはカコの鞭さばき。幼い頃から大学まで慣れ親しんできた剣道の型を鞭に応用し、さらに今まで男を鞭で調教してきた経験も加わったことで、その動きは達人の域に至っていた。
そしてもう一つはそのサディズム。カコから見れば圧倒的弱者である自分を、心底楽しそうに打ち続けた。
泣き叫ぼうが土下座して許しを乞おうが、むしろその姿を見て興奮を加速させながら鞭を振るい続けた。
サクヤにとっては、自分がいたぶられている時に見えた、ピンと張ってシャツから浮き上がったカコの乳首でさえもが恐怖の対象となった。
何故ならその勃起した乳首こそが性的興奮の証であり、カコが自分のような弱者を鞭で打ち据えて痛がらせ泣かせることに悦びを覚えるサディストであることの証明だったからだ。
(この人は本当にSなんだ……いや、違う、ドS! 最悪のドS女だ!)
「さて、どうする?」
「へ?」
カコが突然サクヤに尋ねると、サクヤはキョトンとした顔で聞き返した。
「勝負。あなたが『降参』って言わないまま終わっちゃったじゃない」
降参と言わせないまま気絶するまで打ち込んだのは自分のくせに、という反発もサクヤの頭に浮かんだが、そんな考えはカコへの恐怖が一瞬でかき消した。
「………あ、え、その、降参です! さっきは気絶しちゃって、その……」
「うーん、あなたが最後まで降参しないまま場が収まっちゃったから、さっきのは勝負としては引き分けかしら?」
「え、ひき、わけ……? それだと、どうなるの、ですか……」
「それは当然……」
カコは口の端を上げてニヤリと笑うと、机の上に置いてある鞭の柄を掴み取り、その先端をサクヤの鼻先に突きつけた。
「最初からやり直し……かしら♡ ほら、立って構えなさい」
サクヤは一瞬、何も考えられなくなった。
カコの『最初からやりなおし』という言葉は、それほどまで強くサクヤの頭に衝撃を与えた。
(あの、地獄を……? さい、しょ、から……?)
一瞬で打ち据えられ、抑えつけられ、動きを止められてから延々と鞭を打ち込まれ続ける。その地獄を最初から。
「ゆ、許してください! カコ様! それだけは! それだけは!」
サクヤは泣きながら土下座し、カコに頭を下げた。
「私が『構えなさい』と言ったのよ?」
「!」
そう言ったカコの表情には、サクヤを服従させるに十分すぎる威圧感があった。サクヤは「ああ、ああああ……」と情けなく震え声をあげながら立ち上がり、やったこともないボクシングのような構えを取った。
それはカコと戦うための動きではなく、少しでもカコの機嫌を損ねないために頭の中にあった『構え』を適当に再現したに過ぎない。その姿は余りにも弱々しく、半端に構えていることが一層の悲壮感とみっともなさを醸し出していた。
「じゃあ、始めましょうか♡」
そう言って鞭を体の中央に構えるカコからは剣の達人のような雰囲気と、その美しく妖艶な深い色の眼が放つ色気と、浮いた乳首や唇をペロリと舐める仕草から伝わる興奮状態の女性が流すフェロモンの混じった、カコの強い『気』が溢れていた。
「か、カコ様! こうさんです! 降参ですううううううぅ!!!」
そのカコの気は向かい合っただけでサクヤを制圧してしまうほどの濃度であり、戦わずしてサクヤの心は敗北を認めてしまった。
一度は構えたものの、先程の恐怖の記憶がすぐさまカコに土下座して降参を申し入れる以外の選択肢を奪った。
「えー、つまんないの。男の子でしょう? 悔しくないの?」
そう言ったカコではあるが、こうなることなど予想済み。
サクヤの心の中にある「女であるカコになら勝てるだろう」「結局は男である自分の方が強いはず」という気持ちは、実力差を強く見せつけた上で念入りに痛めつけることにより全てへし折った。
カコは奴隷にこれを『洗礼』と説明するが、心の中では自分への反抗心・奴隷の自尊心を根こそぎ奪うという意味で『牙抜き』と呼んでいた。
女主人に歯向かおうとする愚かなオス犬の牙は、女主人に押さえつけられてペンチを口の中に捩じ込まれ、全て引き抜かれた。
オス犬がいくら泣き叫ぼうともその牙抜きの儀式は粛々と行われ、女主人はオス犬が歯向かう為の牙を抜くという目的を果たしながら、その過程で満たされるサディズムを満足に味わった。
もうこのオス犬は自分に噛み付くことが出来ない。歯茎と舌だけが残った哀れな口で、女主人の御機嫌を損なわないようにペロペロと舐めることしか出来ない。
(『牙抜き』も終わったし、次は舌の具合を確かめようかしら♡)
カコはペロリと舌を出して唇を舐めた後、土下座しているサクヤに話し始めた。
「あのさぁ、『降参』って本当に思ってる?」
「はひ……?」
サクヤは意味がわからない。何故なら本当に降参であると心から思いながら土下座しているからだ。
「だってさ、あなたが降参っていくら言っても、私に心から負けたって認めているかは分かんないじゃん」
「そ、そんなことは! そんなことはありません! 本当に降参です!」
サクヤは必死だった。カコに「もう一度戦いましょう」とでも言われると思ったからだ。カコとは二度と戦いたくない。二度とカコを怒らせたくない。
その気持ちがサクヤの中を埋め尽くしており、心の底からカコに降参していた。
「ふぅん。でも、あなたがなんて言おうと、これってやっぱり水掛け論だよね。何か証明させないと」
「しょ、しょうめい?」
「そう。あなたが本当に私に負けを認めたかどうかを調べるの」
「ど、どうやって……?」
サクヤはとにかくカコが恐ろしかった。わざとらしく「うーん、どうしようかな?」と悩んでいる素振りを見せながら部屋の中を歩くカコの、一挙手一投足が恐ろしい。
今にもその手の鞭が自分に向かうのではないか、とカコが歩き床を踏んで音がする度にビクリと体を震わせてしまう。
「そうね、これならどうかしら? 究極の降参方法よ。これが出来たら本当に降参してるって証明として受け取ってあげるわ」
「ほ、本当ですか……い、いったいどんな……?」
サクヤはカコの提案に一縷の望みを見た。一方的な蹂躙になるとわかり切っているカコとの『勝負』以外の方法なら何でも良い。
「簡単よ。あなたが降参ですって言いながら私のお尻の穴を舐めるの」
「……は? え? お、おしりの、あな?」
サクヤは困惑した。てっきり何かしらの謝罪方法や、そうでなければまた契約書のようなものを提示されるのだと思っていたからだ。
カコは鞭を机の上に置き、机に向かって両手を付くと、サクヤの方に振り向いた。
「私がここでこうしているから、私の短パンとパンツを下げてお尻の穴を舐めなさい。英語でよくあるでしょ?『Lick my ass!』ってやつよ」
サクヤはカコの発音の綺麗さから、彼女が海外の学会によく行って英語で発表したりしているという話を、カコについてよく噂している同級生達から聞いたのを思い出した。
「簡単でしょう? 舐めさせる方が勝者、舐める方が敗者。誰が見ても上下関係がわかる良い方法だと思わない? それか……もう一度勝負するという方法もあるけど?」
「あ、あ、あ……や、やります! やらせて、いただきます……!」
サクヤは『勝負』だけは嫌だという強い気持ちから、屈辱的過ぎるカコの申し出を受けてしまった。
「う、うう………」
生まれて初めて女性のお尻に手を触れる。その緊張と、相手がカコであるという恐怖から、サクヤの手の震えは止まらなかった。
しかしこちらを見下ろすカコと目が合ってしまい、震えが止まるのを待っている時間はないことを理解した。
ゆっくりとカコの腰に手をかけ、短パンを掴んで足首まで下ろした。
「うわ……わあ………」
それは驚きに、サクヤのオスとしての喜びも混じった声だった。真紅のパンツに包まれたカコの尻は大きく、しかし決してだらしなく垂れているわけでもなく、理想的な形と呼ぶことができる上、巨乳と同様に巨尻と表現しても差し支えないと思われた。
また、母親以外の女性の下着を見たのも生まれて初めてだった。
「早くしなさい」
自分の尻や胸を見て驚いたり喜んだりする奴隷はカコにとって珍しいものではない。カコはいつも通りと言わんばかりの顔でサクヤを急がせた。
サクヤは「はい」と返事をし、次はカコのパンツに手をかけて下げ始めた。
「わあ………」
一瞬、カコへの恐怖を忘れるほどの衝撃だった。真紅のパンツの下にあったのはマシュマロのような純白のヒップ。
サクヤはカコの美しいヒップに見惚れていたが、上からカコの視線を感じ慌てて我に返った。
「両手でお尻を掴んで広げてみなさい」
「は、はい……」
ムニュ……
「う……!」
サクヤはカコの尻に触れた瞬間手の中に広がる心地良さにより貞操帯の中で自身の男性器が膨らむのを感じたが、膨張は貞操帯により強制的にストップさせられてしまい、鈍い痛さが股間を襲った。
しかし見下すようなカコの視線は「そんなことは関係ないでしょ」と言外にサクヤに伝え、サクヤは両手に力を込めてヒップを左右に広げた。
「うっ……!?」
突然、吐き気に襲われた。何故ならヒップの狭間から姿を現したカコの肛門は、プンとサクヤの鼻を突くような便臭を放っていたからだ。
入浴後、ないしきちんとウォシュレットで洗浄した後以外、つまり大便の後にペーパーで拭いただけの肛門からは、普通はこのような臭いが漂うものだ。
カコは「あら、やっぱり臭いかしら?」と言った後、何の気もないように言葉を続けた。
「大学だとウォシュレットがあるからちゃんと綺麗に出来るんだけどね。この部屋のトイレにはウォシュレットがないの。さっき大きい方をした後ペーパーで拭いただけだから、多分ちゃんと綺麗に出来ていないのよね」
「う、うう……」
サクヤはカコの言葉を聞きながら、臭いに耐えつつ小さな呻き声を漏らした。カコがこの流れで許してくれるとは思っていないが、自分が舐めるのであればせめて入浴後か徹底的にウォシュレットを使用した後が良かった。
「私、お尻の穴が敏感なのよ。だからなるべくペーパーで強く拭いたりしたくないの」
カコはそう話したあと、最後に「まあ」と付け加え、
「これからはもう、そんな心配はないんだけどね……♡」
と言ってクスクスと笑った。
「……?」
カコは不思議そうな顔をするサクヤにそれ以上は説明しなかった。
「とりあえず、やってもらいましょうか」
サクヤはカコにそう命令され、両手でカコのヒップを広げたまま小さく俯き、「はい……」と返事をした。
(うう、うう……)
サクヤがカコの肛門を見ると、ヒップの白さからは想像出来ないほど茶色く濁った円の中心に、ピンク色の割れ目があった。
汚らしく周囲に薄い毛が生えており、その肛門はカコの顔やスタイルの綺麗さからは想像出来ないほどグロテスクな部分だった。
「………! ………ン……!」
サクヤはなるべく見ないように固く目を瞑りながら、舌を必死に伸ばしてカコの肛門に舌先を近づけた。
ペト……
「ッ!? ゲホッ! ゲホッ! おえ、おえええ!!」
サクヤは舌先が肛門に触れた瞬間、広がった強い苦味に耐えきれず舌を離した上、顔を床に向けて咳き込んでしまった。
「サク」
「はい……?」
名前を呼ばれたサクヤが上を向いた時には、既に高速で動く黒い線が自分に向かってきていた。
ビシイイイイイイイイイイン!!!!
「うぎゃああああああああぁぁぁあ!!!!」
サクヤの背中に、赤い鞭傷が一つ増えた。
「私は『舐めなさい』と命じたわ。でも勝手に舌を離して咳をしても良いって言ったかしら?」
「い、いっで、まぜん……!」
サクヤは背中の激痛に身をよじりながら、カコの問いに答えた。
「そうね。あなたが私の命令を無視して勝手をすると、今みたいに痛みが与えられることになるわ。覚えておきなさい」
「はい………わかり、ました……!」
先程は『勝負』と称し一方的に鞭を打ち込んで実力差と上下関係、女王様の恐怖を教えた。そして今回は命令違反に対する罰を教えた。
このように鞭を重ねてゆき、理想の奴隷を作るのだ。
カコの調教には他のS女と比較して圧倒的に鞭が多い。何故ならカコは鞭打ちが大好きだからだ。
自分の卓越した技術で無力化した奴隷に一方的に打ち込むのは楽しい。防具など付けていない裸の奴隷に何回も鞭を打ち込んで泣き叫ばせるのも楽しい。
調教や躾は飴と鞭が重要と言うが、カコの場合は99%以上が鞭だ。
自分は飴を舐めながら奴隷に鞭を打ち込むのがカコのスタイル。圧倒的な女王様による絶対王政の恐怖政治がカコの奴隷調教だ。
S女に弱みを握られ強制的にM役をさせられてしまう男は世の中に何人もいるが、サクヤはその中でも酷い相手に当たってしまった。
ひたすら鞭を打ち込まれる上、カコが今後サクヤに強制する行為のおぞましさは世のS女達の中でも常軌を逸している。
「あう、う、うう……」
サクヤは何とか再び舌をカコの肛門に伸ばした。
ペトッ……
(ううっ!!)
舌先に広がる強い苦味。しかしもう逃げることは出来ない。
レロ………
目を固く瞑り嫌な味に耐えながら、サクヤは舌を下から上に動かした。
「うぇ……」
先程と違い、舌を当てただけでなく肛門を「舐めた」ため、サクヤの舌には先程よりもはっきりとカコの肛門の味が残った。カコの肛門は強い苦味と、舌を刺激するピリピリとした味がした。
「ん……」
カコは小さな声を漏らし、肛門でサクヤの舌を味わった。そして先程のように中断されないよう、念を入れた。
「続けなさい。勝手にやめたら……わかってるよね?」
サクヤが舌を出したままカコの顔を見上げると、カコはニコニコと笑っていた。
男を鞭で滅多打ちにしたあと、肛門を舐めさせて笑っている女。カコが普通のサディストではないということをサクヤは既に理解していた。
「うぅ、オェ、うぷ、うぶうううぅぅ……」
レロ、レロ、レロ………
サクヤはカコの肛門の味と臭いに吐き気を催しながら、必死に舌先を肛門に這わせた。
「サク」
「は、はい!」
サクヤはカコに呼ばれ、慌てて返事をした。また打たれるのかと体を強ばらせたが、鞭の代わりに降ってきたのは冷たい言葉だった。
「私は『舐めろ』と言ったの。舌先を当てろとは言っていないわ。舌全体を使ってしっかりと舐めなさい」
「は、はい。分かりました」
サクヤは舌全体を肛門に当てるという苦しみを課されたことに悶えるよりも、鞭が来なかったことに安心した。
しかし、続けざまのカコの言葉に恐怖する事になる。
「あと。ちゃんと舐めるのもそうだけど、あなたはまた私と『勝負』がしたいようね。ただ舐めてるだけで全然『降参』していないじゃない」
「あ、あああ! ごめ、ごめんなさい! ぜんぶ、ちゃんとやりますから、しょ、勝負は、もう!」
「さっきも言ったでしょ。あなたがきちんとお尻の穴を舐めながら私に降参ですって伝えられたらおしまいだし、伝わらなかったら再度『勝負』ね♡」
「あああ、はい! はい! 伝えます! きちんと、舐めながら、降参します!」
サクヤは必死だった。とにかく『勝負』をする流れにはしたくない。勝負さえ避けられるのであればどんな命令でも聞いてしまうほどに、カコの鞭で心を折られてしまっていた。
「う、うう、う……」
肛門を舐めるのはきつい味や臭いに責め立てられる上に、屈辱的。サクヤも強い屈辱を感じてはいるが、それよりもカコに対する恐怖の方が大きかった。
「こ、降参です……」
サクヤはそう言ってから、口を大きく開けて舌を出し、カコの肛門が中心に来るようにして舌全体で舐め始めた。
ペロ、ペロペロ、ペロペロ……
「あら、降参は一回だけ? それに言葉も『降参です』だけ? きちんと考えて、色んな言葉を尽くして降参って伝えないと、私、あなたはもう一回勝負したいのかなって思っちゃうよ?」
「あう、あ、ご、ごめんなさい!」
カコに言われ、サクヤは頭の中を必死に回して言葉を考えた。
「こ、降参です……」
ペロペロ、レロレロ……
サクヤは肛門を舐めながら言葉を考え、話しながらもなるべく肛門舐めを中断しないように、カコに対する降参の言葉を尽くした。
「僕は、カコ様に勝てません……完全に負けてしまいました……うぷっ……」
ペロ、ペロペロ、レロレロレロ……
「カコ様とは、二度と、戦いたくないです……」
ペロペロ、レロレロ……
「二度と、歯向かいませんから……もう、許してください……」
ペロペロ、ペロペロ……
「カコ様には、絶対に、服従しますから……もう、許してください……」
ペロペロ……レロレロレロ……
敗者が勝者の肛門を舐めて許しを乞う。これ以上ないほど絶対的な敗北と服従の証明。サクヤの哀れな姿は完全な敗者を体現していた。
「ふふ、うふふふふ♡」
そして、完全な敗者がいるということは、同時に完全な勝者がいる。
(やっぱり、牙抜きの鞭打ちで楽しんだシメはこれが一番ね♡)
カコは泣いて許しを乞いながら自分の肛門を舐める哀れな奴隷を上から見下ろすのが大好きだった。
牙を引き抜かれたオス犬が女主人の肛門を舐めるその姿は負け犬そのもの。
たったの数時間で女主人によりプライドを潰され牙をペンチで引き抜かれたオス犬は、口の中に唯一残された舌で女主人の肛門を泣きながら舐める哀れな負け犬となった。
(あと、この子は多分……)
カコはさらに楽しむため、小さな期待をしながらサクヤに質問した。
「あなた、女の子とキスしたことある?」
「へ? あ、えと、その、ありません!」
サクヤには突然の質問の意図が分からなかったが、とりあえず正直に答えた。
「へぇ、それなら私がもらってあげるわ。あなたのファーストキス。ほら、キスしなさい」
「へ……? えっと、あの……わ、分かりました」
サクヤにとっては想定外の話。しかしカコの命令に逆らう事は出来ない。さらに、こんな目にあった後でもカコほどの美人と初めてのキスをさせて貰えると思えばサクヤは嬉しかった。
「よい、しょ……」
サクヤはカコの唇にキスをするため、立ち上がろうと脚に力を入れた。しかし、
パァンッ!!!!
「ウブウッ!!!」
完全に立ち上がる前にカコの平手打ちがサクヤの頬を捉えた。
長年剣道を続けてきたカコの手首の強さは計り知れず、そのビンタはサクヤが今まで頬に受けた衝撃の中で間違いなく最も強いものであった。
「うう、うぶ、な、なんで……?」
サクヤは左頬にカコの手と同じ大きさの紅葉(もみじ)がハッキリと残った顔で、あまりの痛みに涙を滲ませながらカコに聞いた。
「覚えておきなさい。今後、奴隷であるあなたと女王である私が『キス』をする時は、あなたの唇と私の肛門とで行うのよ」
「あう、う、わかり、ました……」
カコはそれ以上説明しなかったが、これには理由があった。
その理由とは、最も衛生に気を遣われるべき『口』で最も汚く不潔な部分である『肛門』にキスをさせることで身分の差を強く実感でき、カコが気持ち良いから。
基本的にこれから行われること、強いられることの全てはカコの快楽のためである。それにより奴隷がどのような目に遭い、心身問わずどのような傷を負うかなど、カコにはどうでも良いことであった。
「じゃあ、受け取ってあげるわ。あなたのファーストキスを、私のお尻の穴でね♡」
「……う、ううう……」
サクヤに恋愛経験はない。それどころか、今までの人生はこの大学に入るための必死の勉強に費やしてきた。
その可愛らしい容姿から女子にそれなりの人気はあったが、サクヤは女子に告白されても勉強を理由に断ってきた。
しかし恋愛経験が無いことを恥じることはなく、自分はまだどの女子とも関係を持っていない清らかな存在であると考えてその「純情」を守ってきた。
その純情の象徴こそがファーストキス。しかし、サクヤの唇に宿ったその純情は……
「うふふ、あなたのファーストキス……しっかりと私が受け取ってあげる。私のお・し・り・の・あ・な・で♡」
「は、はい、はいぃ………」
今宵、悪魔のような女の肛門に喰われるのだ。
サクヤは再びカコの尻を左右に広げ、肛門を見た。今からここに、ファーストキスを捧げるのだ。
あまりにも汚い、カコの肛門。茶色く薄汚れた円の中心で待ち構えるピンクの割れ目はサクヤの唇を待ちわびるかのようにヒクヒクと動いている。
その動きは涎を垂らして獲物を食す肉食動物と何ら変わらない。食欲の為に自分よりも弱い者の命を食う肉食獣と、性欲の為に自分よりも弱い者の純情を食い散らかすS女。本質的にこれらは同じ思考。
「う、うう、ううう……!」
サクヤは固く目を瞑り、唇を突き出して少しずつ顔を前に出していった。
チュッ!
「あはっ♡」
たった今、サクヤのファーストキスは無くなった。サクヤのファーストキスはカコの肛門に飲み込まれて消えたのだ。
「じゃ、降参の続きね♡ 私のお尻の穴を舐めて、吸いながら降参の言葉を尽くしなさい。私に思いが伝わるようにね♡」
「わ、分かりました……」
サクヤは一度口を離して少し考えた後、屈辱的過ぎる『降参』を再開した。
「僕は…カコ様には一生勝てません……降参ですぅ……」
レロレロ、ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅううう……
肛門を舐め回し、吸う。
「僕は、永遠にカコ様とは勝負になりません……」
ペロペロ、ちゅ、ちゃううう…!
「僕は、絶対に勝てません……もう戦えません……」
レロレロレロ、チュッ! ぺろぺろ……
「僕は、負け犬です……許してください……」
この残酷な『降参』は延々と続いた。そしてカコはサクヤの言葉が尽きて舌が攣るほど肛門を舐めさせた後、ようやく赦しを出した。
「ん、もういいわ。あなたが降参だって気持ちは伝わった」
「ほ、ホントウ、です……か……?」
ニチャァ……
サクヤはカコの尻の谷間に顔の下半分をほとんど埋めた状態で舐め続けながら降参の言葉を続けていたため、口元へ何本もの白い糸がカコの尻から繋がっていた。
あまりにも惨い鞭によるリンチと屈辱的過ぎる降参を強いられたせいで、サクヤの心は狂ってしまう寸前であったが、なんとか精神崩壊に至る前にカコはやめさせてくれた。
「ええ、本当よ。あなたが私に降参だってことと……」
カコはサクヤの髪の毛を掴み、無理やり上を向かせた。
そしてサクヤの顔を覗き込むように自分の顔を近づけた。サクヤはカコの美しい顔が自分の眼前に来たことにより、これほどの目に遭わされながらも、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「ペッ!」
ビチャッ!!
「うっ!」
近づいてきたカコの顔の口から、唾液が放たれてサクヤの眉間の少し上に当たった。
ドロ……
そしてサクヤの顔面に吐き捨てられたカコの唾液はそこから少しずつ下に垂れて目や鼻、口へと流れ、サクヤの顔全体をその汚れと臭いが侵食していった。
「あなたが、完全な負け犬だって事がね♡」
カコはそう言って机の上のティッシュを何枚か取り、肛門をゴシゴシと拭いたあと、そのティッシュをサクヤの口の中に詰めた。
サクヤは顔に唾を吐き捨てられたことにより、これまでの契約書、鞭、肛門舐めも重なりあまりの苦痛と屈辱により何も考えられなくなった。
軽い精神崩壊である。カコの調教は、カコのサディズムを満たすため奴隷の心にヒビが入るまで行われる。
「もういいわ。今日は楽しかった」
カコはそう言うとサクヤの荷物や服を掴んで玄関の方に歩いていき、玄関の扉を開け、その全てを外に放り捨てた。
そして戻ってくると今度はサクヤ自身の髪を掴んで玄関まで引きずると、最後は足の裏をサクヤの背中に当て、そのまま外に蹴り出した。
「またね。おやすみ♡」
バタン、ガチャ、ガチャ!
内側からすぐに鍵がかけられる音がした。
欲望が満たされたカコにとってサクヤは用済みなので、家の外に捨てた。
あまりにも身勝手すぎるその仕打ち。アパートのドアの前で冷たい地面に裸で座り込むサクヤ。股間には貞操帯。顔には唾液。口の中には便のえぐみと臭みの残るティッシュ。全身には鞭傷。
「あ……あ、あ、あ、あああああ!!」
何が悔しいのかも分からない。もう、自分の心がどうなったのかも分からない。
服を着て、悔し涙と喉から湧いてくる呻き声を漏らしながら、サクヤは夜の道を走って帰路に就いた。
その夜、サクヤは泣き明かした。
下宿でシャワーを浴びると、全身の鞭の傷がひりひりと沁みて痛い。
しかしサクヤはシャワーを浴び続け、顔を何度も洗って口を濯ぎ続けた。最後に顔に吐きかけられたカコの唾液の臭いを、口の中に広がるカコの肛門の味を洗い流したい。
しかしどれほど繰り返しても落ちない。顔に残った唾液特有の嫌な生臭さはサクヤの鼻腔の奥の奥まで入り込んだようで、唾液が皮膚に染みついてしまったのかとさえ思う。
どうしても、唾を吐く寸前にカコが見せたこちらを完全に見下した表情が脳に貼り付き消えない。吐く瞬間のカコの唇の形や色、飛んでくる唾液が含む泡の数までがくっきりと目に焼き付いてしまった。
舌に残ったカコの肛門の味も同様である。苦味と刺激臭が舌と鼻にこびりついてしまった。
「あ、あ、あ、ああああああああぁぁぁ!!!」
泣いても、叫んでも消えることはない。鞭の痛みと、顔に吐かれた唾液の臭いと生温さと、舐めさせられた肛門の味。
事実、サクヤの命が消える日までカコに奴隷にされたこの日の記憶は消えない。常に昨日のことのように思い出されるものとして、脳に保存されてしまった。
人間の脳は、とある要素と共に刷り込まれた記憶は消えにくくなる仕組みになっている。
その要素とは「痛覚」。強い痛みを伴った記憶は、それを繰り返さないために長期的な記憶として保存される性質があるのだ。
例えば、幼い頃にストーブやコンロで火傷した体験は、その後の人生において「火は危険」という教訓を体に残すため、絶対に忘れないような記憶として脳に保存される。
今回、サクヤはこれまでの人生で経験したことがないほど壮絶な「痛み」をカコに鞭で味わわされた。
そしてその痛みと共に保存されたのは、『自分はカコの奴隷』という認識と『カコには勝てない』という敗北感。
奴隷としての誓約書にサインさせられた。
そしてあっさりと勝負に負かされた後、鞭をたっぷり打ち込まれた末に肛門を舐めさせられながら降参した。
最後には顔に唾液を吐き捨てられ、用済みと言わんばかりに裸のまま深夜の部屋の外に蹴り出された。
これらの記憶は映像としてありありとサクヤの脳に保存され、もう消えることは無い。
今のサクヤは何が悔しいのか悲しいのかも分からないまま泣いているが、今後サクヤの記憶として残るのは『自分は奴隷』『カコには勝てない』という絶対的な認識。
カコはこれらを計算した上でサクヤの調教を始めたのだ。
サクヤは今日カコに刻み込まれたトラウマとも言える忌まわしい記憶を死ぬまで忘れることができないように、瞼の裏に縫い付けられてしまったのだ。
ピンポーン……
朝7時30分。サクヤはカコの部屋の呼び鈴を鳴らした。
昨日の夜寝る前にスマートフォンを見ると、カコから2通のメッセージがあった。1通目は「明日7:30 私の部屋」とだけ、さらに次のメッセージには「明日、以下の物を持ってきなさい」とリストが付けられていた。
サクヤは行きたくなどなかったが、行かなければカンニング犯として告発されること、何よりまたカコに鞭を振るわれることを考えると、行かないという選択肢は頭から消え去った。
ガチャ
「あら、ちゃんと来たのね」
ドアを開けたカコは昨日と同じ、Tシャツに短パンのラフな格好。部屋の中でブラを付けるのを嫌うのか、歩く度に胸が大きく揺れている。陥没乳首は今は勃っていないため形を見せていない。
(昨日は………)
自分を鞭打っているとき、肛門を舐めさせているとき、カコの乳首はピンと勃ちシャツを浮かせていた。
それはカコの興奮を表しており、また鞭を他人に打ち込んだり相手を屈服させたりすることで興奮する真性のサディストであることの証明だった。
サクヤは本来男子として興奮を覚えるはずのノーブラの巨乳女性の乳首にすら、恐怖を抱いていたのだ。
カコはサクヤに「いらっしゃい」と言って部屋に上げ、自分は椅子に座り脚を組むと、サクヤのことは床に正座させた。
そして昨日と同じように、二つのボトルがついた首輪も付けさせられた。
(う、うう、ううう……なんだ、これ……_)
サクヤはカコに目の前に座られるだけで体が震え始めたことに疑問を覚えた。
今のカコは怒ってもおらず、また興奮してもいない。何より鞭を手に持っていない。ならば怯える必要はない……と、「頭では」考えている。
しかし、体は違う。鞭の痛みや唾液の臭い、肛門の味を体はまだ覚えており、サクヤの体はカコが視界に入るだけで、カコの声を聞くだけで止めようもなく震え始めた。
「さて、今日からは私のために働いてもらうわ。休みは認めない。どれほど体調が悪くても、働けるかどうかは私が判断する。あなたの体は完全に私が管理するから」
「は、はい………」
サクヤは震えた声で返事をしてしまったが、カコの言葉は今ここでサクヤの全ての人権を否定するものに他ならなかった。
「言ったものは持ってきたかしら?」
「あ、は、はい。持ってきました」
サクヤがそう言って自分のカバンを渡すと、カコは中身を全て確認した。
持って来るよう命じられたのは着替えや歯ブラシなど、サクヤが友人の家に泊まるために持参する物一式だった。
「ん。じゃああなたの家の鍵と財布、あとスマホを渡しなさい」
「へ……?」
サクヤはその質問の意味が分からなかった。しかし、カコに「早く」と言われると体が竦んで、すぐさま差し出してしまった。
「はい。じゃあこれは預かっておくから」
カコがそう言って机の引き出しを開けるとその中には小さな金庫が入っており、サクヤが渡した物はその中にしまわれてしまい、そのままガチャリと鍵をかけられた。
金庫の中には既に鍵らしきものが入っていたのが見えたが、サクヤはそれが何の鍵なのか分からなかった。
カコは金庫の鍵に長めの紐を通して結び、ネックレスのようにして自分の首にかけた。
それはカコの首元から重力に従って落ちていき、巨乳の谷間にすっぽりと収まった。
「金庫の中にはあなたの家の鍵と、財布、スマホ、あと貞操帯の鍵をしまっておくわ。財布には身分証明書がたくさん入っていたわね」
「あ……」
カコは「お馬鹿さん」と言わんばかりにクスリと笑った。
つまりサクヤは自身がカコから逃れるための手段、生命線とも言えるものを全て奪われてしまったのだ。
部屋の鍵、現金、学生証、運転免許証、保険証、スマートフォン。これらを全てカコに管理されてしまえば簡単に逃げ出すことは出来ない。
さらには貞操帯に阻まれ、自慰行為の権利さえも奪われている。
「周りの人に死んだと疑われないように、一日に一度だけ私があなたのスマホをチェックして適当に返信しておくから」
「あ、あの!」
「なぁに?」
「部屋の、鍵も、返してもらえないと……家に、帰れな、い……のです、けど……」
段々とか細くなるサクヤの発言に対し、カコは頭を抱えて「はぁ」とため息をついた。
「あなたは本当に愚かね。ここまでの状況から自分の置かれた状況が推察出来ないのかしら?」
「へ……? えっと…?」
まだ飲み込めない様子のサクヤにカコはもう一度ため息をついてから、サクヤにとって最悪以外の何物でもない宣告をした。
「あなたは今日から私に飼われるの。家には帰らなくて良いわ」
「そ、そん、な………!?」
サクヤは驚愕した。昨日、あれほど辛い目に遭わされたカコの調教を毎日受けさせられるに留まらず、この部屋で飼われて常にその恐怖に晒される。
「言ったでしょう。あなたの体は私が管理する。決定権はあなたには無い」
「え、えと、が、学校、は……?」
「今日から夏休みね。私達院生は研究で大学に行かなきゃならないけど、学部生のあなたは行く必要無いでしょ。だから8月、9月の2ヶ月間は私の部屋から一歩も出さないから」
「あ、あの、部活! 部活があるので……」
サクヤは軽音楽部に入っていた。この夏休みは前期の練習の成果を発揮するイベントがある。それだけには何としても行かなければと考えた。
「退部、ね。これからは楽器の練習じゃなくて私に奉仕する練習をしなさい」
「そ、そんな! それだけは!」
あまりにも理不尽。楽しい大学生活の大半を占める部活をここで辞めさせられるのだけは、嫌だ。
サクヤはそう思いカコに言い返してカコを見上げたが、自分を見下ろすカコの表情はあまりにも冷たく、サクヤの背中を凍らせた。
「関係ない。あなたは隷属懇願書を書いたマゾヒストで、私の奴隷になりたいのでしょう? 私はあなたの女王様役を『やってあげている』のよ?」
「あ、でも、それは……その、脅、されて……」
サクヤは諦めきれずカコに反論しようとするが、カコの手元にはサクヤが過酷な調教を望むとサインさせられた文書がある。
この口論の決着は初めからついていた。
「しつこい。あなたは今日から私に飼われる奴隷だということを……」
カコは机の上の鞭を手に取り、サクヤに振り下ろした。
ビシィ!!
「うぎいっ!」
「受け入れなさい。あなたがしてもいい返事はひとつ。『ありがとうございます、女王様』よ」
カコはそう言いながら鞭を上に大きく振り上げ、振り下ろした。
「ひっ……」
サクヤは咄嗟に両手で頭をガードする。
しかし、カコの鞭はサクヤを嘲笑うように庇われた頭を避けて脇腹に打ち込まれた。カコがスナップを効かせ、鞭の軌道を変えたのだ。
ビシイイイイィ!!!!
「うぎいいいいいいいい!!!!」
「ほら、なんて言うの?」
「ああ、あ、あ、ありがとう、ござい、ます……女王様……」
____________________
「はぁ、はぁ、はあ………」
サクヤは工具のドライバーを片手に何かを組み立てていた。
サクヤは先程、2枚の分厚い木の板と何本もの鉄の棒、さらに沢山の細かい金具を見せられた。
そしてカコの指示通りにそれらを組み立てさせられていた。何を作っているのかは分からない。
「手が止まってる」
ビシィ!!
「うぎいいいいい!!!」
カコは椅子に座ったり周りを歩いてサクヤに指示を出したりするだけで一切手伝わない。サクヤが聞き間違えたり、手を休めたりすれば鞭を入れるだけだ。
「うう、うううう………」
素材はひとつひとつがかなり重く、またこの手の作業の経験がほとんどないサクヤはミスを犯すことも多かった。しかしカコは一つ一つの作業に対しミスがあれば即座に鞭を振るう。
カコはたまに設計図のような物を見て考える素振りをするが、それをサクヤに見せることはない。あくまでサクヤには指示を出すだけである。
サクヤは何を作らされているのかも分からないまま作業を進め、背中の鞭傷を増やしていった。
(これは……もしかして……)
完成に近づいてきてやっと、サクヤはそれが何なのかを理解し始めた。
恐らくこれは、檻。それも大型犬を入れるようなサイズの檻だ。
(なんだ……? カコ様は、犬か何かを……?)
SMプレイの経験があるか、あるいはその方面の知識がある者なら、この檻が何を入れるためのものかすぐに理解するだろう。
しかし、昨日初めて「S女」というものを認識したばかりであってMでもなんでもないサクヤは、その意味を全く理解しないまま、カコの命令通りにその檻を完成させてしまった。
「最後に、金具のネジ穴のチェックをしなさい。ひとつも緩んでないか念入りに」
3時間以上一切の休憩なくサクヤが作業を続けた結果、それは完成した。
カコは途中で紅茶を淹れたりクッキーをつまんだりしていたが、サクヤは1秒たりとも手を止めることを許されなかった。
「ん……いい感じね」
カコは少し嬉しそうな笑みを浮かべながら、その完成した檻を触ったり眺めたりした。
その檻は床と天井が長方形の厚い2枚の木板で出来ており、その2枚の板の間に無数の鉄格子がはめられている。
1ヶ所だけそこに入るものが通るための入口として扉があるが、その扉には外側から棒を通して南京錠をかけることが出来る鍵がついており、内側からは絶対に開けられないようになっている。
また、その入口以外に天井にも丸い穴が空いている。その穴はサッカーボール程の大きさであった。
「ん。私はこれから出かけるから。サク、ハウス」
「へ……?」
サクヤが意味も分からず固まっていると、カコは容赦なく鞭を振り下ろした。
ビシィ!!
「うぎいいいい!!!!」
「ハウス」
そして、再度静かにそれを命令する。
「へ、あの、カコ様……?」
サクヤは何かを察したが、それを受け入れられなかった。まさか、そんなはずはないと思いたくてもう一度カコに質問しようとした。
しかし、質問の答えは言葉でなく鞭で返ってきた。
ビシイイイイィ!!!
「う、うぎいいいいいいいい!!!!!!」
「ハウス」
(い、いやだ、そんな……)
サクヤは完全に理解した。何のためにこれを作らされたのか。そしてこれが誰の『ハウス』なのか。
サクヤはカコの命令を理解し、さらに身を守るための意味も込めて、速やかに先程作らされた檻の中に入っていった。
「ふふ。そうよ。今後ここがあなたの『ハウス』。私が出かける時と寝る時、あなたはこの中に入るの」
カコは話しながら、自分のうなじに手を伸ばして首からかけている紐を引いた。するとカコの巨乳の谷間から紐に繋がれたふたつの鍵が姿を現した。
ひとつはサクヤの全て……現金や身分証明書、スマートフォン、部屋の鍵、貞操帯の鍵を入れた金庫の鍵。
もう一つはこの檻の鍵。カコは鍵を手にし、サクヤが入った檻の扉を閉めて南京錠に鍵をかけた。
「じゃあ、良い子にしてるのよ」
カコはサクヤに背を向けて着替え、部屋から出ていった。
ガチャ、バタン!
玄関のドアが閉まり、カコが部屋から遠ざかっていく靴音がした。
「………え、うそ、え……?」
サクヤはまだ現実が受け入れられなかった。服は着させてもらえない。首輪、謎の液体入りのボトル、貞操帯。自分の持っているものはこれだけ。
いつもは服を着て、財布とスマートフォンを携帯しているのは当然。通学時であればリュックには教科書やノート、筆記用具。さらに移動用に自転車もある。
そして自由だった。どこに行ってもよく、何をするのも許されていた。本来、夏休みが始まったばかりの今日は自由を満喫しているはずだった。
しかし今はただ、この狭い檻の中に居ることしか出来ない。何も出来ない。自慰行為すらも出来ない。
自分のためにやれることと言えば、眠ることぐらいだろうか。
カコはサクヤが所有していた全ての『物』と『権利』を取り上げ、管理した。サクヤの全ての『自由』は鍵をかけられた。
カコは胸の谷間に挟んだ2つの鍵によりサクヤの全てを奪い、縛った。
愛の表明として「あなたは私のもの」と恋人に語りかける女性はいるだろう。しかしカコは文字通りサクヤを自分の『所有物』としたのだ。恋人や夫婦などとは全く次元が違う。
「いや、いやだ、そんな、奴隷……なんて………」
カコに対する恐怖のせいでこれまで勘や推測が働かなかったサクヤであるが、これから自分が2ヶ月どんな生活を送ることになるかは昨日と今日の仕打ちを思い出すだけで容易に想像出来た。
恐らく毎日鞭で打たれ、肛門を舐めさせられ、最悪なサディストであるカコの性欲の捌け口にされる。
実のところ今後サクヤがさせられるのはそれだけではなく、さらに凄惨な目に遭うことになるのだが、現時点の想像だけでもサクヤを絶望させるには十分な要素だった。
「嫌だ、出して、出して、嫌だ……ああああああああああ!!!」
サクヤは涙を流しながら鉄格子を叩いたり、入口の鍵に手を伸ばしたりしたが、やはり出来ることなど何一つなかった。
檻を組み立てる際に何か細工でもすれば良かった。しかしカコの見張りを掻い潜ってそんなことをする余裕は無かった。
結局、自ら作らされた檻から出ることは絶対に出来ない。それは自分が一番分かっている。
ただ泣き叫び、暴れ回り、無為な体力消耗を繰り返すことしか出来なかった。
____________________
「う……う…………」
泣き疲れた後のサクヤに出来たのは、檻の中で横になっていることだけだった。
檻の中で手足を伸ばして寝ることは出来ないが、体を曲げて横になる面積はあった。
(何も、出来ない………)
究極の退屈と、孤独。
サクヤは如何に自分がスマートフォンやパソコン、テレビや漫画に助けられているかを理解した。
一人でいる時に暇を潰すために出来ることは、これまでならいくらでもあった。しかし今、それらは全て許されない。
ただただ無為に時間が流れていくのを感じることしか出来ない。壁にかけられている時計の秒針が動いているのを見るくらいが精々だ。
「あ、ああ……あああ………」
仮に本の一冊でも手元にあれば、その本の世界へ一時的に逃避することができる。
しかし何も無い今は、一切現実から目を逸らせない。
自分はカコに『飼われている』と強制的に自覚させられ続ける。檻の中で何もせずにカコの帰りを待つことしか出来ない。
この檻は、まるでサクヤにカコの声で「あなたは私の奴隷」と語りかけ続けているかのようであった。
そして、二時間後。
文字にしてしまえば呆気ないが、サクヤにとっては永遠にも感じられる二時間だった。
懸命に眠ろうともしたが、檻の狭さと圧迫感、それと季節特有の蒸し暑さに耐えられず寝入ることは出来なかった。
結局、意識を保ったまま二時間ずっと絶望の時間を過ごさせられた。
ガチャ、ガチャ……バタン!
「ッ!!」
サクヤは玄関の方で響いた音に鋭く反応した。カコが帰ってきたのだ。
カコの帰宅はこれからカコの執拗な嫐りやいじめが始まること、もしくは労働を強いられることを意味する。しかし、今はそれらに対する恐怖よりも、この無間地獄のような檻から出られることの方が嬉しい。
カコの部屋の玄関ドアを開けてすぐ右手にはキッチン、左手にはユニットバスに続くドアがある。
そこを抜けると十二畳ほどの一人暮らしにしては少し広めのリビングルーム。サクヤの檻はこのリビングルームに置かれている。
リビングルームに入るには扉を開ける必要があり、サクヤはその扉を強く見つめてカコが入って来るのを待った。
ガチャ
「あら、暑いわね」
ピッ……
カコの第一声はそれで、すぐにエアコンのスイッチを入れた。
「か、カコ、様……!」
サクヤはすぐに「出してください」と発声しようとしたが、乾き切った喉からは上手く声が出ずに掠れてしまった。
「そうね、喉が乾いたよね。でも安心なさい。あなたが死なないように明日からは……」
サクヤの目に少しだけ希望の光が灯った。先程の行動から見て、カコが明日からは冷房を付けてくれると思ったからだ。
「これを付けてあげる」
カコはそう言うと、自信が持ってきた買い物袋から何かを取り出した。
それは30°ほどに折れ曲がった一本の筒の様なもので、途中によく分からない金具がついている。
「……?」
サクヤはそれが何なのか全く理解出来なかったが、カコは2ℓサイズの空のペットボトルを持ちキッチンで水を入れて帰ってきた。
そして水が入ったペットボトルの本来蓋をはめる部分に先程出した曲がった筒の様なものをはめ込み、金具を利用してそれを檻の鉄格子の一部に固定した。
サクヤから見れば、檻の内側に筒の先端。檻の外側に筒と繋がったペットボトルが口を下に向けて固定されている形になった。
サクヤから見える筒の先端は、金属の玉のようなもので内側から蓋をされており、水が零れてくることはない。
「………?」
サクヤはますます意味が分からない。しかし、取り付けを終えたカコは満足気な顔で口を開いた。
「その玉を舐めてみなさい」
「………?」
サクヤは理解できないまま、言われた通りに舌を出して筒の先端に見える玉を舐めてみた。
「うっ……?」
すると突然、サクヤの口の中に水が流れ込んできた。
「ふふ、それはペット用の給水器よ。そこを舐めれば水が出てくるわ。私、平日の昼間は最低でも8時から18時の10時間は家を開けるから。最近は暑いし、冷房がないときは水ぐらい飲めるようにしておかないとね」
このカコの言葉から、サクヤは二つの絶望を叩き込まれた。
まず、二時間でも檻の中で気が狂いそうになったのに、これから平日は毎日十時間ここに閉じ込められるのだということ。
そして、冷房はカコが家にいる時しか付けないということ。
つまり、自分は真夏の昼にこの部屋の中で水だけ飲みながら、眠ることも出来ず毎日十時間、カコを待つのだ。
「あ、あの! カコ様! 水だけだと……」
そう。今年は気温が高く、熱中症に関するニュースも立て続けに流れている。
熱中症を防ぐためには水分だけではなく塩分も重要。さらに直射日光を避ける必要もある。
カコはサクヤの僅かな言葉からその心配を読み取ったかのように返答した。
「安心なさい。この部屋のカーテンはかなり遮光出来るものになってるから日光は大丈夫。あと、飲み物は水だけじゃなくて別途『塩分』を追加してあげるわ。あと一応昼食も置いていってあげる」
「はぁ……」
サクヤは少なくともカコが自分を殺す気は無いということと、それなりの知識を持っていることに安心した。
カコは他に購入してきた色々な物を冷蔵庫やその他収納にしまった後、サクヤの檻の鍵を開けた。
「出ていいわよ」
「は、はい!!」
サクヤは檻から出して貰えたことに喜び、その瞬間はカコに感謝さえした。檻に閉じ込めたのも他ならぬカコ自身なのであるが。
(やった! やっと、やっと出られた……!)
サクヤは檻を飛び出して、立ち上がろうとした。全身を伸ばすストレッチがしたかったのだ。
しかし
スパァン!!!
「うぎぃ!!!」
カコは机の上に置いてあった鞭を素早く手に取り、立ち上がろうとしたサクヤの足を打ちサクヤを転ばせた。
「あなたの罪は二つ」
「………?」
「ひとつは私の許可を取らずに勝手な行動をしたこと。私の奴隷は必ず女王様である私に命令されたこと以外をするときは必ず許可を取りなさい。さっきの場合なら『カコ様、立ち上がっても良いですか』かしら」
カコは右手に持った鞭で自分の左手をパシリ、と軽く叩き言葉を続けた。
「もうひとつは立ち上がろうとしたこと。私の奴隷の頭は常に私の腰より下。立ち上がることは許さない」
「あが……う、うぐ……わかり、ました……」
立ち上がることが罪だということも、許可を取らなければならなかったことも知らなかった。
それでも突然、何の警告も無く打ち込まれた鞭。
たとえサクヤがそれが罪だと知らなかったとしても、カコが気に入らなければそれは罪であり、罰として鞭を打ち込まれるのだ。
この一事からもいかにカコが絶対的な女王様としてサクヤの上に君臨しようとしてるかが分かる。
「ふぅ、それにしても最近は暑いわね。靴の中が蒸れちゃって大変」
サクヤは先程鞭を打ち込まれた場所から動かずに、とりあえずカコの前に正座していた。下手に動くとまた許可を取らなかったことで鞭が来ると思ったからだ。
「さて、あなたは今後私がここに帰ってきて檻から出してもらったら、すぐに『おかえりなさい』の儀式をしなさい」
「は、はい……?えと、お、おかえりなさい……」
「ふふっ、そうじゃないわ。言葉だけじゃなくて奴隷からの奉仕で女王様の帰宅に深い感謝を示すの」
「………? ……?」
サクヤはますます意味が分からない。一体、何をすれば良いのか。
「外を歩いたって事は主人の足が蒸れたって事でしょう? だから私の足の垢と汗を落とすのよ。あなたの舌でね♡」
「は……? 舌、で………垢……?」
カコはそう言うと椅子に座り右足の靴下を脱いだ。そして床に座り込んで意味がわからないと言うふうに固まるサクヤの前に自分の右足を出した。
「舐めなさい。丁寧にね」
モワッ……
夏場に外を歩いたその足からは汗の蒸気が昇っていた。激しく蒸れたせいか汗の水滴が所々に付着している。
爪に赤いマニキュアが塗られて光沢を放っている指をカコが何度か開いたり閉じたり繰り返すと、指の隙間には垢と靴下の繊維が溜まっているのが見えた。
「あと、え、その………」
ビシィ!!!
「ひぎぃ!!!」
右肩に鋭い痛みが走る。カコが鞭を振り下ろしたのだ。
「サク、言ったでしょう。私の命令に対してあなたがしても良い返事は『はい』のみ。分かった?」
「は、はい…」
「じゃあ、舐めなさい。ただ舐めるだけじゃない。私の帰宅を喜ぶあなたの気持ちをたっぷりと込めて奉仕しなさい」
「は、はい……分かり、ました……」
(う、う、うう……)
目の前に差し出された、蒸れた足。鼻を突く垢と汗の混じった刺激臭。白くて綺麗な肌と対象的な赤いマニキュアが映える美しい足だが、今は汚いという感情しか湧いてこない。
ペロ……
しかし、今のサクヤにはカコの鞭に逆らう気概を持つことなど出来ない。舌を出してカコの足に押し付け、舐め始めた。
レロ、レロレロ……
サクヤはとりあえず舐めやすい足の甲に舌を這わせ始めた。
ビシィ!!
「ふぎぃ!!!」
サクヤの背中に鞭が振り下ろされた。
「違う」
「は、はひ……?」
意味が分からない。舐めろと言われて舐めたのに何が違うというのか。
「舐め方が違う。私の足を舐めるときは舐める順序と舌の動かし方があるの」
「え……し、知りませんでした……」
ビシィン!!!
「うぎぃ!!!」
カコは先ほどよりも強く、背中に鞭を打ち込んだ。
「無知は罪。『知らない』から適当にやるのは愚か者のすることよ。まずどうやるかを聞くのが普通でしょう?」
「は、はい………」
あまりにも理不尽。それならばそのことも説明して欲しい。サクヤは背中の痛みに耐えながらそう思ったが、この部屋の中には通常の常識や倫理など存在しない。カコこそが法律なのだと思い知らされた。
「カコ様、どのように舐めれば良いですか……?」
「最初は汗が溜まっている指の股に舌を挿れて汗と垢を舐め取りなさい。その後は指を一本一本咥えてしゃぶって、最後に足の裏と甲を舐めなさい」
「わかり、ました……」
レロ……ヌチュ……
サクヤは言われた通りカコの足の親指と人差し指の間に舌を入れ、舐め始めた。
「ウッ……」
舌に広がるしょっぱさと苦さ、そして全身を震わせる屈辱感。
ヌチッ、ヌチュ、ヌチュ……
カコの足の指の間で何度も舌先を上下させる。しばらく親指と人差し指の間を舐め、味がしなくなってきたところでカコに「次」と言われたので、人差し指と中指の間に舌を入れて舐め始めた。
「ウェ、う、う、ううう……」
汚さと臭いに対する吐き気と、帰宅直後の蒸れた女の足を舐めさせられる屈辱でサクヤは泣き始めてしまった。
「クスクス……可愛い。今まではネットで見つけたM男のおじさん達を責めて発散してたけど、弱みを握った本物の『奴隷』は格別ね」
カコは喜んでいた。カコが言う通り、今まではインターネットでSM趣味の大人達に鞭を振るってきた。
本格的な調教をして欲しい、とSM未経験の男を一から鞭で奴隷にしたこともあるが相手は年上。
やはりカコが抱える「年下で小動物的な子を徹底的に調教したい」という衝動は解消されなかったのだ。
しかし、ここにきてようやくカコはサクヤという理想の奴隷を捕まえる事が出来た。
「うふふ。この二ヶ月、私の部屋から一歩も出さずに飼い慣らしてあげる♡」
「……ッ!」
サクヤは背筋が冷たくなった。
本気だ。本気でこの人は僕の事を『奴隷』にしたいんだ。
世の中に、そんな考えの女性が本当に居るなんて思いもしていなかった。
「サク、反対」
「あ……はい、分かりました」
サクヤはカコの右足の指の間を全て舐め終え、足の裏も甲も舐め終えた所でそう言われた。
「でも、その前に口の中を消毒ね」
「……?」
「首輪に付けてあるボトル。色が付いている方は口腔消毒液よ。それを口に含んで濯いで、飲みなさい」
「は、はい……」
このボトルはそういう意味だったのか、とサクヤは理解し言われた通りにした。
「ちなみに透明な方は肌に塗る消毒液。鞭傷が化膿しないように自分で塗りなさい。あなたがいくら傷を重ねようと私は打ち込むから、手当は自分でしなさい」
「はい……」
サクヤは今夜肌に消毒液を塗ろう、と考えてから口に色付きの液体を流し込んだ。
味は消毒液のそれであり、柑橘系の匂いが混ざっていた。
「消毒後、もう一度右足を舐めてからこのハンカチで拭きなさい。足だけじゃない。私に舐め奉仕した後は全てその『仕上げ』をしなさい」
「は、はい……」
サクヤは言われた通りにその消毒液で口を濯いでから飲み込み、カコの右足を舐めあげてから渡されたハンカチで拭いた。
そうするとカコの足は汗と垢の蒸れた匂いでもなくサクヤの唾液の匂いでもなく、柑橘系の仄かな香りが漂う状態で終わった。
「うふふ、じゃあ左足もね」
サクヤはその後、左足も同じように舐め、『仕上げ』までさせられたのだった。
「じゃあ、少し遊びましょうか」
「遊び……?」
カコはサクヤに両足の垢と汗を全て舐め取らせて「おかえりなさい」の儀式をさせた後、言った。
「ええ、簡単なゲームよ。あなたの躾ゲーム。今から『おすわり』の躾をするわ」
「しつ、け……」
サクヤはカコに見えないよう少し顔を伏せた状態で、嫌そうに眉を顰めた。
自分が本当に飼い犬のような扱いを受けていることに、少なからず屈辱を感じていたからだ。
「ゲームと言ってもルールは単純。私が『おすわり』と言ったらあなたがすぐにおすわりする。私が『よし』と言うまであなたは動いちゃダメ。すぐにおすわり出来なかったり、勝手に動いたりしたら……」
ピシンッ!
カコは机の上に置いてある鞭を右手に取り、自分の左手の掌を叩いて音を鳴らした。
「これよ♡ まあ、あなたが『躾』をすぐ体に刻み込む事が出来たら、そんなには叩かれないで済むからね」
カコはそう言いながらクスクスと笑った。歪む紅い唇は悪女めいて美しく、長いまつ毛に挟まれた瞳は残酷な期待を宿しながら黒々と輝いている。
「………!」
また、あの鞭で打たれる。カコの笑いは失敗すれば何度でも何度でも打つという意味だ。サクヤは直ぐに理解し、恐怖と緊張を身に走らせた。
「じゃ、細かいルールの説明ね」
サクヤはカコの事を見上げながら、必死に説明を聞き取った。
ルールをは至ってシンプル。
最初は立ち上がり、両手を上に挙げた状態でいなければならない。
カコが「おすわり」と言ったら即座に土下座の体勢にならなければならない。それも、両手の先をしっかりと合わせて丁寧に。
土下座の体勢のときに「よし」と言われたらまた立ち上がり、バンザイの姿勢に戻る。
基本の流れはこう。但し「おすわり」の姿勢の時に少しでも動いたら鞭が入る。おすわりの体勢は指先一つ、体を1mm震わせることさえも許されない。
「簡単でしょ? 要するに私の号令に従ってバンザイと土下座を繰り返すだけよ」
「は、はい……」
サクヤは確かに簡単だと思い、少し安心した。
覚えられるはずもない複雑なルールを押し付けられて理不尽に鞭で打たれるようなゲームではなくて良かった、と思ったからだ。
「じゃあ、始めましょうか」
首輪から下げているボトルは取り外され、首輪と貞操帯のみの格好となったサクヤは、最初の姿勢であるバンザイの体勢を取っていた。
カコはその周囲を鞭を持ってグルグルと回るように歩く。目の前を通り過ぎる短パンに包まれた丸く女性的な尻にどうしても目がいくものの、サクヤは雑念を払って耳に集中する。ほどなく、カコがそのまま口を開いた。
「おすわり」
ビシイイイイイイン!!!
「うぎゃああああああ!?」
サクヤは一瞬、何が起きたか分からなかった。
おすわり、と言われた瞬間に自分の脇腹に激痛が走ったのだ。
しかし、すぐにそこをカコに鞭で打たれたと分かった。
「はい、あなたの負け♡ 言ったよね? すぐにおすわりしなかったら鞭だって」
「かは、ケホッ……そんな………」
カコは言い終わるとほぼ同時に鞭を打ち込んできた。つまり、その隙はほんの一瞬しかないということだ。
「じゃあ初めから。バンザイしなさい」
サクヤは痛む脇腹を抑えながら立ち上がり、両手を挙げた。
カコは先程と同じようにサクヤの周囲を歩く。
「お」
「ッ!!」
カコが口を開いた瞬間、サクヤは土下座の体勢をとった。
(やった! 間に合った!)
ダン!
「っ………!?」
しかし突然、土下座の体勢で床に押し付けている両手の先に鈍い激痛を感じた。鞭とは別種のもの。
そして、カコに素早くそこを踏みつけられたのだとすぐに理解した。
舐め奉仕を強いられ、サクヤがカコより絶対的に下位であるのだと突きつけられた、その支配の象徴であったカコの右足が目の前にあって、しっかりと土下座したはずのサクヤの手を踏みつけている。
やや汗ばんだ温かい足裏の感覚が手の甲に押し付けられる。
サクヤが混乱しているうちに、その手を踏んでいる右足にぐっと体重がかかったかと思う間もなく、今度は後頭部をいきなり押されてサクヤは顔を床に押し付けられる。カコの全体重が、サクヤの手と頭に乗った。
手を足で押さえられたまま、頭を踏みつけられたのだった。屈辱感ももちろんあるが、それ以上に混乱がサクヤの脳内を満たした。
「……あ、あの、カコ、様……? 何を……?」
サクヤはたまらず質問した。
体重をかけられているため顔を上げてカコの表情を見ることは出来ないが、手と頭を踏まれて動きを封じられた状況から、カコが鞭を打とうとしている気配は察せたからだ。
「私……『お』しか言ってないけど?」
「あ……! えと、それ、は………」
「うふふ。これはあなたの早とちり。つまりお手つきね。お手つきしちゃったあなたには……」
サクヤは全身がガタガタと震え、汗が吹き出してくるのを感じた。
「おしおきタイム♡」
カコが楽しそうにそう言うと、ヒュオンッ!と鞭の振り上げられる音がサクヤの耳に聞こえた。
ビシイイイイイイン!!! ビシャアアアアアアアン!!!!
「ギャアアアアアアアアアア!!!!」
サクヤの脇腹を左右から舐めるようにカコの鞭が舞った。サクヤは堪らず悲鳴を上げながら暴れ回ったが、しっかりと踏みしめられた両手と頭は寸分も動かせない。
唯一動かせる下半身も脚を伸ばすか畳むかぐらいの動きしか許されず、脇腹や背中をガードする事は出来ない。
結局、サクヤは合計10発の鞭をカコが打ちたい部分に好き放題打ち込まれた。
「ちゃんと『おすわり』と言うまで聞いてから動きなさい。それ以外で動いたらおしおきタイムだから」
「は、はい………」
サクヤは痛みにゼイゼイと息を切らしながら、再びバンザイの体勢を取らされた。声がうるさい、という理由から猿ぐつわを付けられた後で。
「………おすわり」
「!」
カコがそう言うと、サクヤは即座に反応して土下座の体勢となった。
一度サクヤを土下座させるため、今回のカコには初めから鞭を振るうつもりがなかった。
しかし鞭が来ると思っていたサクヤは出来うる最高の速度で土下座の体勢をとった。
(やった! 間に合った! ちゃんと『おすわり』と言い終えていたぞ!)
「フゥ、フゥ……」
今度こそ成功したという事実に喜んだサクヤは、一瞬、緊張の糸を切ってしまい、大きく呼吸した。
ビシイイイイイイン!!!!
「ンムグウウウウウウウ!!!!」
背中に、鞭が振り下ろされた。
(そんな、どうして………!?)
サクヤは意味がわからず、カコを見上げた。
バシイイイイイイン!!!!
「んぎいいいいいいいいぃ!」
しかし、カコを見上げた瞬間もう一発の鞭が背中に打ち込まれた。
「言ったでしょう?『動いちゃダメ』って。息をして背中を震わせるのもダメ。怖くて私を見上げるのもダメ。そして今みたいに怖さに震えるのも……」
ヒュオンッ!
痛みと鞭に対する恐怖で小刻みに体を震わせているサクヤの背中に向け、カコは笑いながら鞭を振り下ろした。快楽に満ちたその笑みはまるで悪魔のようで、しかし細めた目も歪んだ唇も、あまりに美しかった。
ビシャアアアアアアアン!!!!
「ダメ♡」
「ンムウウウウウウウウ!!!!」
サクヤは全身を駆け巡る痛みを何とか押さえ込み、体の動きを止めることに集中した。
「そうそう、集中しなさい。体の動きを止めること。『絶対に動かない』ことに全神経を使いなさい」
「─────────ッ」
サクヤはカコに言われた通り、とにかく体を静止させることに集中した。
今までの人生、ここまで『動かない』ために努力したことはないほどだった。
サクヤが土下座の体勢で完全に動きを止め、3分ほど経ったところでカコは口を開いた。
「よし」
「…………ぷはぁ……」
サクヤはカコに聞かれないよう小さく呼吸を整え、再びバンザイの姿勢を取った。
「流れは理解したかしら? じゃあこのゲームを、夕飯の6時までやりましょうか。あと3時間ね」
「………!?」
瞬間、サクヤは絶望した。
(そんな……これを3時間?)
この10分ほどの時間だけで限界まで神経をすり減らしている。それなのに、そんなに繰り返されて耐えられる訳がない。
「あら、長くないか? って言いたそうね。安心して。このゲーム、私は全然疲れないから♡」
そう。カコが考えたこの『躾ゲーム』、号令を出す方は一切疲れる要素がない。
何故なら『おすわり』も『よし』もタイミングは自由。号令を連続で出しても良いし、出さなくても良い。そして出さないときは何をしていても良い。
つまりカコは読書やネットサーフィン、さらにはティータイム等で寛ぐ片手間にもこのゲームを楽しめるのだ。
そして相手がミスすれば、そのペナルティとして大好きな鞭打ちまでも自由に楽しめる。
カコにとってはリラックスとレクリエーションを兼ねた最高の時間を過ごせるのだ。
しかし、サクヤの側は地獄の時間。
まず、バンザイの体勢が辛い。腕を挙げ続けることはそれだけでもかなりの負担となる。そうでありながら、カコが気まぐれに『おすわり』と言うまで腕を上げた状態でいなければならないのだ。
加えて、カコの『おすわり』に対し一瞬で反応しなければならない。反応が少しでも遅れれば鞭を受けると思って間違いないだろう。
そして土下座の体勢。『体を全く動かさない』というのは無意識には出来ない。今しがたのサクヤが必死で取り組んでいたように、動かさないこと自体に意識を向け続けなければならない。
向こう3時間、サクヤは体力も神経もすり減らし続け、カコは何の苦もなくゆったりと楽しむのだ。
「おすわり」
ビュッ……!!
カコの言葉と同時に、鞭が迫る。
チッ!
そして、部屋の中に響いたのはカコの鞭がバンザイの体勢をしていたサクヤの脇腹が『あったところ』を通過し、土下座の体勢に移行する途中のサクヤの髪の毛を掠めた音。
「あら、なかなか早く『おすわり』出来るようになったわね」
「……………」
カコの言葉に喜ぶような素振りはなく、サクヤは土下座の体勢で固まっていた。サクヤは岩のようにピクリとも動かない。
しかしこれは眠っているわけではなく、全身の筋肉を『動かない』ことに注力しているからこそ出来る、全力の『静止』。
「よし」
この瞬間だけ、僅かに脱力する。しかし気は抜かずにすぐにバンザイの体勢を取る。
現在時刻は17時50分。
サクヤは時計を背にした位置取りでこのゲームを始めさせられ、時計はカコだけに見えている。
そのため、サクヤは今が何時頃なのか全く分かっていない。もしかしたらまだ全然時間が経っていないかもしれない、という恐怖心もある。
「うふふふ。かなり私の『躾』が体に染み込んで来たようね。ま、ここまでやられると流石にね……?」
カコはバンザイの体勢で固まっているサクヤの背中に手を近づけた。
ヌチッ……
そして、その端で痛々しく血が滲んでいる鞭傷に人差し指を当て、その傷を抉るように指先を押し付けて血を掬いとった。
「うぐ、ウウウウウウ………!!」
サクヤの体は背中と脇腹を中心に鞭傷だらけになっていた。無事な部分の方が少なく、至るところに血が滲んでいる。
それはサクヤが如何に恐ろしく、痛く、悲惨な目に遭ったか、またカコが如何に鞭を楽しんだかが一目で分かるような姿だった。
カコが強いた理不尽な『躾ゲーム』により、サクヤは全身にペナルティとしての鞭を受け続けたのだ。
カコは基本的には寛ぎながら、たまにサクヤの周りを歩いては『おすわり』という号令と同時に鞭を振るう。
大抵はこれが直撃し、サクヤは悲鳴を上げる。
そして土下座の体勢を取るサクヤの隣に椅子を持ってきてサクヤをじっくりと見張る。
サクヤはカコの視線を感じながら、少しでも動いたら鞭を振り下ろされるという緊張感に晒され続けるのだ。
しかしこの時、実はカコは常にサクヤを見つめていると言うわけではない。本を読んだり、スマートフォンを操作していることもある。
しかし土下座で下を向いているサクヤがそれを知ることは出来ず、1秒の隙もなくカコが自分を見張っていると感じ、凄まじいプレッシャーの中で体を固め続けるのだ。
カコの『よし』の号令を待ちわびながら必死に固まり続け、再びバンザイの体勢を取る。
そしてバンザイの体勢で固まっている時はカコの『おすわり』に対して神経を研ぎ澄まし続ける。
しかし途中でカコは号令を出しながらの読書やネットサーフィンに飽きたのか、「そろそろ鞭で楽しみたいな」と思い、『おすわり』ではなく『おしおき』と言ってみたりした。
するとサクヤはつい反応してしまい、土下座の体勢を取ってしまった。
サクヤは「あっ……!」と自分のミスに気づき慌てて上を見上げると、にんまりと笑ったカコが自分を見下ろしていた。
「そうかぁ……そんなに私の『おしおき』が欲しかったんだね♡」
と言ってサクヤの両手を踏みつけて押さえ込み、好き放題鞭を打ち込んだ。
最初のように10発だけではない。カコが好きな強さで、好きなだけ、好きな場所に打ち込み続けた。
体に残された鞭傷のほとんどは、このようにカコの「お楽しみ」のために付けられたものであった。
カコが鞭で楽しみ終わった後、再び仕切り直してバンザイをさせられる時にサクヤがカコの豊満な胸をちらりと見ると、カコの乳首はピンと勃ち、その存在を主張していた。
これはカコの興奮のサイン。カコは押さえつけた獲物を一方的に鞭で嫐る事を楽しみながら、鞭を振るう度にシャツが乳首に擦れて僅かな刺激が来るのも快楽として味わっていた。
そしてその後も、神経をすり減らしながら必死に自分の言葉のひとつひとつに集中するサクヤを楽しみ続けた。
「ん……」
カコは指先に付いたサクヤの血を、血よりも紅い自分の舌で舐め取り味わった。
「こんなになるまで頑張ったんだもん♡ 良い反応……いや、反射になってきたね」
「は、はい……」
そう。カコが言う通り後半は「おすわり」の声に反応してから土下座していたのではなく、聞こえた瞬間から勝手に体が動いていた。
現に、先程鞭をかわして土下座する事が出来たとき、サクヤは鞭の痛みと疲労で半ば気絶していた。
しかし、体は動いた。カコの『おすわり』に対して脳ではなく脊髄が反応して体を動かしたのだ。
そして土下座の体勢で体を固めるのも、同じく無意識に出来るようになり始めていた。そしてカコの『よし』でその硬直も自然と解けるようになった。
これは完全に『反射』で、熱いものを触ってしまった時に即座に手を離すのと同じ。体を守るために本人の意思とは関係なく動いているのだ。
「もう6時ね。ご飯にしましょうか」
「は、はい!」
サクヤは心から喜びの声を上げた。
ようやくこの地獄のような時間が終わったのだ。思わず力が抜けて床に座り込んでしまった。
しかしゲームが終了した今、その様子をカコが咎めたり罰を与えたりすることはなく、彼女はそのまま冷蔵庫を開けた。
「今日は時間が無いと思ったからこんな物だけどね。お米も炊いてないし。あなたの分もあるからね」
カコはそう言いながら冷蔵庫からコンビニエンスストアで買ったパンやおにぎり、サンドイッチを取り出した。
「私はサンドイッチ。あなたはパンとおにぎりを食べていいわよ」
「ああ……ありがとうございます。ありがとうございます………」
サクヤはカコの見せてくれたパンとおにぎりに心から感謝していた。
地獄の『躾ゲーム』が終わったということを実感でき、さらにカコが少しながら優しい雰囲気に変わったことも嬉しかった。
「ただ、あなたは私の奴隷、ペットだから。私と同じように食べるんじゃなくて……」
カコはそう言うとキッチンの方に歩いていき、まだ袋に入っていた新品のガラスボウルを持ってきた。
「これが今後あなたが食事をする時に使う『お皿』よ。これ以外で食事は与えないからね」
カコはそう言うとパンとおにぎりの封を開け、ガラス製のボウルの中に入れた。
(ああ……なるほど……)
サクヤはカコの言っている意味を理解した。今後、こうやって犬の餌のようにボウルに入れたものを食べさせられるのだ、ということを。
しかし、その予想は大きく大きく外れていた。
「でも、あなたがお腹を壊しちゃいけないから、食べ物は柔らかくしてあげるわ」
突然カコがそう言って短パンとパンツも脱いだのだ。白く長く、均整の取れた肉付きをした脚線美。そして太腿のさらに上には、黒々とした茂み。女性のそこが露わになっているということをサクヤに知らしめる。
「へっ……?」
驚いているサクヤに特に何も言うことなく、カコはそのままボウルに跨った。文句無しの美女であるカコが露わになった股間を突き出しているという、他のシチュエーションであれば男にとって夢のような状況であるが、下に置かれているのはサクヤの今夜の夕食である。
ショオオオオオ…………!
そして力を抜き、股間から薄黄色い液体を勢いよく零し始めた。
「~♪」
「ッ……………!?!?」
あまりの出来事を前に動けないサクヤをよそに、カコは鼻歌を鳴らしながらサクヤの食べ物を入れたボウルに向けて放尿を続けた。
先にボウルに入れられていた哀れなパンとおにぎりはカコの尿を吸収して、柔らかくふやけていった。
「………ふぅ。スッキリした」
「あ……あ……あ……」
カコは衝撃と絶望で動けなくなってしまったサクヤの表情を見て楽しみ、ニコニコと笑った。
「うふふ。完成~♡ カコちゃん特製のお茶漬けならぬ……『おしっこ漬け』!さあ、召し上がれ♡」
「ああ……そんな! そんな! カコ様、ぼく、ぼく、何か、悪いことを……?」
そう、これまでカコの定めたルールに背く度に恐ろしい罰が与えられてきた。サクヤはこれも何かしでかした自分への罰だと思ったのだ。
「ん? 何もしてないでしょ。これは罰じゃないよ。単純にあなたはこれから毎日、私の『おしっこ漬け』を食べるっていうだけよ?」
「ま、毎日……!? あの、えと、どうすれば、やめて、頂けますか!?」
「あら?私の話ちゃんと聞こえた?もう一度言うわよ」
ニヤリと笑い目を細めたカコの唇が、開く。白く美しく整った真珠のような歯の間で、唾液が官能的に短く糸引いた。
「あ・な・た・の・ご・は・ん・は
ぜ・ん・ぶ・わ・た・し・の
お・し・っ・こ・漬・け♡」
カコはハッキリと、ゆっくりと、サクヤにしっかりと分からせるように言った。
この絶望の宣告により、サクヤの心の中の何かが切れた。
カコに飼われるということは覚悟していた。痛い思いをしながら、檻に入れられながら、辛い日々を過ごすのだと覚悟していた。
しかし、心の中で食事だけはきちんとしたものが与えられるだろうと油断していた。
それなのに、カコが自分に突き付けたのは尿に浸された哀れなパンと米。吐き気を催すような汚物。
カコは笑いながら「おしっこ漬け♡」と言い何の遠慮もなくあっさりと放尿したが、そのカコのサディズムを満たすための容易い行為のせいで自分はどれだけの屈辱と苦痛を味わうかは計り知れない。
「ああ、あああああああ!!!」
サクヤは一度カコへの恐怖も忘れ、自分が裸であることも忘れ、声を上げながら玄関に向かって走った。『逃げる』以外の全ての思考が無くなったのだ。
「サク、『おすわり』」
「!?」
カコのその号令を聞いた瞬間、玄関まで逃げたサクヤの両手両足からは突然力が抜け、さらに体が嫌というほどやらされた土下座の体勢に勝手になり始めた。
そして土下座の体勢になった後は体が自然と硬直し、全く動けなくなった。
カコはそれを見て、大きく張り出した胸を強調するように腕を組み、満足気に微笑みを浮かべる。
「ふふ。『躾』の成果は上々。ちゃんと反射で出来るようになったのね」
行動を反応から反射の段階に引き上げるのは非常に難しい。プロのスポーツ選手でも、そのためにはかなりの練習を要する。
しかし、カコがサクヤを3時間でこの状態に出来たように、簡単に『反射』に仕立て上げる方法がある。
「それがこの『鞭』ね。熱いものに触れたら離れる動きをする。同じように、体にとって危険なことを避けるために体は反射で動こうとする。だからこそ、さっきの『躾ゲーム』ではしっかりと鞭を打ち込んであげたのよ」
そう。サクヤの体は既にカコの『おすわり』という声に逆らえば痛みを与えられると認識しており、それを避けるために土下座することまでも『反射』として染み込んでいる。
さらに、土下座の体勢で動くことも出来ない。先程この状態で鞭から避けるためには『動かない』事が正解だと刻みつけられたからだ。
つまり、サクヤはカコに『おすわり』と言われれば、『よし』と言われるまで決して動けない体になってしまったのだった。
「うう、ううううう!!!」
しかしサクヤは必死に体を動かした。とにかく逃げなければ、逃げないとこの女に鞭を打ち込まれ、奉仕を強いられ、「おしっこ漬け」で飼われる生活が待っている。
だから、逃げなければならない。
頭では分かっていても体はなかなか動かない。サクヤは無理やり体を動かして這うように玄関へ向かった。
しかしそんな動きでは、普通に歩くカコから逃れる事は不可能。
「あら、少しは動けるのね。まあ今日は初日だから完璧な反射にはなっていないんでしょうね」
「あう、あ、許し、て……くだ、さい……」
「何をかしら? まあ、何一つ許さないけど。毎日必ずおしっこ漬けも食べさせてあげる。『躾ゲーム』も毎日やるわ。あなたは私の号令一つで一歩も動けない体になるのよ♡」
チュッ
カコはそう言うとサクヤの髪を掴んで無理やり顔を上げさせ、涙を流すサクヤの頬に軽くキスをした。
サクヤは涙で歪んだ視界で、カコの唇が自分の顔に近づいてくるのを見た。そのキスは親子や恋人が愛情を持ってするものではなく、草食動物が肉食獣に捕食される直前に見るものに近いような気がした。
「~♪」
そしてカコはサクヤの髪を掴んだまま、今後の調教に思いを馳せた楽しそうな鼻歌混じりにサクヤをリビングルームへと引きずり戻したのだった。
「さて、まずは……ビデね」
「………?」
リビングルームへ引きずり戻されたサクヤは、床に倒れ込んだまま震えながらカコを見上げていた。
『ビデ』とはなんなのか。また恐ろしい拷問だろうか。逃亡に失敗したというだけならまだしも、自分の肉体が内側から奴隷に作り替えられ始めている恐怖を実感させられて、頭がうまく働かなかった。
「さっき私、おしっこしたでしょう? 女子はおしっこした後、拭かなきゃいけないよね?」
カコはそう言いながら、サクヤの口に結んである猿轡を解き始めた。
「ぷは……は、はい」
口が自由になったサクヤは、喘ぐように呼吸しつつもとりあえず返事をする。なるべくカコの機嫌を損ねないように行動するのが基本であると思い知りつつあった。
「でさ、普通の女子はトイレットペーパーで拭くんだけど、お股を綺麗に拭くのって難しいじゃん? それに強く拭くと痛いし。もっと柔らかくて、暖かくて、自動で動いてくれるものがお股を拭いてくれたらいいと思わない?」
「は、はい。そうだと思います……」
サクヤはカコの言葉を肯定した。逆らいたくないという思いもあるが、久しぶりに普通に納得出来る言葉がカコから発せられたのも事実だった。
「ん~、でもそんな便利なもの、どこにあるかな? どこにあると思う?」
「へ? あ、えと、わか、分かりません……」
サクヤは唐突に疑問を投げかけられ、困ってしまった。カコが話をどう着地させようとしているのか想像できない。
しかしカコはそんなサクヤの様子を気にもかけず、突然わざとらしく声をあげた。
「あっ! み~つけた! ここにあった!」
「へ? あの、えと、どこに……?」
「あるじゃん、ほら、ここに!」
「へ……?」
カコはニッコリと笑い、素早くサクヤの口の中に手を突っ込むと、舌を親指と人差し指で挟んで外へ引っ張り出した。
「こ~こ! あなたの舌なら、暖かくて、柔らかくて、自動で動くよね♡」
「は、はひ……?」
「うふふ。まあ茶番はここまで。今後、私がおしっこをしたらあなたは毎回必ず、私のアソコについた尿を舌で舐め取りなさい」
カコはサクヤの舌を指で摘んだまま、整った口元を残酷に歪めてそう言った。
「あと、これは私が拭くためにやらせるというのもあるけど、あなたにとっては『感謝の儀式』でもあるのよ」
「か、感謝……?」
「ええ。これから私のおしっこをあなたは毎日飲んだり、食べ物にかけられたりするわけだけど、私に飲み物も食べ物も与えられなかったらあなたは困るよね?」
「………は、はい」
サクヤはカコの口ぶりから、これから自分が事あるごとにカコの尿を口にさせられると思い知らされ、少し沈んだ表情で返事をした。
「そう。だからあなたの食べ物や飲み物をおしっこ……いや、あなたには『聖水』と呼ばせましょうか。『聖水』で清めてくれる私のアソコに毎回感謝するべきでしょ?」
「あ、あの、僕、別に清めてほしくは……」
パァン!!
「うぐうっ!!!」
カコはサクヤの顔に強烈なビンタを入れた。サクヤの頬にはカコの手形の真っ赤な紅葉が残された。
「女王様の言葉に対して、奴隷は『はい』以外答えない。言ったよね?」
カコは少し苛立った表情でサクヤの髪を掴み、凄んだ。
「は、はい……! ごめ、ごめんなさ、い………」
「ま、飲食物を毎日聖水で清めてくれる私のアソコはあなたにとっては聖なる泉。しっかりと舐めて綺麗にするのが奴隷の礼儀、というわけ」
「はい………」
「じゃ、さっそくやってもらいましょうか」
カコはそう言うと椅子に座り、脚を開いて腰を前に突き出した。扇情的でもあるその格好を恥じらう様子は全くない。カコはこれまでの調教経験から、『奴隷の舌は自分の股間を拭くためのものに過ぎない』と心の底から思っているからだ。
そこに恥じらいはもちろん、愛情などあるはずもない。奴隷の舌はトイレットペーパー。それだけだ。
「あ、あう、あ、あ………」
サクヤは小さく震えながら、恐る恐るカコの股間に顔を近づけた。
サクヤの心中にはふたつの思いがあった。ひとつは尿を舐めさせられるという屈辱。そしてもうひとつは——
(初めて……だ……)
そう。サクヤが女性の陰部を目にするのは、これが初めてだった。そのため、散々鞭を打ち込まれ、肛門を舐めさせられ、食べ物に尿をかけられた、憎く恐ろしい相手であるカコのものだとしても、男としての興奮と興味が隠しきれなかった。
カコの陰部は黒々とした茂みに覆われており、その奥には呼吸に合わせて微かにひくひくと動く水棲生物のような割れ目があった。かさぶたに似た色の襞がサクヤの舌を待ち構えるように門を形作り、その奥には粘液で光沢を持った肉の洞窟がある。
「早くしなさい」
「は、はい……」
陰部に見蕩れていたサクヤは我に返り、今からここに付いた残尿を舐めなければならないということを思い出した。
「ン、ンン……」
サクヤは口から舌を出し、思い切って目の前のものに近づけた。
(うっ……)
顔を近づける途中で、ブルーチーズのような強烈な臭い、そして尿特有のツンとした臭いも鼻腔を突いた。
ペロ………
「オエッ……」
カコに聞かれないよう、サクヤは小さくえずいた。そこの味は最悪だった。中心の割れ目のような所に舌を当てたが、小便の塩辛さと膣特有の生臭さを濃縮させたような味がした。
「う、うううう……」
しかし、ここでやめるわけにはいかない。ここで逃げ出したらカコからどんな罰が下るか分からない。
ペロッ、ペロッ………
「うげ、うううう………」
「そうそう。あなたのご飯を聖水で清めてくれた泉よ。しっかり綺麗にしなさい♡」
遥か頭上から、カコがクスクスと笑う声が聞こえてくる。
サクヤが見上げるとカコの顔の下半分はカコの巨乳に隠れて見えなかったが、自分を馬鹿にするように笑みの形に細められた目はしっかりと見えた。アイシャドウのラメか、長いまつ毛は黒曜石のように輝いて映る。女神のように美しい顔と、恐ろしい怪物の口のような性器が、ひとつの体の上と下にあることがサクヤには信じられなかった。
「うぐ、うぐううう……」
れろれろ、ぴちゃぴちゃ……
サクヤはなるべく味わわなくて済むように、とにかく舌先でカコの陰部を舐め続けた。
「感謝の言葉は? あと、その舐め方じゃ綺麗にならないからしっかりと吸い付きなさい」
(す、吸う……? ここを……?)
肛門とは違い、嫌な湿り気と生臭さが強い女性器に口をつけて吸うのはかなりの抵抗があった。
しかし、恐る恐る見上げた先にあったカコの目にはサクヤを許す気配は微塵もなく、サクヤは諦めて口をつけるしかなかった。
(うふふ。可愛い♡)
カコは自分を見上げる奴隷の上目遣いが好きだった。下から見上げられるなんとも言えない優越感。自分の舌をトイレットペーパー代わりにさせられている奴隷の悲壮な目が楽しい。
さらに、サクヤの小動物的な可愛らしい顔も相まって。カコのサディズムは程よく擽られる。
やはり弱者を甚振り、強者である自分に奉仕を強いるのは最高の気分になれる。
カコは口元に笑みを浮かべたまま、ピンと勃つ自分の乳首を人差し指で優しく撫でた。
ピチャ、ヌチュ……ちゅうううう………
「うふふ。そうそう。あなたに恵んだ聖水、全部吸い出しちゃいなさい♡」
「は、はい……」
サクヤは意を決して口をつけ、カコの陰部を吸い始めた。
口の中に残尿に加えて少しずつ溢れ始めたカコの愛液が流れ込み、舌に嫌な味が広がりぴりぴりとした痺れを感じた。
しかしこの嫌悪感に従って口を離せば、カコの鞭が容赦なく降り注ぐということは理解している。
「ほら、感謝の言葉は?」
「あ、ごめ、ごめんなさい! あ、ありがとう、ございます……」
れろれろ、ちゅううう……
サクヤは必死にカコの陰部に舌を這わせながら、言いたくもない『感謝の言葉』を考え始めた。
「ぼ、僕の、ご飯に、おしっこをしてくれて……ありがとうございます……!」
サクヤは言いながら、少し涙をこぼしてしまった。何故、自分のご飯に排尿されて、感謝しなければならないのか。しかも、その小便に汚れた穴を舐めさせられながら。
しかし、舌を止めるわけにはいかない。感謝の言葉が終わったらすぐに陰部に口をつけ、尿の舐め取りを再開しなけれぼならない。
ペロ、ペロ……ヌチュ、ヌチュ……
「おしっこ? 違うでしょう? 私にとってはただの尿だけど、奴隷のあなたにとっては何だっけ?」
「ああ、ごめんなさい! ごめんなさい! せ、聖水を……聖水を出してくれてありがとうございます……!」
「あはは。そうそう。奴隷にとって女王様のおしっこは聖水。聖なる水であなたのご飯を清めてあげたのよ?」
「あ、あ、ありがとう、ございます……聖水で、清めて、いた、グスッ、いただき…」
サクヤは視界の端に入っているガラスボウルに目をやった。
カコの尿によって膨らみ、グズグズに崩れかけたパンとおにぎり。
普通に食べることが出来ればどれほど嬉しかったか。しかし、この悪魔のような女はそれを許さず、まるでサクヤの命そのものを弄ぶかのようにボウルに跨り放尿をした。
さらにはそのことについて感謝しろ、と自分の陰部を舐めさせている。
しかし逆らうことは出来ない。相手は女であるが、男の自分が襲いかかっても勝てないということは初日に嫌というほど思い知らされた。
鞭で滅多打ちにされ、肛門を舐めさせられながら降参させられた記憶は、サクヤがカコに歯向かう意思を完全に奪っていた。カコの『牙抜き』が完全にサクヤの心を折ったのだ。
「うぐ、う、グスッ、ううう……」
ペロッ、ペロッ、レロレロ……ちゅ、ちゅううう……!
サクヤはこのあまりにも惨めな状況が悔しく、泣き出してしまうほどであったが、カコに媚びるように女性器に舌を這わせるのが止まらない。
「ほら、食べ物を作ってくれた人にはなんて言うの?」
さらにはカコの機嫌を少しでも損ねないように、と感謝の言葉を考えて口にしてしまう。
「か、カコ様、おしっこ漬け、を……作ってくれて、ありがとうございます……い、いただきます……いただきます……」
レロレロ、チュウウウ………
サクヤの『ビデ』はカコの気が済むまで行われた。
「……ん、もういいわ。『仕上げ』をしなさい」
サクヤは一瞬なんのことか分からなかったが、すぐに思い出すと、『躾ゲーム』の前に外されたボトルを四つん這いで取りに行き、色つきのボトルを口に含み口内を消毒した。
そして口内に柑橘系の強い香りが漂うようになってから、カコの陰部に再び舌を這わせた。
「全体を撫でるように2、3回舐めたら、舌を中に入れて少し回しなさい」
「はい……」
サクヤが言われた通りにすると、当初カコの陰部に漂っていた生臭さと自分の唾液の臭いはほとんど消え失せ、消毒液の匂いと柑橘系の匂いだけが残った。
「ん。これが『ビデ』よ。覚えておきなさい」
「はい………」
「さて、と。あなたがモタモタしてるからすっかり冷めちゃったけど……召し上がれ。私のお・し・っ・こ・漬・け♡」
「あう、あ、あああ……」
サクヤはカコが作った『おしっこ漬け』の器を前に正座させられていた。
「さて、きちんといただきますも出来たし……食べていいわよ」
「うう、うううう……」
カコに言われてサクヤは『おしっこ漬け』に視線を向けたが、到底それを「食べ物」とは認識出来なかった。
カコがボウルに跨り放尿した直後は米やパンが尿に浮いていたが、サクヤがカコの股間に顔を埋める屈辱的な『ビデ』をさせられ残尿を舐めている間に米とパンはすっかり尿を吸って膨らみ、水分はほとんど無くなっていた。
(うふふ♡)
カコはその『おしっこ漬け』とサクヤの絶望の表情を交互に見て笑った。
食べ物に尿をかけられた時に最も食べやすい方法は、かけられた直後に尿だけを急いで飲んでしまうことだ。そうすれば、多少尿の味が混ざっているにしても、まだ本来の味を残した食べ物を食べることが出来る。
しかし、時間を空ければ空けるほど食べ物は尿を奥まで浸透させてしまい、尿の味と臭いが濃いものを食べることになる。
だから時間を空けてしまうとこのおしっこ漬けは食べるのが辛くなるのだ。
カコはこれまでの調教でそれを知っていた。だからこそ毎回『ビデ』をやらせるのだ。
時間を空ければ辛い、ということを理解した奴隷は早く食べようと急ぐ。しかしカコはそれを許さない。
おしっこ漬けを最大限味わわせるために、わざと『ビデ』の時間を長く取る。
慌てた奴隷は必死に股間を舐めてくるが、仮に残尿が完全に舐め取られてもカコはゆっくりと、ボウルの食べ物が自分の尿を吸って膨らんでいくのを眺めながら奴隷に女性器を舐めさせ続けた。
そして散々舐めさせられた後に許しが出た奴隷が振り向き、完全に尿を吸収してしまった食べ物を見た時の反応を楽しむのだ。
しかし、これまでの調教の場合は相手も筋金入りのマゾヒストたちであった。
カコの調教に耐えきれない者も中にはいたが、基本的にはカコに服従することを望み自ら連絡してきた者たち。初めからある程度は耐性を備えていた。
しかし、サクヤはカンニングで脅されて無理やり捕まったマゾヒストでもない普通の男。
その普通の男が、女の尿をたっぷりと吸い込んだ汚物を今から食べさせられると理解した時の『本物の』絶望の表情は、サディストのカコにとって最高の娯楽となった。
「あら? そんなに固まってないで、食べていいのよ? 女王様があなたのために食べ物を聖水で清めてあげたのよ?」
カコはニヤニヤと笑いながらサクヤに言った。
「さっき、あなたも『清めてくれてありがとうございます~!』って私のお股をペロペロしてたじゃん♡」
「あう、あ、あの、あ……」
嫌だ。食べたくない。こんなものを食べるのなら餓死した方がいい。
しかし、そんなことを言えばどうなるかは分かっている。また鞭で地獄を見せられるに決まっている。
「ん~、最初は難しいか。じゃあ手伝ってあげる!」
「へ……?」
「もちろん……」
ヒュオンッ!
カコの鞭が空を切る音がした。
ビシイイイイイイイン!!!!
「ふぎゃあああああああああああ!!!」
カコはサクヤの背中に鞭を振り下ろした。
「これでね♡ あなたが食べるのをやめたら打ち込んであげる。そうしたら食べ続けられるでしょう?」
「あ、ああ、もう、鞭は、うう……」
サクヤは言いたいことが言葉にならない。
尿に浸された食べ物を食べさせ、その上遅かったら鞭を打ち込むというあまりに酷いカコの行為に文句を言いたいが、そんなことを言えるわけがない。言っても鞭の回数が増えるだけ。
「10秒待ってあげる。その間に口に入れなさい。口に入れたら次は15秒。その間に噛んで飲み込みなさい。本当は咀嚼は30秒って言われてるけど、私が柔らかくしてあげたから15秒でも大丈夫♡ 飲み込んだらまた10秒。10,15,10,15の繰り返しね」
「は、はい………」
サクヤは涙を流しながらそのルールを承諾した。到底受け入れたくない話だが、先程の一撃が既にサクヤの体と心を怯えさせていた。
「10,9,8……」
美しい悪魔がカウントダウンを始めた。
サクヤはボウルの中の尿を吸ったパンに手を伸ばした。
ビシイッ!!!
「うぎいっ!!」
サクヤが伸ばした手に、突然鞭が打ち据えられた。
それは剣道で言う「小手」。正確にサクヤの右手首をカコは鞭で打ち込んだ。
「私の奴隷は食事で手を使うの禁止。口で直接食べなさい」
「はい……」
初耳のルールなのに、それを止める時さえ鞭が打ち込まれる。サクヤはその理不尽を噛み締めながら、カコのカウントダウンが再開されたのを聞いて慌てて口をボウルに近づけた。
「ウッ……!!!」
顔を『おしっこ漬け』に近づけると、まるで尿が発酵してしまったかのようなツンとした刺激臭がサクヤの鼻をついた。
(だ、だめだ、こんなもの、とても食べられない!)
「3,2,1……」
「あ、ああ! カコ様! ちょっと待って……」
「ゼロ♡」
ビシイイイイイイン!!!!
カウントがゼロになった瞬間、カコは容赦なくサクヤの脇腹を鞭で打った。
「ひぎいいいいいいいいい!!!」
全身に響くような激痛。サクヤはあまりの痛みに一瞬意識が飛びそうになってしまった。
「待たないよ。10,9,8,7……」
「ああ、ああああ!」
サクヤの懇願は一蹴され、また絶望のカウントダウンが再開した。
「う、ううううう!」
サクヤは慌てて、再びおしっこ漬けに顔を近づけた。
「ウウッ!」
先ほどと同じ。鼻を切り裂くような刺激臭。しかし、口に入れなければまた鞭が待っている。
ヌチッ……!
サクヤは意を決して尿を吸ったパンを齧り、口に入れた。
「ンムウウウウウウ!!!」
口の中で広がる尿の味。ふやけたパンの気持ち悪い食感。目を白黒させてしまうような吐き気がサクヤを襲った。
「11,10,9……」
しかし、サクヤがそんなことをしている間もカウントダウンは進んでいる。
(は、早く早く! 飲み込まないと! 飲み込まないと!)
噛むことは出来ない。噛んだりしたらパンから尿が染み出してきて吐き気が限界になると思ったからだ。
サクヤはそれを直接飲み込もうと喉を開いた。既にカウントは5秒を切っている。
「ン、ング………ゴフッ、ンムッ!」
ゴク……ッ!
サクヤは喉を限界まで開き、そして力を入れて何とかそれを飲み込もうとした。しかし
「フグッ…………!!!」
喉の途中でそれは詰まってしまい、サクヤは呼吸を遮られた。
「アッ……カハッ……」
「あらあら、噛まずに飲み込むからそうなるのよ」
カコは尿に浸されたパンを喉に詰まらせる惨めなサクヤを見てクスクスと笑った。
(い、嫌だ! 死にたくない!)
女の尿が染み込んだ食べ物を食わされ、それに殺される。それだけは嫌だ。
「ン、ングっ、アッ……」
ゴクンッ!!!
「はぁー、はぁー! はぁー!」
サクヤは一瞬呼吸を止めたものの、なんとかそれを飲み込むことが出来た。仮に餅であれば死んでいた。ふやけたパンだったから助かったのだ。
「危なかったね~。私がおしっこで柔らかくしてあげてたから助かったのよ? ほら、なんて言うの?」
「ア、アリガトウ、ゴザイマス……」
そもそもこれを食わせているのもカコであり、さらに鞭で脅して急かしているから起こったことなのであるが、サクヤはそれに反論する気力などある訳がなく、素直に礼を言うことしか出来なかった。
「じゃ、再開。10,9……」
「う、うううう……」
グチャッ!
サクヤは次は尿でふやけた米を口に入れた。
そして
ヌッチャ、ニッチャ、グッチャ……
「オエエエエ………ウエエエエ………」
それを咀嚼し始めた。もう喉に詰まらせたくない一心で。
口の中にカコの尿のえぐ味とアンモニア臭が染み出して広がる。最悪の気分だった。
「あはは! そうそう。ちゃーんと噛んで食べるのよ♡」
カコはサクヤがきちんとよく咀嚼して食べ始めたのを見て、ケラケラと楽しそうに笑った。
通常の生活において、尿をかけた食べ物を食べる必要などない。ましてや、他人に食べさせる必要など尚更だ。
では何故カコはこんなことを強制し、サクヤは強制されているのか?
理由は単純。『カコが楽しいから』。
カコはサディストとして男を惨めに虐めるのがたまらなく好きなのだ。だからこそ、こんな残酷な行為を強いる。
つまり、100%カコの娯楽として行われる行為。この食事だけでない。
檻を使った監禁。あらゆる持ち物を取り上げ、貞操帯を付けさせてサクヤの権利という権利を根こそぎ奪う完全管理。鞭での折檻。全て、カコが楽しいから。カコのサディズムを満たすためだけに行われている。
(あー楽しい! 生活が潤うのを感じるね♡)
一言で纏めてしまえば、『趣味』。カコは奴隷を飼っていたぶるのを趣味にしている。
ゲームをするのと同じ。旅行に行くのと同じ。これはカコにとって、ただの趣味なのだ。
生活において必ずしも必要ではなく、生活を豊かにするための娯楽。
サクヤはカコのただの娯楽により簡単に人権を奪われ、こんな目に遭わされる。それがこれから先、サクヤにとっては永遠とも思える長い期間続くのだ。
(あーあ、明日は何の実験をしようかしら?)
カコはふと、明日自分が大学でどんな研究をしようか思いを馳せた。
今は8月。そろそろ自分の修士論文について考えなければならない時期だ。
「4,3,2,1……ほら、噛むのが止まってる!」
ビシイイイイイイイイン!!!
「ふぐううううううううう!!!」
カコは15秒以内に尿に浸されたパンを飲み込めなかったサクヤを鞭打った。
サクヤにとっては今、この世界が全て。檻で飼われ、カコに鞭打たれ、おしっこ漬けと呼ぶ汚物を食わされているこの世界がサクヤの100%だ。
現在サクヤは生活の100%を『カコの奴隷』にされたのだ。
しかしカコは違う。ここまで徹底的な調教を行いながらも所詮は『趣味』。
比率で言えば、大学院生としての研究生活が70%程度。そして女子として研究室の仲間や友人とカフェに言ったり遊んだりする生活が20%で、女王様としてのストレス解消は人生の10%程であると捉えていた。
つまり、サクヤはカコの生活のたった10%を充実させるために100%を奪われたのだ。
あまりにも理不尽、かつ不公平な関係。しかし、それこそが松田カコという人物なのだ。
「ふう、あとは自分で食べられるよね?」
カコの『おしっこ漬け』をサクヤが鞭で打たれながら半分ほど食べさせられた頃、カコはカウントダウンを止めてそう言った。
「うぷ、うう、はい………」
サクヤは躾ゲームでも散々鞭を打ち込まれ、さらにおしっこ漬けを食べさせられているときも何度も鞭を打ち込まれた痛みと強烈な吐き気のせいで意識が朦朧としていたが、とにかく『はい』とだけ返事はした。
「ん。じゃあ後は一人で食べなさい。私はシャワーに行ってくるから」
「……はい」
サクヤはさらなるカコの言葉を聞き、自分がこの地獄から取り敢えず開放されたことを理解した。
ひたすら食べ進めなければならなくなる、恐ろしかったカウントダウンはひとまず終了。あとは自分のペースで食べて良いのだ。
(……あれ?)
サクヤは気づいた。確かにカコはシャワーに行くと言った。
(と、いうことは……)
自分が一瞬だけ自由になれるということ。それならば、今食べさせられている『おしっこ漬け』……この汚物を全てトイレにでも流してしまえば良いのではないだろうか。
(いや、違う!逃げればいいんだ!ドアから出て、どこにでも!)
サクヤの脳内でカコの言葉から様々な希望が生まれた。
しかし、カコがその程度を想定しないわけが無いのだ。
「サク、ハウス」
「へ……?」
「聞こえなかったの?ハウスよ。ハ・ウ・ス」
カコの『ハウス』は『檻に入れ』という意味だ。
(ああ、ダメだ。檻に入れられたら……)
逃げ出すことはおろか、この憎い汚物をトイレに流すことさえ出来ない。
ビシィ!!!
「ふぎゃあ!!」
カコから鞭が振り下ろされた。
「聞こえてるでしょ。ハウス」
「は……い……」
サクヤは全ての希望を簡単に奪われ、すごすごと檻の中に入れられた。
「はい。これも一緒にね♡」
ゴトン!
カコは自分で作った『おしっこ漬け』が入ったボウルをサクヤの檻の中に入れた。
「明日の朝までに食べておきなさい。今夜はもう出さないから。食べ終わってなかったらおしおきするからね」
「え………?」
ガチャ、ガチャン!
サクヤの返事を待つことも、リアクションを見ることも無くカコは檻の鍵を閉め、リビングルームの扉を閉めて出ていった。
しばらくするとシャワーの音が聞こえてきた。
「あ……う………」
檻の中に残された自分と、この汚物。朝まで檻から出られない。またこれを朝までに食べなければならない、という現実だけがサクヤの元に残った。
「う、うううう………」
目の前からカコがいなくなると、辛い現実だけが残る。
明日からはどうなるのか。自分はこれからどうすれば良いのか。明日からも延々とカコに嫐られるだけの日々が続くのか。
「う、うううう、ううううう……」
サクヤは泣きながらカコの尿に浸された米を口に入れた。
グッチャ、ニッチャ、グッチャ……
「おえ、おええええ………」
不味い。気持ち悪い。吐き出したい。しかし、吐いた跡などが檻の中にあればカコは自分を容赦なく鞭で折檻する。
結局、大人しく食べる他ないのだ。
途中でカコがシャワーから上がったが、サクヤの方には一瞥もせずに歯を磨き、髪を乾かし、化粧水を顔に付けたら電気を落とし、眠り始めた。
既に眠くなったカコは完全にサクヤに興味を失っているのだ。
サクヤは先程までのサディズムが昂ったカコとは違う事に気付き、声をあげた。
「あ、あの!カコ様!!お、お願いがあります!」
今なら。S女としてサクヤを嫐っている最中のカコはいくら懇願しても話を聞いてくれなかったが、スイッチが切れたようにサクヤに興味を失っている今なら話を聞いてくれるかもしれない。
「うるさい!!」
「ッ!!」
性欲を睡眠欲が上回った現在、カコにとってサクヤは邪魔な存在。
先程までは散々いじめ遊んだ相手だが、眠くなった今は口を効くことさえも許さない。
「…………ッ」
カコに怒鳴られたサクヤは、これ以上声をあげれば檻から引きずり出されて死ぬまで鞭を打ち込まれる。そう思った。
サクヤの判断は正しかった。また声をあげてカコの睡眠を邪魔しようものなら、カコは先程までのように楽しみながらサクヤを「おしおき」するのではなく、単純に黙らせる目的で一言も話せなくなるまで痛めつけただろう。
「うう、うううう………」
サクヤは泣き声がカコに聞こえないように気をつけながら、ガラスボウルに顔を入れてカコに与えられた唯一の食糧である「おしっこ漬け」を静かに食べ始めた。
カコは既に眠ってしまったが、自分はこれを朝までに完食する義務がある。
「うぷ、ううう、グスッ、ううううう………」
クチャ、ぐちゃ、ニチャ、ヌチャ……
サクヤがすすり泣きながらおしっこ漬けを食べる小さな音が、カコの部屋の中に深夜まで響いたのだった。
朝。7時丁度にカコのスマートフォンのアラームが鳴った。
「ふあぁ……」
カコは軽く伸びをしてから起き、檻の方をチラリと見た。
すると檻の中には気絶したように眠っているサクヤの姿。
(ああ、そうだ。この子を捕まえたんだっけ)
カコは昨日たっぷりとサディズムを満たして楽しんだ事を思い出し、小さく笑った。
カコにとってSMは生活の10%程度のただの趣味。だが、趣味は本気でやるから楽しいのだ。
そしてその10%を本気で楽しむ為の生贄とされたサクヤは哀れという他無かった。
「ほうら、いつまで寝てるの。起きなさい」
「ン……うう……」
サクヤは少し唸ってから目を覚ました。
「あ、ああああ………」
「おはよ♡よく眠れたかしら?」
目覚めたサクヤの視界に最初に入ったのはカコ。
そして全身に酷い痛みを感じた。
サクヤの体は鞭傷が酷かった。昨晩自分で消毒したのか、化膿したりはしていなかったが青黒く腫れ上がったり、出血していた場所はカサブタになったりしており非常に痛々しかった。
鞭の傷は翌日も痛むのだ。打たれたその日よりも、興奮状態が治まった翌朝の方が傷の痛みは強い。
サクヤはカコの顔を鉄格子越しに見て、さらに全身に鋭い痛みを感じて完全に思い出した。
(ああ、僕は……この人に飼われ始めたんだ……)
「うう、う、うううう………」
サクヤは泣き始めてしまった。
夢なら、どれほど良かったことか。しかしここは現実。自分はこの悪魔の様な女に監禁されているのだ。
「あらあら、泣くことないじゃん」
カコはそう言いながらも、現実に絶望して泣き始めたサクヤの表情を見て舌舐めずりした。
(楽しい…♡)
そう。楽しいのだ。目の前で、現実に絶望して泣いている可愛い奴隷がいる。
その奴隷に絶望を与えたのは自分。相手の人生を完全に縛り、湧き上がるサディズムの捌け口にする。
今までは歳上のM男達や、小説作品を書くことで発散していたこの感情。
本物の奴隷を監禁してそれを発散することが本当に楽しい。
「私の作ってあげたご飯はちゃんと食べたのかな~?」
カコはそう言うとベッドから立ち上がり、サクヤの檻の中を覗き込んだ。
「は、はい。全部食べました!だから、檻から出してください!」
「あれ?まだ残ってんじゃん」
サクヤの言葉を無視し、ガラスボウルを覗き込むとそこには尿を吸った米粒やパンくずがボウルの側壁にいくつか付いていた。
「え、あの……た、食べました……けど……」
そう。サクヤは深夜まで必死に吐き気を抑えながらそれを食べ続けた。
「だから、周りに残ってるでしょ。私ご飯粒とか残す人嫌いなんだよね。それにあなたのそれは今後一回も洗わないから毎回ピカピカに舐めて磨きなさい。私が良いと思うまで出さないから」
「あう、あ、あああ……」
サクヤはさらに涙を流し、ボウルを手に取った。
「綺麗にしておきなさい。私は朝ご飯の用意をするから」
カコはそう言うとキッチンへ行き、食パンを4枚手に取りオーブンレンジに入れた。
そしてタイマーをセットして戻ってくると、檻の中でサクヤが必死にボウルを舐めていた。
「あら、やれば出来るじゃない」
「か、カコ様、終わりました。なので、檻から出して……あ、あのトイレに、行かせてください……」
そう。サクヤはもう限界だった。夜中にカコのおしっこ漬けを食べる時に口の中の嫌な味を薄めるために何度も何度も水を飲んだのだ。
その事は檻に付けてあるペット用の給水器の水の減り具合を見てカコも知っていた。
「へえ。トイレはいいけど…食べ終わったらなんて言うの?」
「あ、ああ!ごめんなさい……か、カコ様……ごちそう、さま、でした……」
サクヤは檻の中で土下座しながら言った。
「ん。ちゃんと人としてのマナーは守ろうね」
「カコ様、本当に申し訳ございませんでした……あの、と、トイレに行きたいので……鍵を……」
「それよりあなた、まだおはようの挨拶してないよね?」
「あああ、ごめんなさい!おはようございます!おはようございます!」
サクヤは慌てて再び土下座した。とにかく、早く出して欲しい。その一心で必死に頭を下げた。
「ふふ、一晩共にした男女のおはようの挨拶なんて決まってるでしょう?」
「………?」
サクヤは本気で分からなかった。サクヤは女子と一晩共にした経験など無いからだ。檻に入れられた状態を「共にした」というのかは分からないが。
「キスよ。キス。男女の朝はおはようのキスで始まるの♡」
「あ、ああ、分かりました……そ、それなら檻を開けてください……」
サクヤはカコとキスする為には一度外な出なければ、と思いそう言った。
「ふふ。この檻はこんな便利なものがあるのよ」
しかし、カコは檻の鍵に手を伸ばすことはなくサクヤが入っている檻の屋根に付いている取っ手を掴み、上に引いた。
カパッ……
カコが取っ手を引くと、檻の屋根が外れて直径40センチほどの穴が空いた。
「ふふっ。多分大型犬に餌をあげるための穴なんだろうけど、本当に丁度良いよね」
カコは外した蓋を檻の屋根の上に置き、履いていた短パンとパンツを脱いだ。
「………?」
サクヤはカコに『キス』とはどういうものなのかを一度教えられている。しかしあまりにも常識と乖離しているせいか、それとも美人の唇に接吻する期待を忘れられないのか、またもや勘違いをしていた。
「よいしょっ……と」
カコは檻の屋根に手をつき、腰を上げた。そして蓋を外して屋根に空いた丸い穴の上に尻が来るように座った。
「へ……?」
サクヤから見れば、突如天井に空いた丸い穴と、そこに現れた白い双球。そしてすぐにその双球は左右に割れ始めてその中心に茶色い菊の花の様な、カコの肛門が現れた。
「はい。おはようのキスね」
クスクスという含み笑いと共にカコの命令が下った。
「あなたが出るのは、ここにしっかりと私が満足するまで『おはようのキス』をしてからよ♡」
「うう、うううう………」
サクヤはトイレがかなり近い上に、既にこの狭い檻の中に居続けることが精神的に限界を迎えていた。
一刻も早く出て安心を得たいのに、カコにそんな命令をされて足止めされるのが歯がゆくて仕方がない。
しかし、迷っている時間はない。
早く終わらせる為にも、すぐ始めなければ。
「あ、先に口の消毒ね。あなたの口、おしっこついてて汚いでしょ。もちろん仕上げの前も消毒ね」
「く……」
その尿を食べ物にかけて無理やり食べさせたのは誰だ。とサクヤは怒りたい気持ちを抑え、口腔消毒液を口に含んで濯いだ。
そして、カコの肛門に顔を近づける。
「う……」
先日よりはマシだが、まだ少し臭う。
だが、ここで反抗したりしたらこのままカコが出かけてしまうことさえ有りうる。
ペロ、ペロ、ペロ……
「あは♡」
サクヤは固く目を瞑り、カコの肛門を舐め始めた。
「ほらあ、ただ舐めるだけじゃないでしょ。挨拶は?それに『キス』よ。ちゃんと唇も使いなさい」
「は、はい。お、おはようございます、カコ様……」
ペロペロ……チュッ、チュッ……
サクヤはカコの肛門を舐め、唇を付けて吸い付き、離れてを繰り返し始めた。
「あはは!そうそう。ちゃーんと女王様にキスしながらおはようの挨拶をするのよ♡」
カコは心底楽しそうに笑い、サクヤの舌と唇を肛門で味わった。
屈辱。この行為にはその二文字しかない。
人体の最も汚れている部位である肛門に、最も衛生に気を使うべき部位である口を付けさせられる。あまりにおぞましく、心を踏み躙られるような行為。
「うふふ。これからずっと、これがあなたの朝の日課になるのよ。あなたは毎朝、私の肛門にキスしてから朝が始まるの。素敵でしょう?」
「うう、うううう………」
素敵なわけがない。毎朝こんなおぞましい行為からスタートする日常。考えただけでも気持ちが悪くなる。
チュパ、チュパ……チュウウウ……
「ん♡そうそう、いい感じ」
カコは肛門を舐めさせるのが好きだった。
ここを舐めさせるということは相手を完全に『下』に置くということ。これ以上分かりやすいマウンティングはないだろう。
土下座して平伏させるよりも遥かに優越感を感じることができる。
毎朝奴隷に肛門へのキスを強いて自分よりも遥か下に奴隷がいることを実感する。これ程気持ちの良い朝はない。
「うん。もういいよ」
時間にして10分。カコがそう言うとようやくサクヤは舌をカコの肛門から離すことが出来た。
(うう、口が気持ち悪い……)
サクヤの口内は、最初は柑橘系の匂いがついた消毒液の味であったが今は完全にカコの肛門の味。口内にあった柑橘系の香りは全てカコの肛門に吸収された様な気がする。
サクヤは口内の気持ち悪さを排除するため、口に先程も使った消毒液を含もうとした。
「何してるの?」
上から、カコの声が聞こえた。
「あ、あの、口の消毒を……」
「必要ない。それは私の体をあなたの口で汚さないための物よ。あなたの口を洗うものではないわ」
「う……は、はい、分かりました」
つまり、カコはサクヤの口に残った尿やその他食べさせた物が自分の体に付くのは嫌うが、サクヤの口に残ったカコの肛門の味や尿の味を洗い落とす事は許さないという事だ。
「女王様の神聖な体から出たものよ。口の中に残った味もしっかりと味わいなさい」
「は、はい………」
カコはそう言うとサクヤの檻の鍵を開け、サクヤにトイレの許可を出した。
サクヤがトイレから戻るとカコは妙な物を持っていた。
水を瓶やペットボトル等に流し込むための漏斗に見えるが、その口は円形ではなくいびつな楕円形だった。
「サク。あなたのペットボトルを持ってきなさい」
「は、はい」
サクヤはよく分からないと思いながらも、四つん這いで立ち上がらないように気をつけながら、自分の檻に付いているペット用の給水器からペットボトルを取り外した。
昨夜、おしっこ漬けを食べさせられている時に口内を洗ったり喉に流し込むためにたくさん水を飲んだ為、既に中身の水はほとんど無い。
「カコ様、取り外しました……」
「うん」
カコは軽く返事を返すとそのペットボトルを受け取り、持っていた漏斗をペットボトルの口に差し込んだ。
そして、先程肛門を舐めさせた後に履いたパンツを再び脱いで下半身を露出させた。
「へ……?」
サクヤは意味が分からなかった。パンツを脱いだという事は、またおしっこ漬けを作るのだろうか。
しかし、おしっこ漬けを作るためのボウルはまだ檻の中にある。
カコが持っているペットボトルは、綺麗な水を入れる為の物だ。その水があったからこそ、おしっこ漬けというおぞましい食べ物を完食することが出来たのだ。
「よいしょっ」
カコは少し股を開くと、先程のいびつな漏斗を自分の股間に当てた。
すると、そのいびつな漏斗の口はカコの股間を1mmの隙間も無く覆った。
「うふふ。これ、私のおしっこ用の漏斗なの。前に調教していた奴隷に器用な子がいてね。作らせたの♡」
「え、あの、それには、水を………!?」
「あはは、言ったじゃん。夏場に水だけだと熱中症になっちゃうから、あなたの水には別途『塩分』を加えてあげるって♡」
「え、塩分……?」
「そ。これがあなたが熱中症にならない為の……塩分だよ♡」
ジョオオオオオオ………ドボドボドボドボ………
カコの陰部から黄色い液体が吹き出し、サクヤが綺麗な水を入れてもらえると思っていたペットボトルに注がれていった。
「ああ、あああああ!!!」
やめて欲しい。綺麗な水が飲めると思っていたのに。そのペットボトルまで、汚染されるとは思っていなかった。
「~♪」
ショオオオオオ………
カコはサクヤの絶望の表情を眺め、気持ち良さそうに排尿を続けた。
排尿が終わると、2リットルのペットボトルに半分と少しの尿が注がれていた。
「ふぅスッキリ。さて、これだけだと濃すぎて喉が乾いちゃうからね」
カコはそう言うと檻の中からガラスボウルを取り出し、さらにトースターから3枚の焼けたパンを取り出してボウルの中に入れた。
「こっちの料理にも使おうね♡」
ドボドボドボ………
カコはそう言うとペットボトルの中の尿を3分の1ほど使い、ガラスボウルの中のパンを尿に浸した。
「はい。今朝のおしっこ漬け完成♡それと……」
カコは尿が入ったペットボトルをキッチンに持っていき、ペットボトルがいっぱいになるまで水を足した。
「完成!カコちゃん特性のおしっこ漬けと、スポーツドリンクよ♡」
サクヤの目の前に並んだのは小便に浸された哀れなトーストと、レモン色の液体が入ったペットボトル。
食べ物も、飲み物もカコの尿に汚染されたのだ。
カコはペットボトルを檻の給水器に取り付け、おしっこ漬けが入ったガラスボウルを檻の中に置いた。
「うう、ううううう………」
サクヤは絶望した。今日は1日かけてこれを食べ、飲まなければいけないのだと理解したからだ。
(あれ?でも………)
サクヤは絶望で沈んだ気分の中で、一縷の光を見つけた。
(尿が、まだトーストに染み込んでいない!)
そう。しっかりと焼かれたトーストに20秒ほど前にかけられた尿はまだ完全に染み込んでいない。
もちろん、上からかけられたのだから尿の味はするだろうが内部まで染み込んでいるかどうかは大きく違う。
(早く食べないと!)
今すぐ食べれば、パリパリした通常のトーストの部分を多く食べられる。
しかしサクヤが少し見ているだけでも端からどんどんと尿を吸収しているのがわかる。一刻を争うものだとサクヤは理解した。
「か、カコ様、いただきます!」
「ビデ」
「へ…?」
「昨日教えたでしょ。ビデ」
カコはそう言って椅子に深く腰掛け、股を大きく開いた。
「あ、あああああ………!!!」
サクヤは昨夜の事を思い出し、慌ててカコの前に来て頭を股に埋めた。昨日までは排尿後の女性器を舐めさせられるという屈辱的な行為にすぐに応じるということは出来なかったが、全身の鞭傷と一刻を争う状況ががその躊躇を取り払った。
目の前には黒々とした茂みの中でサクヤを待ち受ける、湿った肉の洞窟。顔を近づけるとブルーチーズの様な臭いと尿の臭いが鼻を突いた。
ここにある汚れと尿を今から自分の舌で拭き取る。そう考えると吐き気を催してしまうが、サクヤはこの後食べさせられるおしっこ漬けの食べやすさの方が重要であった。
「か、カコ様……いただきます……」
ピチャ、ペチャ、チュパ……チュウウウ……
相変わらずの嫌な味。生臭さとしょっぱさが入り交じった屈辱の味。
「ぼ、僕の食べ物を、清めてくれて、ありがとうございます……」
そんなこと、微塵も思っていない。だが、今は目の前のこの悪魔の様な女に尽くして少しでもあの食べ物を楽に食べたい。
今回は流し込むための水までもに尿を入れられた。早く満足させてまだパンとしての体裁を保っているうちに早く食べ始めたい。
チュパ、チュプ、チュパ……レロレロレロ……
「ふふふ。急いでるの?」
「は、えと、あの、はい!」
サクヤはカコに突然質問された事に驚き、思わずはいと答えてしまった。
「ふふ。おしっこ漬けは早めに食べればちょっとはマシかもしれないもんね……でも残念♡」
「へ……?」
「たっぷり味わってあげる。あなたの舌♡」
「そ、そんな………」
サクヤの悲しそうな表情を見てカコはにっこりと笑った。
ピチャ、ピチャ、レロレロレロ……チュウウ……
「ほら、最初の勢いはどうしたの?あと挨拶が足りない!」
ピシィ!!
「ふぎいいいい!!」
舐めさせ始めてから15分程経過したころ。
カコはサクヤの舌のスピードか落ちた事を口実に、自分の股に顔を埋めさせているサクヤの背中に鞭を打ち込んだ。
「はい…ごめんなさい………カコ様……いただきます……」
サクヤは小さく謝り、再び舐めるスピードをあげた。
「ふふ。そうそう。せっかく食べ物を女王様が聖水で清めてあげたんだから。聖なる泉にたっぷり感謝の奉仕をしないとね♡」
「はい……清めて、頂き……ありがとうございますございます……」
サクヤのスピードが落ちたのは仕方がない事であった。何故ならサクヤは『早く終わらせる』為に必死に舐めていたのだ。
しかしカコは陰部の残尿が無くなるのとは関係なく、ボウルの中の焼きたてのトーストに自身の尿が染み込んでいくのを笑顔で眺めながらサクヤに奉仕を強制し続けた。
サクヤは一刻も早く、少しでもサクサクとした食感が残った状態のトーストが食べたい。尿が完全に染み込んでいなければ、尿の味以外を少しは味わえたかもしれない。
だから必死に舐めて早く終わらせようとしたのに、カコはこの『いただきます』の儀式を終わらせようとしない。
「じゃ、仕上げね」
ようやく、カコがそう言った。
サクヤはガラスボウルを背後に置いてカコの股に顔を埋めている為、舐めさせられている間ガラスボウルの中のトーストがどうなっているか確認は出来なかった。
(まだ……まだわからない。ここからでも急いでやれば!)
サクヤは急いで口に消毒液を含んで口内を柑橘系の消毒液の臭いで満たし、カコの陰部を満遍なく舐めあげて『仕上げ』をした。
「ん。もういいや」
「ありがとうございます!」
サクヤはそう言って、慌てて後ろを振り向いた。
(少しでも無事なうちに早く食べてしまわないと……!)
「あっ………」
素早く振り向いたサクヤであったが、ガラスボウルを確認した途端動きが止まった。
「ああ、あああ……」
哀れな3枚のトーストは完全にカコの尿に沈んでおり、さらにそれぞれがたっぷりとカコの尿を吸い込んで柔らかく肥大化していた。
「うふふふふ♡」
絶望の最中にいるサクヤの背後から聞こえる、カコの楽しそうな笑い声。
「ざーんねーんで・し・た♡」
カコは項垂れているサクヤの頭を手でポンポンと叩き、しゃがんでサクヤの顔を覗き込むように体勢を低くした。
「私ね、あなたに舐めさせながらずっと見てたの。トーストがおしっこにだんだんと沈んでって、膨らんでいくのをね。ふふ。早く食べたらちょっとはマシかもしれないのにね~♪」
「ああ、ううう……」
カコは少しでも早く食べ始めて楽をしようなどというサクヤの思惑を許すわけがなかった。
「サク。覚悟しておいてね」
「へ……?」
「これ、毎回やるから♡」
カコはそう言うと上機嫌でサクヤに「ハウス」と命令を下してガラスボウルを檻の中に入れて「しっかり味わってね」と言って檻のドアを閉め、鍵をかけようとした。
「ああ、ああああ……」
サクヤの心にある感情。それは絶望のみであった。
また檻の中に一人取り残される。昨日の昼、昨夜と二回この中に入れられて鍵をかけられ、絶望的に究極な孤独を強いられた。
そしてその間にこの汚物を食べなければならない。さらには飲料水までもがカコの尿と水を混ぜたものにされてしまった。
カコが恐ろしい。自分の全てを支配しているカコが恐ろしくてたまらない。出来れば消えて欲しい存在。
しかし、サクヤの喉からはついこんな言葉が出てしまった。
「カコ様……おいていかないでください……」
この後の自分を襲う、究極の孤独。それを知っているサクヤはついカコを引き止めてしまった。
鍵をかけようとしていたカコは一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、笑った。
「あはは、寂しいの?大丈夫大丈夫。ちゃんと夕方には帰って来るから!今8時だから……そうね、18時。10時間後には帰るよ」
「そんな、そんなあああぁぁぁ………」
本も、パソコンも、スマートフォンも、テレビもない。何一つとして『情報』が与えられない状態。サクヤに与えられるのはカコの尿入りの飲食物だけ。
さらに冷房は切られてしまい、日中の暑さにより眠ることも出来ない。貞操帯を付けられており妄想して自慰行為をする権利もない。全ての権利を奪われている状態。
それだけで10時間過ごすことが如何に恐ろしいことであるか、カコは考えたこともなかった。
簡単な気持ちで奴隷の人権も時間も『全て』を奪い、自分の鞭でも汚物でも奴隷に『全て』を受け入れさせるサディスト。それが松田カコなのだ。
カチャンッ!
カコは容易く、特に深く考えることも無くその鍵をかけた。これで檻の内側からは何をしても外に出られない。
ピッ
そして当然のように冷房を切り、日光の遮断の為にカーテンを閉めた。
サクヤはこの薄暗く、蒸し暑い部屋で尿が染み込んだパンと尿が混ざった水のみを与えられた状態で10時間過ごすのだ。
「じゃねっ!」
カコはもう女王様の顔をしておらず、普通の大学院生の顔になっている。まるで友達とでも別れるようにサクヤにひらりと手を振り、部屋から出ていった。
「ああ、ああああああ!!」
カコは簡単に女王様から大学院生へと頭を切り替えて部屋から出ていった。しかしサクヤはそれが出来ない。カコに奴隷にされた日から1度も大学生には戻れていない。ずっとサクヤは最悪な女王様の『奴隷』のままなのだ。
カコにとって『女王様』はただの趣味で生活の一部分に過ぎず、日頃のストレスの解消でしかない。
しかし、そのストレスの捌け口として捕まったサクヤは生活の全てを『奴隷』にされてしまったのだ。
ここは大学。カコは自分の研究室に来ていた。
研究室は所属する学生一人一人のデスクがあり、カコは割り当てられたデスクにパソコンや専門書を置いて日々研究に励んでいる。
そしてそれらの他にはマグカップや、インスタントコーヒーや紅茶を入れるパック等のデスクワークに欠かせない嗜好品を備えている。
「んー………」
カコはパソコンのマウスを持ち、画面にかじりついて何かを読んでいた。
「おはようまっちゃん!何してるの?」
「わっ!びっくりしたぁ……おはようございます荒山先輩。この前やった実験で変な傾向が見えたから、似た結果出してる論文とかないかなぁって……」
研究室に入ってきたのは荒山という男。ドクターコースに所属する、カコよりも2学年上の学生である。
そしてカコは研究室では「松田」という苗字から「まっちゃん」と呼ばれていた。
「あー、なるほどね。もしかしたらまっちゃんの大発見かもよ?」
「いやいや、こういうのは大体実験ミスですよ多分。明日再実験してみてから考えます。先輩はゼミの用意は終わったんですか?」
「いや、今から」
「え。13時からですよね!?」
「まあ余裕だよ。わはは」
荒山はそう言って笑うと自分の席にどかりと座り、パソコンの電源を入れた。整理整頓されたカコの席とは違い、かなり散らかっており明らかに研究に必要の無いものまで置いてある。
カコは教授といい荒山といいルーズな人間が多いこの研究室の雰囲気が好きではなかったが、それぞれが出している論文や研究成果については素直に尊敬していた。
「おはよ!」
カコが小さなため息をついて再び画面に向かうと、背後から再び声が聞こえた。
「あ、サキちゃんおはよ!」
カコに話しかけたのはサキと言うカコの同級生の女子。彼女は学部は違う大学だったが、大学院からこの大学に編入してきていてカコとの付き合いは一年半程度であるが、二人共気が合い今では親友とも言えるほど仲の良い友人であった。
「一昨日だっけ?大変だったんでしょ、試験監督押し付けられて」
「あ、そうなの!突然先生が入ってきて『私は用事があるからー!』って!本当酷くない?試験開始直前だよ?」
「え、そんな急だったの?それは酷いね!で、試験は何も問題無かった?」
「んー……そうだね。何も無かったよ」
カコは一瞬何かを思い出したような気がしたが、本気で何も無かったと思い、そう返事を返した。
「それなら良かった!まあまた先生が答案持ってきて採点させられるんだろうけど…」
「あ、絶対そうだよね!本当嫌になるね!」
カコとサキは他愛もない会話をしばらく続けたあと、それぞれの席に戻り自分の作業を進めた。
午後は二人で大学生協が提供している弁当を買いに行った。
「今日は何にしよっかなー♡」
カコは並んでいる弁当をじっくりと覗き込み、自分の口と腹の具合と相談する。
「毎日迷っちゃうよねー」
サキはそう言いながらもあまり迷わずにハンバーグ弁当を手に取った。
「サキちゃん、昨日もそれじゃなかった?」
「え、そんな事ないよぉ~。栄養バランス考えてるから」
「ほんとにい~?」
カコはそう言いながら鶏そぼろ弁当を手に取り、二人で自販機でペットボトルの緑茶を買って研究室に戻った。
12時半頃にカコとサキが弁当を食べていると、荒山がゼミ発表の準備が終わらないのか「やばい!やばい!」と言っており「レジュメの印刷お願い!」と二人にUSBメモリを投げつけた。
カコはサキと文句を言いながら部屋の外にあるプリンターに向かい、二人で印刷して部数を数えた。
13時になれば少し広いセミナールームに移動し、研究室全員で集まりゼミを行った。
カコの研究室は学部四年生が5人、マスターコースがカコとサキを含めて3人、ドクターコースが1人。教授合わせて10人の研究室だ。
荒山や他の発表者の発表に対して教授は鋭い指摘や質問をし、カコやサキも活発に意見を出して議論し、ゼミは終了した。
ゼミが終わって15時半頃になると、学生達は全員研究室と自分のデスクに向かう。
午前中には来ないものが大半であるため、午後の研究室は人口密度が高くカコは好きではなかった。
この研究室はカコとサキ以外は全員男子。元々理系の学部なので覚悟はしていたが、カコは気兼ねなく話せる女子が一人だけで少し寂しい思いをしていた。
そして、男子の何人かはカコが作業中にその巨乳を机の上に乗せているのを横目で凝視したり、日常的にもカコの胸や尻を見て眼の保養をしていた。
中には、カコ目当てで研究室に来た者もいる。
「んん~……」
17時半。カコは椅子の背もたれを最大限利用して伸びをした。ゼミが終わったあとコンビニで買ったチョコレートも食べ終わり、さらに論文も良い論文は見つからなかった。
「そろそろ帰ろっと」
研究室には既に荒山はおらず、午後から来た者達とカコとサキだけであった。
サキは何やらモニターに向かって懸命に作業をしているので話しかけず、カコはとりあえずドアをくぐる時に「お疲れ様でしたー」とだけ言い残して部屋を出た。
(今日の夕飯は……なんだっけ。ああそうだ、オムライスだ。お米炊かないと……)
カコが考え事をしながらアパートに歩いていると、大学から近いカコのアパートにはあっという間に到着した。
(あー、今日も疲れた。早くシャワー浴びて寝ちゃおうかしら)
ガチャ
まずは部屋のドアを開け、靴を脱ぎ、キッチンを兼ねた廊下を歩きリビングルームへのドアを開ける。
ガチャン
「うう、ううううう………」
するとそこには、檻の中に入れられたサクヤ。ガラスボウルは綺麗になっておりそこに汚物が入っていたとは考えられない程であった。さらにペット用の給水器の中には2割ほどの黄色い液体が残っている。
「ああ、そうだった」
その瞬間、カコは『思い出した』。自分は奴隷を飼い始めたのだ。それも、餌として尿を与えながら。
「ごめんごめん、忘れてた」
カコは「あはは」と軽く笑い、部屋の冷房のスイッチを入れた。
カコが忘れていたのも無理はない。何故ならサクヤはカコにとってプライベートを充実させるための道具。新しいテレビを買って、翌日帰ってきて綺麗なテレビが置いてある事に驚くのと同じ。
それほどまでに外で大学院生をやるカコにとってのサクヤは『どうでも良いもの』なのだ。あれば趣味が充実する、という存在でしかない。
「か…こ……様………?」
サクヤはカコの「忘れていた」という言葉に対して、一瞬何も考えられないほどに固まってしまった。
この10時間、カコは外の世界で様々な事があった。
大学に行った。論文を探した。サキと弁当を買いに行って、選んだ。ゼミの前に荒山のレジュメを印刷させられた。ゼミに出た。また作業を進めた。何気ない日常を笑ったり怒ったりしながら過ごした。
しかし、サクヤには何も無かったのだ。
檻の中で、カコの尿に漬けられたパンを食べる。尿と水の混合物を飲む。それしか無かった。それ以外の権利が全て奪われているからだ。
何も無い檻の中。あらゆる人権を奪われたこの空間でサクヤは『絶望』しかなかった。
一口その『おしっこ漬け』を口にしたり水を飲む度に、パンを入れたボウルに放尿してから陰部を舐めさせて笑うカコの笑顔が浮かんだ。
「清めて頂きありがとうございます」と言わされながら舐めさせられた女性器の生臭い味を思い出した。
もしかしたら開くかもしれない、と檻の鉄格子を掴んで力を入れる度に、簡単に人間の全てを奪うカコの笑顔が浮かんだ。
この10時間、サクヤはまるでカコの体内に閉じ込められたかのように『松田カコ』に完全に支配されている状態だと思い知らされ続けた。
それなのに、サクヤを見たカコは「忘れてた」と言った。その絶望と怒りは計り知れなかった。
しかし、その絶望も怒りも誰にもぶつけることは出来ない。怒りのままに襲いかかっても勝てない事は理解させられている。
「じゃ、おかえりの儀式ね♡」
カコは既に『女王様』に切り替わった。檻の鍵を開け、嬉嬉として汗と垢に塗れたその足をサクヤに差し出した。
サクヤは涙を流しながら、その汚れた足の臭いにえづきながら舐め、「おかえりなさい」と女王様の帰宅に涙を流しながら感謝を示すことしか出来なかった。
その夜、カコは夕飯としてオムライスを作った。
カコは玉ねぎや人参等の野菜の皮や端くれ、割った卵の殻を三角コーナーに入れながらテキパキと料理を進めてオムライスを完成させた。
炊飯器の中にはカコが食べる分よりも少し多めに炊かれており、オムライスを完成させたあとも少し余っていた。
「でーきた。カコちゃん特製オムライス!」
カコは上機嫌でリビングルームに戻り、テーブルの上に皿を置き、スプーンやお茶を入れるコップなどを置いた。
サクヤは足舐めの後は自分のトイレを済ませ、カコが料理をしている間は風呂で自分の体を洗うように命じられていた。特に貞操帯を付けられている股間が痒く、外して貰えるのかと思っていたが「隙間から水を入れて洗えるよね」と言われて外しては貰えなかった。
「あ、そうだサク。私がご飯を食べている時の作法だけど……」
「は、はい!」
サクヤはこの時点で少し期待をした。風呂上がりにオムライスの良い香りを嗅いでからずっと「食べたい」と強く願っていたからだ。
「私が食べている間、ずっと隣で正座。絶対に私とご飯から目を離さないこと。少しでも目を離したらお仕置きするから」
「………?は、はい」
サクヤは命令の意味がわからなかった。どういう意味があるのか。自分は少し貰えるのか。
「じゃ、いただきまーす」
カコはそう言って手を合わせると、テレビを付けた。カコは毎晩夕飯を食べながらこうしてニュースを見ていた。
「んー、美味しい♡」
「あ、あ、あ………」
サクヤは口の端から出てくる涎を慌てて吸い込んだ。欲しい。自分も食べたい。何よりも、カコの尿の味がしないものが食べたい。
「くっ……」
しばらくカコが食べ進めるのを見ていると、サクヤは自分は食べさせて貰えない事を悟り思わず目を伏せた。これ以上は見ていられない。鳴り続ける腹の虫と湧き続ける涎を抑えられない。
ビシィン!!
「うぎゃっ!」
カコはスプーンを置いて鞭を手に取り、サクヤの肩を叩いた。
「言ったよね。きちんと私の食事を見ていなさいって」
「ああ……あああ………」
サクヤは理解した。カコは楽しんでいるのだ。奴隷には小便をかけた物だけを食わせ、自分は普通の料理を食べる。その様子を奴隷に見せつけて、奴隷が羨ましがり欲しがる様子を自分の食べ物のスパイスにしているのだ。
「ん~美味しい♡ほっぺが落ちちゃいそう♪」
サクヤの推察は正解だった。カコはオムライスだけでなく、サクヤの物欲しそうな視線も味わっていた。
「欲しい?一口あげよっか?」
「ほ、本当ですか!?お願いします!」
「ウ・ソ♡」
「────ッ!!!」
カコはサクヤをからかって遊びながら、オムライスを一口、また一口と口に運んでいった。
「うふふ。言ったでしょ?あなたのご飯は私のおしっこ漬け。それ以外は与えないから♡」
「ああ、ああああ………!!」
嫌だ。嫌だ。もう、あんなもの食べたくない。普通の食べ物が食べたい。
サクヤがいくらそう願っても、カコはついにサクヤに一口も与えることなく完食した。
「ああ、美味しかった♡」
カコは食欲とサディズムを同時に満たすことが出来て満足した。
「じゃ、今夜もやりましょうか。躾ゲーム♡」
カコはそう言って鞭で自分の手のひらをパシンッ、と叩いた。
「ふう、今日はここまでね」
「あが、あ、ありがとう、ございました……」
昨日と同じく、カコが読書やスマートフォンの操作の傍らで気まぐれに出す『おすわり』と『よし』の号令に脊髄反射で動けるようになるまでサクヤはみっちりと鞭で『躾』をされた。
しかし、昨日よりは鞭をもらう回数は少なくなり、また体が反射で動くようになり始めていたのもありそれほどにまで神経質にならなくても良く、サクヤは昨日よりは少し楽だった。
(ふふふ……)
カコはサクヤの表情が少し明るいのを見て心の中で笑った。
『昨日よりも楽に体が動いた』という事は、サクヤの体にカコの号令が染み込んでいっているということ。
サクヤは鞭の回数が減った事に喜んでいるが、それはカコに『おすわり』と言われれば勝手に体が土下座の体勢となり、『よし』と言われるまで一切動けない体になり始めているという事だ。
考えなくても号令と共に体が素早く土下座し、微塵も動かなくなったということは、体がカコの声一つでコントロールされるようになってしまっているという事だ。
しかし、鞭と監禁、小便の食事で精神が追い込まれているサクヤはそんな事には気づけない。ただただ鞭の回数が減ったことに喜んでいる。
躾ゲームは毎日行われ、毎日鞭は減っていく。上手く出来ればカコは少し褒めたりもしてくれる。
そんな甘い誘惑にサクヤの心が揺れている時、カコによる支配の根はサクヤの全身を犯していくのだ。
「じゃ、今日の晩御飯ね。昨日からパンとかご飯ばっかりで栄養バランスが悪いから、今日は食物繊維とカルシウムも与えてあげる」
「え……は、はい!」
サクヤは少し喜んだ。確かに、栄養バランスはどうなるのかと心配もしていた。そして少しでも違う味のものが食べられると思ったからだ。
カコはまず、炊飯器の米をガラスボウルに入れた。そして
「はい。食物繊維とカルシウムよ」
キッチンに行き、持ってきたのは
「カコ様、あの、それは……」
シンクにあった三角コーナー。中には野菜の端くれと皮、卵の殻が入っている。そして三角コーナー自体があまり洗っていないのか、かなり汚れている。
「えいっ!」
カコは三角コーナーの中身を、ガラスボウルの中に入れた。
「あああ!」
食べ物の上に、生ゴミをかけられた事にサクヤは絶望した。
しかし、もちろんこれだけでは終わらない。
「これだと味がしないもんね。それに汚いよね。だからカコ様がしょっぱい味付けと、汚れたご飯を清めてあげる♡」
目の前には嬉嬉としてパンツを脱ぎ、下半身を露出させるカコの姿。
そして容赦なくボウルの上に跨り
「ふぅ~♪スッキリ~……」
放尿を始めた。
「ああ、ああああああ………」
見るのは既に3度目であるが、何度見せられても慣れない。自分が食べるものの上に笑いながら跨り放尿する女の姿など、慣れる訳が無い。
そこからはいつも通り。放尿後に椅子に座って腰を突き出すカコの股間に顔を埋めて残尿を15分間舐めさせられた。
舐めさせられた陰部は昼間に蒸れたのか、朝舐めた時よりもえぐみが増した味となっており、舌が痺れた。
「じゃ、私はシャワー行くから」
カコはそう言ってサクヤとガラスボウルを檻の中に入れ、鍵をかけた。
サクヤの目の前には、生ゴミと米と小便の混合物が残された。
「うう、うううううう………」
サクヤは涙を零し、シャワーの音を聞きながらガラスボウルに口を近づけたのだった。
「~♪」
カコは鼻歌混じりにシャワーを浴びていた。カコのシャワールームにはシャンプー、ボディーソープ、リンスがその日の気分で変えられるように何種類か置かれており、洗顔クリームと泡立てネットもあった。
そしてそれらを置いてある言わば『カコ用』
のシャワー用具が並んだ台の下には石鹸が一つ置かれていた。
これはカコがサクヤ用に与えたもので、カコが帰宅時に手を洗うのに使うものと同じ。サクヤにはカコと同じシャンプー等を使う権利は無い。かと言って水だけで洗わせてサクヤの体が臭うのも嫌だったカコは石鹸を一つだけ与え、それで全身を洗うように指示した。
もしも勝手にシャンプー等を使えば匂いですぐに分かる。発覚すればカコから酷いお仕置きを受けることになる。
サクヤは全身、髪の毛さえもシャワールームの床に直接置かれた石鹸で洗っているのだ。
サクヤはその石鹸を使ったらカコのシャワー用具が置かれた台の下に置いている様であったが、床に直接置かれた石鹸はカコがシャワーを浴びていると排水溝の方へと流れていく。
そしてカコがシャワーを浴び終わる頃にその石鹸は、排水溝のカバーに引っかかっているカコの陰毛や髪の毛と絡まった状態となるのだ。
風呂場で体を洗う許可を得た日にサクヤがまずやるのは、その石鹸に絡まったカコの陰毛や髪の毛を摘んで外すことだった。
そして、陰毛や髪の毛が絡みついていた石鹸で自分の全身を擦り、洗うのだ。
「ふふふっ」
カコはサクヤの哀れな様子を想像して小さく笑い、シャワーの放出を止めた。
「ふぅー、さっぱりした。あ、タオル」
カコはバスタオルを用意するのを忘れており、仕方なく裸のままリビングルームへ戻った。
「タオルタオル……」
ガチャ
カコが裸のままリビングルームのドアを開けると、『おしっこ漬け』を食べさせられていたサクヤは目を剥いた。
「あが、カコ、様………!?」
「ん?ああ…ふふっ!良かったね。私の裸が見れて♡」
サクヤが見たカコの全裸姿。それは今まで見たどんな女体よりも美しいと思った。
シャツの上からでも十分に大きいと思っていた乳房は、しっかりと前に突き出してその絶対的な存在をアピールしていた。乳首は勃っておらず、横線が入ったように陥没していたがサクヤは今すぐその乳首に飛びつき、揉みしだきながら吸い付きたいと思った。
そして括れた腰と、飛び出たヒップ。尻は見たこともあり触った事もある。そしてそれはいずれも肛門を舐めさせられた時であるが、その忌々しい記憶を含めても美しいと思った。
そしていつも見ているが、顔も改めて見ると端整で美しい。大きく開いてかつ切れ長な目と、シュッとした鼻筋。小さな口。スタイルも顔も完璧に思えた。
「うう、ううう………」
サクヤは苦しみを感じた。口の中の尿と生ゴミの味にではない。股間にだった。
貞操帯を付けられた日から、鞭による痛みと様々な汚くおぞましい行為に対する吐き気のせいでその様な気分にはならなかったが、久々にサクヤは性的に興奮した。
股間が膨らみ、それを貞操帯が圧迫してとても苦しい。
カコの体から目が離せない。まるで、彫刻の様な女性的で美しいボディライン。絵画のような顔。
(ああ、嫌だ。なんてことだ……)
サクヤは股間を抑えながら、カコの体に焦点を合わせたまま静かに涙を流した。
(僕は…この女を……悪魔の様なサディストの体と顔に……惚れてしまっているんだ……)
そう。サクヤは頭ではカコの事を憎み、許さないと考えている。しかし、体……サクヤの男としての本能はカコを全力で欲していた。
カコから目が離せず、股間は熱く、心臓も波打っている。
「うう、ううう………」
涙が止まらない。それは鞭で打たれ、監禁され、小便を飲まされ、肛門まで舐めさせられている相手に、こうして裸を見せられただけで興奮してしまう自分の股間に対する失望と情けなさが心を潰したからだ。
「あはは!なに?女王様の裸を見れてそんなに嬉しかったの?」
カコはサクヤの強い視線を感じ、髪の毛をタオルで拭きながらサクヤの檻に近づいてきた。
サクヤはカコの美しい肢体に悩殺され、女性的な色気にあてられて大いに興奮させられたが、カコはサクヤに対して男性的な魅力は一切感じていない。
恋愛対象外、それどころかカコにとってのサクヤはただの玩具。自分のサディズムの捌け口でしかない。
その証拠に、カコがサクヤに対して全裸を見られる事に恥じらいを一切感じていなかった。犬に裸を見られて恥ずかしがらないのと同じだ。
「あう、う、うううう………」
サクヤはその様子を見てカコの自分に対する評価も理解し、さらに涙を流した。
鞭によって強さの格付けを最初にされた。カコは上。自分は下であると。降参の証として肛門にキスをさせられ、『自分はカコよりも弱い』と強く認識させられた。
食物連鎖におけるライオンとシマウマ。カコはライオンで自分はシマウマ。ライオンがシマウマで食欲を満たすように、カコはサクヤで性欲を満たす。この位の差が二人の間にある。
またカコの裸を見て大興奮してしまう自分と、裸を見られて恥じらいの一つも感じていないカコ。男として、女としての格付けでも自分はカコよりも遥か遥か下にいるのだと認識させられた。
そしてそれはライオンとシマウマどころの差ではなく、ライオンと草ぐらい離れており、カコは自分に見向きもしないのだ。
「あなたがやることは、私の裸を見ることじゃないでしょ?あなたの仕事は……」
カコはそう言いながら鉄格子の隙間から檻の中に手を伸ばし、サクヤの髪の毛を掴んだ。
「これを食べることでしょ♡」
グチィッ!!
「ンムゥ!」
カコはサクヤの頭を掴んだ手に力を込め、サクヤの顔をおしっこ漬けが入ったガラスボウルに押し込んだ。
「ンムゥ、ンムッ!」
「ほらほら、しっかり食べなさい。あなたが大興奮しちゃう女王様の体から出た、ありがた~い聖水だよ?」
その通り。目の前にある汚物はこの美しい体から出てきたものである。しかし、だからと言って喜んで食べることは当然出来ない。
「ンムッ!」
カコが手を離すと、サクヤは呼吸の為に慌ててガラスボウルから顔をあげた。
「うわっ、顔中おしっことご飯粒だらけ。汚いし、気持ちわる。絶対近寄りたくない~」
カコはそう言うとケラケラと笑いながらサクヤの前から去っていった。
「うう、ううううう………」
サクヤは涙が止まらなかった。自分が世界一美しいと思っている美女に、『汚い。気持ち悪い。近寄りたくない』と言われたのだ。
今まで様々な行為を強いられ、様々な方法で心を抉られたが、先程の一言はサクヤの心をさらに深く傷つけた。
「あはは、泣いてる!おっかし~」
カコは顔を汚し、貞操帯で締め付けられる股間を抑えながら泣いているサクヤを見てケラケラと楽しそうに笑った。
カコは自分の体にそれなりの自信がある。
奴隷とはいえ男が自分の体に対して興奮しており、ここまでの仕打ちを受けているにも関わらず美しさだけで自分に好意さえ抱きそうなサクヤの様子は女として悪い気はしなかった。
そして、サクヤのその気持ちを利用してサクヤが最も傷つきそうな言葉を選んでそれをぶつけてやる。
言葉で相手の心を抉るのは、体を鞭で打つのと同じぐらい楽しい。
「ああー、楽しい!また明日ね!」
カコはそう言うとサクヤにひらひらと手を振り、服を着て歯磨きやドライヤー、化粧水等の準備を整えてから就寝した。
サクヤはその晩、傷ついた心の痛みに耐えながら一口、また一口とカコが製作したおぞましい汚物を吐き気に襲われながらゆっくりと食べる孤独な夜を過ごした。
ここで、松田カコの女王様としての活動を振り返る。
もちろんカコは普段から男にこういった態度を取るわけではない。寧ろカコは大学やアルバイト先等ではかなりの人格者として周囲からの評価を得ている。
優しく、責任感があり、穏やかなお姉さんの様な振る舞いをする女性だとカコの周囲の人間…さらに言えばカコの家族でさえもそう思っている。
しかし、優しい人間は付け込まれる。責任感がある人間は頼られる。穏やかな人間は横柄な態度を取られやすい。その度にその人間にはストレスが溜まっていく。
また、カコは人よりも性欲が強い上に極度のサディストという性癖を併せ持っている。しかしこの性癖は簡単に解消することも出来ず、相談出来る相手もいなかった。
外での完璧な『松田カコ』のキャラクターを作り続ける為に、カコには溜まりに溜まったストレスと、強すぎる性欲の捌け口が必要だった。
高校生の頃はストレスと性欲により心を圧迫されながらも、部活や勉強、また人並みに恋愛をしながら過ごしていた。
そしてカコは大学生となり、一人暮らしを始めた。
性欲を発散させる為に書いた自作小説などをインターネットで公開し、趣味嗜好が合う者とコミュニケーションを取り、ついには『女王様』として何人ものM男を調教して性欲とストレスの解消を始めた。
妄想ではなく本当に男を鞭打ったり奉仕を強いた時、カコはとてつもなく心が晴れるのを感じた。女王様として男に酷いことをすることにより、日常の自分がさらに良い人間として振る舞う事が出来るようになったとも感じた。
そして途中から…カコが大学二年になった頃からは何度もこうしてM男を『飼った』。相手には合意の上であるというサクヤに書かせた誓約書と同じものに名前を書かせて。
人を『飼う』のはカコにとってまさに理想的な性欲とストレスの解消だった。完全に自分の所有物として相手に何をしても良い。昼間に溜めたストレスをその夜に解消出来る。
さらに相手を完全にコントロールするということの楽しさも知った。
もっと言えば、相手の人生を自分の趣味娯楽の為に捧げさせる快感の味を覚えた。
カコはそれから調教する際にはM男を『飼う』事に拘り始めた。普通にホテルなどでSM趣味の男と会って遊びのようなプレイをする事に満足出来ない体になってしまっていたのだ。
日常では誰よりも優しく、誰よりも明るく振る舞い、自分の為にも誰かを助ける為にも必死に努力する。集団ではリーダーシップを発揮し、友人や後輩からは慕われ、誰の相談でも心から親身になって考える。
さらに部活では常にエースとして頼られてきた。重要な場面で試合を預けられ、強いプレッシャーの中で戦ってきた。
大学受験は高校や塾の期待を背負わさた状態で受験し、今の大学に合格した。
数えきれない数の男子から告白された。
彼女を知る誰もが、彼女を完璧超人と思っている。それが『松田カコ』という女だった。
しかし、それまでの反動かそんなカコの心には誰よりも深く、濃く闇が溜まっていた。
その闇にカコは飼っている奴隷を押し込むのだ。
サクヤが監禁されているこの檻はまさに『カコの心の闇』。暗さと、汚さと、痛みの世界。この世の全ての苦痛を詰め込んだような闇の世界だ。
カコはそんな自分の心の闇の世界に容赦なく奴隷を閉じ込める。泣こうが叫ぼうが出さない。出すのは奴隷がその闇に染まり切って完全に壊れた時だ。
これまでカコに飼われ、恐ろしい闇に押し込められた元奴隷達が今どうしているかはカコは知らない。
カコは「普通の人間」には限りなく優しく接するが、「自分の奴隷となった人間」には生死ですら興味が無い。
大体の奴隷はカコの監禁調教に心を壊されて今は廃人同然の生活を送っている。
カコの調教で体が死んだものはいない。しかし、廃人同然にされ心が死んだものは数えられない。
心が死んだものはカコに何を言われてもされてもリアクションすらしない、もしくは意味不明な奇声をあげ続けたりしてカコが嫐る事を楽しめない様な状態となった。
こうなってしまえば、カコは『用済み』。服を着させて、部屋から蹴りだして終わりだ。カコに対する恐怖だけは強く残るのか、慌てて逃げていくのでそれ以降は一切関わらない。
カコからすれば奴隷はガムの様なもの。飼い始めて相手の反応が新鮮な時……つまり、口に入れた時が一番味が濃くて美味しい。その後は噛み潰し、噛み潰し、噛み潰し、味がしなくなったら吐き捨てて次のガムを探す。
そして奴隷達にとってはタチの悪いことに、カコは容姿が美しすぎた。
少しマゾ気質な男が軽い気持ちでインターネットを見ていたら、女子大生がSMパートナーを探している。とりあえず会ってみたら本当に女子大生で巨乳で美人だった。
そしてその美人が言うのだ。
「私、飼育プレイとかも興味あって……やってみたいんですけど…大丈夫ですか?あ、ご飯とかは全部私が作るので。あとは軽い鞭とか……」
そして誓約書をよく読まずに、カコの顔と胸に鼻を伸ばしながらサインをする。女子大生の手料理にも期待する。
そしてカコの部屋に入れば、かなり本格的な檻が置いてある。
初日は違和感を感じながら何となく檻に入り、翌日家に帰りたいとカコに言えば
「え?帰さないよ?だってあなた、もう私の奴隷じゃん」
そこからは地獄のスタートである。
カコのサディズムを受け入れられるマゾヒストはそうそういない。しかし、カコからすればせっかく捕まえた性欲とストレスの捌け口。味わい尽くすまでは逃がさない。
カコは相手が自分のプレイを楽しむかどうかなどは関係ない。完全に『私が気持ち良いかどうか』でしか考えない。
毎晩与えられる尿漬けの汚物。飲料水さえも尿を混ぜられる。そして、有り得ない回数と威力のカコの鞭。その他強制される様々なおぞましい行為。絶対的な服従を強いられ、肉体的にも精神的にも壊されていく。
そしてこれまでカコの餌食となった全ての人間がしていた勘違いがある。
いざとなったら、暴れれば男である自分の方が強いと考えてしまっていたのだ。
しかしカコは剣道の達人と言っても過言ではない。少なくとも一般人は多少力が強くともカコに鞭を持たれてしまえば絶対に叶わない。
カコは暴れて逃げようとする奴隷は、幼い頃からの鍛錬により身に付けてきた剣技を存分に振るって奴隷を滅多打ちにした。
そして肛門にキスをさせて服従を誓わせる。
女王様としては破格的な若さと、綺麗な顔と、大きな胸に釣られて来た場所は地獄だった。
これまでそうやって何人もの男達がその美しい女悪魔の餌となったのだ。
哀れな男達は檻の中からカコに叫んだ。
「出してくれ。頭がおかしくなる」
「お願いします。何でもしますから出してください」
「会社があるんだ。もうずっと無断欠勤になってしまっている」
「実は浮気なんだ。家に嫁がいるんだ」
しかし、カコは出さなかった。粛々と調教を続けた。何故ならカコはあの誓約書にサインをさせて『奴隷』にした時点で一切の人権を認めないからだ。
カコの部屋に入った者は、全員が漏れなく廃人となった。
人間一人を長期間監禁してしまえば、普通は捜索のため警察が動く。しかしカコは抜かり無かった。
まず、カコの餌食となった男達は誰一人として親しい人間や家族に「インターネットで知り合った女子大生の女王様に会いに行くんだ」と正直に伝えてきた者はいない。
「ちょっとそこまで……」と濁したり、適当な嘘をついて外出してきていた。
そしてカコは捕まえた奴隷から携帯電話やスマートフォンを取り上げた。
ロックがかかっていれば押さえつけて指紋認証を解除さたり、暗証番号等は鞭で拷問して聞き出した。
そして家族や親しい人間に対して「少し疲れたからゆっくり旅に出ます。かならず帰るから心配しないで。急でごめんなさい」等とメッセージを送っておく。
相手から返事が来たり、安否確認のメッセージが来れば過去のトーク履歴等から本人の文章を真似て適当に返信しておく。
こうしておけば、まさか女子大生に強制的に飼われているとは誰も思わず、また警察に通報する者もいなかった。
そして、廃人同然となってカコに捨てられた奴隷達が家に帰りついてカコに行われた恐ろしい行為を家族に話して警察に通報…というパターンもなかった。
元奴隷達は飼育期間中に『カコ様の命令は絶対』というルールを心の芯の芯まで恐ろしく叩き込まれる。
カコは捨てる時に『私の事は誰にも話しちゃダメ』と命令してから捨てていた。
カコが知るところではないが、現在カコの手により廃人にされた元奴隷達は誰一人としてカコの事を誰にも話していなかった。
単純にカコに精神を破壊し尽くされてしまいそもそも日本語がまともに話せなくなった者、運良く話せる程度には回復したがカコの命令にだけは未だに逆らうことが出来ず、誰にも話していない者。元奴隷達はそのどちらかである。
そして、カコは大学院一年生の冬に奴隷を監禁飼育したのを最後にしばらくは女王様としての活動を控えていた。
数ヶ月ずつ飼育して既に10人近くの男の人生を終わらせた事に対して少し反省した……という事はない。飽きたのだ。
インターネットの様々なSM出会い掲示板に蜘蛛の巣の様に罠を張り、会ってからは若さと美貌で簡単に釣り上げて、檻に捕らえた獲物を嫐り尽くしてストレスと性欲を解消するという単純な作業に飽きてしまった。
そして、やはりこれらはカコにとってはただの「趣味」。別にしてもしなくてもカコの実生活に影響はなかった。
心の闇を晴らす方法として、自作小説を書いても良かったし読書やスポーツなどの他の趣味によってそれらを解消しても良かった。
カコが選択できるいくつかの趣味の中で『人間の飼育』を選んだだけ。10人程のカコによって人生を奪われた元奴隷達は、カコの一時の気分を少し晴らしただけでカコの人生そのものには一切影響していない。
端的に纏めると、カコに人生を捧げることを強いられた男達は、カコにとっては『いてもいなくても良かった』のだ。
だからこそ、カコが一度奴隷を飼うのをやめてからしばらく経ってもカコの実生活にこれと言った影響はなかった。
カコは一度奴隷を飼うのをやめた際に、檻などの大きな道具も一度処分した。
「よく考えたら、私歳下の可愛い男の子の方が好きだな。おじさんばっかり飼ってもつまんないや」
と、10人近くの人生を終わらせてからカコは気付いたのだ。
しかし、歳下の男子は学生ばかり。さらにSM掲示板に書き込んで相手と会うような男の年齢はどうやってもほとんどが30を越えている。
しかし、大学院二年生の夏。テストでカンニングをしている可愛い顔の18歳のサクヤをカコは見つけてしまったのだ。
「私さ、ずっと嫌だったの」
「な、何が……でしょうか……」
サクヤの鼻の、5センチ先にカコの鼻がある。それほどまでに二人の顔は近い位置にあった。
サクヤは現在の異様な状況に不気味さを感じて怯えながらも、カコの美しい顔が眼前にある事に少し緊張し赤面していた。
カコは一切表情を変えることなく話し続けた。
「このアパートのトイレ」
「は、はぁ………」
二人は今、トイレの中にいた。
朝起きてすぐ、サクヤは檻の穴からカコの肛門に『おはようございます』の挨拶をさせられていた。
サクヤがカコの肛門を舐めたり吸ったりしていると、途中でカコは「穴の中に舌を入れなさい」と命じてサクヤに舌で肛門の中を刺激させた。
サクヤは昨日と同じく、カコの肛門を奥まで味合わされる最悪な朝だ…と思っているとカコは突然「来た」と言って座っていた檻から降り、檻の鍵を開けてサクヤを出して「来なさい」と言った。
そしてカコがサクヤを連れてきたのはトイレ。カコは自分は便座に座り、サクヤを目の前の床に自分の方を向かせて正座させた。
そして、持っていた紐でサクヤの手を後ろ手に縛ってしまった。
サクヤは現在、後ろ手に縛られた状態で正座させられ、目の前に排泄しているカコがいるのだ。
「ここのトイレ、何が嫌かって言うとね。ほら、ついてないじゃん」
「へ……?なに、が、ですか……?」
「ウォシュレット」
「は、はぁ……」
サクヤは、会話とカコの意図を掴めなかった。
「お、来た。んんっ……!」
ミチミチミチ……ポチャンッ!
「ッ!?」
サクヤは驚愕した。会話の途中で、突然カコが力んだ声を出したと思ったら大便を排泄したのだ。サクヤは当然ではあるが女性が大便を排泄する音を目の前で聞かされた事も見せられた事もなかった。
トイレの中に大便の臭いが充満していき、サクヤは少し気持ち悪くなった。
「私、結構お尻の穴とか周りの皮膚が弱くてさ、直ぐに荒れちゃったりするの。だからペーパーであんまり強くゴシゴシしたくないじゃん」
「は、はぁ……そうなの、ですね……」
「で、公共施設でウォシュレットとかがあってもさ。温水じゃなくて水だと冷たくて『ひゃっ!』ってなっちゃって苦手なんだよね」
「……?」
サクヤは会話の意味が分からない。カコは一体何がしたいのか。
「あ、また出る。んんっ………!!」
ブリュ、ブリュリュリュ………
カコはさらに大便をトイレに排泄した。匂いがいっそう強くなるのをサクヤは感じた。
「あと、ウォシュレットって洗う場所の調節は出来るけど結局は自分でお尻を動かなさきゃじゃん。汚れを感知して自動で動いてくれたらいいのにね」
「そ、そうですね。そうなれば良いですね……」
「あとさ、あと。ウォシュレットってお尻全部綺麗になってるかわかんないじゃん?思いもよらない場所にうんちが跳ねてついてる可能性もあるわけだし。ペーパーもだけど、やっぱりしっかり綺麗になったかを確認して、確実にお尻を綺麗にしたいじゃん」
「は、はぁ……」
「でもさ、あるんだよ。柔らかくて、湿ってて、暖かくて、全自動で、確実にお尻を綺麗にできる方法♡」
「ほ、本当ですか?よ、良かったですね……」
サクヤはこの嫌な空間での会話がようやく終わると思い、安堵の息を吐いた。早く部屋の外で綺麗な空気が吸いたい。
「ちなみに、私が開発したんだよ♡名付けて……」
カコはニタァ、と悪魔の様な笑顔をサクヤの眼前で浮かべたあと口を開いた。
「お口ウォシュレット♡」
「…………?」
サクヤは意味が分からなかった。
しかし、カコは言葉を続けた。悪魔のような笑顔を浮かべたまま。
「凄い機能なのよ?舌で私の肛門をペロペロペロ……って舐めて汚れを落としてくれるの」
「ッ!!」
サクヤはこの時点で気付いてしまった。自分がカコの大便に付き合わされた意味。両手を後ろ手に縛られている意味。
「で、その舐められるのが気持ちよくてさ。柔らかいし、暖かいし、湿ってるし。そのうち舌が汚れてきちゃうけど大丈夫。私が一言『洗浄』と言えば1回私のお尻から離れてお口の中の汚れた唾液を全部ゴックンするの。それから消毒液で口を洗って、もう一度♡」
「ああ、あ、あああ……」
いやだ。そんな事、やりたくない。嫌だ。逃げ出したい。
サクヤは背中側にあるトイレのドアをチラリと見た。
ガチャ!
カコはサクヤのその動作を見て、すぐに腕を伸ばしてトイレの鍵を閉めた。
サクヤが仮にトイレから出るためには、立ち上がり、後ろ手に縛られた不自由な手でトイレの小さな鍵を回さなければならない。
しかしそんな事をカコが許すはずがない。サクヤが逃げようとするよりもカコがサクヤを抑える方が絶対に早い。
つまり、カコによって完全にここに閉じ込められたのだ。
「で、1回お口を離して口を洗っている時間に私のお尻の穴をよく見て汚れの場所を確認。次に舐め始める時にどこを綺麗にするかを考える機能まで付いてるの!」
「うう、ううう………!!」
いやだ。いやだ。絶対にいやだ。今までは尿だけだから耐えられて来たのだ。絶対に、大便だけは嫌だ。
「で、最後は舌をお尻の穴にズニュッと入れてうんちが通ったお尻の中までゴシゴシ。凄いでしょ?これ以上綺麗にうんちの後のお尻の穴を拭く方法は無いよ?」
カコがそう言うと、最後に小さくブリュ……という音と共に排泄された大便の最後の一欠片がトイレの水面に落ちる音が響いた。
「さて……じゃ、お願いしようかしら?」
カコはすくりと立ち上がり、体勢を変えた。便座の上に両足を乗せ、正座しているサクヤの眼前に肛門を突き出した。
白い双玉の中心にある肛門にはべっとりと茶色い糊の様に大便が着いており、プンと強い便臭が鼻を突いた。
そこを舐める…すなわち大便を口にするということはサクヤは絶対に出来ないと思った。
「うう!ウウッ……む、無理です!絶対に無理です!」
「あら、無理なの。そう」
カコはそう言うと体を元の体勢に戻し、洋式便器に腰を下ろした。
「は、はい!無理です!これだけは許してください!お願いします!」
サクヤは目の前に座るカコの股に顔を押し込むように頭を下げて懇願した。
「うぎっ……」
サクヤは頭部に強い痛みを感じた。髪を掴まれ、上に引かれている。
「ヒッ……!」
髪を引っ張られて無理矢理顔を上げさせられて見たものは、右手を大きく振りかぶっているカコ。
これまで何度か食らったあの恐ろしいビンタが来ると思い、サクヤは自分の手でガードしようと手に力を入れたが、サクヤの両手は後ろ手に縛られていた。
(あ、ああ……)
正座させられている。両手を後ろ手に縛られている。髪を手で掴まれて上を向かされている。
つまり、カコのビンタに抗う手段が何一つ無い状態。カコが好きなタイミング、好きな強さ、顔の好きな場所にビンタを打ち込むことが出来る状況。
「初めてこれを奴隷にやらせた時さ、驚いたんだよね」
「……?」
カコは左手でサクヤの髪を掴んで上に引き、右手を振りかぶった状態で話し始めた。
「おしっこはすぐに舐められたのに、これはダメなんだ?って」
「は、はぁ……それは、そうかと、思います……」
バチィン!!!
「うぶっ!!!!」
サクヤの頬を、思い切りカコは右手で叩いた。
カコのビンタの威力。それは普通の女性とは桁違いに強い。その理由は彼女の剣道の経験にある。
剣道は剣先を走らせる為にただ竹刀を持って振るだけではなく、かなり手首の力を効かせて振るう。
さらに言えば、上級者になれば子手打ちや面打ちはほとんど竹刀を振り被らない。相手の小手や面に対して刺すような軌道で竹刀を近づけ、最後に手首の力だけで小さく、そしてとても強く振るう。
そのような動きでも竹刀が相手の防具に当たれば「パシィン!」と鋭い音がする。つまり剣道は腕の力よりも手首の力の方が重要……と言う人間もいる程に手首を鍛える競技なのだ。
小・中・高・大と全てのステージで全国大会に出場しているカコ。そんな彼女の本気のビンタ。
「あぐ、うぐうううううう…………」
サクヤの頬にはみるみるうちに真っ赤な紅葉が浮き上がってきた。
ビンタの威力が分散していない証拠として、カコの手、指の形と寸分違わない形の紅葉がサクヤの頬に刻まれた。
「舐めたくなったら言いなさい。それまで続けるからね」
「へ……」
サクヤがカコの言葉を理解する前に、カコの掌が再びサクヤの頬に迫った。
次は右手で髪を掴み、左手で打ち込んだ。
バチイイイイインッ!!!!
「うぐうううううう!!!!」
サクヤの両頬にはクッキリと真っ赤な跡が付けられた。
(痛い!女の人の力じゃない!)
サクヤは激痛のあまり身を捩ってカコから逃れようとするが、カコにとってそれはあまりに小さな抵抗。
掴んでいる髪の毛が少し動いた程度であり、カコが少し強く髪を引けば、サクヤの顔を再び元の叩きやすい位置に戻すことが出来た。
カコは一切表情を変えず、また左手を振りかぶった。
(うう、そういう事か……)
舐めると言うまでビンタを続ける。カコはそう言ったのだ。
(ダメだ、こんなの連続でされたら耐えられない!とりあえず……)
一度「やる」と言ってしまおう。そうすれば一度ビンタは止まり、カコは舐めさせるために体勢を変える。その時間を稼いでからまた粘った方がいい。時間を置けば顔の痛みも少しはマシになるかもしれない。
「ただし、嘘つきには連続100発よ。舐めると言ったら絶対に舐めなさい」
カコの口から、サクヤの思考を読んだかのような言葉を出てきた。カコは本当にサクヤの心を読んだわけではない。過去に飼った男達が使った方法を覚えているだけだ。
ちなみに、カコは本当に100発打ち込んだ事がある。された奴隷の顔は原型がないほど青黒く膨れ上がり、ビンタの衝撃で両耳の鼓膜が破れてしまった。
「私さ、朝にうんちが出るんだよね」
バチイイイイインッ!!!!!
「うぶううううううっっ!!!」
カコは動けないサクヤの顔に思い切り自分の掌を打ち込んで楽しみながら、自身の排泄についての話を始めた。
「でも、さっき言ったようにここにはウォシュレットがないからなるべく我慢して学校でうんちしてたの」
バチイイイイインッ!!!!
「うぶううううう、カコ、さま、許し……」
「でも、奴隷を飼ってる期間は別。奴隷に舐めさせればいいんだから♡あとほら、なるべく家でゆっくりうんちしたいじゃん?」
カコは顔を腫らし、泣きながら懇願するサクヤの言葉には一切耳を傾けない。坦々とサクヤの頬に自分の掌を打ちつけながら話を続けた。
バッッチイイイイイイイン!!!!
「あはっ、今のいい音!ま、要するにあなたを飼っている間は絶対に家でうんちするし、絶対舐めさせるって事♡」
バチイイイイインッ!!!!
6発目。サクヤの頬が真っ赤に腫れ上がり始めた。
「か、カコ、様……お願いします……聞いてください、お願いします……」
「ん?なに?」
カコはサクヤが何かを言おうとしているのを聞き、髪を掴んでいた手を離した。
するとサクヤは崩れ落ちるようにトイレの床に頭を打ち付けた。
「か、カコ様……お願いします……」
サクヤは少し体勢を整え、カコに向かって土下座のような体勢を作った。両手は後ろに縛られているものの、額をしっかりと床に付けた土下座だった。
(うう、ううう……どうして……)
サクヤの目からは涙が零れた。頬の痛みだけではない。今から行う行為に強い屈辱を感じたからだ。
サクヤは幼い頃から女性は守るべきもので、男である自分達より弱いものであると教えられてきた。
だからこそ、女性に対して優しくしようという考えも身についた。しかし、何となくではあるが女性を守る男である自分は女性よりも偉い存在なのではないかと考えている自分もいた。
それを口に出せば顰蹙を買うことは間違いない。だからこそ誰かに話すことはない。しかし、サクヤの中には確かに男尊女卑の考え方があった。
「カコ様……」
女性に『様』を付けて呼ぶように命令され、
「お願いします……」
女性にトイレの床に頭を付けて土下座して、
「う、うんちがついた…お尻の穴を舐めるのだけは……許して下さい……」
女性に大便が付いた肛門を舐めるのを勘弁してもらう許しを乞う。
サクヤはこれらの行為に強い屈辱を感じ、涙を流した。
仮に相手が強い男性であれば、違う気持ち悪さはあれど、ここまで屈辱的な気持ちにはならなかった。
女性であるカコに徹底的に強さを見せつけられ、勝てないと自覚させられたからこそ辛いのだ。
「舐める以外なら……濡れティッシュで、丁寧に拭かせて頂きますから…ヒグッ…舐める以上に……綺麗にしますから…グスッ…」
サクヤは涙を流しながら、代替案までも出して許しを乞うた。
確かに、サクヤの言う通りウェットティッシュ等で丁寧に拭いた方が確実に綺麗にすることは出来る。
「………」
カコは何も答えず、再びサクヤの髪の毛を掴んでサクヤの顔を自分の顔に近づけた。
「ペッ!」
ビチャッ!
「ううっ!」
カコは、サクヤの顔の中心に唾を吐き捨てた。
「ダメ。だって、舐めさせた方が楽しいんだもん♡」
「え……?」
サクヤにとって、顔に唾を吐かれた事よりも衝撃的な答えが返ってきた。
「うんちがついたお尻の穴を舐めさせられてる惨めな男の顔を見るのが楽しくて好きなの。だから、ダメ♡」
「あ、ああああああああぁぁぁ………」
サクヤはトイレの床に泣き崩れてしまった。
ここまで何度もビンタされ、土下座し、最後には代替案も出して粘った。
しかし、最後はカコが「楽しいから」という理由を押し付けられた。
(楽しいから……!?ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!)
サクヤの心には屈辱や悲しみの他に、怒りが噴き出してきた。
大便が付着した自分の肛門を『楽しいから』男に舐めさせる女。
その女の『楽しいから』の為に、大便が付着した女の肛門を舐めるという、おぞましく、人間の尊厳を全て捨てさせられる様な行為を強いられる男。
(酷すぎる……酷いよ……)
せめて、合理的な理由であってほしかった。
カコが最初に述べていたように、ウォシュレットがないから、とか肛門の皮膚が弱いから、等の一見仕方がないような理由であればサクヤの心はここまで傷つかなかった。
しかし、最初に述べていたのは全て詭弁。結局、カコは楽しみたいのだ。サディストとして、女王様として奴隷に最低な行為を強制して遊びたいのだ。
そう、結局はカコの『遊び』。サクヤの事など玩具としか思っていない。
「よいしょ」
カコは再びサクヤの髪を掴み、サクヤの頭を持ち上げた。
絶望し切ったサクヤが見たのは、右手を大きく振りかぶっているカコ。
サクヤが泣いたり震えたり動かなくなったので、再びビンタで制裁を加えようとしているのだ。
バチイイイイインッ!!!!
「うぶうぅぅうううう!!!」
「ほら、早く決めたら?舐めるの?舐めないの?」
バッッチイイイイインッ!!!!
「ぶふうっ!!!ウ……ゲホッ!ゴホッゴホッ!!」
「ほらぁ、お尻が乾いてきちゃったよ?ま、あなたが一生懸命ぺろぺろして溶かすんだけどさ」
バチイイイイインッ!!!!
「ああああああああぁぁぁ、やります、やりますぅぅぅぅ………」
もう、何も出来ない。痛みに耐える事も、土下座して許しを乞う事も、話し合う事も。
カコという絶対的な女王様に対しては全てが無駄なのだ。一方的にカコの要求を受け入れ続けるしかない。
サクヤはそれを嫌という程理解させられた。
「お。じゃあお願いね♡」
カコはニコリと笑うと立ち上がり、便座の上に足を乗せ、肛門をサクヤの方へ向けた。
「うう、うううう………」
再び向けられたカコの肛門。相変わらず強い便臭が鼻を突く。そして、カコの言った通り大便が少し乾いており、肛門とその周辺にこびりついている。
「じゃ、キスからね♡」
「はぇ……?」
サクヤは意味が分からなかった。何にキスをするのか。
「ほら、言ったでしょ。私のお尻の穴はあなたにとっての『唇』よ。女王様の唇に愛を込めてキスしなさい♡」
「あ、あう、あああ……」
サクヤはさらに涙を流した。カコは本当に、誰かを傷つけて遊ぶのが楽しいサディストなのだ。
大便が付いた女の肛門にキスをさせられる男の気持ちを、プライドを、少しでも考えた事があるのか。
「ほら、唇を尖らせて、目を瞑って。あなたの最高のキス顔を作りなさい」
「うう、ううう………」
サクヤは言われた通りにした。逆らう気持ちは散々掌を打ち込まれた頬の痛みによって消された。
「あはは!そうそう!あら、キス顔とっても可愛いじゃん!あなたにキスされたい女の子は沢山いるんじゃない?」
カコの言う通り、サクヤはそれなりに美形で可愛らしい顔立ちをしていた。だからこそカコのターゲットとなり、こんな事をさせられているのだが。
「そのまま真っ直ぐ!目を開けずにね!あ、ダメ!もっと可愛い顔にして!そう、力抜いて!」
カコは多いに楽しみながらサクヤにあれこれ指示を出し、そしてついに大便がべっとりと付いた肛門でサクヤの唇を受け止めた。
チュッ……
「あははは!『チュッ……』て!めっちゃ可愛い顔でキスしたのが、私のうんちいっぱいついたお尻の穴!あはは、唇に着いてるよ!?私のうんち!」
カコはサクヤが可愛らしいキス顔で大便付きの肛門にキスし、さらに唇に大便を付けながら泣いている様子がおかしかったのか、かなり長い時間笑っていた。
「うう、うぉえ、うげぇ………」
そして、サクヤはカコの笑い声を聞きながら涙を流し続けていた。サクヤはカコに言われた通りに本気で大便が付いた肛門にキスをさせられ、あまつさえその様子を馬鹿にされて笑われているのだ。
屈辱の涙が止まるはずもなかった。
「あー…おかしかった。私ね。大好きなの。うんち付きの肛門にキスさせるの。でも、イケメンがやってるの見るとおかしくってさ。じゃ、普通に舐めてね♡真ん中の穴の所からね」
カコは散々サクヤを馬鹿にし、サクヤが屈辱の涙を流している様子さえも見下して笑った。
そして笑い飛ばしてしっかりと楽しんだ後、平然と恐ろしい命令を下した。
(うう、うううう……)
普通に舐めろ、と言われて舐められるような場所じゃない。しかし、今逆らえばビンタを100発食らうことになってしまう。
ペロッ……
「んっ♡」
(うえ、うげええええ……!!!)
サクヤがカコの肛門を舐めた瞬間、カコはとても気持ちよさそうな表情を浮かべた。そしてカコとは対照的にサクヤは最悪な味に対してとても気持ち悪そうな表情に変わった。
「うげ、うえええ……」
苦味とえぐ味を凝縮したような、最悪な味。臭いも相変わらず酷い。
「ほら、何休んでるの?続けなさい。次に勝手に舌を離したら、気絶するまで鞭打ちでお仕置きするからね♡」
カコは久しぶりの排便後の肛門を奴隷に舐めさせる舌の感触が気持ちよかったのと、顔が良いサクヤに舐めさせる楽しさから、自分勝手に酷いルールを付け足した。
「はい……カコ様……」
しかし、サクヤはそれに抗議することは出来ない。涙を流しながら、その酷すぎるルールを受け入れる事しか出来ない。
ペロ…ペロ…ペロ…ペロ……
(おえ、おえええ!!!汚い!汚い!汚い!無理……こんなの……)
「オエッ…ウプッ……オエェ………」
サクヤは口内にカコの大便の味が広がっていく最悪な体験に吐き気をもよおし、涙を流していた。
「あ…あ…ああああっ………♡」
一方、カコは肛門から背筋を登ってくる様な快感に全身を震わせた。
(良い!お尻も気持ち良いし、やっぱり可愛い男の子に舐めさせると全然違う!)
そう。カコは今まで年上の、主に中年男性に同じことをさせていたがここまで楽しくはなかった。
サクヤの様に整った顔立ちで可愛い少年の顔を『汚す』楽しみがある事をカコは理解した。
『おしっこ漬け』を食わせている時も、汚い中年が汚物を食べている様子は、少々サディズムが満たされるもののそこまで楽しくはなかった。
しかしサクヤが食べている時は、可愛い顔が気持ち悪さと屈辱で歪んでいくのを見ているのが楽しかった。
元々綺麗なものを汚すから楽しい。カコはここに来て新たな快感を学んだ。
(うふ、これからもサクにはいっっっぱい、汚いことやらせようっと!)
「おえ、おええええ………!!」
れろれろ……ペロ、ペロ、ペロ……
「んっ♡んん……♡ほら、周りも綺麗にしなさい!」
「ふぁい……オエッ……ンプッ!!」
突然、サクヤは大きく体を震わせて舌をカコの肛門から離した。
そしてカコの股の下に頭を入れ、洋式便器の中に頭を突っ込むような体勢をとった。
「オエッ、おえええええええ!!!!」
ビシャビシャビシャビシャ……!
サクヤはあまりの気持ち悪さに耐えることが出来ず、便器に向けて胃の中の物を嘔吐してしまった。
サクヤの嘔吐が終わると、トイレの中にはカコの大便の臭いとサクヤの胃液の臭い。そしてサクヤの胃から出てきたカコの尿の臭いが漂った。
「あらあら」
カコは特に動じることはなかった。奴隷が吐くことに慣れていたからだ。
カコの強いる行為に対して嘔吐してしまう奴隷は珍しくない。
「吐いちゃったのね。口の中消毒しなさい」
「ハイ……ハイ……」
サクヤは泣きながら痙攣を繰り返し、消毒液を口に含んで口内を洗浄した。
口内を洗浄した消毒液も吐き出したい衝動に駆られたが、カコを前にしてそれをする勇気はなく、飲み込んだ。
「じゃ、再開ね」
「ううう、うう、もう、許してくださぁい……」
バチイイイイインッ!!!!
サクヤがカコに許しを乞うた瞬間、サクヤは視界が右側に飛んだ。カコがサクヤをビンタしたのだ。
「再開」
「はい………はい………」
サクヤは涙を流しながら、再びカコの肛門に舌を這わせ始めた。
ペロ….ペロ……ペロ……
「ん……♡あ、そうそう。嘔吐はお仕置きの対象だからね」
「ッ………!?」
「クセになっちゃうと良くないからね。鞭打ち100回♡」
サクヤはカコの言葉に驚愕した。まさか、大便付きの肛門を舐めさせられて吐いたら鞭を受けるとは思わなかったからだ。
これをやらされて、吐かない人間がいるわけが無い。なのに鞭を打ち込むと決めている。厳しすぎるルールである。
昔、カコが飼育調教していた男にウォシュレットをさせている時に吐くのを許していると、毎回吐くようになってしまった男がいた。
大便付きの肛門を舐めさせて遊んでいる時に、毎回吐かれて中断されるのをカコは嫌がりこの様なルールを作ったのだ。
「オエッ、オエエエエ………」
ペロ、ペロペロ……
「その辺はもう綺麗になったでしょ?1回顔を引いて確認しなさい」
「は、はい……」
サクヤはカコに言われた通り、一度顔を離して確認した。
「『確認します』って言って舌を離すのはお仕置きの対象にはしないから。但し、1回のウォシュレットにつき3回まで。そして確認は3秒で済ませなさい」
サクヤが顔を離してカコの肛門をよく見ると、舐めそこねてまだ汚れている部分が何ヶ所かあった。
サクヤはそこに口を近づけ、舐め始めた。
「ウエッ……!!!」
しかし、そこは当然大便の味が濃い場所。サクヤは顔を顰め、再び吐き気に襲われながら舐めた。
ペロ、ペロ……レロレロ……
「そうそう。その辺は舐めてなかったもんね。他にもあるでしょ?」
「か、確認します……」
サクヤは再びカコの肛門から顔を離して肛門を見たが、一見綺麗になったように見える。
しかし、カコが「他にもある」という以上舐め残しがあるかもしれない。そう思ってサクヤは自分の目をカコの肛門に近づけてじっくりと観察した。
(あっ……)
よく見ると、少し大便が付いている場所があった。サクヤは3秒を越えないように慌てて口を近づけた。
ペロ、ペロペロ……
(うう、うううう………!)
口の中に広がった大便の味には少し慣れた。しかし、サクヤは女性の大便付きの肛門をしっかりと観察させられ、舌で掃除させられているという現実に対してまた涙が溢れてきた。
「仕上げもよろしくね」
カコがそう言うとサクヤは消毒液を口に含んで口内を消毒し、舌を介してカコの肛門に消毒液を塗った。
「ん、表面はそのくらいかな。じゃ、最後は『ナカ』ね」
「へ……なか……と、言うのは?」
ようやく終わった、と思ったサクヤはカコから新たな命令が下されたのを聞いて驚愕した。
「何言ってるの。うんちが付いてるのは表面だけじゃないでしょ。うんちが通ってきた道もうんちが付いてるんだから、そこまで綺麗にしなさい」
「あ、あの、どう、やって、ですか……?」
サクヤが聞くと、カコは少し呆れたような顔をしながらも、楽しそうに説明をした。
「あなた馬鹿なの?これまであなたの舌で掃除させたんだから、最後も舌に決まってるでしょう?あなたの舌を私のお尻の中に入れて舐め回すのよ♡」
「ッ………!!!!」
サクヤは血の気が引いた。この悪魔のような女は、そこまでさせるのか。
「ほら、早く。この後大学行かなきゃなんないんだから早くしなさい」
「うう、うううう………」
サクヤは涙を流しながら舌を突き出し、カコの肛門に舌の先端を付けた。
「ほら、舌を固くして!」
「ン、ンンン……!!」
肛門が固く、簡単に舌が入らない。しかしだからと言ってやめればどんな目に合わされるかは分かっている。
サクヤは必死に舌を固くし、カコの肛門に舌先を押し付けた。
ズニュッ……!
「んんっ♡」
カコはサクヤの舌が入った気持ちよさに少し声をあげた。
「ほら、ゆっくりと舌を回して……お尻の中を拭きなさい♡」
上、右上、右、右下、下、左下、左、左上……とサクヤは奥まで差し込んだ舌を必死に回した。
ズニュッ……ズニュッ……グリュッ、グリュ……
「オエエ……アエエエエ………」
自分の舌が、悪魔の女の腸の中で汚されているのを感じる。上下左右全ての方向から、カコの腸壁が自分の舌を味わっている。
腸壁にこびりついていた大便が、自分の舌に染み込んでいくのを感じる。
「ん~気持ちいい~♡それっ!」
キュッ!!
「アエ、アエエエエ!!!」
突然、サクヤは舌を締め付けられる様な強い痛みを感じた。
「あはは、痛かった?ごめんね。まだまだやるけど♡」
先程のサクヤの舌の痛みは、カコが肛門に力を入れてサクヤの舌を搾りあげた事が原因だった。
カコはこのように奴隷の舌を肛門で締め上げ、奴隷の舌の柔らかさを肛門で味わうのが好きだった。
「それっ♡」
キュウウウウウウウ!!!
「ア、アアアアア!!!イアイ!イアイイイイイ!!!!」
「あははははは!」
サクヤがあまりの痛みに舌に力を入れて抵抗しようとても、舌の力が括約筋の力に勝てるはずもなく、サクヤの舌はカコの肛門に搾り上げられ続けた。
しかし、サクヤは逃げられない。カコの気まぐれな締め付けに耐えつつも腸内を掃除するために舌を回し続ける事しかできなかった。
「そうそう上手♡あと5,6周したら抜いてもいいよ」
「ウエ、ウエエエエ………!!」
カコはゆっくりと、ゆっくりと自分の腸内で回るサクヤの舌を味わい、時たま締め上げてサクヤの舌の柔らかさを味わった。
「ん、もう抜いていいよ」
「アエ………」
ヌポ……
ようやくカコの肛門から引き抜かれたサクヤの舌は、カコの腸内に長時間挿入させられた事により、酷い状態となっていた。
サクヤの舌はカコの腸内に長時間挿入させられた上に気まぐれに締め上げられた事により、まるで漬物のように大便の残り滓と腸液に漬け込まれ、茶色く変色し、何より酷い臭いを放っていた。
「あはは♡あなたの舌、凄いことになってるよ!あはは!」
カコは奴隷の舌を腸内に挿入させて長時間漬け込み、この状態にするのが好きだった。
茶色く変色し、酷い臭いを放つ舌。サクヤの口内は地獄の様な状態になっていた。
「うぶっ、ううう………」
サクヤは首からぶら下げている瓶に手を伸ばした。口内の消毒をしたかったのだ。
「あ、サク。『ナカ』の仕上げはいいわ。私のうんち後の『ウォシュレット』はここでおしまい」
「へ……?」
カコはそう言うと、トイレットペーパーを少し使って肛門を軽く拭いてトイレに流し、トイレのドアの鍵を開けた。
「サク、ハウス。あ、そうだ」
「………あ、ああ!」
カコはサクヤを檻に入れる瞬間、サクヤの首輪の消毒液を外して檻の上に置いた。
檻の上に置かれてしまえば、サクヤはもうそれを手にすることは出来ない。
「ふふっ。これは私の体を綺麗にするための物で、あなたの口を洗うものじゃないから」
檻に入れられたということは、今後10時間放置されるということ。そして、それは舌がカコの肛門の中でたっぷり漬け込まれた最悪の状態で放置されるということ。
「あ、そうそう。おしっこ漬けは今朝は無しね。うんちする時におしっこも出ちゃったから。おしっこが無い日はあなたのご飯は無し」
「そ……そんな!カコ様、死んでしまいます……そんなぁ……」
サクヤは口内が最悪の状態で10時間過ごさなければならない事実に絶望した。
おしっこ漬けを与えられないのも、先程吐いてしまった事を考えると、夕方に空腹で地獄の様な時間を味わうことになる。栄養失調で倒れるか、蒸し暑い部屋に放置されることを考えると最悪死ぬことも有り得る。
「ふぁいじょうぶ、みずはふぁげるから」
カコは泣きながら懇願するサクヤを放置してキッチンに行き、口に歯ブラシを差し込みながら戻ってきた。
サクヤの口内を最悪な状態に汚染したカコだが、自分の口内の清潔だけは、欠かせない歯磨きにより常に守っていた。
カコは自分のカバンの中から飲み残しのペットボトルを取り出し、その中身を捨てた。
「ん……」
そして、ペットボトルに口をつけた。
(ま、まさか……)
サクヤは嫌な予感がしたが、その予感は的中した。
カコの口内は今、歯を磨いた際に出た歯垢と、泡立った歯磨き粉と、唾液に満ちている。
本来それは問答無用でシンクに捨てられる液体。しかしカコは
「べぇー……」
ペットボトルの中に吐き捨てた。ボトボトボト……とペットボトルの中にカコの歯垢と唾液、そして歯磨き粉が溜まっていった。
そしてカコはキッチンのコップを一つ手に取り、水を汲んでその水を口内に含んだ。
「んー……」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……
水はカコの口内で回され、カコの口の中に残った歯磨き粉や歯垢を削ぎ落としていった。
「っ……ぺぇー……」
ビシャビシャビシャビシャ……
そしてカコはそれさえも、ペットボトルの中に吐き出した。
「ん……んんっ!けほっ!けほっ!」
サクヤがその様子を呆然と見ていると、カコが咳き込んだ。その音から痰が絡んだ咳であったことがサクヤにも分かった。
「あはは、これは偶然。オマケね♡ペッ……」
ペットボトルの中に、カコが吐き出した黄色い痰が糸を引いて落ちていった。
「水はこのくらいあればいいかな?」
「あ、あ、あああ……」
ペットボトルの中に溜まったそれは『水』とは呼べない。カコの唾液と、歯垢と、歯磨き粉と、少量の水と、痰の混合物。
「~♪」
カコは鼻歌混じりにそのおぞましい液体が詰まったペットボトルを、檻の中に通じる給水機に取り付けた。
「よし、いい子にしててね。私は大学に行くから」
カコは呻き声を上げて嘆いているサクヤに気をかけることも無く、軽く化粧をした後に冷房の電源を特に躊躇することも無く切り、通学用のカバンを持った。
「あ、あああ、あああ……!」
サクヤは絶望した。口内は大便の味に満ちている。おしっこ漬けさえもありがたいと思うような空腹。今日、唯一与えられた水分は、尿入りの水の方がマシとも思えるような信じられない汚物。
「あ、そうだ」
カコは檻の方にスタスタと歩いてきて、檻を覗き込んだ。そしてサクヤの絶望に溢れた哀れな表情を見て楽しそうに笑った後、言った。
「今日、帰ってきたらさっき吐いちゃったお仕置き……鞭打ち100回、いや、これもオマケして150回やるからね♡」
「ああ、そんな、そんなあぁ……」
サクヤに畳み掛けられるさらなる絶望。そして、さらに理不尽な事にあっさりと回数まで増やされた。
「うふふ。なんか今日気分良いから、め!ちゃ!く!ちゃ!痛くしてあげる!もう生きてるのが嫌になるほど、痛いところにたっっぷり!思いっっっっきり!打ち込んであげるからね♡」
「ああ、許してください、許してくださいカコ様あ……お願いします……お願いします………!」
これから口内の汚さと空腹、そして汚染された水を与えられて10時間過ごすという絶望もあるのに、カコが帰宅してからそんな恐ろしい拷問を受けさせられるという絶望。
サクヤは完全に希望を失い、檻の鉄格子を掴んで俯いて泣くことしか出来なくなった。
「あはは!その表情、最高に可愛いよ!じゃ、楽しみにしててね。今夜、男の子に産まれてきた事を後悔するぐらい…痛めつけてあ・げ・る♡」
カコはケラケラと笑うと、そのまま部屋の外に出ていった。
「ああ、ああああああああぁぁぁ………」
サクヤはもう何も出来ない。考えることさえも。これから10時間の絶望。カコの帰宅後に行われる理不尽な鞭打ちの絶望。その二つに心を押し潰され、鉄格子を掴んで呻きながら俯く事しか出来なかった。
大学。
(ああ、色々やらないと……)
カコは朝から忙しく動き回り、作業をしていた。
昨日セットしておいた同位体分析の機械の分析結果を回収し、次のサンプルをセットしなければならない。
次の学会で発表する為の英語要旨を書いて先方に送らなければならない。次のゼミの準備もある。
昨日をほぼ論文探しに費やしてしまった。今日はこれらの作業を出来るだけ進めたい。
バタン!
カコがパソコンを立ち上げたところで、研究室の扉が勢いよく開いた。
「学生諸君!不味いことになった!……あれ?今日は松田クンだけか?」
「……は、はい。先生、どうしたんですか?」
カコは嫌な予感がしながらも、ドアを開けて入ってきた自分の担当教授に返事をした。
そして、運悪く教授が言う通り今の研究室にはカコしかいなかった。
「頼む!この作業を手伝ってくれ!私は忙しくて出来ないんだ!頼んだぞ!」
「え!?あの、教授!?」
教授はそう言うとカコに重い封筒を押し付けてどこかに行ってしまった。
中身を見ると、教授が担当している授業の中間試験と期末試験の解答用紙。
教授は前期の成績を付けるために学務に成績を出さなければならないのだろうが、期末試験どころか中間試験の採点すらしていなかったのだ。
そしてどうしようもなくなり、それをカコに押し付けていったのだ。
「ええー、もう、ありえない……」
カコは小さくぼやき、誰かが来たら手伝ってもらおうと思いながら、その採点を始めた。
「うぅ、おえっ、うぷ……!」
カコの部屋にある檻の中で、サクヤは苦しんでいた。
サクヤを苦しませるのは、口の中に強く強く残る大便の味。いくら唾液を出しても、カコの腸内で揉みこまれた舌についた、カコの腸内の味と大便の味が消えない。
この最悪の味がサクヤの吐き気を加速させるが、先程吐いたことにより、胃の中に吐くものも無くサクヤはただただ嘔吐感に苦しんでいた。
そして空腹。サクヤは昨晩に食べたものを、今朝カコの大便付きの肛門を舐めさせられている時に全て吐いてしまった。
その上、カコは大便を排泄している時に尿も出てしまったからという理由でサクヤに食事を与えなかった。
(ご飯があるなら……普通に食べさせてくれれば、いいのに……)
そう。カコはサクヤに、普通の食事を与えることは出来た。しかし、自身の尿をかけないのであれば食事は与えないという選択をしたのだ。
徹底した食事管理。カコは絶対に奴隷に「普通の食事」は与えない。
自分の体から出たものを奴隷に口にさせるのが好きなカコは、必ず奴隷に飲食物を与える時に何かしらの体液を混ぜて食べさせ、飲ませるのだ。
カコのそのおぞましい嗜癖が、過去に飼育調教した男達の精神を破壊したと言っても過言ではない。
人間は、食事さえまともなものを食べていれば心を病むことは少ない。
(暑い……)
さらにサクヤを苦しめているのは、この部屋の暑さ。夏場の東京の気温は極めて高く、冷房を切られた屋内に放置されたサクヤは汗が止まらなかった。
カコは奴隷のために電気代を多く使ったりはしない。カコが飼育する時に奴隷に気を付けることは「殺さない」事のみ。
カコが過去に調教してきた男達の中で、カコの恐ろしい調教に完全に心を壊され、カコに涙ながらに「殺してください」と土下座して懇願した奴隷がいた。
しかしカコは「えー。そんなの殺人犯になっちゃうじゃん」と笑いながら、その夜その奴隷に「女王様を殺人犯にしようとした罪」としてたっぷりと鞭を打ち込んだ。
その奴隷は、その後も変わらずに裸で檻の中に入れられ続けて飼育され続けた。そして舌を噛んで自ら死ぬことがないように、猿轡を付けられる事になった。
その後もしっかりと生かされたままカコに監禁飼育を続けられ、完全に心を壊されたその奴隷は何一つ自分で物事を考えられなくなり、日本語さえもままならなくなった所でカコに飽きられ、捨てられた。
当時その奴隷は35歳。カコは19歳だった。35歳の男が、まだ10代の娘に完全に玩具にされ、精神を破壊されたのだ。
カコはその男の命を奪わなかったが、命以外の全てを奪い、自分のサディズムを満たすための生贄としたのだ。
(うう…喉が、乾いた……限界だ……)
サクヤはいくら暑くとも、喉が乾いても「それ」だけは手を出さないと思っていたが、カコがサクヤを置いて出ていって僅か1時間で限界がきた。
サクヤは檻の中に伸びている給水器に口を付け、舌で先端を舐めた。
ドロ……
すると、給水器からサクヤの口にかけておぞましい粘液が流れ込んだ。
カコが作っていった、自分の歯垢と、歯磨き粉と、唾液と、水と、痰の混合物。
「ウブッ!おぇ、オエエエ……!」
ごくん、ごくん、ごくん……
口に入れた瞬間、恐ろしい吐き気に襲われた。到底飲み物と認識できる味ではない。味も最悪だが、さらに最悪なのは喉を通過する感触。
カコが最後に吐き出した大きな痰が溶けているのだろうか。まるでサクヤの喉を巨大なナメクジがゆっくりと這って進んでいくように、ゆっくりと、気色悪くその液体は喉を通って行った。
「はぁっ!はぁっ!おえ、うぷっ!」
しかし、この液体によって少し水分が補給されたのも事実。少しずつ飲んで、死なないように水分量を調整していかなければならない。
カコが帰ってくるまで、何とか生き延びなければならない。
「う、うあああああ………」
(そうだ、そうだった……カコ様が、帰ってきたら……)
──今日、帰ってきたらさっき吐いちゃったお仕置き……鞭打ち100回、いや、これもオマケして150回やるからね♡
(嫌だ、もう痛いのは、嫌だ……)
──うふふ。なんか今日気分良いから、め!ちゃ!く!ちゃ!痛くしてあげる!もう生きてるのが嫌になるほど、痛いところにたっっぷり!思いっっっっきり!打ち込んであげるからね♡
「あああ!嫌だ!鞭はもう!嫌だぁ!」
──あはは!その表情、最高に可愛いよ!じゃ、楽しみにしててね。今夜、男の子に産まれてきた事を後悔するぐらい…痛めつけてあ・げ・る♡
「あああ!許して下さいカコ様!許して下さいいぃぃぃ……!!」
カコが残していった言葉はサクヤの脳内に強く強く残り、サクヤは目の前に浮かぶカコの幻影に許しを乞い続けた。
「カコ様、降参ですぅ……降参です……僕は、カコ様に勝てません……許してください……」
現在、カコはサクヤの事など完全に忘れて研究室で採点作業をしている。
しかし、カコがサクヤの事を忘れている間もサクヤの脳内には常にカコが浮かび続ける。
カコは女王様としての自分は本当の自分ではない、と認識している。大学院生としての現実を忘れるために、少しの間女王様を「演じて」ストレスを解消しているだけ。
「カコ女王様」はストレスを解消するためのカコの演技。カコはいつでも自由にその舞台から降り、女王様の演技を辞めることができる。
しかし、舞台の上で奴隷にされた者達は違う。
カコが女王様としての舞台を降り、大学院生として「現実の生活」をしている間も舞台から降りることは許されず、舞台に置かれた檻の中で、カコがただ演じていたに過ぎない「カコ女王様」の幻影に怯え続けるのだ。
「カコ様ぁ……ごめんなさいぃ……もう、吐きませんからぁ……うんちが付いたお尻を舐めても……吐かないように頑張りますからぁ……許してくださいぃ……」
サクヤがカコの幻影に泣きながら謝っているこの瞬間、カコは採点作業の小休止にアイスコーヒーを入れて飲んでいた。
もちろん、サクヤの事など頭の片隅にすらない。完全に忘れている。
男はいつの時代も「女の演技」に騙され、心を潰されてきた。
カコに奴隷にされた男達は、カコの「女王様の演技」に耐えきれずに心を潰される。
これもまた、男女の関係の一つなのかもしれない。
午後6時過ぎ。部屋の扉が開き、カコが帰ってきた。
「ただいま…」
サクヤはあの後、喉の乾きに耐えきれずにカコの吐瀉物を全て飲み干した。耐え難い気色悪さではあったが、命を守るために必死に飲んだ。
そして、カコの幻影に怯えながら必死に土下座し続けた。
「か、カコ様!あの、僕……」
「うるさい」
「ッ……!!」
カコは一言だけそう言うと、チッと舌打ちをしてから、手に持っていたコンビニの袋を投げるように机の上に置いた。
「………」
そして一言も発することなく、コンビニの袋の中に入っていた弁当を食べ始めた。
サクヤはカコの雰囲気から、相当機嫌が悪いことを理解した。
(ああ、あああ………)
機嫌が悪いということは、鞭を振るう手に力が入るという事だ。サクヤはそう思って震えていた。
(いや、でも……)
もしかしたら、今日は『何もされない』かもしれない。サクヤは無言で晩御飯を食べているカコを見て思った。
何故なら昨日、一昨日はカコが帰宅したら直ぐに汗ばんだ足を「おかえりの儀式」と言われて舐めさせられた。
さらに夕飯を食べている時に見せつける遊びもしない。
しかし、カコはそれをやらせようとしない。自分を檻に入れたまま弁当を食べ始めた。つまり、カコは今女王様として楽しめるような気分ではないということ。
サクヤはイライラした日はすぐに眠ることにしている。カコももしかしたら、晩御飯を食べたらすぐに眠るかもしれない。
「……ふぅ」
カコはコンビニの弁当を食べ終えると、一緒に買ってきたジュースをゴクゴクと飲み干した。
「……じゃ、始めましょうか」
「あ、あの?な、何を、でしょうか……」
「はぁ!?」
サクヤはカコが忘れているという一縷の望みにかけ、敢えてとぼけてみたが逆効果だった。
「言ったよね!?出かける前に!あなたが吐いたお仕置きをするって!何忘れてんの!?馬鹿じゃないの!?50回追加ね!」
「ああ……そんなぁ……ごめんなさい……」
「うるさい!あーあ、馬鹿な男!最初は100回だったのに、倍だよ!?朝言った通り、生きてるのを後悔するぐらい痛くしてやるから!覚悟しなさい!」
カコはそう言うとサクヤを檻の中から引きずり出した。サクヤは抵抗しようとしたが、髪を掴まれて思い切り引っ張られてしまうと、碌な抵抗は出来なかった。
ガチャン!
「え?」
カコはサクヤの両手に手錠をかけ、その手枷を繋ぐ鎖に紐を付け、部屋の高い位置にあるフックにかけた。
そしてフックにかけた紐の先端を引き、檻の鉄格子に結びつけた。
こうすることにより、サクヤは手錠により上から両手を吊り下げられた形となった。
「あと、これを履きなさい」
カコはサクヤの足を掴んで、白いオムツをサクヤに履かせた。サクヤはその意味が分からなかったが、逆らえるような雰囲気ではなかった。
そしてカコはサクヤの両足を閉じられないよう、左右の足首に手錠を付けて檻の鉄格子に繋いだ。
サクヤは足を広げた状態、かつ両手を上に吊り上げられて『人』という字の形に拘束された。
「あのフック、かなり強く固定されてるから。体重かけても無駄だからね」
カコは天井近くの柱に突き刺さっているフックを指さして言った。
「じゃ、始めるから」
「ああ、ああああああああぁぁぁ………」
一切動けなく拘束され、目の前には不機嫌なカコ。サクヤはあまりの恐怖に気絶しそうになった。
「か、カコ様……」
「なに」
「こ、この、履かされた…オムツのようなものは、なんで、しょうか……?」
サクヤは声を震わせながら、最大の疑問であったオムツについて質問した。
「ああ。それはただのオムツよ。私がお仕置きをすると、みんな痛みと恐怖で漏らしちゃうから先に付けておくだけ」
「ひいいいぃぃ……」
サクヤはその答えだけで、失禁してしまうかと思うほどの恐怖を感じた。
「あと、今日使うのはいつもの乗馬鞭じゃなくて、これだから」
カコはクローゼットの方に歩いていき、何かを持ってきた。
「ああ、ああぁ……」
サクヤがカコに見せられたそれは、革の光沢でテカテカと黒光りする、革製の一本鞭。
「覚悟しなさい。いつもの5倍は痛いと思うから」
「ああ、ああああああああぁぁぁ……許して、許してくださいぃ……」
「許さない。それに私、今日嫌なことがあって滅茶苦茶イライラしてるの」
「は、はい……?」
サクヤは突然始まったカコの話に困惑しながら返事をした。
「教授が採点を押し付けてきてさ、しかも後から来た人達が忙しいからって全然手伝わないの」
ヒュオンッ!
「へ……?」
カコは話しながら、一本鞭を空中に舞わせた。
そして空中に舞い上がった黒蛇のような一本鞭は、勢いよく急降下してサクヤの体に迫った。
ビシイイイイイイイイイイイイイン!!!!
「ふぎゃあああああああああああ!!!!??」
カコの鞭は、勢いよくサクヤの脇腹に炸裂した。
「痛い!痛いいいいいいいい!!!!」
今までとは段違い、別次元の痛み。脇腹から侵入した「痛み」という虫が全身を駆け巡り、サクヤの全身にその衝撃と絶望を運ぶ。
ビクン!ビクン!ビクン!
サクヤの意志とは関係なく、サクヤの体が『異常事態』を外部に伝える痙攣を開始した。
「ちょっと、静かにしてくれる?猿轡付けるよ?私、話聞いて欲しいんだけど。次うるさくしたら100回追加ね」
「……!?…?…!?」
サクヤは何が起こっているのか、何を求められているのか一切分からない。
しかし「静かにしろ」という指示だけ理解し、必死に喉を絞って声を出さないように力を入れた。
「でさ、最悪なのが『忙しい』って断った四年生、YouTube見てるの。有り得ないよね!?」
ヒュオンッ!
また、カコが持つ黒蛇が舞い上がった。
バシイイイイイイイイイイイイン!!!!
「─────────────────カハッ!!!!!ケホッ────!!!!」
やはり、到底人間の体が受け入れられるような痛みではない。サクヤは全身を痙攣させながら、必死に声だけは出さないように耐えていた。
「それでさ、私が『暇なら手伝ってくれないかなー?』って言ったら『俺、そういうのやった事ないんで』って!いや、誰でも出来るから!そいつマジでウザかったんだよね!」
ヒュオンッ!
ビッシイイイイイイイイイン!!!!!
「カッ──────────ア、アアアア!!ウグッ──、ゲホッ!!」
3発目の鞭が、サクヤの体を貫いた。サクヤはカコが話してる内容がなんなのか、ほとんど分からない。
しかし、何をしようとしているのかは理解した。カコは今「ストレス発散」をしているのだ。
カコは普通に笑いながら鞭を打ち込むこともあるが、特別嫌なことがあった今日のカコのストレス発散は、奴隷に鞭を打ち込むだけではない。
これは極めて女性的なストレス発散で、カコは現実であった嫌なことを誰かに愚痴として話したいのだ。
しかし、カコは幼い頃から『女の子は嫌な事があっても常に笑顔』と母親に厳しく躾をされてきた為、友人や家族に愚痴をこぼすことは出来ない。
だからこそ、こうやって奴隷に愚痴を聞かせて心の膿を吐き出し、さらに鞭を打ち込むことで発散もしているのだ。
「でさ、その後から来た人たちも『松田さんなんか一人でやってるなー』みたいな感じで誰も手伝わないの。今日に限ってサキちゃんも来ないしさ!」
ヒュオンッ!
「カコ様、もう、やめ……!」
「うるさい!」
ビッシイイイイイイイイイン!!!!!
「イギッ───ア、アアアアアア!ああああああああぁぁぁ………」
サクヤは与えられた激痛にのたうち回るが、拘束されているためガチャガチャと手錠を鳴らすことしか出来ない。
「あのさ、趣旨理解してる!?私は今、あなたに話してるの!あなたはしっかり私の話を聞いて、痛~い鞭を打ち込まれていればいいの!」
あまりにも理不尽な要求。しかしこれは自分への肯定を得て心を癒すことが出来る上に、何かに攻撃して鬱憤を吐き出すことが出来る方法で、女性のストレスを最も効率的に解消する方法であることは間違いなかった。
しかし、カコのストレスは効率的に解消されていくが、付き合わされる者に最も負担がかかる方法であることも間違いなかった。
「そもそもさ、なんでいっつも私なの!?って思うじゃん!面倒臭い仕事、いっつも私が引き受けさせられてるの!」
ヒュオッ、バチイイイイイイイイイン!!!!
「フギッ──アアアアッ!ガホッ!ゲホッ!!」
ここまでカコの鞭は全て脇腹に打ち込まれている。脇腹には神経が集中しており、鞭を打ち込まれると桁違いに痛いということをカコは知っていた。
「あなたはどう思う?はい、答えて」
「はい……?えと、あの……?」
サクヤは答えられるはずがない。何故なら、最初から痛すぎてカコの話など聞いていなかったからだ。
「遅い!!」
ヒュオンッ!バッチイイイイイイイイイン!!!!
「ンギイイイイイイイイイイイ…………!!!!」
再び、脇腹に鞭が打ち込まれた。サクヤは奥歯にヒビが入るのではないか、というぐらい強く強く歯を食いしばった。
「そもそもあなた、私の話聞いてた!?今日の私が何にムカついたか、最初から話してみなさい!」
「え、あと、えと……ごめん、なさい……カコ様、許して……」
「は!?聞いてなかったってこと!?あーもうムカつく。今までの鞭の回数0回ね。最初からやり直し」
「え、そ、そんなぁ……!」
「当たり前でしょ?私が愚痴ってるのになんで聞いてないの!?最後に全部覚えてるかテストするから。ちゃんと私の話を聞いていなさい!」
あまりにも無茶苦茶な要求。しかし、これは世の中の女性が彼氏や旦那、パートナーに『ストレス発散の為に何をしても良い』と言われれば毎晩行われる可能性がある行為であった。
とにかく話を相手に聞かせたい。そして、それを肯定されたい。カコの脳は普段は理数系で思考しているが、ストレスが溜まった日は100%女性的な思考回路により、奴隷をストレスの捌け口にしていた。
「えと、あの、カコ様が、いつも……教授の、先生に、仕事を押し付けられて……他の人は、手伝ってくれなくて……」
「そう。それで?」
「は、はい……?」
サクヤは再び鞭を打ち込まれ、激痛に気絶しそうなのを堪えながらカコの話を必死に覚えた。
「あなたはどう思う?」
「あ、あの、YouTube見ていた人はともかく、他の人達は本当に忙しかったかも……」
ヒュオンッ!
バチイイイイイイイイイイイン!!!
サクヤが話終わる前に、カコは鞭を振り上げて怒りのままにサクヤの腹に打ち込んだ。
「ウブウウウウウッ!!!ゲホッ!ゴホッ……!」
「違うでしょ!?はー、分かってない!まだ女王様の気持ち、女心を分かってないのよあなたは!」
ヒュオンッ!!
カコはそう言いながら、怒りのままに鞭をサクヤの背中に打ち込んだ。
ビシャアアアアアアアアアアン!!!
「ひぎいいいいいいいいいいっ!!!」
「あのさ、男は、私の奴隷は私の話を『聞いて』くれればいいの!あなたの意見は一つも聞いてないから!」
「あ、あが、あがっ……!」
「ハイやり直し!あなたはどう思うの!?」
サクヤは意味が分からない。意見は聞いていないのに、『どう思う』と聞かれてもどうしようもない。
「わ、分かりません……!!」
「は?何それ!?」
ヒュオンッ
カコは勘の鈍いサクヤへのイライラを込めて、再び脇腹に鞭を振り下ろした。
ビッシイイイイイイイイイン!!!
「んぎぎぎいいいいいいいいいいっ!!!」
「違うでしょ!?私はあなたの主人。あなたは奴隷!なら、なんて答えるのが正しいの!?」
「あ、あぐ……か、カコ様が、押し付けられて、かわいそう、だと、思います……」
サクヤがそう答えると、カコの表情が少しだけ緩んだ。
「そう。いちいち言わせないで。あなたの意見なんてホントにどうでもいいの。あなたは奴隷として、私を気持ちよくさせる事だけを考えて発言しなさい。それがあなたの存在意義よ」
「は、はい……はい……」
サクヤはようやくカコの言う「女心」を理解した。いや、理解させられた。
女性が、カコが求めているのは『肯定』。本来女性側から相手に「肯定しなさい」と頼む事は有り得ない。
しかし、カコは奴隷達をそう調教して自分の話を気持ちよく話せるようにしてきた。自分の愚痴を、自分の心の膿を素早く相手の心に押し付けられる様にしているのだ。
「それでさ、荒山先輩なんてマジ最悪。私の机を覗き込んでからすぐ離れてったの。有り得なくない!?絶対逃げたじゃん!」
ヒュオンッ!!
ビッシイイイイイイイイイン!!!!!
「うぎいいいいいいいいいいいいいい!!!」
「だいたい、教授もさ。人の時間をなんだと思ってるの!?他にやりたいこと、いっぱいあるのにさ!」
ヒュオンッ!!
バッシイイイイイイイイイン!!!!
「うぎいいいいいいいいいいいいいい!!!……か、カコ様……!」
サクヤはつい、カコの「人の時間をなんだと思ってるの」という発言に反応してしまった。
しかしそれは仕方の無いこと。サクヤはカコがその発言をする事だけは、許すことが出来なかったのだ。
「なに」
愚痴と拷問を邪魔されたカコの不機嫌そうな返事にサクヤは怯えたが、サクヤは自分の中に沸いた小さな、しかし強い怒りに任せ、言葉を続けてしまった。
「あ、あああ……か、カコ、様も……僕の、時間を……奪って……あの、僕も、他のことを、したい……です……」
ヒュオンッ!
カコはサクヤの魂の叫びのような発言に対する返事をする前に、鞭を振り上げた。
「私はいいの!!」
ビッチイイイイイイイイイン!!!!!
「んぎぎぎいいいいいいいいいいっ!!!!!!」
サクヤの脇腹から血が吹き出るほど、強い勢いでカコは鞭を打ち付けた。
そして、サクヤが受け取ったカコからの返事は理不尽極まりないものであった。
「あのさ、あなたは私の奴隷!だから私の好きにしていいの!あなたの時間!?知らないよ!あなたは他の事なんてしなくていい!ずっと私のド・レ・イ!!」
ヒュオンッ!!
バッチイイイイイイイイン!!!!
カコはサクヤを怒鳴り散らし、その怒りを鞭に込めてサクヤの下半身に打ち込んだ。
「あー、なんなの!?さっきの話聞いてなかったの!?あなたは、私を喜ばせる発言だけしてなさい!それ以外は喋んなくていいから!あーイライラする!100発追加する!300ね!」
「そ、そんなぁ……許してください……許してくださいぃ……」
「うるさい!あなたが、くだらない意志を持ったのが悪いのよ!」
ヒュオンッ!!ビッシイイイイイイイイイン!!!!!
「ふんぎいいいいいいいいいいいいい!!!!」
ジョ、ジョオオオオオ………
サクヤはあまりの激痛に、ついに失禁してしまった。
鞭一発が、これまで受けたどの痛みよりも強い痛み。それを一晩で300回打ち込むと宣言されたのだ。
「今日は300発もあるし、私が研究室配属されてから今までの愚痴を全部あなたに吐き出すから!全部受け止めて覚えなさい!最後にテストするからね!覚えてなかったら何発でも追加するから!」
「あと……カコ、様は……たくさん、理不尽な、目に、あってきて……」
「うん」
「大変な、思いを、されてきて……」
「そう」
「カコ様が、全部、正しい、です……」
300発の鞭。時間は既に深夜に達していた。カコの愚痴と鞭は止まらず、サクヤはカコの話を全て覚えさせられ、テストもされた。
「そうね。じゃ。これ以上のお仕置きは許してあげる。あなたももう吐いちゃダメよ」
そう言ったカコの表情は、スッキリとしており、軽い運動と共に全てのストレスが解消されたこともあり、肌ツヤが良くなり、目の輝きが増し、生来持っている美しさに磨きがかかった。
素早くストレスを吐き出す事は、カコの美しさを保つ為にも役立っていたのだ。
一方、カコのストレスを吐き出されたサクヤは酷い有様だった。
全身に余すことなく赤、青、黒と様々な色の鞭傷が付けられ、さらにあらゆる所から血が滲んでいた。
そして最初に履かされたオムツの中には、カコの恐ろしさと鞭による激痛のせいで、小便と大便を漏らしてしまい最悪に汚れていた。
そしてサクヤの顔は元々可愛らしい顔立ちであったのが見る影もない程、醜く歪んでいた。
カコの容赦も情けも無い、自分のストレスの解消だけを考えた、我儘な鞭により与えられた激痛。
奴隷の意見や反論は一切聞かずに自分の話だけを押し付ける理不尽。
激痛と理不尽を自分に与え続ける、カコに対する絶対的な恐怖。
あまりの恐怖と激痛に対して、男としてのプライドも無く、泣き叫びながら小便と大便を漏らしてしまった惨めさ。
様々な要素がサクヤの綺麗な顔を、見る影もないほど醜く歪めたのだ。
全てを吐き出して美しさを磨いた女王様と、全てを吐き出されて醜く歪んだ奴隷。
残酷で理不尽な『お仕置き』の後に残ったのは、より美しくなった女王様と、見る影もなく醜く歪み、汚れた奴隷。
余りにも残酷で理不尽な結末であった。
『お仕置き』の後、サクヤはトイレと風呂場で全身を洗うことを命じられた。
シャワーから出る湯と、自分の体を擦る石鹸は容赦なく鞭傷に染み、サクヤはその間涙が止まらなかった。
サクヤが体を拭くのは、この部屋に来る時に持参させられた自分の白いバスタオル。
このバスタオルはカコによって洗濯をしてもらえる事はこれまで一度もなく、玄関横にあるスペースで干されている。カコがレインコートやブーツを干すのに使っているスペースだ。
(うっ……)
サクヤはこのタオルを見る度に嫌な気持ちになった。
タオルに多くの汚れが染み込んでいるからだ。
その汚れの正体は自分の血。カコに鞭を振るわれた後にシャワーを浴びて体を拭くと、赤い血が白いタオルに染み込むのだ。
サクヤはこのタオルについた血を見る度に、自分がどれほどカコから酷い暴力を受けているかを思い知らされる。
「じゃ、ご飯の時間ね」
リビングルームに戻ってきたサクヤにそう声をかけたカコは、すっかり元通りで、家に帰ってきた時の苛立った様子は完全に消えていた。
「~♪」
カコにとってそんな事はもう過去の事なのだ。今は、これから奴隷に与える食事の上で放尿するのを楽しみに鼻歌混じりに準備をしている。
「今日は特盛よ♡朝あげなかったからお腹空いたでしょ?」
カコはそう言うと米を三合ほど炊いてある炊飯器の中身の米を、全てサクヤのガラスボウルの中に入れた。
「え…?そ、そんな!?」
サクヤは驚いた。普段与えられるのは米1合の半分より少し多いぐらい。普段の4倍近くの量のご飯がボウルに盛られたのだ。
「あ、やばい、漏れる!」
こんな量、通常の食事メニューであったとしても食べ切れるわけがないと思ったサクヤをよそに、先程ジュースやお茶で給水しながら鞭を振るっていたせいか、我慢の限界だったカコは慌ててボウルに跨った。
「や、やめ……っ!」
(普通に食べても食べきれない量のご飯に、そんな事されたら──!)
ジョオオオオオオオオオ………!!!
「ふぅ~~♡」
サクヤの声や思いに一切耳を貸すことは無く、カコは自分が気持ちよく、そして楽しむことが出来る選択肢を選んだ。
「やっぱり、我慢は体によくないね♡」
ショオオオオ………
「ああ、ああああ……」
山のように盛られた米に、容赦なく上からかけられ続けるカコの尿。こんなもの、食べ切れる訳が無い。
「ん……いっぱい出た。ご飯もおしっこも山盛りだね!今日の『おしっこ漬け』よ♡」
「か、カコ様……無理です。無理ですぅ……こんな量、食べたことありません……」
元々小柄なサクヤは食も細く、平均的な男子よりもかなり少ない量しか食べなかった。さらに今は昼間の衰弱と鞭によるダメージのせいで食欲が無い。
「そう。ほら、『ビデ』。口の消毒してからね」
カコはサクヤの言葉には一切興味を示さない。サクヤのこれからの苦痛、苦労よりも尿がついた自分の股間を綺麗にする事の方が優先である。
「あう、あ、ああああ………」
ピチャ、ペチャ、ピチャ……
サクヤはカコの冷たさに涙を流しながら、カコの股間を舐め始めた。
(ここでたくさん食べさせておかないとね)
カコはこれまでの経験から、奴隷に栄養を与える事の重要性を学んでいる。
奴隷に激しい暴力を振るった後に食事を与えないと、奴隷は死にはしなくとも激しく衰弱し、普通の人間なら入院するほどにまで弱る。
そうなってしまった場合、カコは奴隷を病院に連れていく訳にはいかない。鞭の傷の説明がつかない上、奴隷がカコにされた事を病院で話してしまうリスクがあるからだ。
一応、通常の病院に連れていく以外にカコは奴隷を回復させる為の『別の方法』があるが、まずは奴隷をそこまで衰弱させないことが望ましい。
なので、激しい『お仕置き』をした日はこの様に多めの食事を取らせることにより奴隷の体力の回復を図るのだ。
「ん、もういいわ」
カコは自身の股間が綺麗に拭けた事と、ガラスボウル内の尿が完全に米に染み込んだ事を確認し、サクヤに『ビデ』をやめる許可を出した。
「私はもう寝るから。起きた時に完食してなかったら、またお仕置きするからね。あと、消毒液と合わせてこれを傷に塗りなさい」
カコはサクヤを檻の中に入れて鍵を閉めたあと、傷薬を檻の中に投げ入れた。
「ふあぁ……すっかり遅くなっちゃった。早く寝ないと」
パチンッ
カコはそう言うと、すぐに電気を消して眠りについた。その寝顔は奴隷に情け容赦を持たない、恐ろしい「女王様」を演じて完全にストレスを解消し終えた、綺麗な女性であり、可愛らしい少女の様な寝顔だった。
そして、サクヤは寝息を立てているカコの可愛らしい寝顔を見ることが出来ない。
すっかり「女王様」としてのスイッチを切ったカコでさえ、サクヤにとってそこにいるのは恐ろしい女王様である。
「うう、ううう……おえっ、うぷ……」
ニチュ……グチャ、グチャ……
サクヤは一口、また一口とゆっくり『おしっこ漬け』を食べ始めた。隣から聞こえる女王様の寝息に怯えながら。
カコを見た様々な人間が、カコを「天使」と呼んだ。優しく、賢く、子供の時は可愛らしい少女。大人になってから美しい女性であるカコをそう例えたのだ。
しかし100%「天使」である人間などいない。大概、外で天使と呼ばれる少女は、家庭の中では我儘なお嬢様であったりもするのだ。
しかしカコは100%天使であるように、母親から厳しく、厳しく躾をされた。
学校でも、父にも母にも、可愛い笑顔と時には凛々しさを見せて生活するように強いられた。
そんなカコが親元を離れた時、カコの中に「1%の悪魔」が産まれた。
それが「カコ女王様」。これまで通り99%は明るく、優しい天使として振る舞う一方、1%の悪魔は普通の人間では考えられないほどに黒く、残酷であった。
幼い頃から優しい光の天使であるように強く強く躾をされ、怒りに任せて暴れたり、悲しみに涙を流すことも許されなかったカコの心に出来た、小さな闇。
その闇は他の誰よりも小さく、カコと普通に付き合う人間は絶対に見つけられない。
しかしその暗黒とも言える闇は、もうカコ自身もどうしようもないほどに深く、濃くなっていた。
机の上に墨汁を零した人間は、零した墨汁によって出来た水たまりにティッシュペーパーを投げ入れて吸わせて、白いティッシュペーパーが黒くなれば捨てて、新しいティッシュペーパーを入れて、という作業を繰り返して掃除する。
カコもそれと同じ。自分の心の闇の沼に、他人を「沈める」。激痛と絶望に泣き叫び、「出してください」と泣き叫ぶ人間を、決して逃がすことなく自分の心の闇に閉じ込める。
そしてその人間がカコの心の闇を、それ以上吸い込めない状態となったとき。言い換えれば、カコの心の闇に耐えきれず、その人間の心が壊れた時。カコは新しいものに取り替える。
カコはこれまで多くの人間を罠にかけて捕まえた。鷲掴みにして、自分の胸の中の闇の沼の中に押し込めてきた。その人間が真っ黒に染まり壊れた時は捨てた。ずっと繰り返している。
いつかは心の闇か晴れるのか。自分の心は治るのか。カコは潜在意識でそう思いながら、「残酷な女王様」に変身することで心の闇を他人に吸わせてきた。
しかし、いくらやっても心の闇は減らない。何故なら、カコの99%は明るい天使だから。
明るい天使が「本来の性格」となってしまったカコの心に出来た暗い闇は、永遠に無くならない。
カコは生涯、明るく、優しく、賢い天使である。
そしてカコは生涯、悪魔として他人を捕まえて自分の心の闇を吸わせ続けるのだ。
ニッチャ、ヌッチャ……グチュ、グチュ……
「おええ、不味い……まずいよぉ……気持ち悪いよぉ……」
カコの心の闇に捕らわれた哀れな人間。彼らは一人として助かることはない。カコの心の闇の中に漬け込まれ、絶望の闇に心が染め切られて壊された後、ゴミの様に捨てられて終わるのだ。
作者仍在更新中 估计字数会超过之前写的《男子中学生は女王様の便器》