前回の足臭処刑から2ヶ月ほどが経過した。
蝉がうるさく鳴き始める夏真っ盛り。年々気温も上昇し、ジリジリとした暑さが猛威を振るっている。
「ふぅ〜、今日も暑いなぁ〜」
そう言いながら昇降口へと歩いていく美咲。
彼女もまた、この暑さにはうんざりしていた。
しかし、一日の授業が終わった放課後、後は帰るだけともなると、暑さもどこかへ吹き飛び、スッキリした気分になる。
「最近は女の子の上履きに悪戯する男子も居なくなったし、平和だぁ〜♪」
下駄箱の周囲を見渡す美咲。以前の足臭処刑がよほど効いたのか、あれ以来変態は現れない。
自分の成果に、得意げにふふん♪と鼻を鳴らす。
それもまた気分の良さに拍車をかけた。
「ささっ、帰ろっと♪」
上機嫌の美咲は軽やかな足取りで玄関を出ていった。
…ちょうどそれと同じ頃、彼女の背中を物陰から見つめる人物がいた。
それは美咲と同じクラスの男子生徒。彼女が帰ったのを確認した後、コソコソと現れたのだ。
辺りに人がいないか注意深く確認し、何かを探しているようだ。忍び足で下駄箱に近づく。
「たしか美咲さんはこの辺で…あっ!あった!」
夕暮れで薄暗くなった玄関。探すのに多少手間取ったが、その暗さのおかげで、行動に拍車がかかる。
男子生徒が手に取ったのは女子の上履き。
脱いで間もない、温かい上履きだ。
少しだけ汚れた中敷が使用感を感じさせるが、全体的に小綺麗なそれは、やっぱり女の子の靴なんだなぁと改めて実感させる。
きっと小まめに持って帰って洗っているんだろうか。
それなら今日ここで見つけたのはラッキーだったのかもしれない。
すると男は躊躇うこともなく上履きに鼻を突っ込んだ。温かい空気を鼻先で感じつつ、息を吸い込む。
「むふぅぅぅぅっ…♡」
思わず喜びのため息が漏れた。
むわっと広がる蒸れた汗の匂いに、洗剤のような甘い香り。つま先の部分が僅かに酸っぱい。
女の子らしい匂いにうっとりして、ひたすら呼吸を続ける。
ふと上履きのかかと部分に目を落とすと、「美…」と名前が書いてあった。
履いているうちに擦り減ったのだろう。
二文字目の「咲」が掠れて読むことが出来ないが、名前を見ると現実味が増す。
校内でも断トツで可愛い。あの美咲さんの上履きだ…!彼女の足はこんなに良い匂いなんだ…!それを意識するたびに更に興奮して息が荒くなっていく。
―ぷっ…くすくすっ…
…!?
(遠くから女の子の声が聞こえた…。
それもそうか…ここは昇降口なんだからいつ誰が来ても不思議じゃない。
バレないうちに帰らなくちゃ…)
男は名残惜しそうに下駄箱に上履きを戻すと、自分も靴を履き替えてそそくさと家に帰っていった。~次の日~
(あぁ〜、美咲さん、今日もかわいいなぁ〜…)
授業中も、男はずっとそんな事を考えていた。
(美咲さんの足の匂い…この中で僕だけが知ってるんだ…女の子特有の甘い香り…)
自然と、視線がずっと前の席で座っている美咲さんの方に向いてしまう。当然見るのは更にその下、純白のハイソックスと履かれた上履きだ。
(そう言えば美咲さんの上履き、あんなに汚れてたっけ…?まぁ昨日は暗かったし、よく見えなかっただけかな…?)
昨日手に取った上履きとの若干の違和感を感じるも、特に気にはしなかった。
(でも良い匂いだったなぁ…、今日の帰りも待ち伏せして脱ぎたてを嗅いじゃおっかなぁ…)
「では、今日の授業はここまで。次回はここの応用だからな、家でしっかり復習してくるように!」
「「「は〜い」」」
なんだかんだで午前の授業が終わり、昼食時間になった。
(購買でパンでも買って食べるか…。今日は何食べよっかなぁ〜)
そんな事を考えて廊下を歩いているときだった。
「ねぇねぇ!ちょっといい?」
突然後ろから声をかけられ、ちょんちょんと背中をつつかれた。
「ん…?…何か用… んぇッ!?」
振り返ると、話しかけてきたのは意外な人物。
憧れの美咲さんだった。
思わず変な声が出てしまう。
「わわっ、ちょっと〜!びっくりし過ぎだよ!」
僕の反応で驚かせちゃったみたいだ…。
でも無理もない、昨日の今日で本人から声をかけられるなんて…。まさかバレた訳じゃないよな……?
「あ、あぁ〜…すみません…。で…何か用ですか…?」
「あのね今日ね〜?放課後に、3階の空き教室に来てほしいんだけど〜♪だめかなぁ…?」
甘えたような声色でお願いしてくる美咲さん。
「え、ええっ…!?いいけど…どうして急に…」
「いいの!?ありがとっ♪じゃあまた放課後にねっ♪」
「ちょっ、待っ…!」
(行ってしまった…。深く考えずにOKしちゃったけど、一体何の用事だろうか。
ひと気の無い教室に呼び出すなんて…。ま…まままさか告白…!?とか!?)
な訳無いよなぁ。なんて、ありもしない夢を妄想しながら、僕は少しワクワクしながら放課後を待った。
このときの彼には気づく由もなかった。
例の教室が、秘密の足臭処刑場として使われていることに…。~放課後~
いよいよ今日の授業が全て終わり、待ちに待った放課後だ。
生徒が帰り始め、だんだんと静かになる校舎で僕は例の空き教室へ向かった。
美咲さん、先に来てるかなぁ…。
―コンコン。
「失礼しまーす…」
一応声をかけて中に入った。
まだ誰も来ていない。
普段使わない教室だからか、冷房も入っていない。
流石にサウナとまではいかないが、かなりジメジメと蒸し暑かった。
シーンと静まり返る教室。
もしや悪戯で待たされてるんじゃないだろうな…?このまま誰も来ないなんてオチじゃ…。
そんな事を考えていた時だった。
パタパタ…
廊下に響く足音が聞こえる…。
来た…!たぶん美咲さんだ!
ドキドキしてその瞬間を待った。
足音がどんどん近づく。どんどん大きく…ハッキリ聞こえ…て…。
んん…!?
パタパタ…
スタスタ…
いや、待て待て待て!多くないか!?二人分の足音だ。
―ガラッ。
「おまたせ〜♪ごめんね!遅くなっちゃった♡」
美咲さんが元気よく入ってきた。そして、その後ろにはもう一人。
「失礼します。あっ、はじめまして。私詩織っていいます」
「は…はじめまして…」
初めて見る顔。美咲さんに負けず劣らずの美少女だ。
詩織さんと言うらしい。
初対面の女の子に緊張すると同時に、僕は心の中でがっくりと落胆してしまった。
美咲さん、友達を連れてきたみたいだ…。
少なくとも告白の可能性が打ち砕かれてしまった…。
「あれ?もしかして元気ない…?やっぱり嫌だった…?ごめんね、こんな場所に呼び出しちゃったりして」
「い、…いえいえ!全然そんな、大丈夫です!」
「ほんと?良かった〜♪じゃあ早速本題に入るね♪」
美咲さんはニコニコしながら僕にスマホを手渡した。
「それ、見てみて?」
スマホには、動画が再生されていた。
そこに映っているのは…、って自分…?!?!
昨日の昇降口での痴態。
僕が一心不乱に上履きを嗅いでいる背中が映っている。
遠くから撮られているため、事細かには映っていないが、それでも上履きを嗅いでいる行為は十分に確認できた。
完全にバレてる…しかもこんな証拠映像まで…。
固まって動けない僕に美咲さんが問いかける。
「何してたんですか〜?これ」
相変わらずニコニコと笑っている美咲さんだが、今はその笑顔の意味合いが全く違って見える。
可愛らしい顔だが、なんとも言い知れない恐ろしい威圧感がある。
何か…何か言い訳を…誤魔化さないと!
「いや、そのー…。」
震えながら口を開く。
「美咲さんってどんな上履き履いてるんだろう、ってつい気になっちゃって…」
彼女の眉が動いた。
冷や汗が流れる。
「美人で可愛いからきっと綺麗な上履きなのかなーって…」
頭が真っ白だ。
「見てみたらさ、本当に全然汚れてなくて、匂いも良い匂いだったんだよねー…」
ヤバいヤバいヤバいヤバい。
パニックになりながら言い訳がましい言葉を並べる。
すると美咲さんが口を開いた。
「…へぇ〜?この嗅いでる上履きって私の上履きだったんだ〜?」
(しまった…!余計なことを言ってしまった…!この映像だけなら上履きを嗅ぐところは映ってても誰の靴かまでは分からなかったのに…!)
その時。
「ぷっ…くすくすっ…w」
隣にいる詩織さんが笑った。同時にスマホの動画からも笑い声が聞こえる。
(ぷっ…くすくす…)
全く同じ声。あのときの笑い声だ…!
帰り際に廊下から聞こえたのは、詩織さんの声だったのか!
「すみません、どうしても笑っちゃって…w。だってこの人、気付いてないんですもん…」
「あははっwそうだね〜♪笑っちゃうよねw」
え…?え…?
どういう意味だ…?気づいてない…?
「それにしてもよく平気で嗅げたね〜♪私の上履きなんて絶対に臭いのに〜…」
そんなことない。
謙遜だ。美咲さんの上履きは確かに蒸れてて足の匂いがしたが、別に臭くなんてなかった。
「く、臭くなんか無かったよ!?なんていうか温かくて甘くて…?良い匂いだったよ!」
もうヤケクソだ。
めちゃくちゃ恥ずかしいけど、どのみちバレてるんだし、いま周りにはひと気も無い。
匂いの感想を言って足の臭いを自虐する美咲さんを庇った。
美咲さんは、それを聞いてニヤニヤと笑うと、おもむろに上履きを脱いだ。
「じゃ〜ん♪これな〜んだ♡」
美咲さんが脱ぎたての上履きを見せつけてくる。
「へ…?何って…美咲さんの上履……ぇ…?」
目を疑った。
昨日みた上履きよりも明らかに汚れがひどい。
全体的に汚くボロボロで、特に中敷きの方なんか特に汚れが濃くなっている。
昨日は確かに薄暗くてよく見えなかったが、それにしたってこれ程までに汚れてはいなかった。
「そんなにいい匂いだったなら、今ここで嗅いで見せて欲しいな〜♡出来るよね〜?昨日あ〜んなに思いっきり嗅いでたもんね〜?」
「へ…?あれ……?だ、だって……、ぇ……??」
何を言っているんだ…?訳が分からない。
理解が追い付かず困惑していると、得体の知れない悪臭が鼻を突いた。
納豆のような酢のような、思わず顔をしかめるほどの激臭。
あたりを見渡して原因を探るが見つからない。
それもそのはず。ここは何もない空き教室だ。
数秒の後、ようやく理解した。
この状況で臭いの出処は、一つしかないのだから。
「ま…さか…」
「そう♪これが本物の美咲ちゃんの上履きなのでした〜♡君はおバカさんだから間違えて他の女の子の上履き嗅いでたんだよ〜?そんなの笑っちゃうよね〜w」
「ぷくっ、あははっ…w間抜けすぎますよ、あっはははっw」
詩織さんが、我慢できずに吹き出すように笑いだした。
そんな…この汚ったない上履きが美咲さんの…!?校内でも1位2位を争う美少女の上履きがコレ…!?
思わず美咲さんの顔と上履きを交互に見てしまう。
中敷だって元は白かったはずだが、それが今や見る影もなく真っ黒に染まっている。
いったいどれほど履けばここまで汚れるだろうか。
「あはは、びっくりしてる所悪いんだけどさ〜」
美咲さんが口を開く。
「これ…嗅いで見せてくれるよね?もし嫌だなんて言うなら、皆に言い触らしちゃうよ〜?もちろん例の動画、ネットにも流すから。君の居場所無くなっちゃうね♪」
始終笑顔で、とんでもない事を口にする。
そんなの、答えは決まってるじゃないか。
バラされたりしたら、人生が終わってしまう。
「ドア、鍵かけときますね」
―ガチャリ。
更に詩織さんがドアの鍵まで締めてしまった。
初めから閉じ込めるつもりで用意していたのか…。
完全に逃げ場がなくなった。
「うっ、わかったよ…嗅ぐよ…嗅げばいいんだろ!」
「あれ?立場分かってますか?嗅がせてください、ですよね?」
ぐっ…。
優位に立った途端、詩織さんの態度が豹変した。
「あはっ♪しおりん厳しぃ〜♪」
「かっ…嗅がせて…ください…」
どんなに屈辱的でも、従うしかない。
「よく言えました!いい子いい子〜♡じゃあ後ろで腕を組んで、そこに寝転がってね」
言われたとおりに横になる。
自分の両手に体重が乗り、身動きが取りづらくなった。
僕の顔の両脇に二人がしゃがみ込む。
しゃがんだ拍子に床にポタポタと雫が飛んだ。
この蒸し暑い夏に、締め切った部屋だ。
二人も次第に汗だくになっているようだ。
どこから出したのか、後ろ手に組んだ両手首は紐で固く縛られた。
「念の為、私が体を押さえてますね」
「ふふっ、ありがと。準備はいい?いくよ〜♡」
…!
来るッ…!!
―カポッ。
鼻と口を覆うように、熱く蒸れ滾った上履きが押し付けられた。
肌で分かるくらいに、湿った臭気がぶつかって来る。触れた布地からじっとりと染み出した汗が口元を濡らした。
最初は躊躇ったが、自分の人生が人質に取られているんだ。
僕は覚悟を決めて吸い込んだ。
厶゙ヷァァァァァァッ…!!!
「んぶぅぅぅぅぅぅぅっっ!!む゙お゙ぁぁぁぁぁっっっ!!」
オア゙ァッ!!酸っ!!臭っ!!!はっ…!鼻に染みるっッッ!!!!助けっ!!助…!!
「ゲホッ!!ゲッホッ!!ガホッ!!ゴァッ!!カハッ!!」
吸い込んだ途端、想像を超える激臭がなだれ込んできた。
耐えられる筈もなく、何度もむせる。
本能が危険を告げる。一瞬で酸欠に陥り、暴れ回りたくなる程の激臭は、もはや毒ガスとなんら変わり無い。
条件反射で咳き込み、吐いた分だけ吸い込むため、生きる為に上履き臭を吸わざるを得ない。
息を止めて我慢…なんて次元じゃない。
死ぬっ…マジで死ぬっ…!
「ゴハッ…!!オ゙ァァッ…!!ゴホ…!!ガッホ…!!」
美咲さんの足臭が、絶えず脳に染み渡る。
まるで上履きの中に納豆を入れて履いてたかのような、納豆を足汗で煮詰めて濃縮したような…。
酢を更に鋭くしたような刺激臭。
余りにも濃すぎる足の臭いは凶器そのものだ。
「オ゙ァア゙ァァァァッ!んぶぁぁぁぁっっ!!ゲホッッ!!!ゲッッホッ!!!」
気を抜いたら意識を飛ばされそうだ…。
ビクンビクンと身体が痙攣する。
極めつけはこの熱気と湿気だ。
ついさっきまで履きっぱなしだった為、美咲さんの足の高い体温がそのまま残っている。
ホカホカと温かく、たっぷりと足汗が染みた上履き内部は、どんなに湿気を吸い込んでも中から蒸気がムワッと広がる。
「カヒュッ……!コフー…!カフッ…!ケホケホッ!」
咳き込む力も弱くなり、もう駄目かと諦めかけた頃、ようやく上履きが顔から離された。
どれくらい嗅がされただろうか…。久しぶりの新鮮な空気に感動する体力も残ってはいなかった。
指の一本たりとも動かせない…。
「あはははっ♪どうだったかな〜?私の上履き♡臭かった?これが本物の臭いだよ〜?」
「いつも凄い上履きだとは思ってましたが、相変わらず強烈ですね…」
「毎日欠かさず汗染み込ませてるからね〜♪もちろん一回も洗ったことないよ♪」
上履きを履き直しながら、さらっととんでもない事を言う…。
さっきまで自分の咳や呻き声で気付かなかったが、二人は苦しむ俺を見てずっと笑っていたらしい…。
「それにしてもしおりん、お疲れ様だったね〜。押さえるの大変だったでしょ?」
「本当ですよ…。あまり暴れるものですから、疲れちゃいました…」
そう言った詩織さんは、かなり汗をかいていた。
額に浮かべた汗が流れ落ちる。
そんなに暴れてたのか…いや、あの激臭じゃ無理もない。無意識にでも身体が動いてしまう。
いくら何でも臭すぎる。
「まったく…おかげで上履きの中汗でぐちゃぐちゃですよ。責任取って全部吸い取ってもらいましょうか」
「いいね〜♪ちょうど良い足拭きマットあるからねw」
遂には人を足拭きマット呼ばわりだ…、そのからかうような言い草に腹が立つ…。
しかし今はどんなに蔑まれても言い返すことすらできない。元はといえば僕が他人の上履きに手を出したのが原因って事もあるけれど…。
それ以上に、女の子の足の臭い一つで何も出来なくなるほど追い詰められてしまっていた。そんな自分の情けなさに涙が出る。
…しかし、美咲さんの上履きは強烈だったけど…詩織さんの方ならまだマシなんじゃないだろうか…?
あれは美咲さんの足が臭すぎただけだ…。
詩織さんの足なら案外臭くないってことも十分にありえ
どちらにせよ逃げる体力は残っていない。
これ以上何をされようと、ひたすら耐えるしかないんだ…。
詩織さんは教室の後から椅子を持ってくると、顔のそばに座って上履きを脱いだ。
わざわざ耳の至近距離で上履きを脱がれ、ぐぽっ…と湿った水音をしっかりと聞かされる。
そして白ソックスに包まれた足が現れた…。
「ふぅ…涼しいですね」
ホコホコと湯気を纏う、ぐっしょりと濡れた靴下。数回つま先をくねらせると、僕の顔の真上で足裏をじっくりと見せ付けてくる。
「ほら、よく見てください。どうですか?私の靴下。臭そうですか?汗だくなんですよ」
「うわぁっ…!」
思わず小さな悲鳴が漏れてしまった。
白の…いや、白かったスクールソックスは濃いグレーに、凶悪な足型を写し出して汚れている。
ソックス全体に染み込んだ足汗によって湿っぽい色に染まり、ぬるついた足裏はてかりを帯びる。
顔から数センチと離れているだけの足裏からは、既に恐ろしいほどの足臭が漂ってきた。
足独特の納豆臭さに加え、どこまでも湿っぽい足汗の濃厚な悪臭。
鼻腔粘膜にへばりついてくるような、じっとりと蒸れた臭いとなって襲いかかる。
美咲さんの刺すような刺激臭とはまた別の、じわじわと追い詰めるような重厚な臭い。
美咲さんの足臭よりはマシ…、だなんて淡い期待を抱いたことを早くも後悔した。
詩織さんの足裏もまた、美咲さんに勝るとも劣らない凶器であることは間違いない。
「やめ…てぇ……やめ……許して……」
自然と口に出た命乞い。恐ろしくてたまらなかった。
こんなの嗅がされたら死んでしまうかも知れない…。
「はい?今なにか言いましたか?
ん〜、それにしても何か足りないですよね…?あ、そうだ♪」
彼女は僕の懇願など意に介さず、冷酷にもある物をカバンから取り出した。
椅子に座ったまま覗き込む詩織さんの顔が、嗜虐的な笑みに変わる。
それはガムテープだった。
こうなる事を見越して、初めから用意していたらしい。
「口で息しちゃったらつまらないですからね、これで塞ぎます」
「それだけは…!お願い…!助けっ…!ん゙む゙っ〜!!」
必死の懇願も聞き入れてはくれない。
ガムテープでべったりと口を覆われてしまった。
「これで私の靴下の臭いに集中できますね。3週間じっくり熟成させたソックス。しっかり味わってくださいね?」
「んむっ!?ん゙ん゙っ〜〜〜!!」
いや!?今なんて言った!?3週間っ!?
考える間もなく詩織さんは続ける。
「まぁいいです。その鼻壊してあげますね、二度とあんなイタズラが出来ないように…」
「んむ〜〜っ!!んぐっ!!ンア゙アァァァ!!!」
じわじわと頭上の足裏が降りてくる。追い詰めるようなゆっくりとした速度で…。
まずい、顔に付く…!付く!!
待て!待って!待ってぇぇ!!
―ぐちゅぅぅぅぅ。
「ンブヴゥゥァァァァァッッ!!」
臭っさぁぁぁぁぁっ!臭いぃぃ!臭いぃぃっ!!
容赦なく顔を踏みつぶす。それもいきなり一番臭いの強い足指で鼻を覆われてしまった。
詩織さんは特に汗っかきな体質なのだろうか。
べちゃりと汗が染み出して、鼻の周りが汗まみれになる。
呼吸するたびに足臭が鼻に残って、どんどん臭いが重なっていくようだ。
ベタベタと粘着質な脂汗を吸った靴下繊維を通してしか息を吸えないため自然な呼吸ができず、ただでさえ苦しいのに酸素まで制限されてしまう。
僕は詩織さんのねちっこい足臭にじわじわと追い詰められていった。
「……♡
やっぱり蒸れた湿気を吸い取らせるのは気持ちがいいですね…。べったり覆った靴下越しに、足の指の間を通り抜ける鼻息がたまりません」
「あははっ♪わかるー!癖になっちゃうよね〜」
「ンブゥ!ングゥゥゥゥ!!フゴッ!!ゲフッ!!オ゙アァ!!」
―クニュクニュ…くねくね…
続けて何度も鼻を揉み込んできた。
脂汗を刷り込むように、足の親指と人差し指を擦り合わせてくる。
その指の隙間に鼻を潜り込まされている僕はひとたまりもない。
直前まで蒸れ上がっていただけあって足裏がかなり熱く、温かく湿った足の臭いしか吸い込むことのできない状況。鼻を揉まれたと思えば鼻をキュッと摘まれ、足汗を擦り付けたりなど、予測不能な動きで責め立てる。
それが呼吸の難しさに拍車をかけた。止まることなく動き続ける足。彼女はかなり足の指が器用らしい。
決して単調な責めにしない足捌きは精緻極まるものだった。
―ギュムゥッッ!!
「もがっ…!!オ゙ッ…!!…む゙っ………!?ん゙ーーーーっ……!!!」
積極的に臭いを嗅がせてくる両足だったが、今度は両親指で鼻を力強く摘んできた。
口を塞がれ、唯一残った呼吸口を塞がれてしまえば一切酸素が入ってこない。
「…………くすっ♡」
「あ〜あ、しおりんスイッチ入っちゃった♡気を付けてよ〜?もう堕としちゃったらつまんないもん〜!」
「ングッ…!ッッ……!!む゙〜〜〜っ!!」
まずい!
これじゃ息ができない…!
必死になって吸い込もうとするが、彼女の足はそれを許さなかった。
肺の中の空気が徐々に底をつく。
もう…限界だ…。女の子に踏まれて…窒息なんて…。
「ん……んむぅ………っっ…!」
「…………、そろそろでしょうか…。はい、もう吸ってもいいですよ?」
と言うが早いか、彼女はパッと指先の力を緩めた。
ようやく僕は呼吸をすることを許されたのだ。しかし両つま先は鼻にみっちりと、隙間なく覆い被さったまま。呼吸を許しつつ、足指は絶対に離さない絶妙な力加減。
もちろんこのまま息をしたら濃厚な足臭を吸い込んでしまうことになる。吸ってはいけないことは明らかだ。
しかし我慢の限界を超え、酸素を求めていた身体は否応なく肺いっぱいに息を吸い込んだ。
止めることも叶わない。
すうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっー!!!
通常であれば、クサい臭いを嗅げば誰だって咽る。ゲホッゴボッ!と、勢い良く吸ってしまった危険物を吐き出そうとするものだ。
しかし、限界まで肺の空気を使い果たした今は違った。
身体はまず、必要な酸素を確保するために、肺がいっぱいになるまで「吐く」より「吸いきる」ことを優先してしまった。
その為、普通なら途中で勢い良く咳き込むところも、止まらずに吸い続ける。勿論匂いを感じなくなる訳じゃない。しっかりと足臭さを感じながら肺を満たしていき、
そして時間をかけて最後まで吸い終わったあと、無情にも後回しにされ、溜まりに溜まった足臭の感覚が一気に降りかかる。
「ンゴァァァァァァァァッ!!!!オア゙ァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
3週間履き通した靴下臭が、足汗を体温で蒸した高湿度の蒸気と一緒に流れ込む。
じっとりと、ねっとりとした足臭が、じゅわぁぁっと脳に焼き付くように染み込んだ。
意識が掻き消えそうになる程の衝撃。
「あはははははっ♪息ができて嬉しいですね?私の靴下の臭い、如何ですか?臭いですか?苦しいですか?」
「ングゥゥゥゥ!!!ムグゥゥゥぅ!!!厶゙オォォぉぉッ!!」
僕は目を見開いてビクンビクンとのたうち回った。人生で、経験したことのない激臭。
なんど嗅いでも慣れることのない猛烈な足の臭いが、勢い良く吸い込むことで更に濃厚に臭いだす。
こちらの呼吸のタイミングまで完全に支配した足技。
鼻どころか、頭全体が痺れるような感覚に目の前が真っ白になる。
「すご〜い!楽しそうだね〜♪わたしもやっていい?」
「もちろんです、折角なので一緒に嗅がせましょうか」
…。
……は…?一緒…に…?
恐ろしいことを口走る。
この状況で詩織さんに加え、美咲さんにまで参加されたら…。
壊れる…!鼻が壊される!
「んむ゙っ!!んん゙〜〜〜〜っ!!!」
ガムテープに縛られた口から言葉は出ない。
せめて、やめてほしい事を伝えるために必死で声を上げて訴えるが…
「うわ、足の下でなんか興奮してますよ?」
「きっと楽しみで待ちきれないのかな?じゃあ早く嗅がせてあげないとね〜」
僕の必死の訴えが違った意味に捉えられてしまった。いや、この分だと解ったうえで、あえて勘違いしたようにからかっているんだろう…。
上履きだけであれ程苦しめられたのだ。
その靴下を直接、それも二人かがりで嗅がされるなんて。
僕の頭を挟んで、詩織さんと向かい合うように反対側に座る美咲さん。
長らく僕を虐め続けた足裏が、ようやく顔面から離れる。
それは僕に「ソレ」をじっくりと見せつけるためだった…。
「ほーら、ムレムレの靴下だよ〜♡」
眼前には美咲さんの靴下足。
見せられた足裏は、嗅がずともその臭いが伝わってくるような汚さだった。
こちらも詩織さん同様、いや、汚れの濃さで言ったら詩織さん以上か…?
白い生地にくっきりと足型を浮かび上がらせている。脂汗や皮脂の汚れ、上履き内に固着した汚れが染み付いているようだ。一体どれほど履けばここまで汚れるのだろう。僕の頭上でニギニギと足の指を開いてみせる。その指の動きにぴったりと張り付いた靴下は、どれほど汗で湿っているのかを証明しているようだ。
その靴下足が、ゆっくりと距離を詰め始めた。ホカホカの足裏から放たれる熱気が顔を撫でる。
「召し上がれ〜♡」
―むぎゅっ…
遂に足裏が触れた。
蒸れた湿気が鼻の中へ侵入する。
―む゙わぁぁぁぁぁぁっ!!
「んぶおぉぉぉぉぉぉっぉぁぁぁあぁ!!!」
鼻が強烈な酸っぱ臭さを感じた瞬間、肺の空気をすべて絞り出して叫び声を上げていた。
ガムテープで塞がれ、その上から足でベッタリと踏まれた口から漏れ出す悲鳴。
納豆に酢を加えたような強烈な臭い。上履きのときにも味わった激臭だが、直接靴下に鼻を埋めて嗅ぐとなるとレベルが違った。
鼻に突き刺さるような強い足臭に目眩がする。
「あはははっ♪すっごい暴れてる!くすぐった〜い♡」
「美咲先輩の靴下、相変わらず凶悪ですね…」
「え〜!?しおりんがそれ言う〜?」
悪臭に呻く僕を尻目に、二人は何やら話をしていたが、僕はそれどころではなかった。
今度は彼女のつま先が鼻を揉み込んできた。その動きにまた翻弄される。
一瞬たりとも休む事ができない。
息を吸えば濃厚な足臭が肺を満たし、一度吸ってしまえば、もう息を止めたところで内部に侵入した臭気がジワジワと蝕む。
「………ッ! …………ゥッ!!……ッ!!」
うめき声すら出すこともままならない。
なんとか意識を保たせることに必死だった。
ただでさえヌルヌルに濡れた靴下が呼吸口に覆い被さるため、息苦しいのだ。それに加えて、鼻腔を貫く刺激臭。視界がぼやける。
鼻が痺れ、息を吸ってるのか吐いているのか、その感覚すらも曖昧になってきた頃。
意識が薄く、遠くなっていく…。
―ニチャァ…
突然足裏が離れた。
顔と靴下との間には、粘っこい足汗が数本の糸を引いている。
放心状態で暫く意識が薄れたままだったが、美咲さんがつま先でペチペチと頬をはたくと少しずつ意識が戻ってきた。
「グッ…!!ゲホッ!!エホッ!!ふすっ…ふぅ…ふぅ…」
鼻には涼しい空気が入り込み、僕は咳こみながら、息を吹き返したように呼吸を繰り返した。
口で呼吸できないのが本当に苦しい。
「あれれ〜?いま気絶しかけたよね?そんなに臭かったのかな〜?」
「まだ終わるには早いです、もっと嗅いでもらいますよ」
悪魔だ…。
この美少女二人が、恐ろしい悪魔にすら見える。
彼女らが加減を間違えば、僕なんて簡単に死んでしまうのだろう…。
もう駄目だ。これ以上は。冗談じゃすまない。本当に死んでしまうかも知れない…。
しかし口を塞がれていては拒絶を伝えることさえ叶わなかった。
「ん゙む゙っ!!む゙ぅ〜〜〜!!むぐぅ〜!!」
頑張って声を出そうとしても、せいぜい出るのは唸り声。
「うわぁ、必死だね〜♪すっごい止めてほしそう♡」
「そうですね…、ですが先程言ったとおり、まだ終わりません」
「だってほら、ねぇ?」
「はい、まだ二人同時に嗅がせてないじゃないですか」
背筋が凍った。
…確かにそうだ、まだ一人ずつしか嗅がされてない。
一人一人で、あれ程狂わされたのだ。それを二人同時になんて想像も及ばない。
僕はありったけの力で首を振る。
「うわ、嫌そうですね…」
「イヤイヤじゃないの!ちゃんと嗅ぐの!ほらっ♪」
「どの道逃げられませんし、逃しませんから。安心して嗅いでくださいね」
二人の、計4つの足裏が迫る。
もう駄目だ…。僕はグッと息を堪える。
そして同時に踏みつけられた。顔に荷重がかかる。
頭を振って暴れる僕を押さえ込むように力強く。
それぞれのつま先が鼻の方を向くように左右からグリグリと押し込んできた。
「ん…、反応が薄いですね」
「あれれ?我慢してる?も〜…ズルはだめだよ〜?それじゃ、アレやろっか♪えっぐいやつ♡」
「ふふっ、ズルする人にはお仕置きです。我慢できずに息を吸う瞬間が楽しみですね」
「その瞬間が一番面白いんだよね〜♡」
示し合わせたかのように、二人は同時につま先を反らせると、鼻を中心に四方から足指で覆い囲んだ。
寸分の隙間すら無く、一番臭いの濃い足指部分だけで作った僅かな空間。この小さな密閉空間は、即座に二人の足臭で埋め尽くされる。
ここに、鼻を壊す靴下の檻が完成した。
顔中を覆っていた湿気や体温による暑さが一点に集中し、鼻だけが異様な蒸し暑さに包まれる。
考えるより先に理解した。これを吸い込んだら取り返しのつかない事になる…。これまでの臭いとは比較にならない…。
絶対に呼吸してはいけない。
とは思うものの、ずっと息を止め続けることなど不可能。
僕は窮地に立たされていた。
どう転んでももう、嗅ぐしかないのだ。
じわじわと息が苦しくなり、追い込まれていることを実感すると、身体が恐怖に震え、更に息が詰まっていく。
……。
もう限界だ…。
嫌だ…、やだ…、やだ…!
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ…!!
「んぐっッッッ!?!??!」
納豆…?酢…?チーズ…?雑巾…?汗…?
もはや分からない。
「あ~あ♪吸っちゃった〜♡」
―む゙っわ゙あぁぁぁァぁぁぁァァっ…!
「ごはぁっ!!かハッ!!オ゙ア゙ァァッ!!!ンオ゙ア゙ア゙ァァァァァッッッ!!!」
考えるより先に襲い掛かる。激臭に殴られるような衝撃。
吸えば吸うほど、美咲さんの深く突き刺すような足の臭いが、鼻を焼くような感覚と共に通り抜けていく。
反射的に息を止め、僅かに手に入れた酸素だけで少しでも我慢しようとすれば…。
―じゅわぁぁぁぁぁっ…
「んぐっ…!!ム゙ッッ!?!?ぐがァァァッ!!!!カヒュッ…!!カハァッッ!!」
嗅いだ瞬間より、後からじっくりと染み込んでくる詩織さんの足の臭いが、我慢など不可能なほどに膨れ上がる。
「オ゙アッ…!?ム゙アッ…!?!?オブァァァァ!!?!」
お互いの足がお互いの体温で蒸れ上がり、時間を経るにつれ、増々じっとりとした足汗を湛える。
含みきれない水分は、1滴…また1滴と靴下から染み出して流れ落ち、顔を濡らした。
二人の臭いが混ざり合って、決して慣れることのできない足臭。
明らかに許容範囲を超えた臭いに、再び意識が薄れていく。
「んぉっ……むぉ……」
呆気なく限界が来る。
ぁ…意識が……とぶ……。
「う〜ん、そろそろかな?」
「そうですね、離しましょうか」
そのときを見計らったかのように二人は足裏を離した。靴下の密室から開放される。
やっと新鮮な空気が流れ込み、思わず大きく深呼吸をした。
「フスッ…!?ふしゅー!!ふしゅー!!ふしゅー!!」
顔に残る足汗や残り香がまだ臭い立つが、そんな事もお構い無しにひたすら荒い息を繰り返す。
未だかつて、ここまで普通の空気を渇望したことがあっただろうか…。
先程、詩織さんに足を嗅がされていた時と同様に、二人によって呼吸さえも完全に掌握されていた。
しかし、僕はそれを乗り切ったのだ。
苦しかった…。滅茶苦茶に辛かったがなんとか耐えることができた…。
「それじゃあもう一回行ってみよっか♪」
…へ?
「存分に嗅いでくださいね」
何を言って…
―む゙わ゙ぁぁぁぁぁぁぁっ
「ん゙も゙ッーー!?」
言い終わったと同時に、二人の足裏が再び鼻を閉じ込める。
ようやく呼吸が整ったところで、また地獄に突き落とされた。
もちろん呼吸には激しい足臭を伴う。
「ん゙ん゙ーッ!!ん゙ぐっー!!んぁ゙ああああああああっ!?!?」
パニックに陥った。
たった今、気絶寸前まで追い込まれて、あれで最後かと思い込んでしまっていた。
言われた通り、二人同時に足裏を嗅がされた。
それが最後で、やっと終わったのだと…。
自分へのお仕置き、それがようやく許されて…、だから気絶する一歩手前で開放してくれたのかと…。
だけど違った…。
「んぐォぉぉぉぉぉぉ!!!オ゙ォ゙ォォォッ!!」
終わらなかった…。
息を吸うたびに足の匂いを嗅がざるを得ない。しかもその臭いが耐え難いほどに臭すぎる。
嗅いだ瞬間の強い刺激臭。嗅いだ後のしつこくこびり付く納豆臭が交互に襲い掛かる地獄。
その1秒たりとも耐え難い状態が、1分…2分…と続いていく…。
僕が激臭に喘ぐ間、二人はただ座って足裏で鼻を覆っているだけだ。特別動かして責めているわけではない。
立場の違いを思い知らされた…。
二人にとってこれは、単なるお遊びなのかもしれない。僕を苦しめるためだけの…。
「ほらほら♪もっともっと嗅いで良いよ♡遠慮しちゃダ〜メ♡」
「じっくり嗅いで反省してください」
―ギュムゥゥゥゥゥゥゥッ!
すると顔の上で鼻を囲むつま先が、そのままギュムっと押し潰してきた。靴下のつま先が完全に密着し、隙間なくみっちりと踏みつぶす。
当然息が吸いづらくなり、すぐさま酸欠に陥った。吸える空気は、その全てが湿った靴下というフィルターを通している為、依然最悪の足臭だが、その足臭を嗅ぐ事すら困難になってしまう。臭いニオイを嗅ぐことは苦しいが、酸欠になるのも苦しい。どちらか1つを選ぶことなんてできないのだ。
数週間上履きの中で熟成された足臭。汗や皮脂、様々な汚れが折り重なった濃厚な臭い。
本来であればその汚さに、絶対に嗅ぎたくない!と思うものだが、本人の意志とは無関係にそれを強制的に嗅がされる。
鼻を抜ける猛烈な足臭を嫌というほど噛み締めながら、じっくりと味わいながら、藁にも縋る思いで必死に空気を吸い込んだ。
苦しい時ほど呼吸を求めるのは人体の条件反射だ。
力強く息を吸うことで、鼻と密着した足裏との間からは、フスゥゥゥゥ…っと空気の流れる音がする。
だがそれは自分の限界を早める行為でもあった。
足臭に頭がクラクラとしてくる…
「必死に嗅いでますね」
「あはは♪私達の足の臭いが好きになっちゃったのかな〜?」
好きでやってるわけじゃない…
すぅぅ……はっ…すぅぅ……はっ…
時間が過ぎていくに連れ、呼吸する力が弱まっていく…。
体力と精神力がどんどん擦り切れるのに対し、臭いは強まる一方だ。
最初と比べると半分の時間も耐えられなくなっている…。
もう…あと数秒で意識を失いそうだ…。
も…もう……
その瞬間が訪れると…
「はいっ!今、気絶しそうになったね♪まだダメだよ〜?」
「…スゥゥゥゥ…ふぅぅぅ…」
ぬちゃりと足裏が離れた。
普通の空気がとても久しぶりの事のように感じる…。実際の経過時間は大したことないのだろうが、苦しい時の体感時間は長い…。
想像を絶する疲労に、目眩すら覚えながら息を整える。
これが一体あとどれだけ続くんだ…。
「それじゃあ特別ルール!本当に気を失ったら終わりにしてあげよっか♪」
「ふふっ、早く失神できるといいですね」
美咲さんの悪魔のような提案に二人とも笑みを浮かべている。
これはもう拷問のようなものだ…
さも簡単そうに言うが、言うまでもなく死ぬほど苦しいのだ。気を失ったら――と言いつつも、寸前で足裏から開放されるため、気絶もさせてくれない。
そんなことを繰り返されたら気が触れてしまう…。
「じゃあいっくよ〜♪」
また足裏が鼻に近づく。
それが触れた瞬間、今まで動かさず、ただ鼻を覆っていたのに対して、今度はめちゃくちゃに足指が動き続ける。
その動きに巻き込まれ、鼻が激しく揉み込まれた。靴下同士が擦れ合い、汗が滲みだす。
動きが不規則なことも相まって、かなり呼吸がしづらい。
二人が交代で、つま先でギュッと握ったり撫で回したり。二人一緒につま先で挟んだり…。その動きのたびに臭いが襲う。
「ほ〜ら、わしゃわしゃ〜♪クネクネ♪ぎゅむぎゅむ〜♪」
虐げられるこちらの気も知らないで、やっている方は随分と楽しそうだ…。
「ぐっ……、んも゙っ…!む゙っ!!んん゙っ!オ゙っ…」
少しでも臭いを堪らえようと息を止めても、足で顔を撫で回されるとすぐに苦しくなってしまう。
もう顔中ぬるぬるのベトベトだ。その不快な感触も着実に僕を追い詰める。
いつも以上に息がもたない…。
「んー、足の指動かしてるとだんだん暑くなってきたかも」
額に汗をにじませて美咲さんが言った。
「この教室自体、まぁまぁ暑いですからね」
「むっ!んむ゙ーーー!!」
熱気の篭もる部屋と激しい動きの所為か、二人の体温が上がって足裏が温かくなってきている。
それがまた苦しかった。
靴下からは吸いきれない足汗が止めどなく染み出し、ホカホカと蒸れた足裏はぬるい蒸気を振り撒いている。
その状態で再び鼻を、一番臭いが強いつま先でつまみ上げられると堪らない。
ただでさえ臭い足裏が、より一層臭く感じられるのだ…。
「顔中ベタベタだね〜♡はぁ〜暑い。どんどん汗かいちゃうな〜」
「私なんて結構前から汗だくでしたよ、まったく…」
「じゃあもっと責任取ってもらわないとね〜♪汗拭きマット君♪」
「そうですね、二度と悪い気を起こせないようにしてあげます」
「むぐぐ…!む゙おっー……!!」
ぐりぐりと押し付ける足に力がこもった。
よりしつこく、ねちっこく靴下が絡みつく。
明らかに意識を手放すまでのペースが短くなっていた。
「安心していいよ♡本当に限界のときはちゃんと呼吸させてあげるから♪」
「そう簡単に気絶できると思わないで下さいね?」
「んぁ……ん゙あ゙ぁぁぁぁっっ!!!」
永遠にも感じられる激臭地獄。
僕にできるのは、嗅がされる臭いに呻く事と、あの時こっそり上履きを嗅いだ愚行を後悔することだけだった…。
それから何度も、足臭で嬲られ、気絶手前まで追い込まれるのを繰り返した。その度に、塞がれた口からは曇った叫びが漏れ、嗅覚は蒸し上げられる。
夏は日が沈むのが遅い。二時間弱が経ち、ようやく夕日が落ちてきた頃…。
「…お〜い?大丈夫〜?生きてる〜?w」
「…………」
足で頬をピチャピチャとはたかれる男子生徒に反応はない。
「どうやら遂に気を失ったみたいですね…。結構耐えた方でしょうか?」
「そだね〜。あ〜あ、もうおしまいかぁ〜…。久しぶりに頑張っちゃったなぁ〜♪まぁこれでもう二度と上履きを勝手に嗅いだりはしないよね♪」
「流石に懲りたと思いますよ。もう女の子の足を見るのもトラウマなんじゃないでしょうか?
ともあれ、お疲れ様でした。美咲先輩」
「しおりんもお疲れ様〜!せっかくだから一緒に帰ろっか♪暑いし帰りにアイス食べてこうよ、奢ったげるから!」
「いいんですか?ありがとうございます!是非」
時間が経ち、汗が冷えてひんやりした上履きを履き直す。
そして二人は何事もなかったかのように教室を後にしたのだった…。
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不过这也太臭了,非常怀疑现实中怎么可能受得了。
Google机翻都感觉好色……所以有哪位大佬愿意翻译一下吗TT