季節は夏真っ盛り。今日も茹だるような暑さの中、恒例の靴下検査が行われている。
そしてちょうど、私の順番が回ってきた所だ。
今日は先生ではなく、子供の足の臭いが好きな地域の大人の人達が検査の担当をしていた。
「おふぅ……!あぁ〜、くっせ……♡いい臭いだぁ。足裏汚れもしっかり染みついてるねぇ、よし合格だぁ!」
「ありがとうございました……!」
検査を担当する、小太りなおじさんにじっくりと靴下の臭いを嗅いでもらって、それに対しお礼を言う。
一見異様な光景だけど、これが私達の通う小学校での当たり前のルールなんだ。
私の名前は板鍵いたかぎ詩亜しあ。
家庭の都合で、去年の秋にこの学校に転校してきて、今年から6年生になった。
だから6年生とは言っても、この学校ではまだ半年くらいしか過ごしてなくて、なかなかこの特殊なルールに馴染めなかったなぁ。
最初は恥ずかしさや、足裏を嗅ぎ回す鼻の感触が気持ち悪かったけど、半年経ってやっと慣れてきた気がする。いや、やっぱりまだ恥ずかしいけれど……。
検査する先生によっては、変なことを要求してくる事もあるから、その時次第では本当に大変なんだ。
今回はただ嗅いでもらうだけの検査で助かったぁ……。
私は無事に靴下検査を終えると、一刻も早くこの臭う靴下を脱ぎ取りたい気持ちを抑えながら、湿った上履きを履き直した。
じゅわっ……
生暖かく不快な感触が、靴下越しに両足を包む。
思えばこの学校に来てから、はじめての夏だ。
何もしなくたって暑くて汗が滲み出る。上履きの中がぐっしょりと濡れてしまい、1週間同じ靴下を履かなきゃいけないルールが一段と堪えた。
私たちは、わざと靴下を臭くさせられて、それを検査でたくさん嗅がれて、金曜日の最後は学校に汚れた靴下を提出する。
ざっくりとした流れはそんな感じだ。
だから皆、靴下が物凄く臭く、汚くなっちゃうんだ。
私は、いままで同じ靴下を1週間どころか、2日だって連続で履くなんてこと無かったから、ここの習慣にビックリしたのを覚えてる。
今日は木曜日だから、脱げるのは明日かぁ……。
早く脱ぎたいなぁ……。でもあと一日頑張れば脱げるからガマンガマン……!
そんな事を考えながら、教室にランドセルを取りに戻ろうと廊下を歩いていると──
…………ぅ…………むぅ…………んォ゙……ッ…………
「あれ……?今何か聞こえたような……」
音……気のせい……?
私は一旦歩くのをやめて謎の音に集中することにした。
しーっ……音を立てないで……。
ゔぅ゙っ……んぉ゙ぉ゙ォ゙ッ……む゙ぅ〜〜ッ……
「ひゃぁっ!?やっぱり聞こえる……!今の音……人の声なのかな、うめき声みたいな、苦しそうな声……」
何かあったのかな、誰か困ってるのかも。
私は声の出処を探すため、耳を澄ませて声のする方へと向かった。
「こっちかな……?」
ん゙お゙っッお゙お゙ぉぉぉ…………!
発生源に近づいているのか、声は徐々に大きく、鮮明に聞こえてきた。
渡り廊下を通って、教室とは逆方向の棟へと歩く。その殆どが空き教室で、放課後だからか人の気配はなさそうだった。
こっちは初めて来たかも、こんな場所あったんだ……。
「うみ゙ゅ゙ぅぅぅぅぅ!んむ゙ゅッッ!!」
──ここだ。
ついに声が漏れ出ている教室を見つけた。
ここまで来ると、声もかなりハッキリと聞こえる。壁一枚を挟んで、向こう側に誰かいるみたいだ。人の声なのは間違いない、それもたぶん女の子の悲鳴だ……。
教室の札を見ると、何やら難しい漢字で名前が書かれていたけど、ふりがながあるから読めた。
「ちょうばつ室……?って、あの懲罰部の?!」
入学するときに説明を受けた気がする。
懲罰部とは、不良児童にお仕置きする組織らしい。たしか靴下の臭いを無理やり嗅がせて反省させるんだとか……。
想像して身震いした。
そんなに臭い靴下嗅がされるなんて絶対いやだよ……。
ドアの真ん中にガラスの小窓がある、ここから中を見ることができそうだ。
「ほ、本当にやってるのかな……」
ゴクリ。
恐る恐る懲罰室を覗き込むと、夕陽に照らされる2人の少女の人影があった。
西日が強くて顔がよく見えないけど、何をしているのかはひと目で分かる。
一人は椅子に座っていて、一人は片足立ちでその座っている子の顔に足の裏を押し付けていた。
「んむ゙ぅ゙ぅぅぅぅぅっッ!!」
「うわっ……エグい……」
やっぱり足の臭いを嗅がせているみたいだ。
靴下は……黒のハイソックスを履いている。
今日は木曜日だから、靴下を連続で履いて4日目になる。
つまりあの顔を踏んでる靴下も、私達と同じ4日履きに違いない。
「オ゙ん゙っッ!!んあ゙ぁ゙ぁぁぁぁっっッ!!」
苦しそう、きっと物凄く臭いんだ……。
椅子に座らされている子は、身体を必死に揺らして抵抗している。両手は背もたれに、両足は椅子のパイプにぎっちり縛って固定されているみたいだ。
その状態でろくに動けるはずも無く、藻掻いてもガタガタと椅子が揺れるくらい。
何とか辛うじて動かせる首を振って、右へ左へ鼻を逃している。けど嗅がせている子は、それを片足で器用に追いかけてつま先で捕まえていた。
体重をかけて顔を踏んづけている訳ではないみたい。
片足立ちでバランスをとって、逃げる鼻を足裏で追いかけてるけど、その動きに苦戦してる様子はない。変な言い方だけど、かなり嗅がせ慣れてる……。
身体は動けないようにしっかり縛ってるけど、頭はあえて動けるようにしてるのかな……。
わざと逃げる余地を残しつつ、その上で追い詰めてるんだ……。完全に主導権を握っている。
「ん゙ん゙ーーッ!!ンム゙ーーッッ!!!ム゙ァっ!」
必死に逃げてるのに、上下左右どっちを向いてもつま先に捕まって足の臭い嗅がされちゃってる……。
かなり正確につま先で鼻を塞がれてるから、あれだけ首を振り乱してもほぼ足の臭いしか吸えてなさそうだ。
もしかして今の今まで、皆が靴下検査してる間も二人はこの懲罰室でずっとこうしてたのかもしれない……。
ちょうどその時、夕陽に雲がかかって、鋭い逆光が弱まり、二人の顔が明らかになった。
「えっ…………?!あれって……」
二人のうちの片方、足の臭いを嗅がせている子、私は彼女を知っていた。
彼女の名前は久司くし藍沙あいさ。彼女も6年生。同じクラスで、いつも一人でいる、おとなしくて静かな子。
転校してきた日、私は早くクラスの皆と仲良くなりたくて一人一人に話しかけたけど、藍沙ちゃんだけは無口で素っ気無かったのを覚えている。
あれはたしか……私の好きな宇宙人キャラ、カノピーのグッズを見かけたときの事。
「あっ!藍沙ちゃんそのキーホルダー、もしかしてカノピー?」
「……そう」
「わぁー!実は私もカノピー大好きなんだ!ねぇ、良かったらお話しよっ!」
「別に……」
「あ、あっ……ごめんね!同じ趣味の友達が出来たと思って勝手に盛り上がっちゃった……!」
「…………」
あまり話せなくて彼女の事は分からないことだらけだったけど、まさか藍沙ちゃんが懲罰部の一員だったなんて……。
「む゙ふぅ…………!む゙ぶっ…………ッ!」
藍沙ちゃんと初めて合った時の事を思い出しながら、その間も、縛られた少女は彼女の足裏で必死に呼吸していた。口をテープで塞がれてるみたいで、あんな状況なのに鼻での呼吸しか許されていない。
すごく苦しそう……。
そういえば藍沙ちゃんの上履きは、クラスでも一番黒ずんで汚れていた。足の汗が凄いのか、シミになっていたのを見たことがある。
そんな彼女のつま先は、依然として容赦なくみっちりと鼻を覆い続ける。
「フスーーーっ!お゙ァァ!!フシゅーーーっ!ン゙ア゙ッ!!フスーーッッ!!ム゙オぇッッ!!」
呼吸音が変わった。
ぎゅーっと鼻をつま先で押さえつけられた少女は、呼吸のためにやむを得ず、限られた隙間から濃厚な足臭を吸い込まされる。
その吸い込みのたびに、ものすごい足臭に襲われるのか、うめき声を上げていた。
「フーッ……!お゙…………お゙っ……フーッ……!……ん゙ぉ……」
ビクッ……ピクッ……ピク……!
その後も頑張って呼吸を続けていたけど、その勢いはどんどん弱っていって……。
しばらくすると、靴下を嗅がされている少女は、ぐったりと項垂れてしまった。激しく藻掻いていた身体は、今はピクピクと小さく痙攣するだけ。藍沙ちゃんの4日履きソックスで気を失ってしまったらしい。
いったいどれほど臭ければ、足の臭いで人が気絶すると言うのだろう。
目の前で起きた光景に目を疑った。
可哀想……だけど、でも懲罰ってことはお仕置きだから……あの子は何か悪いことしちゃったってことなのかな……。
モヤモヤした気持ちが胸の中に渦巻いた。
詳しい事情は知らないけど、あの女の子は何の抵抗もできずにムレムレ靴下を嗅がされ続けて、苦しみながら気絶させられた。
私は藍沙ちゃんを疑いたい訳じゃないけど、あれが正しい事だとは思えないよ……。
でも一体どうすれば……。
藍沙ちゃんはしばらくの間、黒ハイソ足裏を気絶した彼女の顔に擦りつけていたけど、やっと満足したのかゆっくりと顔面から足裏を離して上履きを履き直した。
気絶した少女の顔は、まるでオイルでコーティングされてるみたいに、西日をテカテカと反射している。
うっ……まさかあれ全部足の汗なのかな……。
あれ……?
私は確かに見た。
気絶した子から藍沙ちゃんに視線を移した時、彼女が初めて右手を動かしていると思ったら、その手は自分の顔に……そしてゴシゴシと何かを拭く動作。
あれは……いや、間違いない。
涙を拭ってる……!?
藍沙ちゃん、泣いてたんだ……。
もしかして藍沙ちゃん、無理して懲罰部なんかやってるんじゃ……。
それ以外に、あの涙の理由は考えられなかった。
「決めた!私、懲罰部の先生に相談してみよう……!」
そして私は、そのまま職員室に言って先生に私の考えを打ち明けた。
「なるほど、それでここへ来たわけか。君の言いたい事は分かった。だが一番重要なことをまだ聞いていない。懲罰部を辞めたいと、本人は言っていたのか?」
「そ、それは……。藍沙ちゃんとは、まだ何も……」
「じゃあ……話にならないな」
「辞めるかどうかは、藍沙自身が決めることだ。それはお前も分かるだろう?もし本当に辞めるなら、それは本人が私に言いに来ないとな」
確かに……。来週直接聞いてみようかな。
でもなんて聞こうかなぁ……。靴下嗅がせたあとに泣いてたよね?なんて言えないしぃ……。
そんな考え事をしながら下駄箱に向かうと、藍沙ちゃんとバッタリあってしまった。
「あ……」
「あーっ!藍沙ちゃん!」
私もランドセル取りに戻ったり職員室行ったりで遅くなっちゃったけど、藍沙ちゃんもあの後に靴下検査してきたから帰りが遅くなってちょうど鉢合わせたんだ。
彼女の両足は、さっき散々人に嗅がせていた黒ハイソックスに包まれていた。
「あのね、藍沙ちゃん!話があるの!藍沙ちゃんは懲罰部のメンバーなんだよね?」
「……知ってたんだ」
「どうして懲罰部に入ったのか、聞いてもいい?」
「……別に、あなたには関係ないから」
ガーン……。
なんで教えてくれないの……!
もしかして何か言えない理由があるのかも……。
「そんなことないよ……!ごめんね、私見ちゃったんだ、さっき藍沙ちゃんが、その……泣いてたの……」
「まさか覗いてたの……?」
うっ、彼女の視線が鋭くなった……。やっぱりコッソリ覗きなんて印象良くないよね……。
「だから私、藍沙ちゃんに懲罰部を辞めてほしい……!だって無理してるって分かるもん!ホントはあんな事したくないんでしょ……?」
「…………出来ないって言ったら?」
「なら、私に考えがある……!」
「お願い、私と決闘して!!私が勝ったら懲罰部を辞めるって約束して欲しい!」
「け、決闘……?」
突飛な申し出に、彼女は困惑気味に聞き返した。
いくら懲罰部とはいえ、こんな勝負を持ちかけられたことなんて無いだろう。
「そう……!私が藍沙ちゃんの靴下を嗅いで、私が耐えきったら私の勝ち!
逆に私が、もう嗅ぎたくないってギブアップしたり、気を失って嗅げなくなっちゃったら藍沙ちゃんの勝ちだよ!」
「はぁ………………」
決闘と聞いて身構えていたものの、私の提案したルールを聞くや否や、彼女は飽きれたようにため息をつく。そんなの勝負するまでもないと言いたげな様子だ。もちろん私も、この条件が不利なことは分かってる──でも……。
「どうしてそこまで……悪いことは言わないから、やめたほうがいい。後悔するよ?」
「いいもん!私決めたの、絶対に藍沙ちゃんに懲罰部辞めさせる……!そして改めて友達になるの!私、藍沙ちゃんと仲良くしたいんだから!」
「って、え……友達?」
「うん、友達!!」
私の目的が意外だったのか、呆気にとられる彼女にニッコリ笑って答える。
彼女は少し考え込んだあと、諦めたように私の勝負を受け入れた。
「そんなことの為に…………?じゃあ後悔させてあげる。でも今週の靴下はすぐ学校に提出するから……
勝負は2週間後の金曜日の放課後、場所は──体育館倉庫でいい?」
「えっ!に、2週間……!?」
想定外の条件が追加されてしまった……。
「今更怖気づいたの……?」
「いやいやいや……!別に、ほんのちょーっとビックリしただけだもん!」
絶対に私が勝つんだから!
「じゃあまた来週ね、藍沙ちゃん!」
「…………」
気が早いかもしれないけど、私はすでに彼女と友達になった気分だ。
次の週の月曜日、藍沙ちゃんは白のニーソックスを履いて登校してきた。
と言うことはあれが決闘の日、私が嗅ぐ靴下らしい。それも今週と来週の2週間履きで……。
それから藍沙は、毎日放課後に体育館で走り込みを始めた。ただでさえ汗だくになるこの真夏に、更に汗をかく為に……。
来週末の決闘に向けて、端から手を抜くつもりはないようだ。
藍沙は2年前、懲罰部に入った時を境に、意識的に靴下を臭くするように心掛けている。
もともと体質的に汗っかきなのだが、それに加え日頃の運動を増やして更に汗を染み込ませるようにした。
この学校の上履きは6年間買い替えを必要としない特別製。
そのため6年生となった今、一度たりとも洗っていない上履きや、それを履く足の臭いはより強烈なものへと成長しているのだ。
キュッ……!キュッ……!キュッ……!キュッ……!
グチュ……!ヌチュ……!ニチュ……!ニュル……!
上履きのソールが床と擦れる高い足音と混ざり合う、粘ついたような水っぽい足音。
それは走り始めて早くも、彼女の靴中が汗だくに蒸れだしたことを意味する。
太ももから下をぴっちり覆う白ニーソックス。
布面積の多い靴下である分、多量の汗が浸透していった。
藍沙はその活動上、日常的に他児童から避けられていた。実際に懲罰を受け、彼女に足臭を嗅がされた者はもちろんのこと、懲罰として誰かが靴下足を嗅がされるたびに、明日は我が身かもしれないと怖がられている。
彼女自身、直接足臭を嗅がせる時などは嫌というほど恨み節も聞いてきた。
藍沙の汗蒸れソックスの激臭は、一般児童のそれとは比べ物にならない。
先日の懲罰のように口を縛られたりしていない限りは、黙っていられる者の方が少ないのだ。
臭い──汚い──気持ち悪い──
いままでも多くの児童に、口汚く罵られてきた。
ちょうど2年前、懲罰部に入るきっかけになったのあの出来事のように……。
そんな彼女が、真っ直ぐに友達になりたいなんて言われたのは初めてだった。
『私、藍沙ちゃんと仲良くしたいんだから!』
『うん、友達!!』
ひたすら無言で走り込みをしていると、先週の彼女の言葉と表情が頭の中に浮かんだ。
「駄目……もっと集中しないと……!」
余計なことを考えちゃだめ。
頭の中をリセットするため、パシンと頬を叩くと藍沙は再び走り出した。その足音は更に水気を含み、ぐちゅぐちゅと音が大きくなる。
もっと汗をかいて、もっと足を蒸らして、もっと靴下を臭くしなきゃ……。
友達になりたいなんて甘い考え、私の足臭で掻き消してあげる……!
勝負そのものにはあまり乗り気じゃないものの、
やるからには徹底的にと、走り込んで靴下を熟成させた藍沙。
早くも一週間が過ぎ、上履きの中は地獄と化していた。
この日は特に気温が高く、全く動かずとも汗が止まらない1日だった。
上履きの中で、ヌルヌルの中敷きと靴下に包まれたつま先を擦り合わせると、ニッヂュヌッヂュと不快な音が鳴る。
これほど汗だくだと不快なのは音だけに留まらない。
サウナのように蒸れ滾った靴内部の暑さ、汗を含んで絡みつくヌルついた靴下繊維。
いくら不快とはいえ、1週間履きの感触には慣れっこだが、2週間目に突入するとその不快感は常軌を逸していた。
この状態の上履きを誰かの鼻にあてがったら、一瞬で発狂させられるんじゃないだろうか……。
足裏がチリチリと火照りだし、思わず上履きサウナの中で足指を握ったり開いたり、グーパーグーパーと激しい動きを繰り返してしまう。
もはや両足は、じっとしていられない程に蒸れ上がり、四六時中足指を動かしてしまっていた。
グチュ……グチュ……ヌッヂュ……ニチュ……
「うぷッ……せんせぇ、保健室に行っても良いですか……?」
「わ、私もっ……オ゙ぇっ……」
いつしか漏れ出した足臭は教室の中に広まり、席順が藍沙と近いクラスメイトが耐えきれずに保健室へと抜け出していく。
漂ってくる足の臭いと、足元から聞こえるグチュニチュ音の二重攻撃で具合が悪くなってしまったようだ。
しかし、あくまで藍沙は普通に授業を受けているだけで、わざと足臭を振りまいているわけではないため指摘するわけにもいかない。
グチュ……グチュヂュ……ニチャ……
上履き越しにも臭う靴下足。
誰に嗅がせるにも申し分ない、凶悪な白ニーソ。
藍沙の靴下はかつてないほど仕上がっていた……。
そして決闘当日、詩亜と藍沙の二人は約束の体育館倉庫へ向かった。
「よく逃げなかったね……」
「逃げないよ〜!だって勝ちに来たんだもん!」
もし他児童の誰かが同じく藍沙の靴下を嗅げと言われたら、恐怖でガクブルと震え、泣きながら許しを乞う頃だろうが、詩亜は少しも怯まずにニコリと笑って見せた。
途中、廊下を何人かの女子児童とすれ違うと、コソコソと話し声が聞こえる。
ヒソヒソ──
「えっ、あの子……藍沙なんかと一緒にどこに行くの……!?」
「体育館……!?まさかこれから懲罰するってこと!?」
「だって今日金曜日だよ……?提出前の一番濃い靴下嗅がせるんじゃ……」
「待って……!?噂だと藍沙、先週靴下提出してないんだって……」
「言われてみれば、ずっとあの白ニーソ履いてたような……」
「ええっ!??つまり履きっぱなしってこと!?!?」
「嘘でしょ……あの子一体何をやらかしたんだろ……」
「かわいそう……きっとトラウマになっちゃうよ……」
ヒソヒソ──
二人が体育館内に入ると、ただならぬ二人の様子を察したのか、中にいた児童も二人から距離を取り始めた。
良くも悪くも、懲罰部の藍沙の顔は校内に知れ渡っているため、自然と周囲に警戒されてしまう。
やがて二人は、体育館倉庫の扉の前まで辿り着いた。ここまでくれば、周囲で様子を見ていた児童たちも薄々感づき始めるだろう。
今からこの場所で懲罰部藍沙の足臭懲罰が始まると……。
万が一巻き込まれでもしたら一溜まりもない。体育館から一人、また一人と児童が逃げるようにその場を後にした。
ガラガラと倉庫の扉を開けると、
空調の無い倉庫内は、じっとりとこもった熱が充満している。それだけじゃない、ほんのり汗臭いようなムワッとした悪臭が漂うのは、靴下検査で使う机や足置き台もここに保管されているからだ。
しかし、私に続いて藍沙ちゃんが倉庫に足を踏み入れた途端、上履きから漏れ出たであろう彼女の足臭で上書きされてしまった。
女の子らしく甘酸っぱい彼女の体臭を、汗で煮詰めて発酵させたような饐えた臭いが充満する。
室内の熱気で、詩亜はしっとりと汗ばむのを感じた。それは藍沙も同じようで、額に浮かぶ汗をハンカチで拭っている。
そんな中、藍沙は体操用のマットを部屋の真ん中に敷くと、その側に椅子を並べて準備を整えた。
「それじゃあ、始めるよ──」
ぐぽっ……にぢゃ……っ……ビチャッ……
彼女の言葉と、靴を脱いだとは思えない粘着質な汚い水音をゴングに決闘は始まった。
詩亜は思わず息を飲んだ。
汗浸しになった上履きから現れたのは、滴るほどに濡れた白ニーソ足。
しかし上履きで隠れていた部分は、汗染みによって湿った臭そうな色に変色してしまっている。
特に足裏部分は汚い。足型をそのままなぞったように、べっとりと黒く汚れていて、もはや蒸れるを通り越して、茹で上がっているかのように湯気をまとっていた。
「うっ……!」
そして、彼女が靴を脱いだ途端、倉庫内の空気が一段と湿り気を帯びた。
そしてひと呼吸おいて詩亜の鼻に届いたのは、刺すように強烈な納豆臭。
さっきまで漏れ漂っていた足臭を、シンプルに濃縮したかのような藍沙の臭い。
まだこれだけ距離があるのに、まるで目と鼻のすぐ先に足裏があるのかと勘違いする程の濃い足の臭いだった。
「あはっ、涼しい……」
涼しい、確かに彼女はそう言った。
爽やかな風が吹くでも、冷房が効いているわけでもない、何もしなくても身体中汗だくになるこの暑苦しい密閉空間ですら、涼しさを感じられるほどの温度差。
つまり彼女の足は、それ程体温が上がってムレムレになっていると言う事だ。
彼女からしてみれば、2週間ぶりに足サウナから開放された状況。
それがよほど気持ちいいのか、普段感情を顔に出さない藍沙だが、喜びを隠しきれない足先がくねくねと踊る。
脱ぎ去った上履きは、まるで加湿器のようにユラユラと白い湯気を上げて、中の臭いを振り撒いていた。
「ふぅ、じゃあ早速そのマットの上に座って。嫌って程嗅がせてあげるから」
「うっ……の、望むところだよ……!」
正直想像以上だった……。
マットの上に正座し直して、椅子に座る彼女の足元に手を伸ばす。
すごい臭いだ……。
ジュワッ……ヌリュッ……ぐちゅり……
「うぇ……!?」
今自分が触ったものが、本当に靴下を履いた足なのか疑いたくなるほど、想像とはかけ離れた温かい不快感が指先に絡みついた。
彼女の足は弾力があってプニプニと柔らかいが、湿った白ニーソックスのほうは、汗を吸っては蒸発して、染み込んでは蒸発してを繰り返し、指で押すと凝縮された脂汗が染み出してヌルヌルと滑るのだ。
恐る恐る指先に付着した足汗を嗅いでみると……。
スンスン……
「ゔッッ!!?!」
臭っ……!?酸っ……!?汗っ!?納豆……!?臭ッ……!?
これを……この足裏を今から直接嗅ぐの……!?
「どうしたの?ほら、好きなだけ嗅いでいいよ」
「っ〜〜〜!!」
かかとを下から支えるように足を持ちあげ、足裏と正面から向き合う。
間近で見る彼女の足裏は、白ニーソとは思えないほど汚れきって、足の指一本一本まで鮮明に黒に近いグレーに染まっていた。
こうして顔を寄せるだけで、足裏全体から放出される熱気と湿気が顔を覆ってくる。
私は覚悟を決めて、藍沙ちゃんのヌルヌル白ニーソ足裏に顔を埋めた。
むぎゅ、ぐちゅぅぅぅぅっっ……!
「ッ!?!!?!?」
瞬間、身の毛もよだつ感触に身体中の鳥肌が立った。顔中が出来たての蒸しタオルで包み込まれたかのような蒸し暑さ。
鼻は足指の付け根、くぼみになった部分にすっぽりと収まり、つま先で完全に覆われてしまった。
そして汗でヌメる靴下繊維が顔中にべったりと張り付いてくる。
自分は今、取り返しのつかないことをしているんじゃないかという不安が胸をざわつかせた。
「ん゙〜〜ッ!んむ゙っ……ふぐぅっ……!んぐっ!!」
でも、もちろん引き下がれないし、これだけでは終われない。
ここからが本番なんだから!
垢で目詰まりした、脂汗と皮脂がべったりと染み付いた靴下フィルター越しに息を吸い込む。
あとは私がこの靴下の臭いに耐えれば──
「すぅぅぅぅっッ……ッ!?オ゙ぁ!?」
「あ~あ、吸っちゃったね」
「んぶお゙ぁ゙ぁぁ゙ぁぁっ……!!!オ゙ぇェッッ!!!ム゙オ゙ぇェッ!!!んオ゙ぇェッ……!?!」
臭っさッッ!!!臭いッッ!!!
上履きの中で納豆に酢と足汗を混ぜて蒸らして熟成させて凝縮して――とにかく滅茶苦茶な足の臭いが、反射的に吐き気を呼び起こした。
想像を軽々超えてきた激臭に、思わずに絞り出すような叫び声が出る。嗅覚を直接ぶん殴られたかのような衝撃に、パチパチと視界が明滅する。
温かい汗と蒸気が、鼻の中を蒸し上げてじわじわと染み込んできた。
たったひと呼吸とは思えない凄まじさに、頭が真っ白になる。
実は詩亜も、この2週間何もしていなかった訳ではない。毎日藍沙が下校したあとに、コッソリ彼女の下駄箱に頭を突っ込んで深呼吸することで、激臭に耐えるトレーニングをしていたのだ。
この学校に転校してから、詩亜はまだ一度も懲罰での足臭責めを受けた事がなかった。
まぁ、受けないに越したことはないのだが、言ってみれば今の詩亜は足臭経験がゼロの状態だ。
そんな状態でいきなり彼女の足裏を直に嗅ぐのは無謀すぎる。
かと言って他の誰かに靴下を嗅がせて貰って練習するわけにも行かない。ということで、まずは下駄箱に充満した藍沙の足臭で、少しずつ鼻を慣らしていこうと考えたのだ。
脱ぎたて上履きの足臭が充満する箱の中で、ひたすらに深呼吸を繰り返す。
「すぅぅぅぅぅっ……げほっ……!えほっ!……すぅぅぅぅぅっ……ん゙ォぇ!ゔぇェ!すごい臭いよぉ……」
それはさながら、毒ガス訓練で身体を慣らしているかのような過酷さだったが……。
実際に藍沙の生靴下を直に嗅いで、一瞬でそれが甘い考えだったことを分からされた。
次元が違う……!
「オ゙ァぁっ……!ゲホッ!ゴホッ……!はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
足裏から一旦顔を離して、何とか息を整える。
それでも顔に付着した足汗が揮発するたびに、あの悪夢のような足臭が鼻をくすぐった。
「あれ、もう嗅げないの?じゃあこの勝負、私の勝ちだね」
「ま……ま゙っで!吸゙う!嗅゙ぐからッ!……すぅぅぅぅッッ!?オ゙えっ!!む゙オッッ……!?オェア゙ァァぁッッ!!!」
詩亜は必死にしがみついた。縋るように藍沙の激臭ソックスに顔を潜り込ませ、一息に足臭を吸い込んでは、何度も噎せ、えずきながらつま先に鼻先を突っ込んで足臭を吸い取る。
彼女の胸にある思いは「絶対に負けられない」ただそれだけだった。
「すぅぅぅぅっッ……ヴッ!?!ン゙ン゙ッッ!!ヴぇぇッ……!……ッ!すぅぅぅぅッッ……!!オ゙っッッ!?オ゙ぁッッ!!」
「ちょっと、何でそこまでして……!」
その嗅ぎっぷりは藍沙にとっても想定外のことだった。
今まで靴下の匂いを嗅がせてきたどんな児童も、自分の足の臭いを嗅がされた時、どうにかしてその激臭から逃れようとする。
どうせ詩亜も同じはず。口では勝負とか言ってても、結局今までの奴らみたいに最初の一呼吸でギブアップ、臭すぎて逃げ出すに決まってる。
そう思ってた。そう思ってたのに……!
「すぅぅぅぅぅッ……!すぅぅっ!ゲホッ!オ゙ぇッ!」
「そんなに辛いなら……!やめればいいでしょ?逃げればいいでしょ!!ほら、今は身体だって縛ってないんだから!」
「や゙め゙ない゙ッ!」
藍沙は見くびっていた。
まさか詩亜がこれほど真っ向から立ち向かってくるとは思わなかったのだ。
必死に2週間履きソックスに食らいつく彼女を見て、藍沙の目的は、何としてでも詩亜を諦めさせることに変わった。
ここまでは、自分の靴下足を詩亜に嗅がれていただけだったけど、ここからは、こっちから足臭を嗅がせに行く番だ。
むぎゅぅぅっ……!
「み゙ッ!?」
ジュヮァァッ……
まずは詩亜の小さな鼻をむぎゅっと足指で握ってやった。こうすると靴下と鼻の密着度が上がって、より息苦しく、そして臭いも強く感じる。
更に、汗をたっぷり吸ったベトベトの靴下繊維を押し潰す事で、鼻周りが染み出した足汗でベチャベチャになる。
これをやって意識を手放さなかった子なんて今までいなかった……!これで詩亜には気絶してもらう……!
「スフーーーッ……!ン゙っ!?!?オ゙ふっ!エ゙ふっ!んぐっ!!ゔうぅぅッ!!ん゙〜ッッ!!」
藍沙の狙い通り、詩亜の呼吸音が、鼻を塞がれた苦しそうなものに変わった。
鼻と一緒に口も踏みつけているため、うめき声は小さくなったものの彼女が味わう足臭は先程よりも濃厚になったはずだ。
「スフーーーッ……!ん゙オぇ、フスーーッ!!ん゙ッ〜〜!」
でも彼女は吸うことをやめなかった。
ただでさえ鼻を抑えられて、空気が吸いづらいのに、その僅かな空気でさえ2週間履きでグッショリ脂汗が染み込んだ激臭フィルターを通っているのに……!
これくらいじゃ、彼女は折れない……。
だったら更に!このままつま先で詩亜の鼻をめちゃくちゃに揉みほぐしてあげる!
汗だくベチャベチャのソックスの気持ち悪さで鳥肌が止まらないでしょ……!
それにこんなに揉みくちゃにしたら、足指が火照って更にジトッと汗ばむし、擦れあう靴下の摩擦で足の臭いが弾けるように強烈になる……!
グニグニ!クニュクニュクニュ!む゙っぢゅ!ぬっぢゅ!もにゅもにゅもにゅっ!ぐにゅぐにゅ!ぐちゅ!
「ん゙みゅ〜〜ッ!?!ん゙も゙ッ!!ゔぅ〜〜ッ!!」
突然変化した責めに、詩亜は驚いたように声を上げた。
懲罰部として活動する中で磨き上げられた、足指の器用さ。ワシャワシャと動き続ける藍沙のつま先は休む隙を与えない。
ぐちぐちゅ!に゙ゅるに゙ゅるニ゙ュル!ぐちゅぐにぐにゅ!ニチャニヂャニ゙チャ!ぐりぐりっ!もみゅっ!
「オ゙ッ!?スハッ……!ん゙ぐっッ!!すぅぅッ!!む゙オぉぉぉっ!!」
ずりゅずりゅずりゅっ!にゅっこ!にゅっこ!
ぐちゅぅぅぅっッ……!
鼻を足指で揉んで、挟んで、踏んで、弾いて、そのすべての動きが、ヌルネバの靴下越しに襲い掛かってくる。
ただでさえ臭すぎる足臭に悶えているのに加え、不規則に襲いかかる鼻への刺激に、体力は大きく削られた。
ぐにゅぐにゅと両足のつま先で、執拗に鼻だけを攻撃する藍沙。その揉みほぐしの末、マットに手を付いて何とか体を支えていた詩亜は、ついには床に崩れ落ちることになった。
「これでどう……!もう嗅げないでしょ!?」
「は……はへ……?疲れすぎて、ケホッ……!身体起こせないや……何か、手足も痺れて……」
足汗で前髪が額にベッチョリと張り付いたまま、彼女はマットに横になっていた。
「お願い……藍沙ちゃん……私寝転がるから、顔に足を乗せて嗅がせて……まだ勝負は、終わってないよ……」
「ッ……!!」
こんなになって、起き上がれないほど疲れきって、なのにまだ諦めないの……?
「ねぇ、どうしてそこまでするの……?」
「どうして、って……私は、ただ友達になりたい……だけだよ」
「まだそんな事……!どうなっても知らないから……!」
動く体力も残っていない詩亜、藍沙はつま先の付け根で、そっとその呼吸口を塞いだ。
「すぅぅぅ……はっ……すぅぅぅ……はぁっ…けほっ……すぅぅぅ……はぁ……」
もう、むせる体力もないらしい。まるで、寝息を立てるかのように静かにただ嗅ぎ続けている。
それは、この勝負の決着が近いことを暗示していた。
嗅ぎ続けている限り、詩亜が負けることはない。
いつの間にか、藍沙は自分が泣いていることに気が付いた。ポツリ、ポツリと頬を雫が伝っていく……。詩亜にこっそり覗き見られていた、あの日の懲罰もそうだった。足臭責めで意識を刈り取ったあと、思わず涙が零れていた……。
藍沙はこの二年間、懲罰部として活動してきたが、それは心まで鬼になったわけではない。いつも誰かに足臭を嗅がせるときは、罪悪感に胸を痛めていた。
「もう、いいでしょ……」
藍沙は詩亜の頬を足裏で優しく撫でると、脱ぎ捨てた上履きを履き直した。
ぬちゅ……
「へ……?しょ、勝負は……?私、まだ……ギブアップ……してない、よ……?」
「ううん、私の負け」
「あなたを諦めさせるなんて、出来っこないみたい」
初対面から今日に至るまで、一度も表情を緩めたことがない彼女が、初めて頬を緩ませた。
「約束通り、懲罰部は辞めることにするね」
「あ、あはは……すっごく嬉しいのに、身体に力入らない……」
こうして約1時間に及ぶ二人の決闘が決着した頃。
再び体育館倉庫の扉が開いた。
と同時に、倉庫内に充満していた濃厚すぎる藍沙の足臭が体育館中に放たれる。
運悪く体育館に居合わせた数人の児童たちは、突然の事にパニックになりながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
そしてゆっくりとした足取りで扉から出てきたのは──
動けない詩亜をおぶった藍沙、二人の姿だった。
涙で顔がぐちゃぐちゃになった藍沙と、足汗で顔がぐちゃぐちゃになった詩亜。
しかし、その表情はどこか穏やかだった。
「ねぇ、詩亜」
「なぁに?藍沙ちゃん」
藍沙は友達を持つことを恐れていた。かつて一番の友達だった美晴に自身を貶された事が、2年たった今も尾を引き、いつか裏切られるなら最初から友達は要らないと考えるようになってしまっていたからだ……。
けど、それは間違いだったのだと気付かされた。
「私と……友達になって欲しいな」
それは詩亜にとって、一番うれしい言葉だった。だから彼女は、弱々しくも満面の笑みで答える。
「うんっ、こちらこそ!」
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じわっ……じゅわぁ……
ぬるぬるっ……
「あぁ、また……」
私の名前は久司くし藍沙あいさ。
この春から小学4年生になったんだけど、私は誰にも言えない悩みがあるんだ。
それは──
足がもの凄く汗っかきな事……。
身体の他の部分はなんともないのに、足の裏だけ集中的に汗をかいてしまうのが悩みだった。
季節は4月を迎えたところで、少しずつポカポカと過ごしやすい気温になってきたけど、それでもまだ肌寒い。なのにもかかわらず、私の両足はすぐに汗だくになっちゃうんだ。いつも靴下どころか、上履きにまで足汗が染みてビチャビチャに濡れちゃって……。
何時間か履いていると、上履きの中がグチュグチュして気持ち悪くなっちゃうし、そのせいで靴を脱ぐと足元から物凄い臭いが立ち昇ってくる。
それどころか、靴を履いたままでいても足の臭いがちょっと漏れてるみたいで、しゃがんだ時なんかは靴に顔が近づくだけで、ウッと気分が悪くなる臭いがしちゃうんだ……。
たぶん、友達にはバレずに過ごしてきたけど、どうしてもこの悩みを隠し通せない相手がいて……。その相手というのが、この学校の先生達。
私達の通うこの小学校には変な規則があって、毎日靴下の臭いと汚れの検査をすることになっている。
変な規則は他にもいろいろあって、たとえば──
在校する1年生から6年生までの女子児童は、学校から配られるソックスと、専用の上履きを着用すること。
一週間同じ靴下を履き続けて生活すること。
その間靴下を脱ぐことはできず、上履きも教員の許可なく勝手に脱ぐことはできない。
毎日、下校前に全校一斉靴下検査を行う。検査項目は靴下のニオイと汚れ。
金曜日の放課後に行う検査の終了後、児童は靴下を脱いで学校に提出し、来週から着用するソックスを受け取ってから下校する。
児童はこれらの校則を遵守しなければならず、これに背くものは指導、または懲罰の対象となる……。
とか、こんな感じで靴下に関係するものがいろいろある。
だからどんなに恥ずかしくて嗅がれたくなくても、検査のときには先生達に蒸れた靴下足を差し出さないといけない。
今日は水曜日だから、昨日もその前もじっくりと靴下を嗅がれちゃったし、今日だって下校前にまた嗅がれてしまう。
それはちゃんと毎日同じ靴下を履いているのか、日に日に臭くなっているのかをチェックするためらしいけど……。
だからその、私の足が……臭いことも、汗っかきで靴下がベトベトになることも、入学時から学校側はすべて把握しているんだ……。
「ちょっと君、久司藍沙ちゃんだね?」
廊下で突然名前を呼ばれ振り向くと、それは懲罰部の先生だった。
一体なんの用だろう。
「えっ、私?……はい、どうかしましたか……?」
「実は君にお願いがあってね、懲罰部に入って欲しいんだけど、どうかな?」
まさかの勧誘だった。
懲罰部というのはこの学校独自の組織のことで、部とはいうものの、部活ではなく生徒会の一部として活動している。素行や授業態度が悪かったり、ルールに違反した児童に対して罰を与えるために作られた組織だ。
その罰というのが、つまり……無理やり靴下の臭いを嗅がせたり、顔を踏んづけたりすることで……。
絶対にやりたくない……!自分の足の臭いを人に嗅がせるなんて……。だって私の足が臭いことは、私自身が一番よく知って──いや、先生達の方が詳しいのかも知れないけど、とにかく絶対にやりたくない……!
でも相手は懲罰部の先生だ。もし断って、目を付けられてしまったら……。
でも言わなきゃ……。私はやりませんって……ちゃんと言わなきゃ……!
「あっ……あのっ、私は……懲罰部には入りません……!」
「どうして?」
間髪入れずに先生は聞き返した。
落ち着いて、自分の考えを伝えなきゃ……!
「えっと……その、靴下で人をイジめるようなこと私は……」
「誤解だなぁ。あくまで違反した悪い子を懲らしめるんであって、そんなに難しく考えなくていいんだよ?それに懲罰部に人が増えると先生もすごく助かるんだ、だからね──」
「で、でもぉ……」
どうしよう……嫌なのに、断っても引き下がってくれない。
どうしても入らなきゃだめなのかな……。
最悪、なんでよりによって私なんだろう……。
「ちょっと先生!藍沙ちゃん断ってるじゃないですか!」
「あっ、美晴みはるちゃん……!」
先生とのやり取りを聞いていたのか、突然割って入ったのは美晴ちゃん。彼女は運動が得意でミニバス部に所属している。サイドテールが特徴的な、クラスで一番の友達だ。
「ん?誰だ君は、今私は藍沙ちゃんと話しているんだが」
「とにかく!藍沙ちゃんは懲罰部なんて入らないですよ!さっきから本人もそう言ってますし、すっごく優しい子なんですからっ!」
たじろぐ私の手を引っ張って、美晴ちゃんは代わりにキッパリと断ってくれた。
その勢いに押されたのか、先生は困ったようにポリポリと顎を掻いて押し黙る。
「うーん。まぁ、しかたない。気が変わったらいつでも相談に来てくれ」
そう言うと先生は帰っていった。
「美晴ちゃんありがとう……!」
「いいのいいの!あんなの、無理やり誘うほうが悪いんだから。藍沙も次からはもっとはっきり言ってやりなよ!」
「そうだよね……うん、がんばる……!」
こんな時、美晴ちゃんはすごく頼りになる。
私と違って、先生達にも物怖じせずに意見が言えるのはかっこ良くて、見習いたいと思った。
前に話したことがあるんだけど、彼女は臭いニオイが苦手で、この学校のルールをしぶしぶ守っているものの、ルールそのものを良く思ってないらしい。
それは私も同じ気持ちだった。だって同じ靴下を1週間も履き続けるんだもん。他の服はちゃんと着替えるのに、靴下だけ履きっぱなし。
そんなの汚いし、臭くなっちゃうに決まってる。
先生達が言うには、女の子の靴下は足の形にクッキリ汚れてて、ニオイが強いほど良いらしいけど、私には理解できなかった。
それでも、ルールは守らないといけない。
美晴ちゃんも、まだ入学したての頃にルールを破った事があるみたいで、酷い目にあったと聞いたことがある。
何週間も同じ靴下を履かされて、もう脱がせてくださいとお願いしたら、その激臭靴下で100回深呼吸させられたらしい。
途中何度も気絶しかけて、顔中涙と足汗でグチャグチャになって、ようやく許してもらえたらしいけど……考えただけでも震えてくる……。
だから、どんなにこの学校のルールが嫌いで違反したくても、怖くてできないんだ。
そして事件は2日後の金曜日に起こった──。
『全校集会を行います、児童の皆さんはきちんと整列して体育館に移動してください』
朝、学校へ来ると校内放送のアナウンスが流れた。緊急で全校集会を開くことになったらしい。
クラスが速やかに列を作る中、何かあったのかなぁなんて考えながら並んでいると、美晴ちゃんの姿が見当たらない事に気がついた。
「あれ?そういえば美晴ちゃん、まだ来てないな。今日は休みなのかな……」
珍しいな……。美晴ちゃんはいつもならクラスで一番朝早く学校に来てるのに……。
若干の不安を覚えながら体育館へ入ると、いつもの集会と様子が違っていた。
学年順で児童が並んでいるのは同じだけど、体育館のステージの方で4人の児童が立たされている。後ろ姿で顔は見えないけど、身長差があるからそれぞれ違う学年の子たちなのは分かった。
私も4年生だから、いままでにも何度かこんな光景を見てきた。なんとなくだけど、たぶん、あの並んでる子達が何かルール違反をしたんだろう。
これから始まるのは、たぶん先生のお仕置きかそれとも懲罰部の懲罰か。
多分私達は、それを見せるために集められたんだ……。
──えっ!?
ステージ上に見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
あれってもしかして……美晴ちゃん!?
どうして美晴ちゃんがあそこに立たされてるの!?
私は混乱しながらも、列を乱さないようにクラスのみんなと同じく体育館に整列した。
あまりの衝撃にステージ上から目を離せないでいると、誰かが壇上へ歩いてくる。
私を勧誘した、あの先生だ。
「ここにいる4人は、学校の重要なルールに違反した!君、自分たちが何をしたのか言ってみなさい」
「別に……ただちょっとだけ靴下を脱いで乾かしてただけで──」
美晴ちゃんが答えると、先生は被せるように声を上げた。
「その"ちょっとだけ"がルール違反なんだ!靴下は1週間経つまで絶対に脱いではいけない!下駄箱前で靴を履き替えるとき、誰もいないのを見計らってコッソリやっていたのだから悪い事をしている自覚もあったんだろう?」
「そ、それは……」
初めは、それくらいいいでしょと言いたげな表情だったけど、次第にばつが悪そうに俯いた。
「近頃は、君たちみたいにルールを守らない児童が後を絶たない、なので見せしめとして君達には罰を受けてもらう」
「っ……!」
そんな、いくら何でも厳しすぎる……!靴下を勝手に洗ったりしたわけでもないのに!
ちょっと乾かしたくらいじゃ、私達の5日履きソックスの臭いは薄まらない。
たしかに今立たされてる4人はルールを破ったのかもしれないけど、それだけで全校児童集めてさらし者にするなんて……!
美晴ちゃんは表情こそ気丈に振る舞っていたが、身体はふるふると震えていた。これから起こることは、過去にお仕置きを受けた事がある彼女が一番良くわかっている……。
「今日は緊急集会と言うことで皆にも集まってもらった訳だが、この中から一人、今回の指導に参加してもらう!」
え、参加してもらう……?!
ってことはつまり、選ばれた人が美晴ちゃん達への懲罰を手伝うってこと……!?
周りを見渡すと、春に入学したばかりの1年生から6年生までの全校児童が集まっていた。
私じゃありませんように…!私じゃありませんように……!何度も心の中で唱えた。
先生は誰を選ぼうかと、並んだ児童達の顔を見回している。
これだけ大人数の中から一人を選ぶんだ、そうそう当たるはずないよ……。
そう楽観的に考えていた最中、一昨日、先生に懲罰部に勧誘された記憶がフラッシュバックした。あんな事があった後で、その先生本人がこれから児童を一人指名するんだ。
嫌な予感はしていた。
そしてこういう時の嫌な予感は、当たってしまうんだ……。
「4学年、久司藍沙!ステージへ来なさい!」
嘘……。
頭の中が真っ白だ。
今まで生きてきた中で、今日ほど自分の名前を呼ばれたくなかったことはないと思う。
たぶん最初から私にやらせるつもりだったに違いない……。周囲がザワつき、クラスの皆が一斉に振り向いていた。
でもそんな……私が、あの時私を守ってくれた美晴ちゃんに足の臭いを嗅がせるの……?!
そんな事できないっ…………!
美晴ちゃんは、私の一番の友達なのに!
固まって動けない私に痺れを切らしたのか、先生は声を荒げた。
「聞こえているだろう!早く来なさいッ!!」
体育館中に響く声。ビリビリと電気が流れるような迫力に、気がつくと身体が動いていた。
私は上履きからグチュグチュと足音を漏らしながら、小走りでステージに登る。するとたくさんの人の視線が集まったのを背中で感じた。
慣れてないんだ……こういうふうに注目されるの……。
じゅわっ……じとっ……
足が一段と汗ばむのを感じる。
壇に上がって、4人と初めて向き合った。
直接面識はないけど、美晴ちゃん以外の3人はそれぞれ1年、2年、3年生の子だと思う。
当人を前にすると、ますますこれから彼女達に足を嗅がせることへの抵抗感が強まってしまった。
どうにかして断りたい……。
「あ、あの……先生。私は……」
「いまから君たちには、この子の足の臭いをじっくり嗅いでもらう。反省するまで、激臭靴下で深呼吸しなさい」
私の声が聞こえていないのか、先生は構わず続けた。もっと声を出さなきゃ。
「先生っ……!私、できませんっ……!!」
ようやく声が届いたのか、先生は私の方へ向き直ると無言で睨みつけた。
怖い……。有無を言わさない迫力がそこにはあった。
私に拒否権がないことを、嫌でも思い知らされる。
「藍沙、こんな事に巻き込んでごめんね……。でも大丈夫だから……っ!藍沙は何も悪くないんだから……!心配しないで!」
「美晴ちゃん……」
彼女はそう言って笑って見せた。
こんな時にまで、私が先生に逆らって目を付けられないように、庇ってくれるんだ……。
先生は懐から鍵を取り出すと、私の足元にしゃがみこんで上履きに手をかけた。
慣れた手つきで靴の鍵を外すと、立ち上がって口を開く。
「ほら、靴を脱ぎなさい」
「…………はい」
逆らえない……。
私は恐る恐る上履きを脱ぐ。
ぐぽっ……びちゃ……にちゃぁっ……
おおよそ靴を脱いだとは思えない、汚らしい水音と共に、私の靴下足が露わになった。
む゙わぁぁぁぁぁっ……!
熱いほどムレムレになった足からは、湯気まで出ているほどだ。
今週私が履いていたのは、ふくらはぎくらいまでのクルーソックス。もとの色は白だけど、もはや白とは呼べない汚い色に変色している。
足首から下、上履きに覆われていた部分は湿った色に変わり、靴下に染み込みきれなかった足汗が雫になってポタポタと床に垂れる。
まだ朝なのに、緊張しているせいで汗が止まらない。
当然足裏には皮脂や垢が染み付き、真っ黒に汚れている。
新鮮な空気が足を撫でる涼しさ、上履きの中で蒸れ火照った、温かい足汗が冷えて嫌な心地良さがあった。
「ヒッ……!いやあぁぁぁぁッ!!」
私が靴を脱いだ数秒後、そこから放たれた足臭が鼻に届いたのか、一番近くにいた子が悲鳴を上げて倒れた。
この子は1年生の子だ……。まだこの学校のルールに慣れていない上に、背が低いから私の上履き内で篭ったホカホカの湯気をまともに吸ってしまったらしい。
月曜日の朝に履いてから5日履きっぱなしだから、すごく臭くなってるんだ……。
「うっ……」
足元から漂う足臭は、当然私自身にも届いてしまう。
何度嗅いでも慣れることがない、鼻にへばり付くような、生臭い納豆みたいな、甘酸っぱいような足の臭い。
美晴ちゃんだけは目を逸らしているけど、他の子たちは本当に汚いものを見るように顔をしかめていた。その視線が、私の心に針のように鋭く突き刺さる。
汗っかきで足が臭いこと、これだけは絶対にバレたくなかったのに……。
「一人倒れてしまったが仕方ない、横で寝かせておくとして、残りの3人はしっかり反省するまで嗅ぐんだぞ」
「先生、反省するまでって……どれくらいですか……?」
「どれくらいもなにも、反省するまでだ」
最悪だった。いっそ何分間と時間を決めてくれればどれほど良かったか……。
反省するまでということは、つまり先生の気分次第でいつまでも続けられるということだ。
どれだけ本人が反省したと言っても、先生が足りないと言ってしまえばそれまでだ。
「…………ッ!!」
その話を聞いてか、美晴ちゃん以外の二人は突然黙って走り出した。
「おいこら!逃げるなっ!」
2人は、あまりの恐怖に逃げ出そうとしたけど、ステージを降りたあたりで待機していた各クラスの担任の先生に捕まってしまう。
「やだぁぁぁぁぁっ!!」
「はなしてっ!!はなしてよぉっ!!」
子供の力では大人には敵わない。2人は力づくで連れ戻されてしまった。
「お前は逃げ出さなかったな。美晴と言ったか、ならお前は最後にしてやる。まずこの二人が靴下を嗅ぐのを、そこで見ていなさい」
捕まってしまった子たちは、身動きできないように押さえつけられている。
そのうちの一人が、そのまま私の足元に仰向けで寝かされた。この子は3年の子だ。
「ほら、早く嗅がせろ!鼻を足裏で踏んでやるんだよ」
「…………はい……」
私はゆっくり足裏を踏みおろした。足汗が彼女の顔に垂れてしまい、足が近づくにつれて悲鳴も大きくなるが、せめて痛くないようにと優しく鼻をつま先で包む。
「いや……!来ないで!!くさいッ!!ん゙っ!!お゙お゙お゙ぉぉっ!!」
ぬちゅっと嫌な音がした。
テカりを帯びるほど汗でヌルついたつま先が鼻を閉じ込めた。
ベトベトに濡れた靴下の水分が、彼女の肌との間で不快な音を立てる。
文字通り足汗を何日も煮詰めたような臭いが彼女の鼻腔を侵していった。
「んぶっ!!んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁっ!!臭い゙っッ!ぐざい゙ぃっッ!!!」
ジタバタと手足を暴れさせるが、すぐさま先生達に力づくで押さえられてしまう。
そのまま彼女はどうすることもできず足裏で呼吸し続けた。
靴下足を嗅がせる事を強要される私には、この状況をどうすることもできなかった……。
「んぶっ……ん゙ぉ…………お゙っ……!む゙ぉ………」
ごめんなさい……ごめんなさい……。
私の足が臭いせいでこの子は苦しい思いをしてる。今日ほど自分の体質を呪ったことはない。
嗅がせてる合間にも、私の気持ちとは裏腹に、両足はじっとりと汗をかいた。
「お゙っ…………お゙…………お゙…………」
最初こそビクビクと身体を震わせていたが、だんだんと力が抜けていき、最後には気を失ってしまった。
反省するまで嗅がせるとは言ったものの、気絶してしまっては続けようがないので、次の子に交代するらしい。
間髪入れずに次の子が私の足元に押さえ付けられる。
「やだぁ……やだよぉ……」
目の前で年上の子が気絶させられたのを見て、怖がっているようだ……。
流石に嗅がせるのをためらったけど、ふと横に視線を移すと、先生がジロリと睨んでいる。
私にはどうすることもできない……。気が付くと涙がこぼれていた。
「ごめんなさい……」
そして、その怯えた小さな鼻を足裏で塞ぐ。
むちゅっ……
「だすげっ!!んぶあ゛ぁぁぁあ゙!!臭゛いぃぃぃぃっ!!だすげでぇぇぇ!!!ママぁぁっ!!」
この子はまだ2年生だ……。この場にいないお母さんに助けを求めながら、私の靴下臭に叫んでいた。私の足裏で呼吸する度に、身体が痙攣している。
ベトベトの汚ったない靴下でこんな小さな子の顔を踏むなんて……。
「っ………!む゙ゅ…………っ……」
やがてぐったりとする彼女の頬には涙が伝っていた。
「ごめんね……ごめんね……」
一人、また一人と私に足裏を嗅がされた子達が叫び声を上げて気絶していく。
その度に、これから自身に襲いかかるであろう靴下足を嫌でも想像させられる美晴ちゃんの顔はどんどん青ざめていった。
先生がわざわざ最後にすると言ったのは、彼女の不安や恐怖を煽る為だ……。
彼女はまるで処刑の順番を待つような心境に違いない……。
そして最後は──
「美晴ちゃんの番……」
とうとう来てしまった……。
もちろん、仲がいいから贔屓して美晴ちゃんにだけ嗅がせたくないわけじゃない。
今まで嗅がせてしまった他の3人に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、やっぱり友達に靴下を嗅がせるなんて嫌で嫌でしかたなかった……。
でも、こうなった以上同じように嗅がせないといけない……。
彼女は逃げようとしなかったため、誰にも押さえつけられていない。他の子と同じように足元に横になろうとすると、先生が呼び止めた。
「待て、お前は自分の意志で、自らこいつの足裏に顔を埋うずめろ」
私にはいつの間にか椅子が用意されていた。
そこに座らされて、足を差し出すように指示される。
私の足元に跪いて嗅げということらしい。
いきなり言われるものだから、美晴ちゃんは立ちすくんでいた。
「……できないのか?反省する気がないらしいな」
先生はため息まじりに吐き捨てた。
「やります……っ!」
美晴ちゃんは私の両足に手を添えると、激臭放つ足裏にゆっくり顔を近づけていく。
そして覚悟を決めたのか、ぎゅっと目を瞑って足裏に顔面を押し付けた。
にちょっ……
「ん゙ん゙ん゙っッッ……!?!?」
彼女の鼻が、足指の付け根部分に触れた瞬間、全身がブルブルと震え出した。
鼻を身の毛もよだつ感触に包まれて、物凄い足臭がなだれ込んで来たのだろう。
そのまま彼女が息を吸い込むのを足指で感じた。
「ん゙ぐっッ!!?ぷはっ……!!はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
数秒で顔を離してしまったけど、無理もない。こんな臭い靴下、まともに嗅いでいられるはずがないんだ……。
頭で分かってても、身体が反射的に臭いの元凶から逃げようとしてしまう。
「本当に反省する気があるなら、じっくり嗅ぎ続けられるはずだ!足裏を嗅がせてくれてありがとうございます、と胸の内で唱えながら嗅ぎ続けろ!」
無茶苦茶だ……!なんで他の子よりも美晴ちゃんに対しては厳しいんだろう。もしかしてこの前私の代わりに勧誘を断ったのが、先生の気に触ったのかもしれない……。
「はぁっ、はぁっ………………」
彼女はなんとか荒れた息を整えるも、そこから動けなくなってしまっていた。
震える手を私の靴下足に添えるも、顔を近づけられないでいる。
「どうした、早く足裏に鼻を潜り込ませろ。そうだ、出来ないならこいつに追加でもう1週間靴下を履かせてから、さらに臭い足裏を嗅がせようか!」
名案を思いついたと言わんばかりに話し始める先生。それを聞いた美晴ちゃんはカチカチと歯を鳴らして怯えていた。今までと明らかに様子が違う。
「いや……!イヤっ……!」
「嫌あぁぁぁぁぁぁっ!!そんな臭い足、嗅げる訳無いでしょ!!?」
「さっきから散々臭ってるの!!こんなに離れてても、他の子が嗅がされてる間も足の臭いが襲ってきて……。でも実際に嗅いだら、その何百倍も濃くて、いくら何でも臭すぎるでしょ!」
言葉が出なかった──
それは美晴ちゃんから、初めて自分に向けられた全力の嫌悪。
1度感情が爆発した彼女の罵りは、止まることを知らなかった。
「ベットリした汗が顔に粘り付いて、それも物凄く臭い!!どれだけ足蒸らしたらこうなるの!?意味分かんない!!」
「しかもそんなに臭い靴下を、追加で更に1週間も履かせてから嗅がせる!?ふざけないでよ……!死んじゃうからっ!私死んじゃう!!藍沙の激クサ靴下で殺されるっ!!」
……
…………
………………ぷつん
「もう……聞きたくない……」
べちょっ……
まるでスライムを落としたみたいな、粘り気のある水音。
私は熱いほど蒸れた靴下足裏で、美晴ちゃんの鼻と口を踏みつけた。
「んむ゙ぅ゙ぅぅぅぅぅっッ!?!?!?」
まさか私からこんな事すると思わなかったのか、足裏に鼻を覆われながらビックリしたように目を見開いてこっちを見ていた。
さっき散々臭い臭いと言ってくれたけど、私だって好きでこんなに汗かいてる訳じゃないし、好きで臭くしてるわけじゃない……!
それを好き放題叫んで、今だって私は巻き込まれてる立場なのに!
そもそもこうなった原因は、美晴ちゃんの方じゃないの?!
こんなルールで学校生活してるんだから、美晴ちゃんだって靴下ムレムレで臭っさいんでしょ!?コッソリ乾かしちゃうくらいだもんね!!
そうだ、美晴ちゃんに足の臭い全部嗅ぎ取ってもらおう……そうすればまだマシになるかも……!
彼女がたっぷり足裏を嗅げるように、一番匂いの濃い足指の付け根を擦りつけた。
前の二人と違って、もう遠慮はいらない。
たくさん嗅がせてあげるからね……。
ぬりゅ……ずりゅ……ずりゅっ……
「………ん゙む゙ぅ…………む゙っ!!」
──あれ?
すると抵抗してるつもりなのか、美晴ちゃんが息を止めて我慢し始めた。足指を通り抜ける鼻息が無くなるからすぐわかった。
ダメ……ちゃんと嗅いで……。
もにゅもにゅもにゅ!!むにゅむにゅっ!!!もちゅもちゅっ!!!
私は彼女の鼻をつま先で捕まえると、高速で揉みほぐした。その動きの度に、汗だくネバネバの靴下の不快な感触に襲われて苦しそうに呻く。
「ゔみ゙ゅ……!…………ゔぅ!…………ん゙っ…………ぷはっ!」
遂にこらえきれず、彼女は息を吸い込んでしまった。その呼吸にあわせて、私は足指でがっしりと鼻を捕まえ、蒸れて温かい濃厚な足臭を送り込む。
すぅぅぅぅぅぅっ……
今度こそ、しっかり息を深く吸い込んでいるのが足先の感覚でわかった。
「ん゙ぶぁ゙ぁ゙ぁ゙っッ!!お゙え゙ッッ!?む゙お゙ぇッッ!!?ん゙お゙お゙お゙おぉっッッ!!!」
ビグンッ!!ビクッ!ビクンッ!!
美晴ちゃんの身体が一際大きく暴れまわった。よほど臭いのか、目の焦点も定まっていない。
普段の彼女の綺麗な声からは想像もできない、女の子のものとすら思えないほどの悲鳴。
ゾクリとした何かが背筋を駆ける。
あれ程私の足臭を拒絶した彼女が、今やこの臭っさい靴下をひたすら嗅ぐしかないのだ。
肺いっぱいに足の臭いが充満して……。
「お゙ぁ゙っッ!!オ゙ごッ!ム゙おっッ……!!」
ポタポタッ……ポタッ……
つま先を目一杯開いてからギュッと握ると、靴下から抽出された臭い足汗のドリップが滴り落ちる。
それを彼女の鼻の下に垂らし、足指で塗り広げてあげた。
最初の数秒は、歯を食いしばって耐えていた美晴ちゃんだったけど、耐えきれず発狂するのにそう時間はかからなかった。
「ん゙〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!?!?」
私の足の裏で鼻をこねくり回されながら、彼女は声にならない声を上げて全身をブルブルと痙攣させている。
「ん゙ぉ……!お゙ぇッ……お゙ぁっ……」
今度は両足のつま先で鼻を覆って、二枚貝みたいにピッタリと閉じてやった。
激臭の檻に閉じ込められた彼女の鼻は、もう靴下越しの空気しか通らない。
上履きの中で熟成された、絞れるくらい足汗のエキスを吸った靴下越しの空気だ。
しばらくこのまま嗅がせてあげよう……。
「おい藍沙、そろそろ──」
「すみません先生、もう少し嗅がせてあげてもいいですか?」
まだ嗅がせ足りない。
先生は私の言葉を聞くと驚いたように目を丸くし、にやりと笑った。
「好きにしろ」
それからどれくらい経ったのかな。
あれ程足汗を吸ってズブ濡れだった靴下が乾き始める頃、私はようやく足裏を離した。
美晴ちゃんの顔は酷くベトベトで、私の足汗で前髪はぴったりと張り付いていた。
今は完全に意識を手放しており、ビクビクと身体を震わせながら、足汗で詰まりかけた鼻で静かに呼吸している。
「終わりました」
「よくやった、懲罰部の連中顔負けの嗅がせっぷりだったぞ」
「そうですか」
先生は満足そうに私の頭を撫でた。
褒めているつもりみたいだけど、こんな事で褒められたってちっとも嬉しくはない。
私の脳裏では、足の下で白目を剥く美晴ちゃんの顔が忘れられなかった。
「じゃあ、改めてあの時の答えを聞こうか。どうする?」
「懲罰部に入ります……」
驚くくらい落ち着いて答えが出た。たったいま自身の足で親友を一人失って、どういう感情なのか自分でも分からないけど、こうなったらもう戻れない……。
それに、あの子に限った話じゃなく、悪い子は躾けないといけない。
私は懲罰部に入る覚悟を決めた。
それからというもの、生徒会懲罰部として活動する藍沙はその凶悪な汗だく激臭ソックスで何人もの児童を発狂させ、2年後、いつしか全校児童から恐れられる恐怖の象徴的存在になっていた
往前 1 / 1 页 继续
詩亜と藍沙の決闘のあと、正式に藍沙は懲罰部を辞めることになり、噂は次第に学校中へ広まった。
藍沙はその足臭懲罰によって、数々の児童達を恐れさせた存在。彼女が懲罰部として活動するだけで、校則違反の件数が劇的に減るほどだ。
それだけに、噂を聞いた児童の多くはホッと胸をなでおろしたのだが、一部そうではない児童もいたようで──
事件は週明けの月曜日に起こった。
「藍沙ちゃんおはよー!……ってアレ、取り込み中?」
朝、教室へ入ると、クラスメイトの真里乃ちゃんと結衣ちゃんが藍沙ちゃんに話しかけているのを見かけた。
でも、少し様子がおかしい。
二人はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべていて、明らかに穏やかな雰囲気じゃなさそうだ。
「藍沙、アンタ懲罰部辞めたんだって?」
「聞いた聞いた!ここ最近、み〜んな噂してたよ〜」
「…………」
「なに、無視……?フン、ついに靴下臭すぎて懲罰部すら追い出されちゃったんだ?」
「くすっ、かわいそ〜w」
「…………」
二人は、鼻をつまんで臭がるようなジェスチャーをして、藍沙ちゃんに絡んでいる。
ツンツンしてて意地悪なのが真里乃ちゃんで、背が低くて語尾を伸ばす癖があるのが結衣ちゃんだ。
藍沙ちゃんは何も言い返さず、席についたまま面倒くさそうにそっぽを向いて黙っている。
そんな彼女をよってたかって、小馬鹿にしている二人に私は我慢できなくなり、思わず声をかけた。
「ちょっと二人とも、何その言い方!それに藍沙ちゃんは追い出されたんじゃなくて、自分から辞めたんだよ!」
「あん?──」
真里乃ちゃんは睨みつけた表情のまま、ギロリとこちらへ振り返る。
割って入ったのが私だったのが意外なのか、一瞬目を見開くと、再び鋭い視線を送られる。
「って、詩亜じゃん。なんでアンタがコイツを庇うワケ?」
「え〜?二人って、そんな仲良しだったっけ〜?」
ガーン……。
藍沙ちゃんが懲罰部を辞めた噂はすぐに広がったのに、私と藍沙ちゃんが友達だって噂はクラスメイトにすら広まってないなんて……!
「仲良しだよ!だって、私たちもう友達だからね!」
そう言ってにっこりと笑ってみせた。
すると、ここまで何も言わなかった藍沙ちゃんも閉じていた口を開いた。
「詩亜が言ったとおりだよ。私は自分から懲罰部を抜けた。でも別に、あなた達にとっても悪い話じゃないでしょ?なのに、なにか不満?」
「このクサ足女!不満もなにも、こっちはアンタの靴下が臭すぎて授業に集中できなくて迷惑なんですけど?」
「そ、そうよ!邪魔しないでよね〜!」
「え、でもこの学校の校則だし仕方ないよ……。それに靴脱ぎしてる訳じゃないし、集中できなくなるくらい迷惑だなんて、そうそうないと思うけど……。」
「はぁ……どうせ前に懲罰で私にじっくり嗅がされたのとか根に持ってるだけでしょ、トラウマにでもなったの?」
「このッ……!」
睨み合う三人、一触即発の空気が漂っていた。
「あわわ……喧嘩は良くないよ……」
話の流れから、何となく事情が見えてきた。
私が転校してくる前の事なんだろうけど、二人は藍沙ちゃんの懲罰を受けたことがあるんだ。
そのときの出来事を根に持ってて、今回懲罰部を辞めたのをいいことに、1年以上前の鬱憤をこのタイミングで晴らしにきたんだ……。
でも、そういうことなら私は藍沙ちゃん側の味方だよ!もちろん友達だからひいきしてる訳じゃない。
懲罰を受けたのは気の毒だけど、そもそも懲罰は何かを違反した児童にしか行われないんだから、もとの原因は真里乃ちゃん達にあるはず……。
「とにかく、どうせみんな思ってるって!藍沙の靴下が臭すぎて授業にならないってこと!皆迷惑してるの気が付かないの!?」
「でも、みんなって言うけど私は違うよ!だって私は直接藍沙ちゃんの靴下を嗅いだけど耐えれたもんね!臭くて集中できないなんて、言いがかりだよ!」
「えっ──!?何週間か前に藍沙と決闘して勝った子がいるって聞いたけど、もしかしてそれ詩亜のことだったの……!?」
信じられないとでも言うように、驚いて目を丸くする結衣ちゃん。
そして驚いていたのは真里乃ちゃんも同じだった。
「うぐ……だ、だったら!靴下じゃなくて上履きならどーよ!?上履きのほうは何年も履いているから、もっと臭くなってるし耐えられないでしょ!ましてや、あのクサ足の藍沙だもんね!」
そう言って彼女は藍沙の上履きを指差した。
たしかに……靴下は普段でも一週間、私と決闘した時なんか二週間も履きっぱなしだったけど、履いている時間なら上履きのほうがずっと長い……。
「詩亜ちゃんは知らないんだろうけどぉ〜、この学校の女子はみ〜んな、一度も上履き洗ってなくて、履きっぱなしなんだよぉ〜?」
私は去年転校したばかりだから、この上履きをまだ1年も履いていない。でも転入する時に、この学校に入学した子は卒業まで同じ上履きを履き続けるのだと聞いた。
私は、学年が上がるころに上履きも買い換えるのが普通だと思っていたからビックリした。この学校の上履きは特別で、足の成長に合わせて6年間履ける機能と耐久性をもった上履きなんだ。
6年生の藍沙ちゃん達は、もう5年以上、一度も上履きを洗うことなく履き続けている。
見比べると一目瞭然で、私以外の3人の上履きは汚れやキズが多く、湿っぽい色で足汗の染みが出来ていた。中でも藍沙ちゃんの上履きは特に汚れてる。
週に一度しか履き替えない靴下ごと、足を包み込んで蒸らしている上履き。年単位で足汗や皮脂が染み込んで、変色した中敷き。
きっと、靴下以上に強烈な臭いのはず。でも……だとしても……!
「いや、たとえ上履きの臭いでも私は耐えれるよ……!」
自信があったわけじゃない。ただ、あんなに友達のことを悪く言われて引き下がれなかった……。
「ふーん、でも口ではどうとでも言えるじゃん。靴下は耐えられたみたいだけど……コイツの殺人兵器みたいな上履きを嗅いでから言いなよ」
「う……そんなに言うなら勝負しよう!実際に嗅いで、耐えられるって証明してみせるから!」
そう宣言すると、二人はニヤリと笑った。
「勝負?」
「うわ〜、言っちゃった〜!後悔しても遅いよ〜?w」
「私が藍沙ちゃんの上履きを嗅いで耐えれたら私の勝ち、耐えられなかったら二人の勝ちでどう?」
勝負のあとで、やっぱりあれは簡単な条件だったからナシ、なんて言われたくない。
二人が納得せざるを得ない条件で勝てば、それ以上は何も言えないはず!
「2週間履きの靴下は耐えたから、今度は3週間履きでも構わないよ!その代わり、もし私が勝ったら、もう藍沙ちゃんにちょっかいかけないって約束して!」
「オッケー!そこまで言うなら見せてもらおうじゃん?詩亜が上履き嗅ぐところ。3週間後で、ね」
「ちょっと、勝手に決めないで……!上履きなんて嗅がなくていいから!詩亜には、これ以上臭い思いさせたくないし……」
「私は大丈夫!むしろごめんね……3週間後に勝負なんて決めちゃって、3週間も同じ靴下履かせちゃうことになるし……」
「それくらいいいよ……私にしてみれば、汗と汚れで足が気持ち悪くなるくらいだから。そんなことより、それを嗅ぐ詩亜が心配なの……。ねぇ、やっぱり今からでも止めるって言ったほうが──」
「そんなのダメ……!私、藍沙ちゃんがあんなふうに悪口言われるの我慢できないから、ギャフンと言わせてやりたいの!」
それから3週間後。
「今日が勝負の日だよ!」
「うぅ、ついにこの日が来ちゃった……」
「私なら大丈夫、安心してよ!絶対勝ってみせるから!」
「私は、詩亜だからこそ嫌なのに……勝ち負けなんかじゃない、私の足が臭いせいで苦しんでほしくないのに……」
「あのね、藍沙ちゃんはなにも悪くないよ。藍沙ちゃんのせいじゃない。足の臭いだって、靴も靴下も洗わないのがこの学校のルールだもん。そんなの、みんな臭くなっちゃうよ。
私だってすっごく臭くなっちゃうし!
それに何より、この勝負を言い出したのは私なの、全部私のワガママ。だから、私に嗅がせて?」
「頑固なんだから……。もう……どうなっても知らないからね……?」
藍沙は、詩亜の性格をよく知っている。
彼女は一度決めたことは絶対に曲げないし、絶対に諦めないことは前回の決闘で嫌というほど分からされた。藍沙はしぶしぶ納得すると、二人で勝負の舞台となる空き教室へと向かう。
校舎の隅にある、普段は誰も近寄らない空き教室。ドアの鍵はすでに開いていた。
普段使われていないからか半分物置みたいな状態の部屋に、今回の勝負の相手、真里乃と結衣が立っていた。
「へぇ、逃げずに来たんだ。威勢だけは褒めてあげる」
「待ってたよ〜!」
二人は、顔にマスクを付けていた。さらに言えば、厳重にマスクを二重掛けにしている。
「あぁ、コレ?これくらいしないと、こっちまで藍沙のニオイくらっちゃうでしょ」
「ホントは臭いから同じ部屋に居たくないんだけどね〜。ズルしないか見張らなきゃいけないから仕方な〜くここで見張る為に用意したんだ〜!」
「べっ、別にズルなんてしないもん!」
「そうだ、勝負のルールだけどこっちで決めさせてもらったから、文句ないよね?結衣、説明お願い」
「は〜い」
「ルール……?」
上履きを嗅いで、耐えて見せればいいと考えていた私は、嫌な予感がして身構えた。
結衣ちゃんは言われると、ポケットから折りたたんだ紙を取り出して、書かれた内容を読み始めた。
「えっとぉ〜、まず詩亜は藍沙の靴下を口の中に詰め込んでもらいま〜す!口で息しちゃ駄目だからね〜?
そしたら〜、脱ぎたてホカホカの上履きを左右10回ずつ嗅いで深呼吸するの!臭そう〜w
嗅いでる途中ガマンできなくなって、靴下を吐き出したり〜、上履きから顔を離したり〜、あと気絶したらもちろん負けだよ〜!
最後まで嗅ぎ続けたら詩亜の勝ち〜!まぁ無理だと思うけどw」
「そんな、靴下まで使うの!?3週間も履いてるのに……っ!」
提案されたとんでもないルールに、思わず藍沙ちゃんが声を上げた。
「別に私達も鬼じゃないしぃ、嫌なら降参してもいいんだよ?どーすんの、詩亜?」
ニヤリと口角を上げる真里乃ちゃん。
きっとこんな無茶なルールをふっかけて、降参させる作戦なんだ。
でも、そんなのに屈しない……!
聞かれるまでもなく、私の答えは決まっていた。
「も……もちろん、やるよ……!」
「あっははっw声震えてない〜?大丈夫〜?」
あの二人も昔、藍沙ちゃんの懲罰を受けたことがあるから、このルールがどれだけ滅茶苦茶か知っている。
私が2週間履きソックスに耐えたと知ったから、勝負を難しくしたんだ。絶対に達成できないようにするために。
二人の余裕そうな顔を見てもわかる、向こうはこれを勝負だなんて思ってない。
私と藍沙ちゃんを二人まとめてイジメられる、都合のいい遊びだと思ってるに違いない……。
でも、だからこそ勝って見せたいの!
「……決まりね。じゃあ藍沙、靴脱ぎなよ」
「くっ……!分かった……」
カチャ……カチャ……
上履きが脱げないようにかけられた鍵を、慣れた手付きで外す藍沙。
──くちゅっ。
彼女が上履きのかかとに人差し指を入れると、それだけで水音が鳴る。
ぐぷぷっ……にゅぐ……ぐちゅ……!
誰が聞いても綺麗なものは想像できない汚音と共に、藍沙の左足は上履きから解き放たれた。
途端に、乾いた空気が濡れるような感触。空き教室内の湿度が増したのを肌で感じる。
そしてその湿り気が顔に届く頃、納豆にも似た刺すような刺激臭が鼻を襲った。
「…………っ!」
忘れられない、頭の中に染み込むくらい嗅いだ、藍沙ちゃんのニオイ。
彼女の足臭が部屋を満たすのも、そんなに時間はかからなかった。
「うぁ……キツっ……!口で呼吸しなきゃ……」
「ゔっ……!うぅ〜っ!く〜さ〜す〜ぎ〜っ!」
真里乃ちゃん達も、マスク越しでさえ臭うのかうめき声を漏らしている。
「うぇ、凄っ……。そーだ、ほら藍沙!アンタの足の裏がどうなってるか詩亜にもっと見せてあげなよ!ゲホっ、懲罰のときもよくやってたじゃん?汚ったない足の裏無理やり見せつけるの」
藍沙ちゃんは彼女に命じられるままに、こちらへ足の裏を向けた。
「うっ……ごめんね、詩亜……」
むわぁぁっ……
「っ……!」
私は言葉を失った。
というのも、前の決闘のときも藍沙ちゃんの足裏汚れは見た。けど、今見ているのはもはや別物と言っていいほど、衝撃的だったからだ。
肌色が透けるほど、引き伸ばされた白のクルーソックス。長すぎず短すぎない丈の靴下は、藍沙ちゃんの形の綺麗な足に、そのままピッタリと張り付いている。
そのソックスの足裏部分は、濃い汚れで足型を映し出すように真っ黒だ。それだけじゃない、足裏自体、全体的に薄っすら土色の混じったグレーに染まって汚れている。きっと靴下の繊維一本一本に汗が染み込んで、皮脂や垢が絡みついてるんだ。
その上で、足跡のように黒ずんだ部分は3週間もの間踏まれ、中敷きと擦りあった生地が磨かれて脂汗でヌメり、テカテカと鈍い光を跳ね返している。
足首を覆う白い生地と、足裏を覆う黒っぽくなった生地は、元は同じ色だったなんて信じられないほど色の差が激しい。
3週間分の足汗は当然吸いきれず、靴下の表面を滑りながらポタポタと床に垂れている。
熱を持って足裏を撫でる湯気は、足裏全体から立ち昇ってつま先へと集まり、目でわかるくらいムワムワと部屋の空気に霧散していた。
まだ左足しか脱いでいないにも関わらず、すでに部屋中に広まった足臭は結衣をダウンさせるには十分だった。
「ぐざいぃ……。ゔぅ〜〜ん……ゔぅ〜〜……」
「おいおい結衣、大丈夫かよ……?お前は懲罰で藍沙に鼻踏まれたときも、一瞬で意識吹っ飛ばされてたからな……。
そろそろ本題の勝負始めよーか……ムダに引き伸ばしてもウチらの鼻が保たないわ。藍沙、その靴下詩亜に渡してやって」
藍沙は、汗でべったりと足に張り付いた靴下を何とか剥がすように脱ぐと、申し訳なさそうに手渡した。
毎日この目で見てるから分かる。先々週から履いていた、白のクルーソックス。汗を吸ってずっしりと重い、布の感触。
──じゅわぁ。むわっ……もわぁっ……
藍沙ちゃんは生まれつき汗っかきらしい。特に足の裏の汗の量は物凄くて、そのこともあって懲罰部の推薦を受けたんだとか……。
湿った、を通り越してグッショリと濡れたソレは信じられないほど温かく、手のひらの上にあるだけで物凄い臭いを放っていた。
これを……口に……。
「ほら、早くやんないと始まんないよ?その臭っさい靴下、口に入れるの。ほら早く!」
「う、うん……」
んあぁ…………むっ!
私は思い切って、藍沙ちゃんの靴下を頬張った。
──ぐちゅっ……!じゅわぁぁっ……!
「んむ゙ッ!!ん゙ーーっッ!!?!?」
じゅわっと染み出した液体が、ドロドロと口の中に溜まる。これが全部、靴下が吸った足の汗だなんて考えるだけで今すぐにでも吐き出してしまいそうだ……!
でも出すわけには行かない。この靴下を出してしまったら、それだけでルール上負けになっちゃう……!
1秒、2秒と時間が経つに連れ、絶対に口に入れてはいけないものを食べてるのだという感覚は、味覚によって現れた。
「ふんぐぅぅぅぅっッ!!!」
生臭くて……塩っ辛い……!
足汗に触れるたびに舌が痺れるっ!
ごめん藍沙ちゃん……すっごく気持ち悪い……。
「ふぐっ……!ふぎゅっ……!」
あまりのショックに忘れていた呼吸を思い出し、酸欠気味の体に鼻から空気を吸い込む。
するとチーズみたいに酸っぱくて濃厚な納豆臭と、藍沙の甘酸っぱい汗の臭いが鼻を抜けた。
教室を満たす臭いの元凶のうちの一つが、口の中で暴れまわっている……。
「うぇー、見ろよ結衣、あいつマジで藍沙の靴下食ってるよ」
「ゔぇぷ……っ!見゙てる゙ごっぢが気゙持ぢ悪いって〜……想像したら……ヴッ!」
真里乃ちゃんはまだしも、結衣ちゃんの方は同じ部屋にいるだけなのに、もう結構グロッキー状態だ。
でも、私もこれは……かなり苦しい……。
これだけ苦しいのに、勝負はまだ始まってすらいないなんて……。
ルールは藍沙ちゃんの上履きを、片方ずつ10回深呼吸。
「今は……こんなことしか言えないけど、詩亜……頑張って……!」
──むわぁっ……!
そう言って藍沙ちゃんが脱いだ上履きを私に手渡してくれた。まずは左靴……。
特性の上履きの中には小型の暖房が取り付けられており、本人が何をしていようが常に靴中が蒸れるようにデザインされている。
手で持つと、その熱さがハッキリと伝わってきた。
一旦嗅ぎ始めたら、10呼吸終わるまで顔から離すこともできない。
どんなに苦しくても、辛くても、臭くても……。
でもそれ以上に、いまの私は少しでも早くこの勝負を終わらせることに焦っていた。
私は縋るように、脱ぎたてホカホカの上履きに鼻を埋めた。
履き口から侵入した鼻先を、上履きのじっとりとした熱さが包み込む。一瞬だけ呼吸をためらったけど考えるより先に吸い込んだ。
すうぅぅぅぅぅぅ……ん゙ぐッ!?
「オ゙っッ!?ん゙ん゙ーーーッ!!ゴフッ、ゴフッ!!」
足っ……!?臭っ……!?臭いッ……!!
反射的にむせてしまい、慌てて口の中の靴下が飛び出さないように上履きを押し付ける。
そして、何とか吐き出しそうなところを堪えたのもつかの間、時間差で鼻を貫いた刺激臭がじわじわと広がってきた。
じゅわ……むあっ……むわぁっっっ……!
「オ゙えっ……!ん゙ぇっッ……!んん゙ーーっッ!!む゙ぅーーっ!!」
嗅覚と味覚のダブルパンチ。
臭いだけ、味だけのときとは違う、両方を味わわされる事で、蒸れた足裏、汗、皮脂、それらの質感がありありと脳裏に浮かんだ。
ふぐぐっ……!
思わず歯を食いしばると、噛み締められた口内の靴下からムチュッと足汗があふれ出す。
「ム゙オ゙っぁッ!!んぶっ、ふぐぅゥゥっ!!」
「あはっ、辛そう〜wほ、ほらまだ1回目だよ〜。残り9回も嗅げるね〜!たっぷり楽しんでね〜w」
靴下は全部私の口の中、上履きの臭いも全部私の肺に流れ込むから、教室中に充満していた足臭はだんだんと薄まってきた。
それもあって徐々に慣れてきたのか、少し元気になった結衣ちゃんは調子に乗って、上履きに苦しむ私を冷やかす。
くぅっ……他人事だと思って……!
私は覚悟を決めて、もう一度吸い込んだ。
すぅぅぅぅぅっ……!!
「ん゙むぅーーっ!!」
鼻が、体が悲鳴を上げるのも構わずに、無理やり吸い込む。
前の決闘と一番大きく違うのは、口が靴下で塞がれていること。これが、時間が経てば立つほど息苦しさが増していった。
ただでさえ激臭上履きに鼻を突っ込んで、湧き上がる熱気と湿気が息苦しいのに、精々出せるのはうめき声だけ。
制限時間はないけど、長引けばもっと苦しくなる……。ここはあえて一気に吸ったほうが良いかも……!
すぅぅぅぅゥッ!!ふぅっ……スゥぅぅぅぅっ!ふぅぅっ……すぅぅぅゥゥッ!ふぅぅ゙っ……すぅぅぅぅーっ!!
「む゙ぶぁ゙ぁぁっ!!ふぎゅっ……!!ふぎぃぃィィっ……!!ギギギっ……!!」
く、臭いっ……!!鼻が壊れそう……!!
でも口の中の靴下を逆に噛み締めて何とか耐えれた……。
「おー、4連続で深呼吸した。身体ガクガクいってんじゃん、大丈夫そ?」
「これで6回目だね〜、そろそろ限界なんじゃな〜い?」
だ……だいぶ足汗が口の中に溢れて気持ち悪い……。舌にまとわりついたところから物凄い味がするぅ……。
──ゴキュ……ッ!
「ふっッ!?!ふぐぅぅぅぅっ!!!ン゙オ゙っッ……!!むオ゙ェっ……!!オ゙ぇ!!オ゙ェェぇぇっ!!ム゙っッ!!オ゙ア゙ァぁぁっ……!!」
の、飲んじゃったっ……!
口の中で、溜まりに溜まった靴下汁……!
全身に鳥肌が立って、ゾワゾワとした嫌な感覚が背筋を駆け上がった。
喉がピリピリする……。
「えっ、えっ!?今の見た?詩亜の喉、ついに飲みこんだよ〜!藍沙の激クサ靴下ジュースだ〜w」
「む゙う、うぅっ…………!」
「詩亜ッ!!」
──どさっ!ガタッ!
気が付くと、私は壁を背にもたれかかる様に尻餅をついていた。
あ……危ない……。手離してないよね……?
「大丈夫なの!?ホントに無理しちゃダメ!」
あっ、藍沙ちゃんが咄嗟に肩を支えてくれたんだ……。ありがとう、私……まだ頑張るよ……!
上履きを手放したら、この勝負が負けになっちゃう……!まだ、まだ私は嗅げるっ……!
「うぅっ、詩亜……どうしてそこまで……」
スゥゥぅぅっッ!!
まるで痛みに耐えるかのようにギュッと目を閉じて、思いっきり靴下を食いしばって吸い込んだ。
上履きが保温されるせいで、時間が経っても吸い込む悪臭は脱ぎたての温かさのままだ。
でも歯を食いしばって耐えれば、まだ嗅げる!
「ふぐぅぅーーっ!!ゴホっ、エホッ、オ゙っぇ……」
口の中にあるせいで靴下に私の唾液までもが染み込んで、噛み締めるたびに足汗でコーティングされた靴下フィルターを通して、皮脂や垢によって最悪の調味がなされた唾液が喉に帰ってくる。
まるで洗濯機にでもなった気分……。
それでも歯を食いしばって臭いに耐える。そうしないと気が触れそうだった。
すぅぅぅぅぅっ……!
これでも少しずつ慣れてきた気がする。
靴下に穴が開くんじゃないかってくらい、目一杯噛み締める。靴下汁を飲み込むのも構わずに、ひたすら上履きに食らいついた。
「きゅ、9回目……!」
いつしかイジメっ子達の頬にも汗が伝っていた。それは、部屋の暑さによるものか……はたまた詩亜が予想よりも耐えていることへの焦りか……。
そして深呼吸は10回目を迎えた。
スゥゥぅぅぅっ……!!
「〜〜〜〜ッ!!!ぷはっっッ!!」
ずるるっ……
口の中に指を突き入れ、クチャクチャになった靴下を取り出す。同時に嗅ぎ終わった上履きが手を離れ、床を転がった。
横たわった上履きは今なお、履き口からユラユラと蒸気を溢れさせている。嗅いでる間中も、ずっと蒸れ続けていた証拠だ。
「はーーっ……!はーーっ……!はーーっ……!」
「ウソ……っ!?」
「10……。マジかよ……あの藍沙の上履きを耐えきったぞ……」
「はぁっ……はぁっ……かはっ……!はぁっ……はぁっ……」
でも、まだ半分。次は右足の靴下を咥えて、右足の上履きを嗅がないと……!
は、早く息を整えなきゃ……。
あれ……何だか体が重い……。
私が思っていた以上に体力の消耗が激しかったみたいで、尻もちをついたまま立ち上がれなくなっていた。
「詩亜……?……詩亜っ!!」
「ほ、ほ〜ら!やっぱり耐えられなかったんでしょ!?これで私達の勝ちで──」
「まって……!まだ、終わってない……!藍沙ちゃん……悪いけど、次は上履きを私の鼻に当ててくれる……?」
手が痺れて握る力が弱い今、自力で上履きを嗅ぐのは難しい。もし落としてしまったら、顔から上履きを離したら負けのルールに引っかかっちゃう……。
でも、二人なら!二人で協力すれば、まだやれるはず!
「待てよ!人に上履きを持ってもらうんじゃ、懲罰と同じで無理やり嗅がされてるのと変わんないじゃん!それで本当に耐えたって言えんの?」
「そ、そうよ!人に嗅がせてもらうのは反則!」
そ、そんな……。
なら、これなら!
「じゃあ……私が床にうつ伏せになって、上履きの上に頭を乗せるから、それでどう……?そうすれば、一人でも嗅げるよ……」
「う……それなら、まぁ……」
「決まりだね……。じゃあ藍沙ちゃん、靴下と上履きを貸して……」
「無茶するんだから……」
ぬちゅ……くちゅっ……!
藍沙は右足の上履きを脱ぐと、汗で張り付いた靴下を引っぺがして詩亜に渡した。
直前まで上履きサウナで茹で上がっていた靴下。こちらも左足同様酷い汚れっぷりで、熱いほどの湿気を放っていた。
そして、上履きも差し出す。
詩亜の目の前の床に、そっと置いた。
むっわぁぁぁっ……!
こっちも直前まで履いていたため、限界まで蒸れきっているようだ。
中敷き部分は真っ黒に汚れ、何層も重なった汗染みがヌルヌルと表面を覆っている。
嗅ぎ終わった上履きの倍近い湯気を立ち昇らせていた。
まずは靴下を口に入れる。
舌で押すと、きつねうどんの油揚げのようにジュワッと汁があふれ出した。
「ン゙グッ…………!んお゙ぇぇっ……」
2度目でも……いや、何度経験しようと、絶対に慣れることのない不快感が口の中に広がる。
臭くて、苦くて、塩っぱくて、生臭い靴下汁。
そして、床に倒れ込むように前に体を倒す。
ちょうど顔の位置に待ち受けるのは柔らかいクッションなどではない、汗、汚れを蓄積して使い込んだ6年ものの激臭上履きだ。
──べちゃっ……!
粘着質な水音。鼻をすっぽりと覆うように上履きの中へはめ込まれた。
この瞬間は何度だって鳥肌が立つ。
「ゔっ……!ゔっ……!」
本能が危険を告げているのか、ビクンビクンと身体が痙攣した。
ある意味、体を起こせないほど疲労していて助かったのかもしれない。もし万全の状態なら、反射的に顔を離して、臭いから逃げていたかもしれないから。
「ゔゔゔぅ゙ぅ゙ゥ゙ゥッ!!」
普段の明るい詩亜、彼女の喉から出ているとは思えない低い唸り。
藍沙は固唾を呑んで見守った。
スゥぅぅぅぅっ……!
しんと静まった部屋に、呼吸音が広がる。
まずは1回目……。
10回の上履き内深呼吸。それを耐えられるか耐えられないかが、すべてを決めるのだ。
「む゙ぅ゙ぅ゙っっっ!ん゙む゙ぅぅゥゥっッ!!…………んオ゙ェっ!ゔぇッ!」
思わず叫び出したくなる程の激臭が、鼻腔を通して脳内に染み込んでいき、詩亜は目を見開いた。
しかし、当の本人にはもう叫ぶだけの余力は無い。詩亜に出来るのは、ただひたすらに藍沙の上履きを嗅ぎ続けることだけ。
すぅぅぅぅぅっ……!
「ゔぅっ……オ゙ッ……!オ゙っッ……!」
ごきゅ……ごくん……!
詩亜の喉が動いた。
口内の靴下も取り替えたのだから、もちろん新しく足汗に濡れそぼった布からは靴下エキスが流れ出し、口の中に溜まっていく。
ある限界を超えたら、苦痛を和らげるために歯を食いしばらなければならない為、どんなに汚くて臭い汁でも吐き出せない以上、飲み込まないとそれはそれで苦しくなってしまう。
どっちみち彼女に靴下汁を飲み込まないという選択肢はなかった。
それから3回、4回、5回と詩亜は深呼吸を続けていく。一見スムーズに見えるが、彼女にとっては地獄そのものだ。
別に臭いに慣れてしまったわけではない。
かと言って3週間履きの靴下ジュースを飲んで、6年ものの上履きを嗅いで、味覚と嗅覚が壊れてしまったわけでもない。
ただ、体力がほぼ底をついた今、上履き臭を嗅ぎ取って微かにうめき声を漏らす以外に、彼女にできることなど何も無いのだ。
叫ぶ元気がなければ、咽る元気がなければただ呻きながら呼吸するだけ。
藍沙はこの状況に見覚えがあった。それは、あの夏の体育館倉庫での決闘。
あのときも詩亜は弱りきって、それでも靴下を嗅がせて欲しいと足裏で呼吸を繰り返していた。
ガマン強いというレベルを越えた、執念のようなものを感じ取り、藍沙も負けを認めたのだった。
スゥぅぅぅぅっ……!!ふぅっ、すぅぅぅぅっ……!!
「オ゙っッ……!!ん゙お゙っ……!!オ゙ァ………ッ……!んグっ……!!ん゙ん゙ん゙ッ…………」
深呼吸は6回、7回へと差し掛かる。
「ッ………………!ふぅ゙っ……………!ん゙ッ……!」
ここまできて、ついに詩亜のリズムが崩れた。
回数にしてみれば後3回。しかしその3回が、詩亜にとっては恐ろしく遠い3回だった。
流れに任せて嗅ぎきる体力は残っていない。
すうぅぅぅぅぅぅッ……!
「ん゙ッ……ふぎっ……!ふぎぎぎっ!!!」
最後の力を振り絞って、力強く呼吸するために歯を食いしばる。8呼吸目。
スぅぅぅぅぅっ……!
「む゙オ゙ォォォォッ!!」
低い唸り声を、死にものぐるいで絞り出す。9呼吸目。
スゥぅぅ……ぅゥぅっ……!!
「ぐっ……ゔぅゔゔぅうッ!!フーッ!フーッ!フーッ……!」
詩亜は半分パニックになりながら、僅かに繋ぎ止めた意識で、遂に約束の10呼吸目を終えた。
「10回達成……!詩亜っ……!」
藍沙はすぐさま詩亜のもとへ駆け寄ると、急いで仰向けに寝せて上履きと靴下を外してあげた。
詩亜の意識は朦朧としていたが、気を失ってはいない。
最初は突然足臭から助け出されて、何が起きたか分かっていない様子だったが、しばらく経ってようやく意識が鮮明になって状況を理解した。
「……あ、あはは……。終わった……の……?」
「そう、これで正真正銘、詩亜の勝ち!」
「マ、マジかよ……!?足臭懲罰で学年問わず、何人もの児童の意識を刈り取ってきた、あの藍沙の上履きをあれほど嗅いで気絶してないなんて……」
「詩亜が勝ったんだから文句ないよね?もう二度と私達にちょっかいかけないで」
「ちぇ、分かったよ……」
「は〜い……」
二人が不服そうな返事をすると、今度は藍沙が鋭くと睨みつける。
「覚えておいて……!確かに私は懲罰部を辞めた。でも今後、あなた達のせいで詩亜にもし何かあったら……。
懲罰なんて生温いくらいの足臭地獄を味わわわせてあげるから……!」
「ひっ、わ……分かったってば……」
「はっ、はいっ〜!」
藍沙のあまりの迫力に気圧されて、二人は一目散に空き教室を出ていってしまった。
──
────
──────
その日の放課後、私は藍沙ちゃんに送ってもらい、ふらつく足取りで家路についた。
鼻に残った足臭は、未だに上履きに鼻を突っ込んでるんじゃないかと錯覚させるほど、しつこくこびり付いている。
とにかく、滅茶苦茶に疲れた……。
その後は夕飯すら断ってベッドに倒れ込んだ。
泥のように眠る……なんて言ったりするけど、ホントに自分が泥にでもなったみたいに……。
身体が溶けて……身体どころか意識まで溶けて……どこまでもベッドの中に沈みこんでいきそうな……。あぁ、人って完全に疲れきるとこうなるんだ──
「ぁ…………しあ…………詩亜…………!」
誰かに体を揺すられて目が覚めると、そこはいつもの教室だった。私は机に突っ伏して寝てたみたい。
「おはよう、詩亜」
やっとの事で最近仲良くなった藍沙ちゃん。
「詩亜、私達って友達だよね……?」
「うん!藍沙ちゃん、もちろん友達だよ!」
って、あれ?
藍沙ちゃんの背がどんどん伸びて……周りの机や椅子、教室もだ。どんどん大きくなっていく!
いや、むしろその逆……みるみるうちに自分の体が小さくなって、気がつけば藍沙ちゃんの靴ですら、見上げるくらいの大きさになってしまった。
「えっ!?えっ!?……えぇっ!?」
何がどうなってるの……!?
藍沙ちゃんはしゃがみこんで、床で慌てふためく私をつまみ上げると、にっこりと笑って言った。
「詩亜、友達なら耐えられるよね?」
「えっ、耐える……?耐えるって、なにを……?」
イマイチ状況が飲み込めないまま、藍沙ちゃんはモゾモゾと足を動かし始めた。
──くちゃ……ぐちゅにちゅ……カポッ
靴を脱いだ……?まさか……!
そのまさかだった、脱いだばかりの彼女の上履きの真上まで運ばれると、そのまま中に放り落とされる。
「ちょっと待って!いやぁぁっ!」
うぅっ……。
上履きの内部はじっとりと暑くて、まるで濃厚な足の臭いが充満したサウナ。壁も床も熱く湿っていて、よじ登って逃げ出そうにも、汗でヌルヌルと滑って難しい。
どうにか、登るための引っ掛かりがないか探していると、急にあたりが薄暗くなった。
何事かと思って上を見上げると、自分の100倍くらいありそうな巨大な靴下足裏が、今にもこの上履きを履こうと狙いを定めていた。
「ひっ、ひゃあぁぁぁっ!?」
今立っているのは、上履き内部のかかと部分。
このまま履かれたら間違いなく潰されちゃう……!
私は一心不乱に、つま先の方へと走り出した。
つま先の方なら、もしかしたら体を隠せる隙間があるかもしれない。
そうしている間にも、背後からは巨大な足指がクネクネしながら迫っていた。
かかとからつま先まで、靴の中を走るだけなのにこんなにも長い距離だなんて……。改めて自分の身体の小ささを思い知らされる。
──ずるぅっ……!
「あっ!!!」
履きこまれた中敷きが足型に凹んでるのと、足汗でヌメって走りづらいのが相まって、うっかり転んでしまった!
私が転んだことなんて知る由もなく、靴下足は迫り来る。
「いやっ、やめてっ……!藍沙ちゃん……!」
ぐちゅぅぅぅぅっ……!
「ぶぇぇっ……!あ……あれ?助かった……の……?」
なんだかんだ足指に押し出されて、一番奥のつま先部分に追いやられる形で巨大な足の進行は止まった。
何とか潰されなくて済んだ……。
そうホッとしたのもつかの間、すぐさま別の問題が私を悩ませた。
ムワァァァっっ……!ジュワァァァっっ……!
物凄い熱気と足臭。
つま先付近は、かかとに立っていたときとは全くと言っていいほど別世界の、地獄のような湿度と臭い。
足の臭い特有の納豆のような、それでいて酸っぱい酢のような……?とにかく目に染みるほどのクサい臭いが、唯一の出入り口を塞いだ靴下足とそこら中の壁や床から臭いだした。
「む゛、むぐぅぅっ!!く、臭いよぉっ……!って、ひゃぁぁっ!」
すると突然、グラグラと靴全体が揺れたかと思うと、つま先を地面に突き立てるような角度に向きが変わった。
さっきから変化の連続で、息つく暇もない。
幸いにも体重はかからず、踏みつぶされずに済んだものの、すぐに異変に気がついた。
「汗が……溜まってきてる……ッ!?」
靴全体が縦になったことによって、靴下や靴壁、中敷きに染み込んでいた汗が流れ出してつま先に集まっていた。
靴も靴下もかなりのサイズがあるからか、汗と言っても少し濡れる程度では収まらない。
小さな滝みたいな状態になって、どんどんつま先の水かさが増してきた。
すぐ上には大きな足指があって、身体を起こす隙間もない。
このままじゃ、溺れちゃう……!
呼吸ができる内に……水位が上がらないように汗をなんとかしなきゃ……!と言っても、うぅっ……もう飲み込むしかないよぉ!!
「こ、こうなったら……がぼっ……!ごぽぽっ、ゴクッ……!オ゙ぇぇっ……!」
意を決してヌルヌルしたあったかい汗を飲み込んでみると、酸味や塩味、臭みがまじったエグい味が口の中に広がった…。
靴下からもどんどん汗が滲み出て来る……!そうか、染み込んでた汗だけじゃない、現在進行形で足が蒸れて、今も新しく汗をかいてるんだ……!
うぅぅっ……。でももう、こうするしか……。
足汗の味はとても飲めたものじゃないけど、それでも溺れる怖さのほうが勝った。
「ずぞぞっ!ずっ、ヂュルヂュルッ!んぐっ!む゙おぇッ……!オ゙ぇぇ……!」
口を付けて、靴下に染み込んだ汗をチュルチュル吸い上げる。
しかし、それでも止めどなく流れ続ける足汗。
どんどん上履き内部の熱気と湿度は増していって、藍沙ちゃんの足がどんどん蒸れていくのがわかった。
気が付けばもう、全身が足汗風呂に浸かってしまうほどに汗が溜まっていた。
「ぷあっ!オ゙ぇ!やめっ……やめてっ!藍沙……ちゃん……!ごぼっ……プハッ、助けてっ……!」
ダメ……!汗をかくスピードに追いつかない……!
やめてっ……!もうやめてっ……!
藍沙ちゃんの足のサイズが23cmくらいとして、今の私の身長は2cmくらいしかない。
こんな小さいんじゃ、飲みきれないよぉ!
「ほら、やっぱり耐えられないんだ……。やっぱり、足が臭い子は嫌いでしょ……?」
悲しそうな声色でそう呟く、藍沙ちゃんの声が上履きの中で響いた。
でも、声が出ない……。
せめて、違うって言わせて……!そんなことないよって……。足が臭いとか臭くないとか、友達ってそんな関係じゃない!
うぅ……っ!
溺れちゃう……。もう、ダメ…………。
「──ハッ……!」
気が付くと私は、いつもの自分のベッドの上で目が覚めた。
寝起きの記憶は夢と少し混じってて、全身がびっしょりと濡れてたから、もしや足汗が!?なんてビックリして飛び起きたら、ただの寝汗だった。
それとも冷や汗かな、怖い夢みちゃったからかも……。
暫くベッドで横になってると、記憶も鮮明になってきた。
「無理もないよね、昨日の今日だもん……」
昨日の勝負、正直言って最後の方はよく覚えていない。
その後の私はしばらく休んでて、やっと立てるようになった頃に、藍沙ちゃんの手を借りながら下校したんだ。
思い返したら、藍沙ちゃんの足の臭いがまたムワッと臭い立った気がした。
「って、もうこんな時間!遅刻しちゃうよー!」
「はぁっ……はぁっ……セーフ!」
「詩亜、おはよう」
「あ、おはよー藍沙ちゃ──あっ……」
藍沙と目があった瞬間、詩亜の脳裏には今朝の夢がフラッシュバックしていた。
「……どうかしたの?」
不意に足を止める詩亜を、心配そうに伺う藍沙。
すると藍沙は何かに気付いたように、そそくさと
ここは児童玄関、靴を履き替える場所である。
「ご、ごめんね……先に履き替えていいよ……。私はもう少ししたら行くから」
「え、どうして……?あっ──」
藍沙ちゃんは、今この状況で靴を脱ぐことをためらってるんだ。きっとそれは、足の臭いを気にしてて、私に嗅がせたくないから……。
だからわざわざ靴を履いたまま待ってて、私が玄関を離れてから履き替えようとしてる。
私は藍沙ちゃんの下駄箱の中から上履きを取り出すと、迷わず顔を突っ込んで思いっきり息を吸い込んだ。
すぅぅぅゥゥッ!!
「ん゙んぅーーっ……!!ゴホっ!ケホッ……!」
「ちょ、ちょっと詩亜!?いきなり何してるの!?」
「実は今日の朝……」
私は、今朝見た変な夢の内容を藍沙ちゃんに打ち明けた。
「その夢を見て思ったんだ、藍沙ちゃんが私と距離を取ってたの。私に気を遣ってたんだよね?」
藍沙ちゃんが懲罰部を辞めた噂はすぐに広まったのに、私達が友達なのはクラスメイトですら知らなかったのも、きっとそれが原因なんだ。
彼女の、私への接し方はどこかよそよそしくて、見る人によっては避けてるように見えてたのかも。
「たぶん、私はこの足の臭いでいろんな人に嫌われてきたから、もし詩亜にまで嫌われたらどうしようって、無意識に怖かったのかも……。でも突然上履きを嗅ぎだすこともないでしょ!」
「藍沙ちゃんっ!!」
「わっ……。なに?急に大きな声出して……」
「私はね、藍沙ちゃんとお友達になれてとっても嬉しいよ!
藍沙ちゃんはこれまで、いろんな大変なこととか、辛いことがあったかもしれないけど……。
私は、どんなに足が臭くても藍沙ちゃんを嫌いになったりしないよ!今までは一人だったかもしれないけど、これからは二人一緒だからね!」
「あははっ!それもそうだね。もし足の臭いで嫌いになってたら、詩亜は最初の決闘の時点で友達になってないだろうし!」
「そうそう、だからもっと信用してくれてもいいんだよー!」
「ん?じゃあ早速、私の臭っさい靴下と上履き……もっと嗅いで特訓してみる?」
「えっ!?あ、あはは……!それはまた今度にしようかな〜!なんて……」
「ふふっ、冗談だよ」
初めて二人で笑ったのは、あの日の決闘の直後。それ以来、ようやく二人でまた笑い合えた。
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あの勝負の日から数日。
真理乃まりのと結衣ゆいは約束通り、藍沙あいさと詩亜しあの二人に関わるのをやめたが、イライラは貯まる一方だった。
クラスメイトと言う事もあり、二人の事は嫌でも目に入る。その度に、晴らせない鬱憤がモヤモヤと胸中にうずまく。
「あぁっ……!もう、ムカつく!!」
「せっかく藍沙たちに仕返しできると思ったのにね〜」
私は真理乃ちゃんと、いつものように文句を言いながら、ぶらぶら帰り道を歩いていた。
私達二人は、まだ久司藍沙くし あいさが懲罰部として活動していた頃、違反児童として足臭懲罰を受けたことがある。
理由自体は些細なもので、単純に宿題をやらない、遅刻する、テストの点が悪い、みたいなのが積み重なって違反児童にされてしまったんだ。
懲罰室で、逃げられないようにイスに縛り付けられたまま、藍沙に靴下を履いた足の臭いを嗅がされた。
思い出すだけで、今でも身震いする。
どんなに許しを乞いても、無視されてひたすら足裏を嗅がされた。
結局気絶するまで、藍沙の汗だく靴下越しの足裏をず〜っと嗅がされ続けたんだ。
一番匂いの強い、つま先に鼻をギュッと掴まれながら……。
私はすぐに気絶しちゃったけど、真理乃ちゃんは懲罰中もずっと反抗的で、特に長く嗅がされたみたい。
ほんとに思い出したくないみたいで、その時の話はしてくれないし、あからさまに機嫌が悪くなるから私も聞かないんだ……。
懲罰を受けたあの日以来、ずっと藍沙に仕返ししてやりたかったけど、懲罰部に逆らうことも学校のルールに反しちゃうから、何も出来なかった。
そんなとき、ようやくチャンスがやってきたんだ。
それは、藍沙が懲罰部を辞めたというウワサ話。
つまり、藍沙が懲罰部としての権力を失い、私達と同じ一般児童になったということ。
これで今までの恨みを晴らすように、本人に直接文句や嫌味をぶつけられると思ったのになぁ……。
「詩亜のやつ、なんであんなに臭い上履き嗅げるんだよ……!絶対勝てる勝負だったのに……!」
藍沙の殺人級の激臭ソックスに耐えられる人なんているわけ無いと思って、有利な条件でこっちから勝負を仕掛けたのに、負けちゃった。
藍沙の3週間履きの白靴下を口に咥えさせて、更にその状態で脱ぎたてホカホカの上履きを嗅がせた。
その勝負で負けた条件で、今後藍沙達にちょっかいをかけないことを約束させられた。
こうなると、おとなしく引き下がるしかない。
「あー!イライラする!」
やりきれない怒りをぶつけようと、真理乃ちゃんは地団駄を踏む。
その様子を見て、私はふとある事を思い出した。
「あっ、そーだ!真理乃ちゃん〜、知ってる?この学校にある祠の話──」
「……ん?なんだよ、急に」
私は別の友達から聞いた話を、気分転換もかねて真理乃ちゃんに教えてあげることにした。
詩亜と藍沙が気に入らないのは私も同じだけど、それ以上にあの二人のせいで気分が悪くなるのも癪だもんね。
「まぁまぁ聞いてよ〜。校庭の林にちっちゃい祠があるでしょ?そこで神様にお願いすると、何でも願いを叶えてくれるんだって〜!これで二人に仕返ししようよ〜」
「はぁ……?ちょっと結衣、あんたまで私をからかわないでよ……」
あんまり占いやオカルトに興味のない真理乃ちゃんは、不機嫌そうにため息をついた。
う〜ん、やっぱり駄目かなぁ……。
かくいう私も、こんな話本気で信じてはいない。あくまで気分転換になればと思って、真理乃ちゃんを誘っているけれど……。
「まぁまぁ〜、お願いするだけならタダだし?少しは気晴らしになるかもよ〜?」
「なーに、あんたそう言うの好きなワケ?けっこー意外じゃん。まぁ、別に今日ヒマだし、そんなに言うなら一緒に行ったげるよ」
「やった〜!ありがと真理乃ちゃん!ねぇねぇ、祠についたら神様にどんなお願いする〜?」
「そりゃあもちろん、アイツらに仕返しする事に決まってるっしょ!やられたまんまで引き下がれないって!」
良かった、なんだかんだ乗り気みたい。
早速私達は例の祠までやってきた。
「祠ってこれのこと?んじゃ、早速──」
たどり着くや否や、真理乃ちゃんは両手を合わせてお祈りを始めた。
「詩亜と藍沙に復讐できますように……!詩亜と藍沙に復讐できますように……!詩亜と藍沙に復讐できますように……!」
「あはっ、真理乃ちゃんったら〜。流れ星じゃないんだから3回も言わなくて良いんだよ〜?」
「なっ!?んだよ結衣!しょーがないだろ、こういうの慣れてないんだから!」
恥ずかしそうに顔を赤くして怒る真理乃ちゃん。
その時だった──。
『ふむ、その願い聞いてやろう』
「はっ……!?」
どこからともなく、声が聞こえた。老人のようなしゃがれ声。
後ろ?空から?それとも祠の中から?いやまさかそんな訳……。
二人で辺りをキョロキョロと見渡したけど、ここには私達以外誰もいない。
何だ気のせいかと思い、祠に再び目を向けた瞬間だった。
「よっこらせ……」
「「うぁっ!?」」
祠が立っている土台の石におじいさんが腰掛けていた。私達は揃って驚きの声を上げる。
この人、どこから来たの!?足音なんてしなかったけど……。
いや、それよりも今は──。
「アンタ誰?」
私よりも先に、真理乃ちゃんが口を開いた。
この状況、見るからに怪しいのに……。
「ふぉっふぉっ、ワシに願いを聞かせたのはお主らじゃろうに、第一声が誰?とはのう……」
「ってことは、アンタが祠の神様?ホントに居んのかよ」
「む、いちいち無礼な奴じゃの〜。まぁさておき、いかにも、ワシが神じゃ。
藍沙と詩亜とやらに復讐したいんじゃろう?ならワシが、呪いの力を貸してやろうぞ」
神様は私達の額にそれぞれ手を当てると、スゥーッと何かが身体に浸透するような感覚があった。
これが神様の力……?
って、え……?え……?
すごい。力を授かった途端に、その力の使い方や何ができるのかまで頭の中に流れ込んできた。
「時間は明日の夕暮れ、日が沈むまでじゃ。それを過ぎたら呪いは解ける。構わんな?それと忠告じゃが――」
「スゴっ……!この力があれば……!」
「さっそく作戦を考えようよ〜!」
「うぉーい、まだ話は終わっとらんぞー!ありゃ、行きおったわ……。まったく、せめて礼くらい言わんか。最近の若いのはせっかちでイカンの」
そう呟くと、神は再び姿を消した
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僕は後輩の美咲さんに逆らえない、
弱みを握られている。
事の発端は数日前に遡る。
ごく普通の、平日の放課後のことだった。
授業も終わり、家に帰ろうと昇降口に立ち寄ったそのとき。
一人の女子生徒が廊下を走って来た。
この時間帯なら部活終わりだろうか。
焦るように靴を履き換え、慌てて急ぎ足で帰っていった女子生徒。
細かい事情は知らないが、相当急いでいたようだ。額には汗で濡れた前髪が貼り付いていた。
下駄箱の、ほんの数秒前に脱がれた上履きが視界に入る。
ココだけの話、僕は女子の足の臭いが大好きなのだ。女子を見たとき、迷わず視線が足元に吸い込まれてしまうほどに好きだ。
だから嗅ぎたくなってしまう時がある。
しかし女の子に、足を嗅がせてくれ、なんて頼めるわけがない。なので、間接的にでも足の臭いを嗅ぐことが出来る上履きに興味があった。
悪いことだという自覚はある。
でも女子の上履きを見ると興奮が収まらなくなり、気が付くとそれを手に取ってしまっていた…。
温かい。
脱ぎたてのそれには、体温がまだ残っていた。
履き口からそっと、上履きの中に手を入れると蒸れた湿気が指先に伝わった。
温かく、ぬるりと湿った中敷きの感触。
バクバクと高鳴る心音。もう止まれなかった。
上履きの中に潜り込ませるように鼻を突っ込み、そして思いっきり吸い込んだ。
鼻腔に広がる少女の甘い足臭。たまらなかった。
一日履き通し、汗を吸って饐えたような臭いを醸し出す。
周りに人がいない事を確認すると、ズボンのチャックから一物を取り出して一心不乱に扱いた。
「ふっ…ふっ…うっ…」
興奮とともに行為はエスカレートしていった。
今嗅いでいるのとは別の、もう片方の上履きに一物を突っ込む。
「あふぅ…」
瞬間、一物がしっとりと蒸れた温もりに包み込まれ、思わずため息が漏れる。
そして上履きごと握りしめ、ゴシュゴシュと荒っぽく扱いた。
ぬるついた上履き内部が、絡みつくように極上の快感をもたらす。
ついさっきまで女子が履いていた上履きだと思うと、更に興奮した。
「うっ…くっ…いっ…く…!」
自分でも驚くくらい早く射精た。
ビュクンビュクンと、上履きの中に精液をぶちまける。
つま先部分に向けて、大量の白濁で汚してしまった。
絶頂の余韻に浸りながら嗅ぐ上履きも堪らない…。
その時だった。
「みーちゃった!くすくすっ♡先輩、何してるんですか〜?」
背筋が凍った。背後から声がしたのだ。
慌てて振り向くと、そこに居たのは後輩の美咲さん。
確実に今の醜態を見られてしまった…。
血の気が引き、頭が真っ白になる。
「かなりヘンタイじゃないですか?♡上履きってw 先輩そーゆーの好きだったんだ〜?♡」
「ち、違っ…!これは…!その…」
「もう誤魔化せないですよ? ほら、これな〜んだ♡」
そう言って彼女はスマホをチラつかせた。
その画面に写っていたのは先程の行為中の僕の写真。
終わった…。あまりのショックに目眩すら感じる。もっと冷静になれば良かったんだ…。
何でこんなことをしてしまったんだろう…。
やり場のない後悔に飲み込まれていく。
「こんなに夢中で嗅いじゃって…♡皆が知ったら何て言いますかね〜?」
「そ、それだけはっ!許して!誰にも言わないで…!なんでもするから…!お願いしますっ!!」
恥も外聞も捨て、必死に許しを乞う。
このままじゃ人生が終わってしまう…。
「本当に?何でもするんですか?美咲の言うこと聞いてくれます?♡」
「する!聞きます!」
「じゃあ来週の金曜日の放課後!空き教室に来てください♪ もし来なかったら…わかってますよね…?」
「は…はい…」
〜それから〜
約束の一週間後。金曜日。
逆らえない僕は、指示の通りに放課後の教室に足を運ぶ。
ドアを開けると、やはり彼女が待ち構えていた。
「美咲さん…約束通り、来たよ…」
「あっ!やっときた〜!先輩♡」
「ね…ねぇ、早く例の写真…消してもらいたいんだけど…」
「ん〜??だって先輩まだ反省してないでしょ〜?どうせまた女の子の上履き汚しちゃうもん!」
「も、もうしないから!本当に出来心で…ごめんなさい!」
「えーっ?絶対ウソだ〜!先輩必死で臭い嗅いでたも〜ん♡」
「うっ…それは…」
あれを見られてしまった事実が痛い。
恥ずかしさに思わず俯いてしまう…。
「ねぇ、私の上履き嗅ぎたい?ムレムレで、きっとすっご〜く臭いよ〜♡先輩好みのニオイかも♡」
「え…えっ…!?」
美咲さんは突然とんでもないことを言い出した。
女の子からそんな誘われ方をされたら、ドキドキが収まらない…
愚息が反応してしまうのも自然なことだった。
「あははっ♪どうしたの?先輩♡前屈みになっちゃってるよ?やっぱり反省してないね〜♡」
「ぁ、しまっ…!ずるいぞ!」
やっぱり、からかってるだけだ…!
「ん〜?反抗的な目つきだね〜?いいんだよ?みんなに教えてあげたって♡」
「そんな…それだけはっ……」
「じゃあさ、先輩にチャンスあげよっか!今私が履いてるこの靴下、何週間履いてるでしょ〜か!当てれたらやめてあげるね♡」
「…えっ…?」
耳を疑った。
聞き間違いじゃないのかと耳を疑う。
「靴下…って…な、何週間…!?何日じゃなくて…?」
「そそ、何週間履き続けたのか♡もしはずしたらたっぷり嗅いでもらうからね…♡」
どういう風の吹き回しなのか…。
不本意ながら、美咲さんは僕が上履きの臭いを嗅ぐのが好きであることを知っている。
僕をバカにしてわざとこんな事聞いてるのだろうか…?
いや、一旦冷静に考えよう…。
靴下を連履きするとしても、せいぜい2日3日程度くらいだと思う…。
でも、あの言い方だと最低でも一週間は履いていることになる。
しかし靴下を履くのは彼女本人だ。
そう何週間も同じ靴下を履きたいと思うだろうか…?
それに、僕が弱みを握られたのは丁度一週間前のことだった。
あの日から準備していたなら最長でも一週間のはず。
僕は、せめてそうであってくれと願うように、こう答えた。
「い…一週間…!」
美咲は意地悪な笑みを浮かべてくすくすと笑っている。
「ざんね〜ん!はずれ〜♡」
そんな…
ということは最低でも2週間以上履いてるという事になる…
「で…でもっ!証拠がないじゃないか!何週間も履いてるって、どうやって証明するのさ!」
「信じられないですか…?くすくす♡」
上履きの中で数週間、おそらくかなり蒸れているであろう靴下の汚れは想像もできない。
でもまぁ、取りあえず良しとしよう…。
そもそも、僕は女の子の足の臭いが大好きなんだ。むしろこの状況は願ったり叶ったりだ…!
「まぁとりあえず、約束通り嗅いでもらいま〜す♡ほら、大サービス!脱ぎたてだよ〜♡」
目の前で左足の上履きを脱ぎ捨て、その足の裏をこちらへ向ける。
さて…どれくらい汚れてるのか
「ひっ…」
言葉を失った…
実際に見ると迫力がまるで違う。
リブのついていない薄手の白靴下。
その靴下汚れは、小さく整った形のいい彼女の足型をくっきりと映し出している。
なんといっても印象的なのはその汚れの濃さ。
やはり何週間も履き続けていたのは嘘ではなかったらしい…。
ぴったりと足に密着した薄手の白靴下からは、足裏のシワや爪の形までがはっきりと見て取れた。
靴下の繊維が引き伸ばされ、薄くなった部分からは、火照って紅潮した足裏が透けて見える。
かなり蒸れ上がっているようだ。
そして足の裏やつま先部分を中心に全体が足汗でじっとりと濡れ、靴下を湿っぽい色に変色させている。
ぬるぬるとした光沢さえ放つ足裏部分は、彼女が相当な脂足であることを物語るようだ。
靴下全体からはムワッと汗の湯気が昇り、湿気と熱気が広がる。
足裏と顔との距離はまだ離れているにもかかわらず、つよい納豆臭、むせ返るような汗臭、蒸れ酸っぱい足臭が顔にかかり、ツンと鼻を刺す。
凶悪な靴下に恐怖していると、美咲さんは嗜虐的な笑顔をこちらに向けてきた…。
否、笑顔というより嘲笑と言ったほうが正しいか。
これが今から僕を処刑する靴下足なのだと、わざと見せつけているのだ…
お前はもう、弱く愚かな獲物でしかないのだと…。
「どう?まだ信じられない?♡」
「うっ……うそ…だ…!」
ここまで汚れた足裏は見たことがない。
でも…この汚れは本物。薄々わかっていても認めたくなかった。
「ほら、嗅いで…♡」
「いやだ……やだ…やだ…!」
「だーめ♡逃げたら皆に言っちゃうよ?あのこと♡」
くっ…
それを言われると弱い。
彼女の機嫌を損ねることだけは避けなければならない…。
靴下足は、むにゅむにゅとつま先をくねらせながら近づいてくる。
その動きの度に濃厚な足臭が漂ってきた。
いよいよ目前まで迫ってしまった。
「んぐっ…!」
足裏はもう触れるか触れないかという距離まで来た。
物凄い臭気と蒸気だ。
小さな足指を器用にグパァッと開く。
そのまま、つま先と引き伸ばされた靴下で鼻を覆うと、ギュムッと握り込んできた。
ちょうど足指の付け根の窪んだ部分にみっちりと包まれる形で、鼻が蒸れ靴下地獄に閉じ込められる。
まるで鼻だけサウナに入ったかのようだ。
抵抗できない僕は、せいぜいぷるぷると震えることしかできなかった。
「ん………っ!」
もちろん息は止めている。
どのみち続かなくなることが分かっていても、今は息を止めるより他なかった。
当然彼女もそれを分かっているようで…
「どうしたの…?息なんて止めて、嗅ぎたくないの?」
「んむ……っ…!んむーっ!!」
メチャクチャにつま先を握ったりくねくねさせたりしてくる。
早く嗅がせようとしつこく鼻を擦りあげる。
じっとりと湿った温かい靴下の生地、ゾワゾワとした不快感が背筋を駆けた。
「ばぁ〜か♡そんなことしても無駄なのに♡ほらほら♡くねくね…♡くにゅくにゅ…♡ぎゅ〜っ…♡」
刻々と限界が近づいてくる。
身動きも取れず、ただその時を待つことしかできない。
勝ち誇って馬鹿にしてくる美咲さんにされるがまま、悔しさが込み上げてくる。
すると突然つま先が、器用に僕の鼻を摘むようにして力強く挟み込んできた。
これでは逆に息を吸うこともできない。
「んむ゛っ!んむ゛〜!んむおぉぉぉぉ!」
我慢が裏目に出た。
まずい、このままでは窒息してしまう!
「え?何?急に必死に唸ってどうしたの?そんなに私のくっさい靴下が嗅ぎたいのかな〜?♡」
「んむっ!む〜っ!!」
苦しい。
決して嗅ぎたくはないが、せめて呼吸する空気が欲しかった。僕は必死に頷いて息を吸わせてほしい事を訴えると…
「目が必死wそんなに嗅ぎたいなら仕方ないな〜♡はいっ♡」
美咲さんは突然につま先の力を緩めた。
僕はなんとか呼吸しようと思い切り息を吸い込んでいたため、その勢いのまま強烈な足臭を味わうことになってしまった…。
「ん゛ぶっ!!む゛お゛お゛お゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
物凄く濃厚な足臭が鼻腔を犯し、肺へなだれ込む。
口も、湿った足裏がぺったりと覆っているため、くぐもった叫び声が漏れた。
「あはははっ♡生きるために必死で吸い込んだ空気、それ全部私の靴下臭だよ?♡かわいそ〜♡」
にやにやと意地悪な笑みで覗き込んでくる。
「ど〜お?いい臭いでしょ?♡」
「む゛ぅうぅぅぅ!んむ゛ぅぅぅぅぅ!!」
あまりにも臭すぎる。
染みるほどの臭いに涙が出てきた。
「泣くほど嬉しいの?♡先輩に嗅いでもらう為に4週間も履いたんだよ♡」
衝撃の事実だった。
先程の問の答え、この靴下は4週間も履き続けていたのだ。
ほぼ一ヶ月じゃないか…
強すぎる激臭に、頭がクラクラする。
「ぷはっ…!! ゲホッ、ゴホッ…。」
ようやく開放された。
粘ついた足汗が顔に付き、足臭が消えることはなかったが、足裏が離れた事実が少し心を楽にさせる。
顔の足汗が空気に晒され、ひんやりとしていた。
久しぶりの新鮮な空気だ。
でもまさか、年下の女の子の足がこれ程までに臭いなんて…
「じゃあ、次は上履きも嗅いで貰おうかな〜?♡」
上履き…?僕の視線は先程脱ぎ捨てられた上履きに移った。
脱いでからだいぶ経っただろう。
これなら直接足を嗅ぐよりまだマシなのではないか?
心のどこかでホッとしていると、そんな安堵を切り裂くように彼女は口を開いた。
「どこ見てるの?先輩が嗅ぐのは…こっちだよ♡」
美咲さんは右足に履いたままの上履きをチョンチョンと突付きながら笑う。
今の今まで履き続けていた上履きはもちろんムレムレだろう。
僕の淡い期待は粉々に崩れさった。
「もう…許して…お願い…」
僕は懇願するが、彼女は聞く耳を持たなかった。
「ん、何か言った?♡じゃあまずはここから嗅いでみよっか♪」
そう言うと、美咲さんは上履きを脱ぐことなく足をこちらに突き出した。
その姿はまるで、下僕に靴を舐めさせる女王様を思わせる。
「は…はい…?」
てっきり上履きを脱いで嗅がせるのかと思っていた僕は呆気にとられた。ここから嗅ぐ…?
履いたままの上履きを嗅ぐのか…?どういう意味だ…。
そして僕は視線を落として上履きの方を見る。
そのとき初めて気が付いてしまった。
足汗の染みでかなり汚れてた上履き、その先端が足指の動きでムニムニと開いていることに。
2年間洗わず毎日履きこんだ上履きはボロボロになっており、つま先の縫い目の部分が裂けていたのだ。
中の足指がもぞもぞ動くことによって、その穴も
開いては閉じてを繰り返す。
「あ♪気付いた?わかったよね?ここだよ♡」
「いやっ、でも…これっ…!」
美咲さんは催促するが、しかし僕は上履きに怖気づいてしまった。
この見るからに臭そうな上履きのつま先に、自分から鼻を突っ込んで嗅ぐ勇気などなかった。
「もー!焦れったいなぁ!」
「やだ…嫌だ…!んぐっ!!」
戸惑っている僕に痺れを切らした美咲さんは、容赦なく鼻に上履きをこすり付けてきた。
その拍子に、つま先の裂け目にすっぽりと鼻を覆われてしまう。
本来は不可能なはずの、靴を履いた状態で一番臭いの濃いつま先を直に嗅がされるという事になる。
靴の中にも収まりきらないほどの、凝縮された湿気と熱気が流れ込んできた。
「んむ゛ぁあ゛あぁぁぁっ!」
想像を超える臭いだった。
温かいを通り越して熱いほどの蒸れ。
蒸れたてホカホカの靴の中に、直接鼻を入れて嗅いでいるのだ。
蒸れに蒸れて温まった靴下つま先が、上履き内部から鼻をクネクネと揉む。
中敷きとつま先の隙間から生まれる熱気と湿気が直接鼻に流れ込む。
「どう?つま先触ってるのわかる?くにゅくにゅ〜って♡」
美咲さんが足指をもぞもぞと動かすたび、靴下と密着する鼻が揉みしだかれる。
「ほらほら〜!弱点のお鼻にクッサイつま先こうげき〜♡」
「む゛ぶっ!むぅ〜〜!!」
ムニュムニュムニュムニュ!
滅茶苦茶に、激しく動く足指。
熱いほどに暖かい指が、汗を吸って湿った靴下越しに襲いかかる。
「あはっ♡先輩のお鼻、冷たくて気持ちいい〜♡」
臭いと感触に悶える僕を見て楽しんでいるのだろう。ニコニコと可愛らしい笑顔で僕の鼻をつまみ上げる。
表情だけ見れば、まさか足で他人を虐めているのうには見えない。
「む゛ぁ゛っ!!…む゛っ!?」
あまりの激しさに耐えかねて、後ろに身を引こうとしたその時。
それを見計らったかの様に、美咲さんは僕の頭の後ろに手を回した。
しっかりと両手指を組んでいるので、後ろに逃げることは叶わない。
上履き自体もぐりぐりと押し付けられているため、右にも左にも逃げる事ができない。
「先輩〜?今逃げようとしましたよね〜?そんなに辛いんですか?これはお仕置きなんですから、ちゃんと嗅がないとダメなんですよ〜?」
美咲さんの表情から笑みが消えた。
「むっ!!んむっ!!」
「許してって言いたそうな顔ですね、でもダメで〜す♡…でもまぁ、結構楽しかったので、そろそろトドメ刺しちゃいましょうか♡」
――ゾクッ…!
今までにないほどの恐怖感が襲う。
まずい…このままでは身が持たない。
彼女が言い放った「トドメ」という言葉の意味。
今まで以上の責めが行われることを予感させる。
しかし、逆を言えば、これを耐え切ることができれば僕は助かるはずだ。
これさえ耐えれば…!
「床に寝てください♡もちろん仰向けで、わかりますよね?♡」
覚悟を決めた僕は素直だった。
耐えるんだ…!どんなに臭くても、どんなに苦しくても!
言われた通りに床に寝転がる。
美咲さんの座る椅子の、すぐ真下に顔が来るように。
すると美咲さんが立ち上がり、僕の胸の上に腰を下ろした。
「んぐっ…」
体重がかかり、苦しい声がもれる。
「もしかして重かったですか…?」
「そんなこと…ないです…」
「そうですか♡良い子ですね〜♡じゃあ…」
美咲さんが動いた。
手を伸ばす先は上履き。直前までつま先を嗅がせていた上履きだ。
かかとに指を引っ掛け、ゆっくりと脱いでいく。
――む゛わぁぁぁっ…!
蒸れに蒸れた、ホカホカの足が現れた。
湿り気を帯びた靴下からは、揮発した足汗が湯気となってふわりと広がる。
生乾きのような汗くさい臭いがツンと鼻を刺す。
僕の顔の真上で、上履きから開放された足は涼しそうに指をくねらせた。
もう足を下ろすだけで僕の鼻は塞がってしまうだろう。
覚悟していても、体がふるふると震えてしまう。
次第に真っ黒に汚れた足裏が降りてきた。
…来る……!
ビチャッ、ぐちゃっ…!
…!?
恐怖の余り、ギュッと目をつむってその時を待ったが、顔を踏まれることはなかった。
代わりに聞こえたのは湿っぽい水音。
両耳のすぐそばで何かが動く。
恐る恐る目を開けると、僕の顔を挟むように両足が振り下ろされていた。
グチュリ、ニチャリ。
至近距離から、つま先を床にこすりつけて粘着質な音を聞かされる。
「顔を踏まれると思った…?ざんね〜ん!本命はこっちでした〜♡」
本命…?どういう…んぐっ!!
彼女の言う意味を理解する間もないまま、熱いほど湿った何かが顔を覆う。
一呼吸でその正体を理解させられた。上履きだ。
煮詰められた脂汗の、生臭いような汗の臭い。
むせ返る程の臭気に襲われ、反射的に咳を吐き出した。
しかし咳き込めば咳き込むほど、更に足臭を吸い込んでしまう。
「お゛あ゛っ!ゲホッ!!んお゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ガホッ!!かはっ…」
ビクンビクンビクン!!
僕は陸に上がった魚のようにのたうち回った。
…と言っても、せいぜい手足をバタつかせるのが精いっぱいだ。
顔を左右にずらして何とか逃げようとしても、それすら叶わない。
両足が、がっちりと頭を固定して逃さない。
その上、上履き越しに頭を押さえつけられ、完全に逃げ場を失ってしまった。
美咲さんに乗られているのでもちろん体も動かせない。
動きを封じられたまま、蒸れた上履きをじっくりと嗅がされる。
その温かさ。その湿気。上履きから放たれる臭いという臭いが、余すことなく鼻腔を埋め尽くす。
「ちょっと…すごい暴れてますね♡こら!動くな〜!♡」
顔の横に踏みおろした両足を、今度は挟み込むように両側から顔を固定する。
耳や、頬にかけて足裏を密着させる感じだろうか。
ますます逃げる余地もなくガッチリと拘束されてしまった。
熱く湿った靴下足裏の、じっとりプニプニした柔らかさが万力のように力強く包む。
「んぐっ!!んぐぅぅぅぅ!!む゛あ゛゛っ!!」
「臭いですか〜?臭いですよね〜?♡我慢せず、じっくり味わってくださいね♡」
「お゛あ゛あ゛っ!!」
どんなに抵抗しても意味を成さなかった。
ただ一方的に上履きを嗅がされ続ける。
「アハっ♡先輩かわいい♡もっともっと、ずっと嗅がせてあげますね♡ぐりぐり〜♡」
「んぐっ!む゛ぐぅ゛ぅぅぅ!!」
ビクッ…ビクン!ビクン!
どれくらい経ったか…。
教室内は静かになっていた。
「あれ、先輩?せんぱ〜い?お〜い!」
湿ったつま先でピチャピチャと頬を叩くが、反応がない。
完全に気を失ってしまったようだ。
「ふふっ♡私の足の臭いで気絶しちゃったんだ〜?先輩♡」
ゾクゾクと込み上げる興奮に顔を紅潮させながら荒く息をついている。
自らの恐ろしく臭い上履きを以てして、ひとりの変態を処刑したのだ。拷問にも近い、足臭責めによって…。
「じゃあね、先輩♡」
小声でそう呟くと、美咲は脱いだ上履きを履き直し、何食わぬ顔で教室を後にした。
「うっ…うぅ…ん…?」
目を覚ますと、もうすっかり日が落ちて辺りは暗くなってしまっていた。
やけに頭が痛む…特に鼻が…納豆臭いような…
ハッ…!
そうだ、僕は美咲さんに靴下を嗅がされて…
そこから先が思い出せない。気を失ってしまったのか…。
フラフラと立ち上がると、一枚の小さな紙が体から落ちた。
大きさからしてメモか何かだろうか…?
それを手にとって見てみると、こう書かれていた。
『もしまた下駄箱でイタズラしたりしたら、そのときは覚悟してくださいね。先輩♡』
――ゾワッ…!
すべて思い出した。激臭のショックで記憶が混濁していたが、メッセージを見た瞬間に脳裏に蘇る。
上履きを無理やり嗅がされてもがき苦しんだ、
あの感触と臭いが鮮明に。
それ以来僕は、女の子の足の臭いがトラウマになってしまったのだ
「奏太、今日はこの前のお仕置きだよ♡」
楽しげに語りかける紗季の表情を見ることはぼくにはできない。前回は紗季に視線を向けるよう言われていたけれど、今日は分厚いアイマスクを着けられている。もちろん手足も拘束済みだ。ベッドに寝かせられた裸のぼくの手首足首に巻き付けられた枷がベッドの柱に繋がれ、大きくXの字を取らされている。無防備なペニスを守るものは何もない。
紗季の指先がぼくの鎖骨の間から、つつつ……と降りていく。くすぐったい。身体の中心線をゆっくりとなぞられ、性感帯に触れられているわけでもないのに、全身が敏感になっていく。
「ね、奏太。どんなお仕置きをされると思う?」
おへその周りをくるくると撫でまわし、こそばゆさを与えながら、紗季が問いかける。
「……前回の調教では、ぼくの不甲斐ないおちんちんがお漏らししてしまったので……おちんちんに、厳しいお仕置きをされる……いえ、していただけると思っています」
「うん、合ってるよ。奏太のよわよわおちんちんにしっかり罰を与えて、ちょっとは我慢強くなってもらわないと♡ だからね、この……」
おへその下を静かに滑っていき、性器の根本に辿り着いた紗季の手が絡めとるようにぼくのペニスを優しく握る。愛する彼女の指先に触れ、肉棒が熱く脈打つ。
「一番感じちゃう、先っぽを……」
そのまま遠慮なしに、亀頭を覆う包皮を剥かれた。敏感な弱点を外気に晒され、心臓が激しく高鳴る。
「いっぱいこすって、潮をびゅーびゅー吹かせて、わんわん泣かせてあげる……♡ 覚悟はいい?」
口からこぼれる息が震える。大変な目に遭わされると分かっているのに、ペニスがたちまち硬くなっていく。あさましくも、お仕置きに期待してしまう。
「……はい。ぼくの全ては紗季様のものです。思う存分、罰をお与えください……っ」
「ふふっ、自分でそう言ったんだから、ちゃんと頑張ってね、奏太♡ じゃ、うるさくならないよう、お口塞ぐからあーんしなさい♡」
大きく開けた口の中に、湿った布が詰め込まれる。触れた舌をピリリと刺激し、噎せ返るような空豆臭が口内に充満し鼻へと抜ける。ご主人様の靴下が、ぎゅうぎゅうと押し込まれていく。
「あの時履いてたのと同じ、黒のナイロンハイソ……♡ 連履きしたから、前より蒸れちゃってる……♡」
薄手の生地とはいえ、ハイソックスを1枚丸ごと入れられると、やはりそれなりに圧迫感がある。喉に触れそうで苦しい。無意識に吐き出そうとする口の上に、ガムテープが何重にも貼られ、剥がれないようしっかり押さえつけられる。
「ほら、蓋したんだからお口をもごもごさせて、お洗濯始めなさい♡」
押し絞るようにギュッと噛みしめると、染み込んでいた足汗が舌の上へと流れ出す。ピリピリとしたしょっぱい味が強くなっていく。ちゅうちゅう吸い出すと苦味も混ざりだし、履き古した靴下の独特の味わいで味覚がいっぱいになる。
「ご主人様の靴下、美味しい? でも、ゆっくり味わえるのは今だけだよ」
「……んっ」
肉棒に冷たくとろりとした液体がかけられる。先端が包まれ、カリ首に摺りこまれ、竿を流れ落ち、金玉へと垂れていく。
「奏太のおちんちん、どこをとってもぬるぬる……♡ このまま扱いたら、きっとすっごく気持ちよく精液ぴゅっぴゅできるね……♡」
紗季はぼくの肉棒に掌を添え、小指から1本ずつ指を絡めていく。指で包まれる度に、きゅっと心地よさがせり上がってくる。
「でも可哀想……♡ 今日はお仕置きだから、奏太は辛い目に遭っちゃうの……♡ 我慢できなかったこと、ちゃんと反省しなさい……♡」
紗季の親指が鈴口を押さえ……くるくるとなぞり始める。研ぎ澄まされた神経に指先から刺激が滲みだす。
「んっ、ふっ……ん、ふく……っ」
「鼻息荒いよ、奏太……こんなの序の口なんだから、おとなしくしてなさい」
指先の動きは少しずつ速くなっていく。鈴口を磨き上げられ、亀頭が熱く膨らむ。痛みにも似たヒリヒリとした快感が肉棒の先端を回り続ける。じっくりと脳が茹で始められる。
「ん、ん、んーっ♡ ん、んふぅーっ♡」
「うふふ、ほんと、奏太のおちんちんったら弱すぎなんだから……♡ ご主人様として、ちゃんと躾けないとね……♡ ほら、先っぽもっと敏感にしてあげる♡」
細い指の輪っかで亀頭をしごかれる。指の内側の柔らかな肉が締め付けてきて、とてつもないゾクゾクが亀頭の中に生まれていく。イく寸前のもどかしい快感が無限に蓄積される。
「分かってると思うけど、射精は禁止だよ、奏太♡ 潮もまだ吹いちゃダメ♡ ちゃんと耐えて、おちんちんを極限まで敏感にしなさい♡ 本番を死ぬほど辛くするために、今は我慢♡」
「ん、ふ、ふ、う、ん、ふ、ふぅっ」
鼻息が早く荒くなる。皮越しでなく、指で直接弄り回されるとその刺激は段違いだ。頭の奥が沸騰したように熱くなる。確かに気持ちいいのに、それが辛くてたまらない。ローションを塗り込むように指先が滑り舞い、亀頭が快感で膨れ上がっていく。強い強い快感から逃げられない。
「ほら、手のひらで亀頭をくるくる、くるくる……♡ 亀頭を丸ごと気持ちよくさせられて、奏太、嬉しい? お仕置きなのに気持ちよくしてもらえてるんだから、優しいご主人様にちゃんと感謝しなさい、奏太♡」
「ん、んうーっ、ん、んーっ、んんっ、んうーっ!」
亀頭を包む手のひらがくるりと回るたび、快感が渦となり神経を蹂躙していく。途切れることのない快感地獄。冷たい気持ちよさが全身を何度も何度も駆け抜け、身体はピンと伸び、手足は震え、枷がガチャガチャと鳴る。
「吹いちゃいそう? まだダメ、おちんちん締めて我慢しなさい♡ これは準備運動なんだからね、奏太。こんなので音を上げるなんて許さないよ。もし吹いちゃったら、金玉片方握り潰しちゃうからね」
恐ろしいことを言いながらも紗季の手は止まらない。亀頭がどこまでも敏感になる。何度も何度も執拗に手のひらで亀頭を撫で回され磨き上げられる。ローションに溢れ出るカウパーが混ざり、ますます滑りがよくなる。気持ちよすぎる電流が頭を白く染め上げる。強烈なむずむずが先端に際限なく送り込まれる。亀頭が辛い、亀頭が辛い! いっそイけたら少しは楽になれるかもしれない。でもご主人様の命令は絶対。吹くなと言われたら、耐えないといけない。
こらえるために詰められた靴下をぎゅうっと噛むと、また特濃足エキスが溢れ出す。薄手と厚手の靴下では、繊維の舌触りも足汗の熟成具合も変わってくる。薄いナイロン生地はさらさらした感触を伝えるとともに、少し酸味の利いた足汗臭を鼻へと運ぶ。亀頭責めで頭の中をかき回されつつ、わずかに残った隙間はご主人様の足臭で埋め尽くされ、ぼくの頭は紗季でいっぱいになる。
「うん、だいぶ敏感になったかな? じゃあ本番だよ、奏太。ご主人様のナイハイで、亀頭をこすこすして……頭のてっぺんからつま先まで、快感でおかしくなりなさい♡」
亀頭から手が離れるけど、まだ先っぽがじんじんしている。でも終わりじゃない。ここからがお仕置き。
ああ、どうしてだろう。すでに辛くて辛くてたまらないのに、逃げたいと思っているのに……期待してしまう。紗季にもっと悶えさせられたいと、泣き叫ぶ姿を見て欲しいと、願ってしまう。
衣擦れの音がして、湿り気を帯びた布を鼻に押し当てられる。
「ん、ん、んふっ」
「こら、噎せないの。これから奏太のおちんちんをいじめてもらう、脱ぎたてナイハイなんだから……たっぷり育てられた空豆臭を犬みたいにクンクン嗅いで、ご挨拶しなさい♡」
「ん、んあ、あい」
すーっと鼻から息を吸い込むと、靴下フィルターを通り紗季の足臭で香りづけされた空気がぼくの肺へと届く。口からも鼻からも、胃や肺を通して、ご主人様の成分が身体に浸透していく。
甘くて臭い、ご主人様の足の匂いに浸れる幸せな時間。でも今日はお仕置きだ。いつまでもゆっくり嗅がせてはもらえない。
「はい、クンクンタイムはおしまい。このナイハイを、ローションでひたひたにして……♡ うふふっ、よわよわで敏感な亀頭に、押し付けちゃう……♡ このまま、左右にこすこすすれば……きっと奏太、悶えちゃうね……♡ 亀頭を繊維でこすられるの、叫ぶくらい気持ちいいもんね……♡ でも、覚悟できてるって言ったんだから、絶対、やめてあげない……♡ 泣きわめいて後悔しながら、反省してもらうからね♡」
ぼくの太ももが紗季の太ももで押さえつけられ、ローションがたっぷりと染み込んでいるナイハイが亀頭にぴったりと張り付く。紗季は声を弾ませるが、押し当てているナイハイはまだ動かさない。
「ん……」
むぐむぐと靴下を口の中で洗いながら、静かに鼻息を震わせる。今日の紗季はずいぶんと焦らす。これから訪れる強烈な快感に身構えると、全身がますます敏感になる。亀頭に張り付くナイハイの繊維一本一本が感じられた。
「……はい、スタート♡」
「ん、んんん!? ん、んんーっ! ん、んうーっ!!」
突如、鮮烈な快感が股間から全身を突き抜けた。強烈な快楽に全身が痺れ、太陽が爆発したかのように目の前が眩しくなる。きめ細かな生地による刺激が股間を熱くする。ほんの一瞬で理性は吹き飛び、本能のまま叫ぶように喘ぐ。
「こーら、奏太、暴れない♡ お仕置きなんだから、じっとしてなさい♡ そんなに暴れたら、美味しい靴下も味わえないでしょ♡」
靴下を強く噛みしめながら、命令通りこらえようと手足に力を入れる。けれど亀頭への刺激は、そう易々と耐えられるものじゃない。我慢しようとすると余計に刺激を強く感じ、快楽による痺れも大きくなる。強烈な気持ちよさが身体中を駆け巡り、目の前が白黒に点滅する。
「ん、んうーっ! う、ううむーっ! ん、うーっ!」
熟成靴下が唾液と声を吸って、なお喘ぎ声はこぼれ続ける。快楽に雨あられと打たれながらも、ご主人様の靴下に染み込んだ足汗の酸味は強い存在感を放つ。まずくて美味しい汁を滲みださせながら、暴力的な刺激を受け続ける。
「ざりざり~ざりざり~♡ 騒いでないで、おちんちんに集中しなさい♡ 汗とローションでぐちゅぐちゅの靴下で嫐られて、気持ちいいでしょう? 今日は痛いお仕置きじゃないんだから、しっかり我慢しなさい♡」
我慢と言われても……! 灼けるような熱い刺激に途切れなく見舞われ、快楽で頭の奥がパチパチと弾ける。一瞬たりとて休憩はなく、快感地獄に堕ち続ける。擦られる度に、亀頭の感覚が研ぎ澄まされる。ビリビリと痺れる快感がペニスの根本に、射精とは異なる感覚を呼び覚ます。
「ん、んうあ、ん、あ、ん、うーっ!」
「うふ、そろそろ出そう? いいよ、まずは1回目、ぷしゃーって潮、吹きなさい♡」
ナイハイの亀頭擦りが速くなり、目の前が明滅し、頭の中が白く染まる。亀頭に意識を持っていかれる。神経が壊れてしまいそうなほどの快楽。身悶えしても身をよじっても、繋がれた枷が逃げることを許さない。口をもごもごさせてもご主人様のエキスが絞り出されるだけで、許しを乞う声は届かない。そして、限界が訪れる。
ぷしゃー、ぷしゅっ、ぷしゅしゅーっ! 精液とは違う、さらりとした潮が勢いよくペニスから飛び出していく。尿道を通り抜けるとともに膨らみ続けた快感が爆発し、全身に一気に染み渡る。手足の指先までもが快感に満たされじんわりと痺れる。
「奏太、気持ちよく吹けて偉いよ♡ でもまだまだ止めないからね♡」
「ん、んぐぐんぐううんう!?」
潮を吹いている最中も、紗季の亀頭擦りの手は止まない。一度吹いたことにより感度を増した亀頭をさらに嫐られる。何度も何度もナイロンの繊維が往復し、灼ける快感を刻み付けられる。強すぎる快感に、涙がボロボロと落ち始める。
「もう泣いちゃったの? ほんと奏太は、こらえ性がないなぁ……♡ これは、もっとキツイお仕置きをしないとダメかも。追加の道具を持ってきておいてよかった♡ でも、おちんちんは休ませたくないから……」
ペニスを握られる。けれど感触は、慣れ親しんだ紗季の肌とは違った。
「ナイハイはめた手で、シコシコしていてあげる♡ あ、念のため言うけど、潮吹きは許可したけど射精は許可してないからね♡ 奏太がしていいのは、ぴゅーぴゅーぴゅーぴゅー壊れた噴水みたいに吹いて、おちんちんをどんどん感じやすくすることだけ♡ もう返事はしなくていいから、可愛く悶えてなさい♡」
「んんーっ!? んんんんん、んうんううんんーっ!!」
皮を剥いたまま、亀頭を激しく、重点的に、徹底的に擦り上げられる。繊維の一筋一筋が神経を刺激し、ほんの一擦りですさまじい快感に埋め尽くされる。それが何度も、何度も繰り返される。暴れる身体を紗季の脚が押さえつける。逃げられない。どれだけ泣きわめいても、脳裏を貫くナイハイ手コキの刺激から逃げられない。また根本がむずむずする、これは精液、それとも潮? 分からない。出していいのか止めないといけないのか、快感にかき回されそれすら分からなくなる。
左の乳首に甘い痛みが走る。何かで挟まれた? 洗濯バサミのような激痛ではない。痛みはすぐに溶け、胸の内側から疼きが生まれ、性感へと変化していく。身体がますます熱く火照っていく。
「乳首クリップ♡ 奏太のよわよわ乳首を勝手に責めてくれる優れもの♡」
桃色の突起を挟んだまま、クリップがブルブルと震え出す。発情した乳首はたちまち気持ちよさに浸り、蕩ける甘い快楽が股間へと流れ込んでいく。潮か精液かも分からない液体が吹き出しそうになる。
「左だけなんてズルい? 大丈夫、ちゃーんと奏太の右乳首くんも挟んであげる♡」
きゅううっと心なし左よりも強く右乳首をクリップに咥えられる。じんと痺れるような痛みの後、ブルブル震え出しぼくは左右から甘い疼きに飲み込まれる。上半身は桃色の快感がじんわりと絞り出され、肉棒は激しすぎる快楽で強制的に高みへ昇らされる。
「んん、ん、んっ! ん、んうんっ、んんっ!」
「出そう? ダメだよ奏太、今出そうになってるのは精液なんだから、何が何でも押しとどめなさい♡ 一滴でも漏らしたら、すっごく痛いお仕置きが待ってるからね♡」
いつの間にか、ナイハイ越しの手は肉棒全体を包んでいた。何度も何度もぼくの精液を搾り出してきた紗季の手つきに、さらさら繊維の刺激が加わり、精液がじりじりと尿管を上りだす。懸命に通り道を締めるけれど、ぼくの肉棒は絶え間ない靴下コキに屈服してすぐに尿道を開いてしまう。
「ん、んうう、ん、んっんっんっ!」
もう駄目だ、出てしまう……そう思ったとき、パッと紗季の手がペニスから離れた。肉棒はピクピク小刻みに震え、精液は尿道を満たしつつもギリギリのところで踏みとどまる。
「ふふっ、乳首いじめの道具もセットできたし、亀頭いじめ再開だよ、奏太♡」
左手をそっと竿に添えられ、ナイハイをはめた手を亀頭に被せられる。
「今度は~、亀頭をくるくる撫でまわしてあげる♡ 休みなしで気持ちよくしてもらえること、ご主人様によーく感謝しなさい♡」
「ん、ん、ん……!」
「今奏太のおちんちん、精液でいっぱいだと思うけど、それは引っ込めて、ちゃんと潮だけ吹きなさい♡ じゃ、スタート♡」
くるりくるりとひねるように、ナイハイで覆われた手の平で亀頭を撫でられる。耐えがたい快感とむずむず。ついさっきまでその手でしごかれていたのだからなおさらだ。でも今出したら、精液も漏れてしまう……! 前の調教からずっと溜めていた精液、今出せばとてもとても、気絶しそうなほど気持ちいいだろう。お仕置きを予告されているのに、ちょうどいい気持ちよさという誘惑に屈しそうになる。
でもそれは、紗季が一番怒ることだ。どんなに辛くても足奴隷であるぼくは、最後まで耐えることを投げ出すわけにはいかない。快感で全身がブルブル震え、口の中の靴下の苦味としょっぱさに舌を犯されようと、耐えないといけない。
「そうだよ、奏太。尿道の中身、精液と潮が入れ替わるまでぴゅるぴゅるは我慢♡ 全部潮になったら、ぷしゅぷしゅ吹いていいから、それまで頑張りなさい♡」
紗季は全く手を抜かず、容赦なく亀頭を擦り続ける。ローションが足された。滑りがよくなり、繊維の刺激が何倍にも膨れ上がる。もはや快感は電撃と変わらない。股間から全身へと快楽が流れ込みビリビリと痺れ続ける。ペニスのむずむずも治まらない。もう本当にギリギリだ。あと数回擦られたら、きっと……!
「んう、うっうっうっ、んんっ、ん、んっ♡」
「ふふっ、可愛く喘いだって泣いたってだーめ♡ 今日は甘やかさないって決めてるの♡ いっぱい、いーっぱい感じておかしくなりながら、射精は我慢♡」
紗季は機嫌のいい声を弾むように紡ぎながら、亀頭責めを続ける。ご主人様に楽しんでもらえるのは何よりの悦びだけど、悶絶する快楽地獄が楽になるわけではない。鼻での呼吸が荒くなる。口に詰められた靴下が、かすかな甘酸っぱさを帯びた濃厚な空豆臭で鼻孔を内側から犯し尽くす。原始的な感覚ゆえ本能が強く刺激され、脳が溶けそうになりながらも肉棒は硬くそそり立ち、一番の弱点をご主人様へと捧げる。
「んうううっ♡ んううーっ♡」
「声は我慢せず出しなさい♡ 喘いでよがればその分、ご主人様の靴下から苦くて臭くて美味しい汁が染み出してくるし……うふっ♡ 私も……奏太の可愛い声で……あそこ、濡れてきちゃう♡」
ご主人様の愛の囁きが脳にひたひたに染み渡る。頭は気持ちよくて、口の中は苦くて、鼻の内側は臭くて、乳首は痛くて、亀頭は辛い。快感と苦痛の何重奏? 全ての刺激が気持ちよさに変換され、わけがわからないままに頂へと追い詰められる。
「んっ、んんっ、んっ♡ あいああっ、ん、んうっ♡ あいああっ♡」
「だーめ♡ ご主人様の名前を呼んだって、助けてあげない♡ だだこねるなら、もっと気持ちよくして辛くしてあげる♡」
左手がペニスから離れるが、亀頭責めは止まらない。思うがままに肉棒を暴れさせながら、敏感なところだけは決して逃さずに、熱い快感を暴力的に流し続ける。目の前が何度も何度もまばゆく光る。
「んーーーっ♡ ん、んんーーっ♡」
「そ、ただただ気持ちよくなってなさい♡ ほら、プレゼント♡」
ぼくの顔に何かが被せられる。その正体はすぐに分かった。
「ん、んふっ♡ ふうっ、んーふーっ♡ んぐっ、ぐふーっ♡」
「足奴隷さんの大好きな、ご主人様の履き古しブーツ♡ もう何年履いたか分からないくらい愛用してるから、奏太でも消臭しきれないくらい、足の匂いが染み付いてるくさくさブーツ♡ 熟成に熟成を重ねた足臭吸い込んで、おちんちんもっと硬くしなさい♡」
ジッパーを開いたブーツですっぽり覆われ、新鮮な空気が断たれる。純度100%のご主人様の足臭は脳をぐじゅぐじゅにしていくが、ゆっくり楽しむ余裕はない。ローションまみれのナイハイをはめた掌が、亀頭を丸ごと包み込んでぐるんぐるんと撫でまわしているのだから。しかも、それだけではなかった。
「ん、んうっ!? ん、んんーっ♡ んんんーっ♡」
「あははっ、奏太、油断してた? そろそろ潮吹いて、楽になれると思った? ご主人様はまだまだ満足してないの。だからおちんちん、また精液でいっぱいにしてあげる♡」
左手でただ支えるのではなく、根本を扱き始めた。気が狂いそうなほどに射精感が膨れ上がり、呑まれそうになる。
「んんーっ♡ んふっ、んうふううーっ♡ んんんーつ♡ んーっ♡」
「気持ちいいねー、奏太♡ でも射精はダーメ♡ よわよわおちんちんだけどイくのはいくらでも我慢できる、それが理想の玩具なんだから、何が何でも射精は抑え込みなさい♡」
「んうーっ♡ んんうーっ♡ んあ、はいはあ、んふいへ、ふああいっ♡」
「ダメ、許さない♡ もちろん、気を逸らすのはもっとダメ。足奴隷らしく、ご主人様の激臭ブーツくんくんして、おちんちんフル勃起の発情状態をキープ♡ 頭がおかしくなっちゃう寸前のところで、ずっとずーっと悶えてなさい♡」
「んっ、ふうっ、んっ、んっんっ。んうーっ♡」
「亀頭くるくるは慣れちゃった? じゃあ今度は、指先から手首まで使って、亀頭をすりすり、すりすり♡」
動きが変わり、尿道口まわりの無防備な神経が灼けそうな刺激に見舞われる。くるくるよりも速い動きは快楽を倍増させる。往復運動ゆえ一瞬の間こそできるものの、そのせいで却って慣れることができない。
「んんっ、ふうううっ♡ んんっ、んううううっ♡」
「せっかく精液が引っ込みかけてたのに、根本シコシコされるとまた精液上ってきちゃうね、奏太♡ 亀頭すりすりでおちんちんすっごくむずむずしてるだろうけど、今吹いちゃダメだよ♡ お仕置きでも精液お漏らしするなんて、許さないから♡」
亀頭を嫐る1ストロークごとに、煮えたぎる精液が吹き出しそうになる。ほんの一瞬たりとて気が抜けない。叫ぶように喘ぐと、ブーツで覆われた猛臭の空気が鼻から吸い込まれ、脳が一層どろどろになり愚息は昂る。内側や中敷きに蓄積され熟成された、濃密な重い空豆臭はどれだけ嗅ごうとも薄まらない。足奴隷のぼくは、脳も肉棒もご主人様に支配されてしまっている。
「ふふっ、こんなのはどう? ガッチガチのおちんちんの、裏側を……こしょこしょ、こしょこしょ……♡」
ぞぞぞぞっと、これまでとは別種の快感が湧き上がる。裏筋の周りを爪で優しくくすぐられ、全身がこそばゆい快楽に震え上がる。神経が活性化し、むちゃくちゃな刺激が波となって襲い掛かる。
「んうっ、んふふふっ♡ ふ、ふふっ♡ んふふっ、んふーっ♡」
呼吸が落ち着かない。下半身を暴れさせても、紗季がしっかり押さえつけていて逃げられない。気持ちいいのか辛いのかも分からない。
「ふふっ、ほんとにもう限界かな? ま、頑張ってくれたし、潮、吹かせてあげる♡ 精液引っ込むまで、もう少し頑張りなさい♡」
シコシコがこしょこしょに変わり、射精感は爆発寸前のところで踏みとどまっている。今か今かと吹き出すのを心待ちにしている精液を抑え込むのに、あとどれくらい耐えればいいだろうか。
「こしょこしょすりすり、こしょこしょすりすり♡ むずむず止まらないね、奏太♡ まだまだ出したらダメだからね♡」
ペニスはどこまでも感覚が鋭くなっていく。とにかくじっとしていられない。快感なのか苦痛なのか、わけのわからない刺激にただただ蹂躙される。
脳はどこまでも力が抜けて蕩け落ちていく。
「んうっ♡ んっんっんっんっ♡ ん、いうっ♡ いういうっ♡」
「もう限界? ま、そろそろ入れ替わったかな♡ いいよ、奏太♡ またびゅるーって潮吹いて、もっと辛くなりなさい♡」
許可が出るや否や、ペニスの中を快感が突き抜け、全身を痺れさせながら潮が高く吹き上がる。
「んんううっ、んんんうううーっ♡♡♡」
「はーい、潮吹き2回目♡ 気持ちいいね、奏太♡ でもまだ許さない♡ もっと気持ちよくなって、壊れちゃいなさい♡」
裏筋をくすぐられながら、反対の手では太ももをくすぐられる。潮吹きの快感に目をくらませながら、ぞわりと広がるこそばゆさが鼠蹊部を侵食する。
ギシリと枷が軋むが、ぼくの身体は紗季に押さえつけられ脱け出すことは叶わない。押し寄せる悶絶を強制的に受け入れさせられ、悶絶に飲み込まれる。
怒涛の快楽に意識を翻弄されている間も、乳首を挟む淫具は震え続ける。じんじんとした痛みと疼きが染み渡る。
口に詰め込まれた靴下をぐううっと噛み締めた。ご主人様の足エキスが絞り出させる。強い苦味が臭気を伴い体内を侵食する。
快感の頂で甘美な屈辱に溺れ続け、戻ってこれない。気持ちよさと苦しさがどこまでも残留する。
「ほーら奏太、まだ萎えさせないよ♡ もう一発、 ぷしゃーって吹き出しなさい♡ 快感強すぎて神経灼き切れて壊れちゃうかもだけど……その時はちゃんと治るまでお世話するから、安心して壊れなさい♡」
ナイハイをはめた手がまた亀頭に被せられる。ローションのみならずぼくの潮でもぐっしょり濡れていて、滑りは抜群だ。
「奏太どう? 亀頭撫で撫で、気持ちよすぎて頭おかしくなる? でも仕方ないよね、私は奏太のご主人様なんだから♡ ご主人様を怒らせちゃいけないこと、しっかり心に刻みなさい♡ ご主人様の蒸れ蒸れ靴下に負けなさい♡」
紗季の上気した声が耳に届く。ナイロン生地に包まれた指先が赤く膨らんだ亀頭を執拗にこなくり回す。繊維が神経をくすぐり、快感が身体中を突き抜ける。
「あぁっ、う、うぅん♡ んふっ、がふっ、う、あっ♡ ん、はあっ、えほっ、んんっ♡」
恥ずかしい声が止まらない。大好きな人に喘ぎ声を聞かれ、みっともない姿を晒け出して、恥ずかしいのに恥ずかしささえ興奮になる。
撫でられるたびに亀頭は敏感になっていく。ぼくの意思に関係なく快感が積み上がり膨れ上がっていく。
気を散らそうにも、クリップで挟まれた乳首の痛み、口に詰められた靴下の感触、染み出す汗の味、履き込まれたブーツの籠った臭い、全てがぼくの欲情を煽る。ぼくの痴態が紗季の声をますます上ずらせる。
「もっと、もっとよ、奏太……♡ ご主人様を怒らせた償いに、いっぱい気持ちよくなって、壊れちゃいなさい♡」
苦しさと快感が渾然一体となる。何もかもが気持ちいい。気持ちよさに逆らえない。だったら、もう。全部受け入れて。足奴隷として、ご主人様が悦ぶように。ぼくはいっそう深く息を吸い込む。革の匂いと足の臭いが混じり合い、鼻を侵食する。数えきれないほど嗅いで嗅がされた匂い。胸の奥がうっとなる臭い。抑えきれずに咽せ返る。間違いなく臭いのに、苦しいのに、この世で一番の芳香に感じる。
「えふっ、ん、んんうっ♡ ん、ぐふっ、んうーっ♡ ん、ん、んんーっ♡♡」
枷の金具がカチカチ音を立てる。体の隅々が快感で満たされる。ブーツと靴下の猛臭が頭をどろどろに、亀頭を擦る繊維が神経をぐちゃぐちゃにする。
ああ、もう無理だ、限界だ。抑えきれない。また出てしまう。膨れ上がった快楽が身体中で破裂する……!
「ん、んんんんうううううーっっ♡ んん、んんんんーっぅっ♡♡♡」
凄まじい痺れとともに潮が勢いよく噴き出す。飛び散った潮がぼくの腰を濡らした。止まらない。もう3度目だというのに、潮が何度も尿道を駆け抜け、強烈な快感を浴びせられる。何もわからなくなりながらじたばたと身体が勝手に暴れる。悶絶の波がようやくひいた頃には、全身が脱力してぴくりとも動けなくなっていた。
顔を覆うブーツが取り除かれ、アイマスクも外される。一度目をぎゅっと瞑ってからゆっくりと開くと、ご主人様と目が合った。顔はうっすらぼくの潮で濡れている。
「ふふっ……♡ ちゃんとご主人様の玩具でいられたし、今日はこれで許してあげる♡ でも、もしまた勝手に射精しちゃうようなことがあったら、もっともっとキツイお仕置きだからね……♡ ……私もちょっと疲れたから、奏太、抱き枕になりなさい♡」
カチャリカチャリと枷を外し、紗季はぼくに抱きついてくる。最愛の彼女でご主人様の温もりと柔らかさを感じながら、ぼくたちはゆっくりと眠りに落ちていった。